「・・・」
さて明くる日。ローストビーフばかりだと飽きるので焼き肉(バーンミート)を食べた俺は手持ち無沙汰に城内をブラブラしていた。
かぼちゃの下からキョロキョロと擬音が俺の脳内に木霊する。
被り物越しに目を光らせている俺の眼光(笑)は、誰も今はこっちを見てくれるなよと強く示していた。
『今日は自由時間をあげる』
『・・・・はい?』
『息抜きでもしてくれば? 姫(わたし)はこれからレベル上げしないといけないし』
テクテク歩く。するとパンプキンヘッドソルジャー達が使う訓練場に辿り着いた。誰に言うまでもなく俺にとって息抜き=鍛錬なのだから当然である。
「誰も居ないか?居たとしてもこっちに興味はないな?」
気配なし、人影なし。 ヨシ!
俺は槍を壁に立て掛け、備え付けのロングソード(真剣)を手に取り訓練場の片隅でブンブン素振りをし始めた。
「・・・」
手と腕と体幹と足の連携ヨシ。体重移動の力で運ぶ剣が鋭く空気を切る。
時より駄目だこりゃ、と思っては修正し、クソこれ!と思っては素振りを最初からやり直す。
・・・かつて見た、理想の姿が脳裏に浮かぶ。今の俺が剣を振ったらどうなるだろうかと好奇心が止まない。
つまりこれは稽古である。いにしえをかんがえるとも云うこれは、過去を思い出す工程でもあるそうな。
「・・・・・ッッ」
―――汗は出ない。でも呼吸する。重心と一緒に、息を動かすイメージ。
思えばこんな風に剣を振るう事を夢見ていた。
あの頃はこの剣一本で誰だろうと何だろうと、勝てるようになりたかった。槍なんてどうでもよかった。でも出来なかった。俺には向いてなかったのだ。
それが今やどうだ、ランサーのサーヴァントだってよ。死んでもローナルドだよ俺は。
――捨てた故郷を思い出し、不意に訪れた笑いを殺す為、顔面に力を込める。稽古を続ける。
「右足踏み込んで、切り下ろす。んで左足を踏み込んで、今度は切り上げる・・・・」
これは生前、俺の祖父が振るっていた剣だ。子供の頃何千回と真似して、只の一度も実戦で通用しなかった剣を再び振るう。只少し違うのは、この左右の手の内の力があの頃よりも随分柔らかくなっている事だった。伊達に長物をずっと振り続けていない。
だから今なら、勝利という名の夢を見ていいのかもしれない。
「・・・・・」
―――そうさ。もしもあの夜、剣ではなく槍を捨てていたら俺はどうなっていた。
「・・・・・」
―――更にもしもあの日。俺が憎いあんちくしょうを殺せていたなら、王と城はどうなっていた。
「・・・・・」
そしてもしも俺が、故郷を出ていなかったら―――
「――なんてな」
呼吸を一つ二つ。素振りをし終える。
これでは稽古ではなく妄想の類だろうと、自覚する位には身体が温まってきたからだ。
「もしもなんてねえよ。悪いけど」
そんなモンはない。俺は俺だし、それ以上でもそれ以下でもない。よって都合のいい事など何一つ起きはしない。
つまりは自己認識に不備はないという事だ。今日の調子は普通よりの、やや好調。
「よし!もう一丁!!」
素振りを再開する。楽しく。今も昔もこの気持ちこそ肝要だ。
妄想を切り、古びた過去という名の事実を稽えながら今度こそと。城と己を見定めて剣を振るう。
生前上手く出来なかった事を死んだ後にやってみたら上手く出来たなんて、何とも贅沢な休日だなあと思いながら。
「しかし祖父さんの剣は速さが売りだったなあ。・・・というより身体の使い方が速かったのかな? やれ足の踏み込みだ背中だなんだと、剣を握ったらブツブツ言いながら疾風みたいな速度で振ってたし。兄上達はガン無視だったけどって、おや?あの人形は」
そこには稽古用の物だろうか、俺と同じくらいの背丈の木製人形が立っていた。そして、ふと閃く。これは今日の俺の稽古に活かせるかもしれない。
「そうだ、あの木人形に突進しながらぶった切ってみよう」
思い立ったら蛮族殺し。もとい、実践あるのみ。俺は気を吹いた。
「・・・ッ」
呼気、疾走、猪突の如く。足腰の強みを利かせる為に。
「・・・ッ!」
間合が狭まる。すると木人は握り拳を突き出そうというのか急に動き出し、構えを取り始めた。
左半身、スタンスは大きく。俺の疾駆に重ねるつもりか剣を中段に構えるように、左拳を前に突き出す。
・・・急に動きだしたからビックリしたが、そうこなくちゃ面白くない。
稽古は勝負へと変化した。だが俺は予定通り両手で剣を持ち、担ぐように右肩まで上げる。切っ先はやや天頂へと向け、突進オブ突進。
「せいッッ!!」
ドンピシャ。
重心及び全身運動の誤差なし。臆する事なく全体重を乗せる事に成功した俺の剣は木人の左腕をぶった切り、ついで静止する事なく左足を前に踏み込み今度は木人の胴体を切り上げる。
ガン、と音がする。その意味するところは? ―――下っ手くそ。
「これ剣で近間で槍じゃねえっての。
いや?ていうかアレだな、敵がこっちの一撃目を見切ってカウンターしてくるのを見切って切り上げるんだから、こんな近付いちゃ意味ないな?」
「そうね。だから全然切れていないし」
「うむうむ、しかもこの腕の捻り。胴体を切り上げようとして腕が変な角度になっちゃってる。これ諸刃なんだからいっそ捻らないでそのまま反対のエッジで切り上げた方がいいような。だから祖父さんブツブツ呟いてたのかな?
よし、ならば次はもっと上手くいくよう稽古してみて、」
「ええ」
「してみて、してみて・・・・、してみて?」
後ろを見る。聞こえた声の主を、この眼に映す。そこにはいつの間に近寄っていたのかメカな先輩が立っていた。
「どうしたの。続けなさいな」
「・・・・」
・・・・・。
「――あ、何だか急に肩コリが、」
「揉んであげるわ。一瞬で取れるから」
メキメキ。尋常ならざる手腕の効果音が俺の耳に届く。嫌というほど。
「き、気晴らしはこの辺で終わりにしよっかな~」
「あらそう?気晴らしだったの?昔出来なかった事が出来るようになれた子供みたいで、とても真剣みに溢れていたけれど」
「うぐう!!」
バ、バレていた・・・。見られた、俺の秘密の稽古をッ。
「秘密にしたいのならこんな所でやらなければいいのに」
「メ、メカエリチャン先輩。どうかこの事はご内密に・・・」
頭を下げる瞬間に見えた先輩の顔はクスリとも笑っていなかった。
「別にいいじゃない。誰も笑わないわよ」
「笑う笑わないの話ではなく。今更こんな事してるなんて、何かこう・・・」
「今更なんて関係ないわ。重要なのは今、何がしたいか。そうでしょ? 特に自由時間なんて」
「ま、まあそうとも言えますが」
俺はロングソードを静かに地面に置いて言った。
「しかしアレですね、アレ。先輩も鍛錬ですか?」
「違うわ」
「では・・・・剣や武に興味が?」
「無いわ」
「では剣を振る私に興味が?」
「有るわよ?」
マジかよお。
「槍を剣のように振るう城兵が剣を振ったらどういう風になるのか。この城の主として、知っておくのは当然でしょう?」
「あ、成る程」
頷く。とりあえず。ジョークが機能してくれて何よりである。もちろん疑問もあるが。
「まるで波のような剣だったわね、フスカル」
「?波?」
「寄せては返す、小さい波。焦がれていたのね」
――ずっと。
メカな先輩はそう言って、地面と寝てるロングソードを見やる。・・・・焦がれる?俺が?
そうかな・・・そうかも・・・。いやマジかよお。
「流石にもう勘弁して下さい。小恥ずかしいですよ、そんな風に言われてしまうと」
「誰にだって何かに焦がれてしまう時くらいあるわ。普通よ」
「それは・・・先輩にも?」
「勿論」
そう言って、メカエリチャン先輩はロングソードを拾う。すると指二本で剣身を挟みながら真っ直ぐ柄を俺に差し出すので、恭しくそれを受け取ると薄っすら微笑んだ。
「――ここを守る。それが、私が焦がれているモノよ」
祭りの開催まで、あと少し。
先輩はそう言って手を振り去って行った。クールでメタリックな背中が俺の網膜に焼き付く。それは至高の美とも、カッコよさの化身とも言えた。
「すげえなあ、あの先輩」
ナンバーワンだよ。俺は再び素振りを再開しながら思うのだった。