以下、本文にあまり関係のない前書き。
拙作を読んでくださっている一騎当千の読者さんたちの中には、マトリックス・レボリューションズという映画を見たことがあると思います。その中に、プログラム(機械)が愛を語るシーンがあります。人間である主人公は、愛は人間の感情だと言います。しかし愛とはただの言葉であり、大切なのは言葉が表す関係だと、プログラムは主人公に伝えます。つまり何が言いたいのかというと、マリアはフスカルさんを一般的な男女の関係として見てないし、想ってなどいないという事です。
あとマトリックスシリーズは最高なので見たことない人は見てほしいです(ダイマ)。
英霊城兵大将降臨
「ようやく逢えた」
その言葉を城兵は奇妙な顔で聞いていた。
セイバー・インフェルノが両の腕を広げる。掲げる二振りのそれは、立香達の故郷でいう長脇差のような、しかし鋭利すぎるその刀剣には柄がなかった。
――ないということは、全てが柄であり持ち手でもあるということ。
レッドキャップはそう考え、そう至り。思いっきり刃を握っていた。
「痛くねえのかそれ」
「別に?もうこれは私の一部だから。それより見てよお兄ちゃん、私はこんなにも強くなったよ。ずっとこれを振るった」
「暇なのか?」
「ずっとずっと家族を、お兄ちゃんを想って。――あはは、そしたら、違う扉が開いたんだよ」
嗤って、悪妖精はそう言った。
頭から血をかぶったような真っ赤な頭髪。顔面は笑顔でべったりと染まり、はたから見れば悪鬼と言って差し支えない。ゆえに悪妖精、赤帽子。
「お兄ちゃんの事だから、きっとなにかやらかして英霊になると思った。だからいつか逢えるって。でも、それだと人間の寿命じゃあ間に合わない。だったら答えは単純。人間を辞めてしまえばいい」
「・・・・」
古の時代、ヒトがそれ以外になることは珍しくなかったと云う。彼女はそれを行い、こうして一つの目的を果たしたのだ。
だがそれでも解せないことはある。
「・・・・父上を殺したのはなんでだ」
「ああ、それ?」
更に嗤う。化け物らしく悪鬼らしく。
「お兄ちゃんを馬鹿にしたからだよ」
「なら目的はこれで心置きなく済んだだろう。不本意だが俺達はこうして会えた。遊びは終わりだ」
「え?何言ってるの?それはダメだよお兄ちゃん」
「あん?」
マリアの双剣が道をふさぐ。大きく強く、絶対の意志でもって。
「お兄ちゃんはここにずっといるの。だって家族だもの。上兄さんたちも一緒。今度は絶対離れない。私の家族は、もう離さない」
「お前の家族はもう別にいるだろう。結婚して子供も出来たって言ってたじゃねえか」
「…あれも家族だけど、あれは別だよ。適当にどこかで生きて、そして死んだんじゃない?――でも私達は違う。私が産まれた時から家族なのはお兄ちゃんと、上兄さんたちとお母さんだけ」
「話が見えねえな」
「話が見えないのはこっちのセリフだよお兄ちゃん。勝手に村を出て行って、私達がどれだけ心配したと思ってるの?」
「知らねえよ」
「だろうね!!!…でもだからこそ私はこの道を選んだんだよお兄ちゃん。宣言するよ、今のこの私なら時間遡行だって出来る」
「・・・・?」
「エリザ粒子に不可能は無いんだよ。そしてお兄ちゃんに逢えたこれからの私の目的は、過去に戻ってお兄ちゃんを誑かしたペンドラゴン共を皆殺しにすること」
「・・・・・」
・・・・・。
「お兄ちゃんを、私の家族を勝手に城兵なんていうわけのわからない気持ち悪い職業に就かせて、挙句その果て死なせた?
――――許せない。私の家族を、私の兄を、あいつらは汚い足で踏みにじった。私がどれだけ、どれだけお兄ちゃんに、焦がれているか。そしてアイツらがいなければ、お兄ちゃんは幸福になれたんだよ。そうでしょ?」
「・・・・・」
・・・・・。
「ペンドラゴンなんていう愚挙しか犯さないクズども。私が全員皆殺しにしてやるから、お兄ちゃん。私達と一緒にずっとここにいようよ。――――ここにいてよ」
赤帽子がそう言った瞬間。城兵は思いっ切り槍を振るった。
完全なる殺意は最早感情ではなく、冷徹なる意志。その遺志で以て槍化物となり、そして死んだフスカルが得物を振るう。
エリザ粒子を纏ったそれを、マリアは双剣で受け止めた。
「流石だねお兄ちゃん。そうこなくっちゃ。…………だって、こう言えば怒るよね?当然」
「・・・・・」
赤帽子は白い炎を見た。フスカルの槍から、五体から滲みだし沸き立つ焔のごとき白炎を。城兵の矜持を。
「ぁあ、心地よかったんだね。生きがいだったんだね。悪くなかったんだよね?お兄ちゃん。自分の人生が。
――――反吐が出るよ。心底。お兄ちゃんがじゃなくて、お兄ちゃんをそんなのにしたペンドラゴンがログレスがヴォーティガーンがサクソン人共がアングル人共がノルド人共がノルマン人共がゲルマン人共が」
「・・・・・」
「私から家族を奪う邪魔モノは、誰だって何だってゴミですら許さない。それが分かったから、だから手始めにお父さんを斬ったの。お兄ちゃんの事を家族じゃない出来損ないだなんて言ったから」
私の家族なのに。―――沸き立つ間欠泉の如きゼノフォビアは、立香達を圧倒していた。
「けれど、けれどね?お兄ちゃんはそんな私に槍を振るってくる。当然のように。だって主君を愚弄した奴は殺すんでしょ?今も昔も。ログレス及びキャメロット城正門担当守兵隊は。お兄ちゃんは!
…後世、誰もお兄ちゃんのことを話す人がいなくなっても。お兄ちゃんを見た人の感情だけが残って、お兄ちゃんのことなんて一欠けらも脳内から消えてなくなっても。
その白い炎だけは消えないんだね?フスカルお兄ちゃん。たとえ悲運の中で殺され死んでも、炎だけは」
「・・・・・」
それが城兵。その証拠にフスカルは無言で踏み込み、槍を振るった。
だから受け止める。赤帽子は双剣でがっしりと受け止めた。
「槍を剣のように振るう事で己を全うしたお兄ちゃん。私は逆に、剣を槍のように振るうようにしたよ。そしてこの1500年間振るってきた。
――――勝てると思うかい?お兄ちゃん」
「・・・・・」
振るわれる槍が爆発する。そう見紛うほどのフスカルの槍撃は、しかしセイバー・インフェルノに受け流されていた。
そう、受け流す。それこそがありえない現実であった。
『……そんな。ありえません、嘘ですそんな…っ』
…マシュには分かる。過去、あの槍撃を何度も盾で受けた彼女には。
あれだけの一撃を、あんな小さい剣で受け流す。一体どれほどの技量が要る事だろう。
双剣による刺突が城兵を襲う。槍の如きマリアの剣術は、剣の如きフスカルの槍術を凌駕していた。
「・・・・・」
しかし。敗れてはいない。
『立香。どうするの?ミスター・ローナルドは負けないとは思うけれど、このままじゃ』
「………」
立香は見ていた。化け物同士の戦いをただ見詰めて、学んでいた。
怒りの只中にある筈のフスカルが、しかしあえて戦闘を長引かせているように見えるのを感じた彼女は、それを慮る。
――勝って上層に行き、仲間を。エリちゃんを助ける。
その為には何がいる?どうすればこの英霊城兵に勝てる?
「――――あ?」
しかして。立香が化け物たちの間に立った。
「何の真似だ?邪魔すんなよ、藤丸さんちの立香ちゃん。お前がオレのブリジットの、我らの意志を継いでいようとも用済みだぜもう」
「・・・・立香」
「フスカルさん。コイツは私の家族を騙った。私が倒さなければなりません」
「・・・・。できるか」
「できるか、ではなく。やります」
立香のその宣言は滅殺の誓いの只中にある城兵の胸を打った。それは今の彼がランサーだからか。それとも憶えていなくとも、いつかの戦いの残滓・余熱が彼の胸の内にあるからか。
「いいだろう。・・・けどこの馬鹿な妹、強いぜ?立香」
「はい!」
「――――は?」
その瞬間、英霊城兵大将セイバー・インフェルノの頭髪が更に真っ赤な血に染まった。増える赤色は己の血ではなく今まで斬り殺してきた敵の返り血。それが増すということは。
「邪魔だっつってんのが聞こえねえのか?てめえ」
「倒すって言ってんのが聞こえないのかな?お前」
―――答えは一つ。
エリザ粒子が動き出す。むろんのこと立香の力だ。そしてそのエリザ粒子が停まりだす。むろんのこと赤帽子の力だ。動いて停まり、停まっては動き出す。それは一進一退か、あるいは日進月歩となりえるか。
一重身に構えた立香が右拳を握り、左手を開いてダランと下げる。
相対するマリアは双剣を、いや双剣の手元の茎(なかご)の尻をガツンと打ち付けた。
そして、双剣は長槍の如き一刀となった。
『先輩、危険です!あの構えは……!』
『力づくてくっつけた? いや、違う。そうか元々あの双剣、一本の槍なのかッ』
「――――邪魔は殺す。例外はない。誰も彼も斬り殺す。それが私だ。ローナルドのマリアだ。永全不動なるかな、一切豪遊の名の下に」
――――こいつは敵だ。お兄ちゃんと自分との間に立って、通せんぼをしている。つまり、家族の邪魔だ私の邪魔だオレの邪魔だ。
距離、メートルにして9か10か。セイバー・インフェルノが大きく後ろに飛び、構える。槍剣を右肩担ぎに、切っ先はやや天頂を向く。そして眼光は鋭く、立香だけを見詰めて。
英霊城兵六番勝負
「戦ごっこという名の遊びの作法を御照覧。―――伸るか反るかの一天地六、貴女の名前は?お嬢さん(ガキ)」
「私はカルデア・マスター、藤丸立香」
勝負,三番目。
藤丸立香VSセイバー・インフェルノ(【一切豪遊】レッドキャップ、マリア・アールバニ・ローナルド)
「 いざ尋常に――― 」
「 勝負!!!!!! 」