英霊城兵六番勝負   作:ブロx

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第6話 城兵と城化物

 

 

 

今日も今日とて城兵ですよ。

 

「ちょっとちょっと」

 

「ハイハイ?」

 

「ハイは一回!そんな事よりちょっと見て見てこれ!」

 

「ハイ」

 

 許しが出たので部屋に入ると、画面の中は夜の雨で満ちていた。

雷鳴と稲光がそれらを明るく縁取り彩って、滔々と雨水の景色を俺達に見せつける。

 

「おお、いつ見ても凄いお城だ」

 

「でしょでしょ?ヤバいよねこれ」

 

 マスターと俺はゲームの画面を見ていた。そこには黒。黒一色の巨大な城が断崖絶壁に建っている。

 雨に濡れ、敵意と失意と野望にも塗れ、だがしかし城は朽ちずに在り続けていた。

 

王城ドラングレイグ。そこがこの黒城の名であるそうな。

 

「この演出力よ。何回も見たいよね」

 

「凄い。生前も含めてこんなすごく凄いお城を見たのは三回くらいですよ」

 

「三回?二回目と最初は?」

 

「もちろん生前勤めてた城とここです」

 

 姫路城とピラミッドがドーン。気付いてるかもしんないけどそんなのが突き刺さってるのおかしいからね?俺は心の中で一人ツッコんだ。するとマスターは何を考えているのか、ちょっとお喋りしようよと俺を床に座らせた。

 

・・・・罠か?しかしそんな器用な真似。その線は無いな。

 

「城勤めってことは結構偉かったの?貴方は」

 

「まさか。只の一兵卒でしたよ、今も昔も。そして結構やんちゃでした」

 

「へ~」

 

まあたまにはこういうのも悪くない、のかも。

 

「でも勘違いしないでくださいよ?俺の古馴染みが特にやんちゃでして、それに俺が付き合ってやっただけなんです。つまりアイツのせいでやんちゃになっちゃったんです」

 

「へ~」

 

 適当な空返事。しかし画面の中ではキャラクターが忙しなく動いてレベル上げ中だ。

 

「しかもアイツ、ある日突然医者になるから隠居するとか言い出しやがって。城とアーサー様はどうすんだよって言っても、お前がいるから大丈夫だろ?とか無責任すぎなんですよあの上司!」

 

「アーサー様?って事は……あなたキャメロットの?」

 

「ええ。俺はキャメロット城正門担当守兵の一人でした」

 

「へ~、やっぱ凄くない?それ」

 

「別に凄くはないですね。やる事は皆と一緒なので。部下も居ませんでしたし」

 

「ふーん。じゃあアナタから見てどういう人だったの?アーサー様って」

 

「最高の王ですよ。異論は認めません」

 

「異論も何も会った事すらないからね?姫(わたし)。一応断っておくけど」

 

「では聞いてください。我が王は常にそれはそれは凄まじくてですね、サクソン人やピクト人共を千切っては投げ千切っては投げ、正に理想の王を体現しておりました。

 だって勝たなきゃ死ぬんですから。負けた側は皆殺し。人も国も何もかも。よく王は人の心が分からないだなんて耳にしましたけど、あれ変な話ですよね。王の心をじゃあ貴方達は分かるんだ? みたいな」

 

「ははあ、成る程」

 

 小さく首を縦に振るマスターの顔は。王様や殿様はどこでも大変なんだなあといった風な、いわゆる的を射た表情だった。

 

・・・・あれ?もしかして地雷だったかな?

 

「あ、続けて?」

 

まあいいや。

 

「はい、そんなある日の事です。円卓の騎士モードレッド卿が、アーサー様と雌雄を決するとおっしゃりまして。その時は流石に来るものが来たなあって思いましたよ。

 ――オレがアーサー・ペンドラゴンの息子だ、なんて納得しかないです。あの御二人、纏う空気がそっくりなんですもの。親譲りですね」

 

「たしか…本当にアーサー王の息子さん?だったんだっけ、そのモードレッドさん。つまり跡目争いかあ」

 

――よくある事だね、と。俺と姫は言葉を繋げた。

 

「まあとにかく決戦と相成ったわけですが、両者の実力は伯仲。しかし兵数はモードレッド卿が有利でした。しかも遠征していたアーサー様はキャメロットをなるたけ壊さずに取り戻さねばならないので、モードレッド卿が籠城してしまえば勝ちを拾う事はまず不可能。・・・だったのですが、卿は打って出てしまわれた」

 

「え?なんで?」

 

「アーサー様は生涯不敗でした。しかも野戦においては、比類なき戦上手。・・・だからこそなのでしょうね、その上で勝ちたいと。あの御方は渇望してしまわれた」

 

「ふーん。へ~」

 

「王族とは本当、難儀なものですよ。俺達みたいな世人には知り得ない世界を生きておられる。

 王と王。どちらが上か下か、後継に足るか、越えられるのか凌げるか。そのような意志渦巻くあの丘の戦場は地獄だった事でしょう」

 

「だった事でしょう?あなたはそこに居なかったの?」

 

「まあ」

 

「……まあ?」

 

「命令でしたから」

 

「ふーん、あっそ。でももしそこに居れたならって思った事はあるわけでしょ?」

 

 興味のない声。しかしそれとは真逆の目で、マスターが俺を見る。画面のキャラクターは篝火の前に座り込み、同じく亡霊みたいに俺を見ていた。

 

「ないですね。役に立たなかったでしょうし。俺みたいな兵なんて」

 

「そう?月並だけど、貴方みたいな奴が居たら双方もっと上手くやれたんでは?」

 

「言ったでしょう?あの戦いは来るべきものが来たのだと。御二人の邪魔なんて出来ません」

 

「そっかあ。ならしょうがない」

 

「その通りです。どうせすぐに忘れ去られる俺みたいなその他と、王は違うのです」

 

「でもさあ」

 

「?」

 

 ―――でも。

マスターは一度口を開けて、しかし目蓋と一緒に静かに閉じた。軽く眉間にシワを寄せては考えて、その小さな目蓋を少し開ける。

 ・・・何だか初めて見る表情。気付いたらいつの間にかいなくなってた亡霊のような瞳で、彼女は俺を見つめていた。

 

「―――貴方にとって。アーサー様もモードレッドさんも同じくらい大事な人だったんでしょう?かけがえのない程には」

 

「それは当たり前ですよ。ペンドラゴンの城主ですから。城主と城を守るのが城兵です」

 

「うーん、姫(わたし)って実は結構長く生きてたお姫様だから何とな~く分かるんだけどさあ。

 貴方が抱いてた忠義って、一般的な兵士のそれっぽくない感じがするんだよね」

 

「というと?」

 

「………う~~ん…」

 

・・・・・。

 

「わっかんないわあ」

 

「そうですかあ」

 

「まあどうせ誰からも憶えてもらえなくなったんだしさあ、忘れ去られたんだしさあ。ずっとここで遊んでいようよ、似た者同士」

 

「・・・そうですかあ」

 

 ・・・え、やばくない?マジの地雷だったっぽいわコレ。顔コッワ。化け物みたい。あ、みたいじゃなくてそうだったわ。やっぱ想い出話ってのは程々にしとくべきだな。

 

「・・・」

 

「まあ、姫(わたし)的にはこの部屋を守ってくれてさえすればいいからさあ。だから貴方を呼んだんだし。じゃ、職務よろしく」

 

「了解です。ではマスター・おっきーの気分転換完了と判断し、私は表に出ていますね」

 

「おっきー言うなっつの」

 

 扉を開ける。背にして、そこに立つ。いつもならゲームの音と叫び声しか聞こえてこないこの位置で、何故か今日は俺の耳に小さな声が聞こえてきた。

 

……ガラでもない事言っちゃった。…バカみたい。

 

 悔いだけでもなければ怒りだけでもないそれは。心の何処かに残り続けている染みみたいな声だった。

 

でもそれはきっと誰にだって。

 

『どうか。――――手助けしてやってほしい』

 

「・・・・・」

 

『フスカル、もしお主がこの先暇なら』

 

 誰にだって有る想い出にも似ているその声色はそっと、俺の足に力を込めさせた。

 

「・・・・・」

 

 なので今はとにかくここを守ってみせるぞと。背中越しに伝わる冷たい陰気な城主に対して、俺は誓ってみるのだった。

 

 

 

 

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