◆ 少し前
『ミスター・パンプキン!大変です、立香先輩が!!』
「ムお!?やべえ事態かい?!」
彼が促すと、画面の中のマシュは事実だけを告げていた。
『今や身動きすらとれない切迫した事態です!とにかく画面と通信を繋ぎます!ですのでどうかアドバイスを!
今は言葉だけしか、…言葉だけがッ私達を繋ぐものです!!』
切り替わる画面を見るとそこには信じがたい光景が広がっていた。
かつての同僚と敵がいて戦う。戦っている。
―――これではウーサーは何の為に死んだのだろう?アーサーは何の為に生きたのだろう? 答えは犬死にだ。
勝者と敗者がいる戦場。しかし彼を強く驚かせたのはそんなことではなく敵の言葉であった。
ので、彼はキレた。
「・・・・・。失礼致します、王よ。少々出張って参ります」
激怒した。憤怒した。
聞き捨てならぬ言葉であった。
愚かにも敵は愚弄の言葉を口にした。
生かしてはおけない。
「行くのか」
「はい」
「動けるのか?」
「動かねばならぬ時と存じますゆえ」
身体がいやに軽くなる。
その理由は分からないが、眼前に現れた光扉を開くその姿に気負いはなかった。ただ本能と誓いだけが彼(城兵)を奮起させていた。
――断じて許さない。我が主君を侮辱した罪は重い。というか、もはや罪どころか生存すら能わない。
「では望むまま行くがよい。そして、今の私は王ではないよ」
生前から続く理論を無視した城兵の誓いが燃焼する。たとえ前すら見えない嵐のような人生を歩んでいようとも見失わない、それは彼だけの炎だった。
「・・・・・おい」
「?」
もはや邪魔な被り物(かぼちゃ)を脱ぐ。すっきりした首から上。驚愕な表情の敵と、そして味方。
無言で敵を打ち殺そうと彼は。フスカル・ローナルドは城兵として職務を全うしようとした。
が、
「俺のダチに何してる」
出てきた言葉と拳は、旧友を傷つけた敵に対する起爆剤のような怒りだった。
◆ 第二十一話 Believe your justice
遊び場に鈍い音が響き、たまらずグリュンワルダーはたたらを踏んだ。直撃である。
「ぐ、ぬ・・・! 貴様はッッ!」
二の句の前に槍が飛ぶ。
また直撃。グリュンワルダーはべシャリと不様に片膝をついた。
「もう喋るな。抜かすな。だってお前、我が王を愚弄しただろう。抜かしただろお前。犬死にだと?負け犬だと?
断じてちげえだろ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!訂正しろ死で以て」
完全なる殺意。大王は笑った。
「ログレス守兵隊西門・渠壁のフスカル。おらぬと思ったがやはり来よったか・・・!」
「何嬉しい顔してんだ?しかもダセエ名前ほざくんじゃねえ喋るな。恥ずかしいんだよその二つ名」
「…?え、あれ、パンプキンさん?」
返事の代わりに足踏み。それは大地を脚で震えさせながら槍を振るう彼独特の戦法。立香やマシュにとって忘れられようもない、恐怖の代名詞であった。
「・・・やあ立香。詫びをいれさせてもらうが実は俺は自己紹介が昔も今も、苦手でね」
「……」
『……』
「だからあまり自分の名前は言わないようにしてたんだ。けどそれはフェアじゃなかった、本当にすまない。だから改めて自己紹介させてもらおう、俺の名前は」
「ローナルドのフスカルさん!!」
『キャメロット城正門担当守兵隊!フスカル・ローナルドさん!!』
「・・・・ぇっと・・・はい、そうです私です」
ここでもか。イエスアイアム。フスカルは思った。
『こほん。失礼しましたパンプキンのランサー氏。いえ、フスカルさん。驚愕の出来事と再会ですが、まずは一つ確認をお願いします。…憶えていますか?私達と戦った時のことを』
「え、知らん。なにそれ怖」
『どうやらミスター・ローナルドに第六特異点の記憶はないようね…』
「私達と戦ったんだよ!ほんと怖かったんだから…!」
「マジで記憶にないんだけども・・・・」
「ぇえ………?」
『しかしながら!私は今も忘れてなどおりません!フスカルさん!!』
マシュが叫ぶ。そう、彼女は今も片時も忘れてなどいない。城兵との一騎打ち、その有り様も。
「そうそう!!マシュとの勝負凄かったんだから!」
「こわい・・・、君らが俺の脳内に存在しない記憶を有していることじゃなくて存在しない記憶が全部俺へのリスペクトなことに」
『たし――かに!』
「誰かしら誰かしら?知り合いみたいだけど」
「・・・彼が」
「――さて戯言は終わったか?ログレス守兵隊、渠壁のフスカル」
「・・・・・あ?」
絶対零度の殺意がこもる。
それはそこかしこにあるスイッチのように容易く切り替わる殺意。ゆえに恐ろしい。ゆえに城兵だった。
「この我がエリザ粒子の領域下で何故動けるのかという問いは最早意味をなさない。それはお前がログレス守兵隊の一人であるからだ」
「何の証左にもなってねえって思うのは俺だけかな。というか今更だけど何だよエリザ粒子って。誰か説明してくれよ」
「エリザ粒子を知らんだと? そんな筈はない。それはどこにでもあるのだから――」
「ああ、いい。答えを訊いたわけじゃない黙ってくれ。何度も言うが喋らなくていい。うるせえだけだから」
そう言いつつ、フスカルは槍を振るう。牽制などではなく全てが必殺の域にある槍撃が大王の剣とぶつかり合う。
その正面衝突は巨体のグリュンワルダーがのけ反るほどの膂力であり、フスカルに常時掛かっているバフスキルによるものでもあった。
「・・・・フスカル。お前、なのか」
そして、それは誓いであった。敵は全て滅ぼし殺すと定めた彼の誓い。彼らの誓い。
騎士ではない、彼らの誇り。
「おやボードウィン殿。お久しい。しかし何をグズグズしているのだい?こいつは我らが王を愚弄した。生かしておく理由も情状酌量の余地もない。
お早く剣を執った方がいいのでは?まだ片腕が千切れただけでしょ」
「・・・・すまない」
「詫びる必要も暇もない。早く」
「違うんだフスカルッ!!!」
「・・・・、うむん?」
「俺はお前を裏切った、裏切ってしまった!!!お前がいる場所へ馳せ参じなかった!!」
「気にしてないよ別に」
「そんな俺がどのツラ下げてお前に会える・・・!そしてどんな顔で、お前に詫びる!!!」
「え?笑えばいいと思うよ?」
「嘘も冗談も今はやめろ!!!」
「噓も冗談も苦手だよ俺は」
今も昔も。フスカルはそう言った。
「マシュさんからログレス守兵隊がいるって聞いて、最初はそりゃ耳を疑ったし信じたくなかったさ。若気の至り極まれり、そんなあの頃が現在進行形だなんてさ。頭おかしくなったのかお前らって、でもそれ元からだったわって、一人心の中でツッコんでた」
「・・・・」
「今も昔も俺達ずっと、ただ眼の前だけを見て生きてきた。年を食ってもお構いなしに。心の中に我らが王がいるんだから。
それで良かった。それだけが必要だった。だからそんな顔をしないでくれ。お互い今は肉体も声も若いが、心は死んだ時のままなんだ。懐かしい友に逢えて良かったよ。こんな所でも、あの頃のように。
―――友であったと、貴方が思ってくれるなら」
戦場に長く居た者が頼みにするのは今までの経験と信念。その経験の中に、想い出の中にボードウィンはいた。
攻撃の手を緩めず、城兵は友へ言葉を送る。あの黄金の日々を思い返しながら。ともに駆け抜けたことが、彼の誇りだったから。
「・・・馬鹿野郎。――馬鹿野郎だよ、我が誇りたる我が友よ。俺の一番のダチは、今も昔もお前だけだよ」
それだけが言いたかった。死ぬ前にただ一言。
やっと、ボードウィンの心に爽やかな風が吹いた。
「・・・嬉しいけどそこまでくるとむさ苦しいな。ちょっと近寄らないでくれるかい」
「テメエこの、!」
「――フスカルッ!!!!やっぱ来たかァ!!!!」
「待ってたぜえ!!!この瞬間(とき)をよお!!」
「マーリンの馬鹿はいませんが、また皆で貴方に逢えて嬉しいですよ。フスカルゥウ!!!」
風が怒号のような歓声を連れてきた。古馴染みの城兵が仲良く勢揃いである。
「ウルフィウス殿、ブラスティアス殿、エクター殿。この野郎ども生きていたのか!!!」
フスカルが大地を踏み鳴らすと、連戦に次ぐ連戦で疲労している3人の身体が少し揺れた。
それを見て彼は、おいおい。貧弱すぎんだろと思った。
「うん?どうした?どいつもこいつも隠居生活が長くて鈍ったのかい。妙だな?」
「おめえはビックリするくらい変わらねえなあ!面白え!おかしすぎて涙が出てくるぜ・・・!」
「城兵が泣くんじゃないよみっともない。・・・さっさと構えな、このゴミを始末しねえといけねえんだからよ。総隊長、号令を」
「―――ああ!!」
闘士漲るボードウィンが右手で剣を握る。左手はとっくに生えている。エリザ粒子の応用で。そう、今や彼の意気は軒昂であった。いつものように。
やっと帰ってこれた、あの日のように。
「ログレス守兵隊!!総員構え!!!」
「応!!!!!」
号令一下。ボードウィンがコントロールするエリザ粒子がグリュンワルダーのそれを打ち消し、立香達は動けるようになった。
一糸乱れぬ陣容と射出される覇気はログレスの厚き巨壁の象徴。もはや誰も知る事のなくなった王国の古い城兵達が鬨の声を上げる。
「キルゼム!!!!!」
「オール!!!!!!」
しかしそれを心底思い知っている敵方は、万夫不当の豪傑たちであった。
「薙ぎ払え!!!!!そして全てすり潰せ、ピクトの戦士達よ!!!!!あの日を超えて!!!!」
「うおらおあああああああああああ!!!!!!!」
ピクトの戦士たちは底知れない恐怖を思い出していた。だって目の前にはあの日と同じ光景が。幾度も幾度も悪夢で以て忘れさせてなどくれなかったあの敵共が。怨敵が。
けれど、けれどね。だからこそ。
「俺の為に死ね!!!!!!」
「王の為に死ね!!!!!!!」
郷愁という名の想い出共は激突の後、全て砕け散るまで闘うのだった。
◆
「…なんとか生き残ったね、マーちゃん」
「うん。お疲れ様、おっきー」
「…勝ったんだよね?私達」
「うん。パンプキンさん、フスカルさん達は…?」
「………」
東西総軍による激突の余波は凄まじく、誰が誰を倒したのか倒されたのかすらも今は分からない。ただ仄かに漂う満足感のような何かが風に乗って遊び場を支配していた。
その渦中で、刑部姫は呟く。
「…ちょっと。ちょっとってばちょっと」
「ハイハイ?」
「ハイは一回」
「ハイ」
すると城兵が現れた。
「やっぱしぶといね、アンタ」
「褒めないで下さい。慣れてませんもので」
「フスカルさん!」
『ミスター!ご無事でしたか!』
「お疲れ様、皆さん。俺の古馴染み達はまだ立ち上がれないみたいだが、ピクト人どもは全員居なくなったな。・・・・これは一体どういうわけだい?」
「そういえばたしかに」
「ってことは多分これ、」
「―――はい。
勝負は決まり。ですね」
言葉と共に、ふわりと着地する一騎の英霊。
この遊びの開始点であり造物主・英霊城兵ウバラは翼を大きく広げ、東西の数字を確認し、東側がゼロである事と西側が15である事を認めた。
「?・・・・・・君は」
「英霊城兵ウバラの名の元に。此度東西の遊びは西方の勝利となりました。おめでとうございます、皆様」
「勝ったか・・・!」
「ぃよっしゃあああ!!!!」
歓声が沸く。立香もまた、これで目的の場所に行けると喜んだ。
「では西方の皆様方。これよりはエリザ粒子を持って、帰りたい場所へ遡行して頂いても構いません。後悔を帳消しに行くもよし、叶えたい望みを叶えに行ってもよし。望みのまま、どうぞ皆様やりたい事を」
「え?おっきー何それ?」
「おっきー言うな飛び入り。この遊び場のルールだよ。勝った側は望みが叶う系ってやつ」
フスカルの素朴な疑問。彼はとりあえず西方に参加したのでルールをよく分かっていないのである。
「あ、胡散くせー系ね」
「そうとも言う。ていうかアンタ井戸底からどうやってここまで来たの?動けなかったよね」
「?気合?」
「は?」
「まあ、とにかくだよ。…英霊城兵、兄さんは今どこにいるの」
「―――ああ、そうでしたね。それならばあの光扉をご覧下さい。あの扉をくぐれば、あなたの家族がいる場所へと辿り着けることでしょう」
「……意外と律儀だね」
「勝者に対する礼節です。それが遊びというものですから」
「じゃあ貴女は戦わないの?ハドマみたいに」
「私が?戦う必要性を感じられませんが…」
「あ、君、ちょっと」
「?」
全てが終わって。しかし遊びの終了を宣言しないワルキューレにゲイルが声をかける。
ここに来て初めて見た一騎のワルキューレ。彼女の小綺麗な笑顔がゲイルに向かうと、彼は笑みを強くした。
手を取る。いつもそうしてきた仕草で。
「探したぜ、我が妻よ」
『―――はい?』
「え?」
「あら?」
「何故すぐに俺の前に出てくれなかったんだい。本当に探したんだぜ、我が愛しき人よ」
「ちょ、英霊城兵ウバラがゲイルさんの」
「妻ぁ?」
「………」
・・・・・。
「この翼、ああ懐かしい。だが許しておくれ妻よ。あの日俺が奪ってしまい、そして君との一騎打ちでもって粉々に打ち砕いてしまったことは、今も片時も忘れてなどいないから」
「………」
「おお、感動の再会ってやつですか。いい話だなー」
「いい話、かなー?」
『とにかくよ。立香、今はあの光る扉の向こうへ』
立香たちが一歩を踏み出す。目的地に向かって、意志を持って。
「………フフ」
その様を誰かが笑った。女のように、戦のように。待っていたかのように。
落ちてくる。いや、墜ちてくる。造られた天上から墜落するように何かが、立香達と彼女の間に突き刺さる。
「こいつは・・・っ」
――フスカルが思わず嘆息する。それは槍であった。
「握っておくれ、妻よ。それは君だけの武具。君が造った領地。俺が惚れた、君だけの得物に他ならない」
――それはオーロラのような揺蕩う耀きを放つ神聖な鋼だった物。
神話のワルキューレ達はこの鋼で造られた鎧を身に纏い、天を駆けたと云われているが、もうワルキューレではない彼女はそれを槍に加工した。
彼に惚れたその日から。
持ち主がゆるりと左手を開き、それを掴む。作り物ではなく、真正で純正な笑顔と共に。
「待ちわびたわ。あなた(貴方)」
「ごめんよ。おまえ(御前)」
「許すわ。あなた」
「心底詫びるよ。ゲイル・ローナルドの名と共に」
「ゑ」
「ロ、ローナルド?」
「アンタの親戚だったんじゃん?」
「聞いたことありませんが・・・・。俺ガキの頃故郷出奔したんでよく知らないんですよね、親類縁者とかは。でもあの槍、多分すごくすごいですよ」
「語彙力」
『皆さん!魔力値が急上昇していますッ、しかもこれは……霊基再臨です!!』
『来るわよ立香!!!』
「じゃあしましょうか。あの日の続きを、私達を。私達の営みを」
「一体なにが始まるの?ゲイルさん!手短にお願い!!」
「それは勿論――」
「遊びよ」
ウバラは。いや、ゲイルの妻はついに宣言する。遊びの終わりのその始まりを。
「勝者の皆さん。今度は私の遊びに付き合ってくださいな。
この身は英霊城兵ランサー・ウバラ。かつてレギンレイヴという銘でワルキューレだったモノ。
ゆえに我が愛、我が真名を今ここに。私は槍造り。我が夫ゲイルの伴侶レギンレイヴ・ローナルド」
――鬼ごっこしましょうか。
終幕、ウバラの遊びが幕を開けた。
いつも。毎日闘う。
いつでも槍を向け合う。
天から堕ちた地の底で、番いの心の中を覗く。
そこには芳醇たる視線の中、暗夜に翼を千切って立ちはだかる、生涯の伴侶の姿があった。
次回『最初のローナルド』
死が互いを分かつまで。