「お腹すいた」
「おっと?」
開幕。扉を開けて、マスターがまた変な事を言っている。
「私達ってお腹なんか空かないんだけど、何だか無性に?何か食べたくなるのは何でだろう?このゲームのせいかな?」
・・・さあ? 俺はそう答えて、テレビ画面に眼をやった。そこには篝火の前で、一人の騎士が言葉を放っている。
『私の名は、ルカティエル。お前に、私の名を覚えておいてほしい』
それは別れの言葉か、親愛か証明か。騎士は最期まで騎士であったらしい。俺はそう思った。
「・・・。では僭越ながら私が料理をお出ししましょう。少々お待ちを」
「よろしくー」
扉を閉める。すると、
ルカティーーーーン!!!何で!?何処!?消えちゃイヤあああああああああ!!!!
いつもの大声が聞こえてくる。
なんてカロリー消費だろう。早く満たして差し上げなくては。俺はウッキウキで厨房(台所)に向かった。
「この際だ。先輩や城の皆にも振舞っておこう」
鉄板を暖めつつ塩とコショウを手に取る。鉄板の上にボォンと牛肉を乗せ、ジッと熾した火を見つめる。
大事なのは間合いと余熱、退かぬ心と焼き加減。付け合わせはホットミルクとオートミール、と言いたい所だがポテトにしよう。
隣りの鉄板を使って皮付きのポテトを切って焼いて味付け(塩)。量は盛り盛り。やべえ、匂い嗅ぐだけで美味さが判る。これこそ経験のタマモンよ。味見もヨシ。
「お待たせしました。どうぞ召し上がり下さい」
「………」
「………」
・・・・・。
「? 何か?」
「これは……焼肉?」
「無論です。皆大好き焼肉です。シンプルに見えるかもしれませんが、味は保証致しますよ」
「いやそうじゃなくて」
「??」
?
「中までしっかり(ベリー・ウェルダン)なんて言葉と意味が霞む程バーンしてるお肉はいいとして。―――お米は?」
「・・・・え?」
お、コメ? 俺は意味不明な単語に首を傾げた。
「その通り。常識知らずにも程があるわよ?フスカル」
何だねそれは・・・。いったい。
「先輩」
「焼き肉といったら白い飯(※諸説あり)。これ頭(霊基)の中にメモっときなさい。まあこんな事もあろうかと、チェイテ米を炊いておいたから皆で食べましょう」
「チェイテ米?」
何だねそれは・・・。それはいったい?
「地米って奴よ。だってここは私の領地。なんでも作れるし採れるわ」
「マジですか」
「このお城っていうかこの特異点って何でも有りだねー。あ、門番さーん?パーティーはちょっと姫(わたし)的にNGなんで料理は後で部屋まで持って来てね」
「冷める前に今ここで早く食べて下さいお・ひ・め・さ・ま」
ずるずるとマスターを引っ張る。何か叫んでいるが気にしてはいけない。だって冷めた焼肉はもう焼肉ではないのだ。さあ頂きます。
「硬ったい」
「あら美味しいじゃない」
「そうでしょう?いい出来いい出来。しかし何故でしょう、涙が出る」
かぼちゃの被り物を取り、俺はビーフを食べる。よく分からないが何だか5年ぶりに食べ物が食えた感覚だ。感動が収まらない。
「素晴らしいを通り越して顎が悲鳴を上げない?コレ」
「最高でしょう?マスター。顎は鍛えられるし腹は暖まるし満たされるし美味いなんて。軽く一石三鳥ですな」
「一理あるわね。でも貴方、料理ってこれしか知らないんじゃない?」
「? と言いますと?」
これだけでいいじゃん。とは言わず俺は促した。
「明日は私が料理を振る舞ってあげる。目から鱗ってやつを見せてあげようじゃない」
「??」
◇
そうこうして次の日の夕食。先輩は肉を盛りに盛ったお皿とパン、お米を作って持ってきていた。そして俺はドン引きした。
「―――は?」
「わぁ!美味しそう」
マスターが何か言っている。
何故なら眼前には表面が黒いお肉。しかしスライスされており中が丸見えである。赤々としたそれは生肉(ガルベッヂ)である証拠でありちょっとパイセンこれバーンしてねえよ何だよこれ食当たりすんじゃねえかこのままお出ししてもヒンシュクしか買わねえぞ今すぐにでも焼きましょうよお得意のレーザーで。
「―――は?」
「万感が籠っているようで何より。さ、お上がりなさいな」
「いただきまーす!」
マスターがぱくりと食べる。これ、それなりに硬い食べ物だよという手応え。いや歯応えの音。
他のパンプキンヘッドソルジャー達は器用に被り物をずらしながら口に赤い肉(宝石)を運んでいる。・・・こいつら人間じゃねえな?
「先輩質問が」
「聞こうじゃない?」
「なんですコレ?」
「ローストビーフ」
「ロー・・・スト?」
「食べてみれば分かるわ。充分火は通っているから大丈夫よ」
「通ってるって・・・・」
ドン引きの引き。だってもしこんな肉を騎士様や我らが王に出したら誰も食わねえよ?しかし、でも先輩の手料理を無下にするわけにもいかんし・・・。
「いただき――――ます!」
大事なのは間合い、そして退かぬ心だ。俺は家訓と共にローストビーフ?を一気に口の中に入れた。
「―――!こ、これは!?!?」
硬い。想像の倍なんてモンじゃない予想のぶった切り(裏切り)。・・・・何だこれは?表面しか焼いてないように見えるがこんなにも中までしっかりと?魔法か?
「秘密はこれよ、ミスターパンプキン。『オーブン』というの」
「王・・・焚?」
先輩は台所の一ヶ所を指し示した。
「OVEN。窯とも炉ともいうこの中に肉を入れて長時間焼いていくと、この通りよ」
「まさかそんな文明の利器が。これ、味も良いし歯応えすらも素晴らしい・・・!こんなビーフは初めて口にしました!」
「喜んでくれてなによりだわ」
感動が俺を包む。いやこれ本当に美味い。腹持ちもいいし、こんな物がキャメロットにあったならもっと皆喜んでくれたし栄養価も違っただろう。王の喜ぶ顔ももっと見れたかもしれん。
「作り方を教えて下さい先輩!」
「勿論構わないわ。貴方は大事な、このチェイテの兵だもの」
クッキングに勤しむ俺達。マスターはさっさと自室で引き籠り。
これはこれで楽しい日常だなあと俺は思ったのだった。