英霊城兵六番勝負   作:ブロx

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第二十七話 眼下

 

 

 

「・・・オレそっくりな泥人形か。それが立香の眼の前で死んでいったと。想像するだけで気持ちの悪い話だな」

 

「あれは酷かったよ」

 

 ――だからこそ許さない。

家族の前で家族を騙る。沸き立つ怒りで立香は拳を握り、万力とする。まるで時間も空間も握りしめるかのように。

 

ローナルド本家にて、カルデア一行は臨戦の構えであった。

 

「というわけで兄さんは隠れてて。また攫われるかもだし」

 

「それは出来ない相談だな。オレは、オレの仇をとらなきゃならない。偽物だとしても生きていたわけだからな」

 

「……」

 

 ぐだおの精悍な言葉と瞳が眼前を見据える。こういう所が他者をえぐるのかもしれない。家族の立香はそう思った。

 

現に、その様を見たフスカルのやる気が上がった。

 

「マスター。敵の様子はどうだったんです?何か特徴などは」

 

「どす黒くて赤い血だよ、『赤帽子』の名前に違わず。多分赤黒デッキだね(MTG的性格診断)間違いない」

 

「これは驚きましたな。赤黒なんてニッチすぎません?せめて青黒とか白青、」

 

「ロマンがあるんだよ赤黒には。つまり敵はそんなタイプと姫(わたし)は見たね。だからこそ手強いよ」

 

「ふむん?」

 

 中々評価が高い。珍しく、マスター・おっきーは敵に対してあまり悪く思ってないようだ。・・・これも順応なのだろうか。

 

本当に?

 

「・・・そういえばマリアが随分血相を変えていましたが」

 

「中々ショッキングな絵面だったからねえ…」

 

「そのマリアの様子といい、ずいぶんと物騒な話になってんなあ。フス」

 

 口を挟んだのは一振りの槍を手にしたオンスロアだった。うわ出た、と嫌な顔をしそうになった為黙殺のうえ澄まし顔のフスカルが兄の槍を見るのはこれで二度目。

 とても鋭く、堅く、それでいて火でも起きそう。そう思ったのは恐らくこれが燧石で出来た槍だからだろう。

 

看破した三男坊は、やっぱ兄上は兄上だなと思い知った。

 

「良い槍ですね兄上」

 

「ありがとよ。

敵さんには我らが槍を理解してもらわなきゃならねえな。俺達ローナルドに手を出したらどうなるか、その答えは命で以て対価を払ってもらう他ない」

 

「・・・この家を戦場にしてもよろしいので?」

 

「仕方ねえだろう。ここに襲い来るってハナシなんだから。なあ?グワン兄上」

 

 頷くグワンザンは変わって二振りの槍を持ち出していた。丸太のような図太い得物。彼が辿り着いた己(こたえ)。

 

だって俺の腕は二本あるのだし。

 

「・・・戦いは好きじゃないが、家族に手を出すなら別だ。フスカル、偽物だろうと今はここが俺たちの家ならば。

 防備を固めよう。オンス、お前は裏口を。俺は正面を見張る」

 

「ああ」

 

「おっきー、私達も正面を見張るよ!」

 

「了解ぃ」

 

「・・・・」

 

・・・・・。

 

「? っ、と。ちょっと先に行っててマーちゃん。 ねえどうしたのアンタ、えらく考えこんじゃって」

 

「あ、すいません。・・・立香たちから聞いただけなのもあるんですが、敵の狙いが少々解せなくて」

 

「解せないぃ?」

 

 刑部姫とフスカルは部屋の隅に寄った。それは何故だか誰かに聞かせたくないと思ったから。推理という名の、内緒話の始まりだ。

 

「殺害予告をしたってことは、迎撃されるリスクをわざわざ生じさせているんですよ敵は。・・・・何故?それはよほどの自信があるからか、それ自体が目的だからか。『赤帽子』と呼ばれるくらいですから戦いたいだけかもしれませんが」

 

「ふーん?」

 

「しかし立香たち兄妹もマスターもそんじょそこらの力量ではないし、ましてや立香はこれまで英霊城兵を二騎相手取って勝っている経験がある。敵がそれを知らない筈がない。俺が敵なら、予告なんて出しませんよ」

 

 目的を達成する為ならリスクは極力なくすのが定石。歴戦の城兵はそこが解せなかった。

 

「ふーん? でもそれも込みで『遊び』だからってことなんじゃないの、単に。今までだってそうだったじゃん?楽しいから遊ぶ」

 

「・・・そう言われてしまうとそうなんですが。今回はなんだか腑に落ちなくて」

 

 この状況を造り出すことが目的であり理由である。と考えた方がしっくりくる。フスカルは直感で思ったが、根拠がなかった。

 

「ま、正面は私たちが見張っておくからさ、アンタは妹ちゃんを見ててあげなよ。結構怯えてたから」

 

「怯え、ですか」

 

「マリアらしくないがな」

 

「・・・・兄上?らしくないとは?」

 

「お前はあまり知らないだろうが、マリアは誰にだって何にだって物怖じなどしなかった。それは母上の前だろうが父上の前だろうが」

 

「・・・・はあ」

 

・・・・・。

 

「お前がいなくなってからは、それはもう一層槍の鍛錬に励んでいた。しかし絶対に槍を造ることだけはしなかった。何度言ってきかせてもな。

 まだまだ足りないの一言だけで、槍を振るうのみ。傍から見る分には面白かったが」

 

「・・・へ~」

 

 あまり興味がないので適当に聞き流していたフスカルが、仕方ねえなとマリアの部屋へ向かう。そしてその扉を開けようとしたその時、

 

「そうしてあの日がやってきた。父上が死んだ日、マリアは村を出て行ったんだ。槍を造ると言い残してな」

 

「――――は?」

 

耳を疑ったフスカルは。だから気付くのが遅れてしまった。

 

「・・・・!? マリア!!」

 

 それは誰しもが聞いたことのない声量。

悲鳴にも似た切迫な音はこの家に居る全ての存在に異変の発生を知らせるに足るものであった。

 

その異変の名は密室殺人。眼下の血濡れと死体が証拠品。

 

「フスカルさんッ?!マリアちゃんがどうしたんです一体――」

 

「―――」

 

 仰向けになって倒れ伏しているローナルドの末娘の姿を立香が認めると、彼女はすぐさま礼装を活性化させた。

 

「マリアさん!!」

 

「・・・・・敵の野郎、人の妹に手を出しやがったのか。ゆるせねえな」

 

「立香!急げ!」

 

「『応急手当』を使います!…さがって下さい!」

 

 破裂する怒りの主となったグワンザンとオンスロア。そして死体に手当てをする立香。

 起こった現実を直視し続けるフスカルは、しかしこの光景が信じられなかった。何故ならさっきからずっと驚天動地の連続であり、たとえば生き別れた兄妹との再会。そしてその妹の無惨な姿。

 

―――死んでいる?これが?

 

「・・・・・」

 

 奇妙な感覚に包まれたフスカルが先程叫んだのは、ショックだからではなく『音』の反響で確かめたかったからだった。それは戦いの中で生み出した彼独特の方法。そうやっていつも彼は生き延びてきた。死ぬその時まで。

 

「そうか」

 

 だから分かることがある。

耳を、音を、騙すことは出来ないと。―――血だらけの死体(マリア)の眼を観る。見開いたままの姿のその鏡面には、やはり何も映していなかった。

 

だから直感でもって、城兵は声を出した。

 

「そうか」

 

「!?」

 

その答え合わせのように現れた何かが、彼と立香に襲い掛かる。

 

「ふしゅるるるるr!!!!」

 

「・・・・・」

 

「フスカルさん!?」

 

 背中で立香を庇うフスカルが初対面の『赤帽子』と眼と眼を合わせた。化け物同士のアイコンタクトはモノの真贋を見定めるのに不都合はなく、少なくとも彼にとっては、それが本当の答え合わせであった。

 

「………、え」

 

『フスカルさん!?』

 

 フスカルは抵抗を止めていた。ゆえに赤い血を纏った化け物『赤帽子』はその無防備な首筋目掛けて咬みつき、

 

「・・・」

 

そのままの状態で固まった。

 

『フ、フスカルさん?大丈夫なのですか?』

 

 意識下の不動は金縛りにも似て、まるで立香の靠撃が初対面のあの英霊城兵に効かなかった時のよう。 

 しかしてマシュが訊ねる。傍から見れば怪物が人間を食っている絵面だからだ。

 

しかし。

 

「やはりな。コイツは攻撃している振りをしているだけで、俺達を傷つけることなんて出来ないんだ。その答えはおそらく、『もっと遊びたい』から」

 

「どういうことです……?」

 

「気付いたんだよ。この世界の英霊城兵は、俺達の姿をずっと見ていたいんだ。終わらせたくなんて毛頭ないんだ。

 でなければこんなチャンスをふいにするわけがない。全ては最初から虚仮威し(遊び)だったんだ」

 

「これが………『遊び』?」

 

「ああ。誰かを殺すと言った手前、英霊城兵は誰かを殺さなくちゃならない。でもそんな事はしたくない。或いは、出来ない。

 だったら答えは簡単だ。自分自身が殺されたように見せればいい。それも凄惨な有様をありありと見せつければ、疑う奴なんていなくなるし疑心暗鬼な舞台の完成だ。つまり『赤帽子』っていう悪趣味の権化は――」

 

『待って下さいそれってつまり、犯人は―――』

 

「・・・・・お前だな?マリア」

 

「せ~か~い。EXACTLYだよお兄ちゃん」

 

『――!?』

 

「マリアちゃん…!?」

 

「ふしゅるrrrr」

 

 ひどい血の臭いと共に発生したのは、むっくりと床から起き上がるマリア・ローナルドの声だった。曲がった首をゴキリと鳴らし、家族を見詰めるその瞳には何かが有る。

 

それは彼女の源泉。彼女だけの野心。彼女が人を辞めた理由。

 

「ん~やっぱりお兄ちゃんにはバレちゃうねえ。一目見ただけでなんて、だから会わせたくなかったんだよ?赤帽子とお兄ちゃんを」

 

「マリア」

 

「お兄ちゃんって耳が強いけど、実は眼利きも良いよねえ。心眼(真)を持ってる系ってやつ?もうちょっと騙し騙し長々とやっていきたいこっちの事情も考えてほしいよ。

 ま、そこが嬉しいんだけど」

 

「おい」

 

「ああそうそう、ここに全員を集めるように仕向けたのは、そろそろお兄ちゃんを騙せないなぁと思ったからでね? 別にやろうと思えば記憶くらいもう一回消して最初から!でも良かったんだよ? 

 ―――あの時。チェイテピラミッド姫路城の正門で、お兄ちゃんにようやく逢えたあの時みたいに」

 

「・・・てめえ」

 

「でもそろそろ私、我慢できないからさあ。私が知ってるあの日までのお兄ちゃんと、

今のオレと再会しても変わらないお兄ちゃんが、家族が本当に本当に嬉しくてよお」

 

「・・・父上を殺したのはお前だな。マリア」

 

「そだよ?それも当ったり~」

 

 マリアの宣言と同時、立香たちの前で英霊城兵インフェルノと名乗った『赤帽子』が空間より現れた。

 しかし妙なのはその気配とエリザ粒子。それはまるで空気を編み込んだかのように空ろな様子。

 

「!?」

 

「さあて、答え合わせの時間だけど構わねえな?藤丸さん家の立香ちゃんよお。それともあっという間すぎてドン引きしてるかい?

 ハハ!お前がコイツを探知できなかったのは、正真正銘消え失せてたからだ。空気中にあるエリザ粒子を束ねて形にして、もう一度こうやって元のエリザ粒子に戻してたってわけ」

 

 ―――私、実は無駄が嫌いなんだよ? 

二振りの剣を手に持ちながら、英霊城兵の中で唯一地底を冠する『敵』は言った。

 

「…なるほど、泥じゃあなく。私達の前にいた英霊城兵は、アナタは最初から空気人形だったんだ…ッ」

 

 笑う、嗤う。変わる代わる、満を持して。姿も声も変化した、立香にとっての『敵』の正体が遂に露わになった。

 

『先輩!霊基の再臨です! クラスは―――!』

 

「じゃあ改めてしようかあ。感動的な、端的に言って15世紀とちょっとぶりの待ちかねた感動の再会だからさあ。

 お兄ちゃん。私は『レッドキャップ』マリア・ローナルド。そして英霊城兵大将、セイバー・インフェルノだ」

 

家族に向ける視線で、妹は兄と敵に挨拶した。

 

 

 

 




求めても、求め得ぬもの。
望んでも、望み得ぬもの。
人が抱くべきでない狂おしいまでの渇きが、消えない想いが、誰かを化け物にする。
人外の希望。人外が抱く愛情。人外が抱く明日。
我が道往くは荒涼の、心に地獄を持つ赤鬼。
次回『I know the moon, and this is an alien city.』
流れる誰かの血潮で渇きを癒す。

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