「というわけでちょっくら赤帽子とかいう鬼を探し出してぶっ殺してきます。マスター」
「え?なにそれ『かくれんぼ』の亜種?」
ていうか物騒すぎ。刑部姫はツッコミを入れた。
「この世界の誰かを殺すヤベーヤツがいるんですよ?ならばこちらが今為すべきことは一つ。こっちから出向いて叩くべきです」
「迎撃ならぬ出撃ってわけね。アンタらしくないけど」
「・・・・そうでしょうか?」
はたとフスカルは思ったが、気にしない事にした。
実家(仮)に帰ってきたからだろう今の彼は城兵というよりはローナルド家の三男であるのかもしれない。
「私は極めて了解ですよフスカルさん。 あ、でもその前にそばがきのおかわり下さい!」
「気に入っていただけたようで何よりです。ごゆるりと」
「まだ食べるのか・・・」
「すいませんフスカルさん。妹は昔から誰もが匙を投げる食いしん坊なんで―――ってフスカルさん?あなたフスカル・ローナルドさんですか!?!?第六特異点で闘った貴方がどうしてここに?!ていうかその顔は、」
「おおう。もう突っ込まないけど何でこんなにびびられてんだ。そして何でまた・・・尊敬の眼差し? 一体俺が何をしたのか教えてちょうだい」
「ダメです」
※よく分かる前作あらすじ=キャメロット城の兵士フスカル・ローナルドは周りにもう味方いないけど城兵なので戦って死んだ。
「・・・とにかく!今回の遊びはちょっと毛色が違います。明確にご丁寧に殺人予告までしてきているのですから!そう、これはもう遊びとは言えません」
『……たしかにその通りですね』
『逆にその赤帽子が英霊城兵インフェルノっていう線もありそうじゃない?』
『私を捕まえてごらーんって感じかな。それが本当ならマジの悪趣味だ。立香、君のエリザ粒子探知に反応は?』
「うーん………。何もない、かも。なんだかモヤモヤしてる」
「エリザ粒子?」
「あ、兄さんは知らなかったね。この特異点全体に満ちているヘンテコ粒子のことだよ」
「それってコレのことか?」
そう言って、ぐだおの掌が水色に灯る。発光という単純な結果を生み出しているが、その原理はエリザ粒子の収束と応用であった。
『!?』
「あ、それそれー」
『ぐだお君まで扱えるのか!』
「ローナルドの人達から教わってたんだ。手遊びみたいなものだって言われて」
「・・・そうなのですか?兄上」
コクリと頷いたのはこの場に居るローナルド一族全員であった。
「日課の槍造りをしてる時に、ふと感じるものがあってな。何ともまあ変なモノだ」
『なるほど。何かを造ることに作用しやすいのか?つまりは恣意的な、創作というカテゴリーにおいてか?―――少し見えてきたぞぅ』
『ダ・ヴィンチちゃんが燃えています!!』
『頼むわよ特別名誉顧問。ぐだお、貴方は何か感じる?違和感とか』
「うーん、とくには何も。ただここから東の方に何か」
「東?―――…あ、ほんとだ何か気持ち悪い。そこだけモヤモヤが晴れてる」
「罠の気配満々だねマーちゃん。どうする?」
「行ってみよう!」
「決まりだな。じゃあ早速――、」
「おい待てフス坊よ。お前の話きかせろ。マリアにばかりずるいぞ」
「ぅゑ」
むんずと首根っこを掴まれる。いつの間に。少し驚くフスカルであった。
「よせオンス。フスカル、お前が話したくなったらでいい」
「兄上はいつもこうだが、知りたい欲がないわけじゃねえからな?今すぐにも聞きてえに決まってる」
「し、しかし・・・」
「まあまあ。 それじゃ、上兄さん達とお兄ちゃんはここでお話をしようよ。少しくらいいいでしょ?」
「・・・むむむ」
「何がむむむだ。姫(わたし)が許可を出すからちょっと話してきなさい。久々の家族水入らずでしょ?」
「・・・、すいませんマスター。しかしこの村の案内をする人がいませんと」
「あ、それは私がやるよ。お兄ちゃんとはさっきお話をしたし、今度は上兄さんたちの番ってことで」
「できた妹ちゃんだねぇ」
「とうぜん。えっへん」
眼下で胸を張るマリアの折衷案に、フスカルは折れざるをえなかった。兄とはいつだってこうである。
◇
―――ローナルドの村は山間にあり、村の外には多数の樹木が生い茂っている。彼らは年間決まった分だけの木を切り、火を起こし、槍を造って己を表現する。
生涯のうちでコレだと定めた槍が出来ると、次は次代に対しての育成が始まる。
『己』とは何だ?この槍だ。では『お前』は?と。
そう言い伝え続いていく。誰も彼もが死に絶えるまで、或いは世界が終わるまで。
―――人口100人のこの村は、だからこそ隔絶的であった。
「ほんとうに長閑な村だねえ、人口約100人ってところかな?」
「そうだね。本当なら近隣に小さな村がポツポツあって交流しているんだけど、この世界ではこの村だけみたい。
――あ、失礼を。改めて自己紹介するね。私は父にして先代族長オスカーと母ミスガルの末娘、マリア・ローナルド。お兄ちゃんが大変お世話になったようで」
「マリアちゃんかあ。よろしく!私は藤丸立香。こちらこそ兄さんが大変お世話になりました!」
「ぐだおさんは一緒に遊んでくれたから、それは別に平気」
「クール系幼女。そういうのもあるのか…」
「おっきーなんかキモイ」
「!?」
「これでも実際はもっと歳くってるんだけどね。ま、心は歳を取らないってことで」
「カッコイイ系幼女だった…」
「幼女は消えないんだねおっきー」
刑部姫と立香は置いておいて、先導する小さなマリアが村を案内する。
だからだろうか、村人は皆視線をこちらには向けない。それはよく言えば礼儀正しく、悪く言えば無関心であった。
「(…なんだろう。皆シャイなのかな?)」
が、立香はポジティブだった。
「ちょっと待て立香。この辺り・・・・、何だろここ、何か変だ」
「!…たしかに」
違和感。そこは彼女たちが最初に入ってきた場所であった。だからこそ警戒は怠らない。
立香はそう思ったが、
「――あ」
「どうしたのマリアちゃん」
「あれ………」
「え?」
マリアの指差す方へ、左を向く。するとそこには全身真っ赤で血濡れた獣がいた。
その出で立ちは二本足で二本の腕。人間と言えなくもないが、それにしてはどす黒い血の臭いに塗れていた。
「こいつか!! 血濡れの赤帽子は!!」
「マーちゃん!やばいよこれ魔力が尋常じゃない!」
『こちらでも探知しました!……そんな、これほどの魔力の主が今の今まで察知できなかったなんて!』
「エリザ粒子を纏ってるね。アンタ英霊城兵?」
「ふしゅるるるるrr」
・・・・・。
「言葉が通じない系の怪物ってわけだね。じゃあ犯人も見つけたことだし、かくれんぼ(仮)は終わりってことでいいのかな?」
「ふしゅるるるるるるる!!!」
それが答えか、それともそれが問いなのか。怪物がとびかかる。
「! まだまだって事かな!!」
「ふしゅ!」
「逃げたぞ!!」
駆けだす。村の中央に向かって。
「村の人が危ない!行くぞ立香!!」
「がってん!!任せて!!」
藤丸兄妹の纏うエリザ粒子が一際強く膨張した。それは粒子の純粋な強化と力強い流動。エリザ粒子の闘法(モード)と言えた。
「おらあ!!」
「凄まじい拳――!」
「ふしゅるッッ」
「逃がさないよ!!」
立香は掃除機をイメージした。思いっきり吸入するように、不動のまま血濡れの怪物ごとエリザ粒子を引き寄せる。
「ふしゅ――!!!?」
「つかまえ――た!」
直撃(ヒット)。引き寄せられた怪物に立香が冲捶をぶちかます。
「やるな立香!」
「戦友たちと一緒に鍛えてきたんでね!」
「戦友って、あの御姫様か?」
「おおおぉ御姫様!?!?」
「詳しい話はあと!!」
事実の直面に(何故か)刑部姫が面食らうなか、怪物は倒れ伏した。
「ワンダウン(いっちょあがり)! ぐだお兄さん、中々やるね!」
「オンスロアさん達に教わったからな。これくらいはやれるさ」
「へ~。オンスロアさん達ってそんなにすごいんだ」
「上兄さん達はまあまあランクの怪物だよ。怒らせない方がいい系の」
『まあまあランク……』
怪物にもランクがあるのだろうか。そう捉えると、今の立香たちは中々の怪物であるが。
「残敵確認、よしっと。これで今度こそ遊びは終了かな。この、血をべっとり被ったいかにも赤帽子ですって感じの怪物。これがターゲットなわけだろうし」
「そうだな。達成の報告をしようか、立香」
「帰りましょー」
しかしその時。カルデアの一行がローナルドの家に戻ろうと、遊びは終わったのだと伝えようと動いた正にその時だった。
「――――おいおいおいおい。誰が鬼は一匹だけだなんて言ったよ?」
「!?」
それはすっぽりフードを被った、全身黒づくめの誰か。そして男とも女とも判らない声。唯一初見であるぐだおを除き、この場の誰もが見覚えのある者。
「マーちゃん!?」
――この世界の造物主が現れた。
「よぉ久しぶり―――でもないか。しかし相変わらずに、」
立香の纏うエリザ粒子が濃密すらも超えた次元に到達する。その様を見続けたまま、しかしその者は気さくに声をかけていた。
大気中のエリザ粒子が動く。その原因は立香の仕業であり、停滞をエリザ粒子に命じている何者であれ何であれ英霊城兵であれ動きだしてしまう程のもの。
だからこそ、彼女の一撃は伝わる。貫通する。
………今度こそ。
「行儀が悪いなぁ。お前?」
立香の衝撃(冲捶)が敵のフードを取らせる。腕で防いだことによる余波が、ついに英霊城兵の顔をのぞかせたのだった。
「―――やっと会えたね。 兄さんの仇!」
「え?」
そして藤丸ぐだおは困惑した。
「ハハ!英霊城兵インフェルノだ。
言葉通り、お前らをオレの眼の中に入れにきてやったぜ」
夥しい血と傷で爛れた顔。敵の見せる表情は笑っていたが、立香はそれを看破した。
「…そのエリザ粒子。その顔、偽物でしょ。性懲りもない。素顔をみせなよ『赤帽子』」
「心外だなあ。人間だった頃はこんなんだったんだぜ?」
「……人間だった頃?」
「立香!そいつは一体・・・?!」
「………」
「敵だよ。そして兄さんを、私の家族を攫った罪は重い。今ここで決着をつけるよ…!」
「ハハハ!そうこなくっちゃな。けど良いのか?この場を戦場にしちまっても」
「………怖い…っ」
「!?」
マリアが頭を抱えてうずくまる。醜悪な化け物の顔なんて怖いだけだし、見てて気分が良いものでもない。当然の反応である。
「マリアちゃん隠れて!!」
「おいおい、どうする?今のオレ達がやり合ったらこの世界吹っ飛ぶ可能性もあるかもなあ。それほどのモンだぜ?今のお前」
「そうならないように上手く戦えるよ。今の私ならね!」
「!」
立香の頂肘(打撃)をインフェルノは又も堅い防御で防いだ。そう、防いだ。直に触れて。
「いい力量(レベル)だ。面白えから次はテメエらのいる家ごと全殺しに行ってやるぜえ!その時まで勝負は預けた!!
せいぜいその時が来るまで、かくれんぼみてえに震えて眠ってな!!鬼が今にやってくる~ってなあ!!!」
「待て…!」
しかしふいに英霊城兵インフェルノが消える。エリザ粒子の探知にも引っ掛からない、それは紛う事なき消失であった。
「消えた。また逃すなんて…ッ!」
『申し訳ありません立香先輩、いつもながらこちらには何の反応もありませんでした。……しかし犯行予告をしてくるとは』
「大丈夫だよマシュ。レッドキャップ(赤帽子)の頭目が英霊城兵だなんて、中々やばい真実を知れたわけだからね」
『英霊城兵インフェルノ、か。…人間だった頃と言っていたけど』
『はい所長。……人間が妖精になったということでしょうか?』
「とにかくワケを聞かせてくれ立香。なんであんなにさっきの敵を嫌ってるんだ?」
「…怖い…怖い……」
頭を抱えたままブルブル震えるマリアをかばいながら、ぐだおが訊ねる。
「あ、ごめん!怖がらせちゃったねマリアちゃん。家に戻りながら話すよ兄さん」
「分かった」
歴戦の立香は悟る。ついに遊びが始まったのだと。テーマは相変わらず悪趣味で、変わらぬ侮蔑がアクセント。
それは初めて会った時と同じ。立香を侮り馬鹿にし見下し、そして何よりそんな自分が最高だと嗤い続けている。
本当に心底気持ち悪い。
「怖い………」
―――『かくれんぼ』はまだ終わらない。
何故にと問う。故にと答える。
だが私が言葉を得てより以来、問いに見合う答えなどなかった。
問いが剣か、答えが盾か。果てしない人の打ち合いに散る火花。
その瞬間に刻まれる影にこそ、真実が潜み。
潜んでいた。
次回『眼下』
飢えたる者は常に問い、答えの中にはいつも罠。