「・・・」
今日も今日とて俺はここで立ち続ける。どうも皆さん、城兵です。
誰に話しかけてんだって思う人もいるかもだけど、これ思考だから。何を考えてたって自由だから無限だから。
あ、でも勘違いしないでくれ? もしここで誰かが、ねえ今何考えてるの?って聞かれたら適当に晩飯の事とか言うから。
君に話し掛けてたんだよ脳内で。
なんて言葉にしたら気持ち悪いでしょ。要するに自分の思考を言葉にして誰かに聞かせたら何だって気持ち悪いんだよ。武器も言葉も人を傷付けるってね。口に出さないからこそ思考ってのは永遠、いやMUGEN。
・・・あれ?でももしもだけどさあ、俺のこの思考が周りに駄々洩れだっていうアレがもしあったらさ、俺只のヤバい奴だよね?
ハハ!自分で考えて自分で笑っちまったよ何その設定。そんな事あるわけねーじゃん!
え?つまりさっきから何が言いたいのって?
沈黙は金、雄弁は銀。使い所を考えよう。
「・・・」
無理やりテンションを上げた俺は槍を持つ手を一度チラ見して、再度まっすぐ前に戻した。後ろからギャースカ聞こえる声がやっと消えたのでホッと一息入れた感じである。これも城兵のお仕事さ。
しかしこんな風に黙って扉の前に立っていると、何だか懐かしい気分になってくる。・・・・正門じゃなくて小さな扉の前に、こうして立つ。だからいつも以上に頭がお喋りになっているのかも。
あの頃(生前)の中でもとびきり鮮烈なのは、一人の老人との会話だった。―――扉に近付く奴は片端から職質し、それでも近付く奴は有無を言わさず殺せ。あと子守も適度によろしく。
当時、俺はそういう命令を受けていた。
◇
『今日は一日中頼んだよ。フスカル』
『あいよー』
『・・・そうそう。忘れてた』
『ん?』
『ウーリックと一緒に明日の夜、一杯やらないか?良いエールが入ったんだ』
『それは良い。勿論やるやる』
『飲みすぎて悪酔いしないでくれよ?この前みたいに』
『それは彼に言ってくれ。俺は付き合いで呑んでるだけだよ』
悪酔いコンビめ。そう言ってウルフィウス殿は踵を返した。
肩を揺らして笑い去るその背中目掛けて、お前も大概だろうがよと言ってやりたかったが、ひとまず俺は仕事を優先する。
その日は気持ちのいい朝風が仕事の開始を告げていて、俺はいつも以上に気合を入れて励んでいた。やる気とかモチベーションというものは意外と現金なものだなあ、なんて考えていると、陽光が一際強く窓から入ってきた。
一瞬、網膜に焼き付く。光が見えなくなると、背中の曲がった一人の男が俺の間合に歩み寄っていた。いつの間に。
『それ以上近付くな。誰であれ』
決まり文句を言う。男が止まる。
『・・・ワシは・・・ワシは・・・』
『・・・・』
シワがよく見える。顔色を窺う。
これは差別ではなく区別だが、男は奇妙な(気持ち悪い)老人だった。
その理由は一つ。・・・いつも通り空気を吸っているだけなのに全身の鳥肌が止まない。俺にとってそれは、初めての体験だった。
『・・・おお、お主、お主。お主、普通という事についてどう思うかね?オヌシ』
『?』
・・・・・。
『普通という事は、そのまま放っておいたら・・・ずーっとそのままだということだ。だからそれが嫌なら、どこかで普通でなくならなければならない。そうに違いない。だから、ワシは・・・」
理解不能な弁舌内容。十中八九罠だろう。つまりは殺した方が、我が王の利になるのでは?
なので俺は大腿に力を込めて、
『そうか』
素直に。殺意をそいつに言った。
『少なくともそれはお前や俺が決める事ではない』
『・・・・・』
老人の影が、黒く白く、錯覚のように揺れ出した。時間が急速に早まったような停まったような、不可思議な寒気が周囲を包む。
『お主、お主――』
『・・・・・』
老人が一歩近付く。殺す決断をした俺は槍の握りを緩めて膝を曲げた。
・・・無意識に力んでいたらしい。老人殺しはあまりやりたくないからかな?
そう思いながら、槍の穂先を敵に向けたその時だ。
『ではお主。お主にワシはどう見える?』
『?』
『若く見えようか?老けて見えようか?それとも、それ以外か?
だが滅びとは、えてしてこのようなものだ。そうあって欲しいものだ。―――だろう?』
『・・・・・』
多分ビビったのかもしれない。
だってこんな事言ってくる奴怖いじゃん。だから気合を入れて、何度も言わせるなと俺は言った。
『それはお前や俺が決める事ではない』
地面を足で踏み鳴らし槍を振るう。しかし感触は無かった。
いつの間にか老人は霧のように消えていて、黄昏色の夕影が眩しく窓から入りこんでいた。
・・・・え?もうこんな時間?まさか全て、夢の中の出来事だったのか?コワ。
いや怖すぎ。
―――ふゃあ。
『・・・!』
そんな恐怖を振り解くように、泣き声が聞こえてくる。
扉の内から聞こえる赤子の声に、気を取り直して俺はすぐさま踵を返した。
扉の開け閉めと鍵を掛けること、計3回。部屋に入る。
すると涙を溜めたエメラルド色の瞳が、真っすぐにこちらを見ていた。
『御無事でよかった。ビックリさせてしまいましたね、すみません。
ほら、怖くない怖くないですよ。すぐに侍女が来ますからね』
『だぁうあう』
ベッドの中に居る赤子が振り回す、小さな握り拳。それをくすぐりながらあやすと、赤子はそれが気に入っているのか飛び切り笑顔になった。
すぐさま女性陣がやって来る。後はよろしく願いますと言って部屋の外へ移動しようとしたが、意外と強い力で俺の指は赤子に掴まれていた。
『おっ、と?』
眼と眼が合う。赤子はジッと、見つめている。
『………』
『フスカル殿、申し訳ありませぬが今しばらく…』
侍女長のエレイン殿が言う。微笑んでいるのは、この光景が滑稽だからだろうか。それとも赤子の顔につられたか。
『ああ、構いませぬ。これも我らが大将から与えられた責務ですゆえ』
『…あぅ、だう!』
にぎにぎと握られる。・・・まるで昔の妹みたいで、とても元気一杯。
『この軒昂ぶり。将来は安泰ですな、フスカル殿』
『当然でしょう。・・・だからこそ警備を厚くするよう進言せねばなりますまい』
『!なんと、まさか先程? ピクトの者共ですか?』
『断定はできませぬ。しかしこの赤子は我らが至宝なれば。貴女方も、くれぐれも油断なきように』
『承知致しました』
『守兵隊らには私から伝えてきます。なので、少々赤子をお任せします』
『命に代えましても』
『ぁう……ふぁう』
眠くなってきたのだろう。赤子は小さな口を開けて、今出来る力を出し尽くすように欠伸をした。
指の力が抜けたので、ゆっくりと傍を離れるとスヤスヤ小さな寝息が聴こえてくる。
どうか良い夢を。俺は心底そう思った。
◇
「・・・」
「………」
――物思いに耽ってしまった。
それを打ち切ると同時に、背後に気配。察知と同時に脇腹をコツンと、俺は小さく突かれていた。
「うおあ!!」
「ギャアア!!?」
叫び声が重なる。しかし女性の物にしては全然それっぽくなかったが。
「何するんですかマスター・・・!」
振り返るまでもないが、気配の目視確認。俺を召喚した引き籠りマスターが、扉を少し開けてそこにいた。
「いや、暇かなあ~と思って。ほら、ずっと立ってるのも疲れるでしょ?」
「暇じゃないし!疲れるも何も今絶賛仕事中ですよ全くもう。殺気も何もあったもんじゃない。・・・・さてはお腹空きましたね?」
「うん!さっすがあ!」
「何か作ってきます」
油断とはいつぶりだ、なんて甘っちょろい事は思わないし考えてはならない。是正する為の手段と策を考えるだけ。今も昔も。
いつだって俺の後ろに居る方々には困ったもんだが、だからこそ護らねばならない。それが城兵。少なくとも俺はそう思っている。
「ローストビーフを作ってみようかな」
過去を見つめる事を今は止めて、俺は台所へと歩き始めた。