英霊城兵六番勝負   作:ブロx

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 ここまでお読み下さりありがとうございます。時間が掛かりましたが今回で第二部は終了となります。ネタバレですが第三部はオリキャラの城兵さん(今更)、フスカルさんの家族の話になります。その上で楽しんで頂けたら幸いです。

 もしかしたらいるかもしれない前作から読んでくださっている方へ。第三部は兄を見送った彼女のお話がメインになります。






第二十三話 君をみつめて

 

 

 

 鬼ごっこの鬼目掛けて突っ込んでいく。意味不明な現実がそこにはあった。

 

 ・・・触られたら負ける、触られたらもう一度最初からのリスタート。

だというのに、

 

―――んなもん慣れてる上等だ。立香は突進した。

 

 右拳だけを握りしめ、開放すれば四方八方まで爆発するだろう力を籠め、彼女は意を決した。

 

――接近する間合い、聞こえる足音、互いの瞳。

 

 己の姿がそこに映るのが見えるまで、英霊城兵ランサー・ウバラもまた駆けていた。視界の端には愛する夫の姿が見えている。見えなくなったことなどない。死が互いを分かつまで。

 

――相対する戦士、立香を見詰める。

 

 その表情には真正面からぶち抜くという意志があった。義と勇があった。…かつて見た炎があった。

 

 この槍でタッチする。

それでウバラの勝利となる。武器は手足の延長だから。 敵はすんでのところで我が槍を躱し、互い違いになるところで拳の一撃を叩き込むつもりだろう。

 

それが勝機。つまりは後の先(カウンター)。

 

 長大な槍の間合いと短い拳の間合いとでは勝敗は明白、ゆえに後の先を獲ることは必定。

 

だが世の中には『後の先』に対して『先』を獲れる技があることを知るがいい。

 

 英霊城兵大将ウバラは心中に期した。

後の先とは攻撃の最中であるために防御力を失っている瞬間のこと。つまり、その勝機は相手の攻撃を避けるか防ぐかせねば始まらない。

 

 この遊びでは触れられること=負けなので、相手は避けることのみを選ぶだろう。ならばこの槍を避けた瞬間、エリザ粒子の操作で以てお前の手足を停めてくれよう。

 

―――相手は攻撃しか頭にない。

 

 こちらをぶん殴ることしか頭にない。

私を殴り吹き飛ばし、その隙にゴールである光扉に辿りつこうという寸法だ。

 

 だが、無駄である。

いかにその拳と五体がエリザ粒子を強力に纏ったものであっても、この世界の造物主たる英霊城兵大将には及ばない。やろうと思えば世界の凍結すら引き起こせるのだ。

 

 全ては無意味。

この藤丸立香は槍を躱した瞬間に動きを停め、為す術なく身動きも取れずこの身に敗れ去る。

 

そうしてまた『遊び』は再開される。

 

「――ッ!!!!!」

 

 気を吹く。神速で以て槍を振るう。しかしエリザ粒子のブースト、それで以て藤丸立香は躱す。右拳はまだ握ったままで。

 

―――その瞬間、世界が凍る。凍るかのように時間も停まる。

 

 この世界のエリザ粒子に命ずる。ただ一言、待てと。それだけで世界は従う。一切豪遊の名の下に。

 

 …あとはこの手を伸ばせば勝利は決まる。

気付けばまた最初からだなんて、なんともまあ慣れたものだろう感覚を藤丸立香は味わう事となり―――。

 

飽きるまでこの遊びを繰り返し続ける事になる。

 

 槍から右手を離し、伸ばすランサー・ウバラには見える筈だった。

拳が届く位置にいながら、もはや間に合わない、悠久の時の最果てに座する敗者の拳が。

 

敗者の拳が、

 

敗者の拳が、

 

拳は―――

 

 

「は?」

 

 

何処だ?

 

 

 ・・・・・吸い寄せられる。掃除機、或いは嵐の中心に巻き込まれるかのようにランサー・ウバラの体が、空間が、全てが立香に吸い寄せられる。

 

 

―――藤丸立香の拳は何処だ。

 

 

 答えは明快にして異常。不可能の極みを超えて、立香の拳は前進していた。

 

 …この世界に遍く有るエリザ粒子を己に纏う事。たしかにそれが出来れば無敵だろう。だが相手も同じことをするのだから、全てのエリザ粒子をただ纏おうとするのではなく、こっち来いよって感じで吸い寄せるという工程を経ればいいのではないか。

 

立香はそう判断した。

 

 己の周りにあるものから他者が纏うものまで。剥がすように、全て己に吸い寄せる。すなわち、他者が纏うエリザ粒子の強制剥離。

 

 ランサー・ウバラによって凍らされ停止した時間(エリザ粒子)は立香の吸引力によって強制的に流れを生み出され動きだし、その流れたエリザ粒子を、動いた時間を纏って立香は勢いそのままに地を踏みつけ腰を鋭く回転。右拳(冲捶)を突き出した。

 

「――ッッ!!!!」

 

 躱す。英霊城兵が冲捶を躱す。ありえない程のエリザ粒子を纏った、いやそんなものではない吸い寄せた拳を間一髪、英霊城兵は躱す。

 

――そう、勝機はまだこちらにある。

 

 必倒の一撃の最中にある藤丸立香は今、防御力を失っている。すなわち『後の先』が獲れる状態なのはランサー・ウバラの方で、その勝機を見失うほど彼女は甘くない。ウバラは立香に触れようと再度手を伸ばした。

 

―――だが世の中には、後の先に対して先を獲れる『技』があることを知るがいい。

 

 立香の右拳が折りたたまれる。

それと同時、或いはやや早めに左肘と左拳を左腰上方へ振り上げる。すると体重が僅かに浮き、再度震脚。体重移動力を発生。

 先端が拳ではなく肘と化した一撃が、互いの瞳の中に映る己の姿を皮切りに、カウンターとなって二撃目をなす。

 

 ――これはとある武人が、その生涯を不敗の二文字と共に歩ませ、比類なき蛮勇暴威を彼に許したもの。そして彼が、立香に教えたもの。

 

 勝てる間合いで、勝てる機に勝てる行動をするマニュアル。

『技』とはそういうものであり、それこそが『武』と呼ばれる所以。功夫を重ね、この間合いにおいてのみ、今の立香はその段階に指先をかけていた。

 

 

 

 ―――八極門・猛虎硬爬山

 

 

 

 

 

 

 

―――膝が地につく。立っていられなくなったこの五体を支える為に。

 

「行こう!!」

 

勝者が往く。こちらを振り向くことなく。

 

「じゃあね立香!貴女と一緒に戦えて、遊べて!本当に楽しかったわ!」

 

「こちらこそありがとう!ゲルトルードさん!…戦友!!」

 

「ゲルダよ!親しい人は皆、私をそう呼ぶの!」

 

「ありがとうゲルダさん!どうか幸せにー!!」

 

手を振り、カルデア一行が光扉をくぐる。そしてパタンと閉まる、その前に。

 

―――ウバラ。

 

仲間同士、最期の会話が始まった。

 

―――なあに?インフェルノ。

 

―――首尾が上手くないんじゃないか?まだ最後の仕事が残っているだろう。

 

―――ええ。もちろんわざわざ言いに来なくても。

 

―――重要なことだからね。次は私の所に来るのだから。来て欲しいのだから。

 

―――極めて了解しているわ。英霊城兵大将インフェルノ。

 

―――頼んだよ、元・英霊城兵大将ウバラ。

 

 

 頭の中の声が消える。時が動き出そうとすると、ウバラが纏うエリザ粒子が風に乗ってそこらに消えた。

 それは敗北の証左であり、只のサーヴァント・レギンレイヴは夫にその背を抱かれ、男女の言葉を交わす為に口を開く。

 

「楽しかったわ。貴方」

 

「それは良かったよ。御前」

 

「あの頃に戻ったかのようだった。本当に」

 

「ああ。息子や娘と遊んでた頃が懐かしい」

 

「…最初から私を倒すつもり、なかったわね?」

 

「馬鹿言っちゃいけねえよ。本気で倒すつもりだったさ。立香が全部かっさらっただけで」

 

「本当に?」

 

「御前に嘘なんて言わないさ」

 

「嘘ばっかり」

 

嘘も本当も気楽に言い合える。それこそがこの夫婦の秘訣であった。

 

「ちょっとお二人さん。こっちこっち。せっかく逢えたのだし、まだ消えるには早いんじゃあないか?」

 

 空気を読んでいたフスカルが自分の通ってきた扉を指差す。その向こう側には元・英霊城兵ハドマが居た。手をフリフリしている。

 

「いいのかい?フスカル」

 

「そちらが良ければ」

 

「ありがたい。でも君は?」

 

「俺はまだちょっと、ここでやることがあるから」

 

 妻を抱きかかえたゲイルが扉をくぐる。造物主がいなくなったこの世界は、まもなく影も形も消えてなくなるだろう。

 

しかしその前に、

 

「・・・いやあ、ピクト人は強敵でしたね。今も昔も」

 

声を発する。かつての戦友たちに聞こえるように。

 

「――よお、フスカル。すまねえ気絶しちまってた。トシかな」

 

「無事でよかったよエクター殿。・・・・お会いになられるかい」

 

我らが王に。

 

しかしエクターは首を横に振った。

 

「良い夢見させてもらったからな。しかも最期に、おめえに逢えて良かった。やっぱ俺達がいりゃあ怖いものなしだぜ。なあ?ボードウィン」

 

「・・・ああ。勿論だ」

 

 ボードウィン、ブラスティアス、ウルフィウス。かつての古馴染みも集合し、共に世界の消失を見る。共に、己の最期を見詰める。

 

「・・・全ては忘却の彼方か」

 

「何カッコイイこと言ってんだ、それが普通だろ。はいこれ」

 

「あん? 何だこれは」

 

「・・・酒か?」

 

「酒だよ酒ぇ」

 

集まったらこれがなきゃ始まらない。フスカルは思っている。

 

「お、旨え」

 

「だろ?こんな旨い酒は久しぶりだよ」

 

「違いない。・・・ところでよ、フスカル」

 

「うん?」

 

「お前は、さ。自分の最期を――」

 

「良かったなんて思ってねえよ」

 

・・・・・でも。

 

 眼前を睨みながら、言う。屈辱の極みであり極大の恥と不敬を抱えて。・・・だがそれでも、何故か心は晴れやかだった。きっと女神の祝福でもあったのだろう。死ぬ時に、もしくは死んだ後に。

 

今のフスカルはそう思う事にする。

 

「・・・でも一応、俺は俺を全うしたよ。君らと同じでね」

 

「そうか」

 

「ああ」

 

「そう―――思うか?」

 

ログレス守兵隊は心から訊ねた。最後のログレス守兵隊に向けて。

 

「勿論。戦友だからな。そしてそう信じてる」

 

 言い切るフスカルに疑いは微塵もなかった。共に駆け抜けた戦場を、想い出を、全てひっくるめて疑いなどこれっぽっちも生まれなかった。

 

―――どんな人生を歩もうとも。君達なら。

 

それがフスカルの心底だった。

 

「・・・・・だよな。きっと、そうなんだよな、俺達は」

 

「最期にお前に逢えて良かったよ。たとえ夢でも。戦友」

 

「ここは夢じゃねえけどな。って、ちょっと、それこっちのセリフだって分かって言ってる?戦友共」

 

「あたぼうよ」

 

 改めて乾杯。そして皆で、笑って酒を呑み干す。同窓会はこうして幕を下ろしたのだった。

 

―――そして眼を開けると、そこには老人がいた。

 

「・・・?」

 

「大丈夫か、ブラスティアス。ウルフィウス。エクター」

 

 心配そうなツラをしたボードウィンが見える。先ほどまでの遊びは同窓会は、やはり夢だったのだろうか。

 

それにしては最高に楽しかったけども。

 

―――なら現実だな。と、三人は笑みを浮かべた。

 

「? 何故笑う。何故そんな顔が出来る。三人とも」

 

「・・・はは」

 

――お前はこれからだろうさ。更に笑みを深めて。

 

「いい現実を見たぜ。そして良い、冥途の土産だった」

 

三人はこうして各々笑ってくたばった。

 

そして。

 

「フスカル」

 

 元ログレス守兵隊総隊長は城への旅の途中。友を想い、歩き、倒れ、ついに眼を覚ました。

 

「―――我が友」

 

 何において道のりとは長く、苦痛以外の何物でもない。

それが良いとほざく同僚も、少なくとも彼は見た事がなかった。

 

「待ってろよ」

 

 掠れるのを無視して、声を出す。それでもと力を脚に込め。だからこそと、己を鼓舞しながら。

 

「待ってろよ。・・・待ってろよ」 

 

 脚がもつれる。口が、地べたをついている。受け身も取れていない我が身を笑う。自分自身を、ひたすら笑う。

 

「あぁ何故だ。何故こんなにも。・・・あぁ、何故俺達はこんなにもアホなんだ」

 

 顔だけを前に向けて、もう動けなくなった彼は声を出す。気炎万丈のみが取り柄となってしまった声色は、正に今このボードウィンが風前の灯火だとは感じさせぬほどのもの。

 

 しかしかつての彼を知る者ならば、何ともまあ。と、笑いの渦を創るに違いない。

 

つまりは終焉。ボードウィンは今、正に今際の際なのであった。

 

「待ってろよ。だから閉じるな霞むな。俺の眼が黒いうちは、俺達が居ればログレスは。たとえこの世が地獄以下の穴底であろうとも・・・・・」

 

 死に往く者の独り言など誰も聞かない。聞いた所で無用の長物。

何故なら誰も死人に用などない。約束を交わしたとしても果たす責務も債権も無かったことになるから。 

 

死人に用など有ってはならない。

 

「俺達がいれば誰にも何にも。たとえピクトとサクソンが徒党を組んで襲ってきても。たとえピクトが全盛の姿で現れてこようとも!

 ―――全部ぶち殺してやったなあ」

 

 なあ、フスカル。 

俺達はウーサー様を守ることも出来ずアーサー様を助けることも全然出来なかった。

 

 その証拠にみろ、あの円卓の騎士共を。自分勝手な俗人を。それを是正できなかったこの俺を。

 

 お前は知らないだろう。ウルフィウスとブラスティアスの最期を。笑って死んでいったあいつらを。

 

 アーサー様があんな結末を迎えるのなら自身の手で最後まで育てたかったぜと、一昨日笑って死んでいったエクターを。

 

 どうだ、これが俺達の末路だ。恥ずべき想い出だ。そんなもの消えてなくなった方がいいに決まってるだろうが。

 若さという名の情熱だけをよすがにログレスもペンドラゴンも守ると喚いていたくせに全然守れなかった俺達なんて俺なんてお前だって。

 

―――でも。

 

「・・・・・それでも」

 

 元ログレス守兵隊のボードウィンは城への旅の途中。皆と同じように年老い、友を想い、倒れ、眼を瞑り、

 

「―――楽しかったぜ。ずっと」

 

やはり。笑ってくたばったのだった。

 

 

 

 

◆◆

 

 

 

 

 残されたゲルトルードは祈っていた。故郷の神族と、幼馴染に。

 

 良い土産話ができたなあと、笑みを浮かべて。ついに帰れるのだと、テンションが上がった彼女はぴょーんと跳び上がってみたりした。

 

すると世界が一変した。

 

「………あら? あたしの家?ここ」

 

 いつもの早朝だ。いつもこの時間に起きて、祈って、川から氷水を集めて暖めて飲み水をつくる。

 

いつもの日常。

 

「よし」

 

 うんしょっと。起き上がっては着替えて外に出る。

陽が昇る少し前、薄明るい時間に彼女は川に向かった。いつものように。

 

彼が旅立った方角に。

 

「いい加減帰ってこないと、あたし、しわくちゃのお婆さんになっちゃうかもよっ…てね。はあ、早く帰ってこないかなあ」

 

 約束が胸を焦がしていた。ずっと彼を待ち続けるという約束。ずっと、彼だけを想い続けるという約束。

 

 幼馴染が一人、また一人と極寒のこの故郷で死んでいく中で、次は私の番だろうなと漠然と考え始めてきた中で、しかし彼女は想い続けた。…忘れられなかった。それは彼女の弱さだった。

 

「えいっと」

 

 氷を短槍で突き砕く。水と一緒に桶へと入れる。それを両手で力を籠めて持ち上げると、ふと川の対岸に誰かがいる事に気付いた。

 

「………、ぁ」

 

 人である。背丈は大きい。いや、大きくなっていた。背中に丸い何かを背負い、こちらを見詰めている。

 

ゲルトルードはその姿から眼が離せなかった。

 

 その人が浅瀬からザブザブと器用に冷たい川を渡り、こちらに急ぐように駆けてきても、彼女は一歩も動かなかった。

 

「………」

 

11年間――ずっと待っていたからだった。

 

「・・・・・俺の記憶に間違いがなければ」

 

「……………」

 

・・・・・。

 

「ゲルダで合ってるか」

 

「うん」

 

幼馴染が跳ぶ。

 

桶の底がけたたましい音を立て、しかし中身は零れることなく。

 

今の今まで昔の約束を決して忘れなかった強い女は、こうして、この先一生幸せに暮らしましたとさ。

 

めでたしめでたし。

 

 

 

 

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