英霊城兵六番勝負   作:ブロx

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ここまでお読み頂きありがとうございます。今回で前日譚編は終了です。よろしければ本編へお進み下さい。





前日譚編 最終話

 

 

 

「画面の前に来てくれる?」

 

 そろそろかなあと思って扉の前に立っていると、まただよ(笑)。

上機嫌なマスター・おっきーは、もうすぐラスボスだから私の雄姿を見ててほしい。突拍子もない事を言い始めていた。

 

 ほいほい付いていき、画面を見る。そこにはフードを取った妙齢の女性が、涼し気な瞳を変えることなくこちらを見ていた。

 

『My journey is already complete.』

 

 ―――旅は終わった。彼女が言う。けれどそれはどこか、安らかな声色と表情であるように俺は思えた。たとえゲームの中であっても。

 

「緑衣の巡礼・・・」

 

もはや何も喋る事のない彼女は。もう役目は終わったのだと俺達に伝えていた。

 

「彼女は一体・・・・?」

 

「みどたんは可愛い。それが真実だよ」

 

 渇望の玉座。そう名前の付いた坂道をキャラクターが下りていくと、不意にマスターがコントローラーを叩く。

 

「あ、ところでさあ」

 

「露骨に話を変えないで下さい」

 

「まあまあ。このゲームが終わったら次回作に行くから記念に訊いておきたいんだけどもさ。あなたはどんな英雄だったの?」

 

「・・・・。はい?」

 

訊ね返す。しかしおっきーは俺を見ずに話し続けている。

 

「あなた、今私のサーヴァント。元人間。でしょ?」

 

「それは理解できますが英雄とは?」

 

「凄い人が英雄だよ、何時の時代も。…あ、残虐の限りを尽くしてきたとか答え辛いなら言わなくていいよ?」

 

「残虐の限り・・・。まあ、他人を殺してきただけの人生でしたからね。珍しくもなく凄くもないかと。だから俺が英雄というのは少し違うと思います」

 

「ふーん?」

 

「結局何も出来なかったですし。城を守る事も仇を取る事も約束を果たす事も。だからでしょうか、よく分からないんですよ。何で英霊になれたのかなって」

 

「………」

 

・・・・・。

 

「――ねえ、じゃああなたにとって英雄ってどんな人なの?」

 

「?どんな人、ですか?」

 

「そうそう。自分を英雄とは思えない。てことは、これが英雄っていう像が。あの人こそがそうだっていうのが一つくらいは有るわけなんでしょ?」

 

「なるほど、確かに。であるなら英雄とは円卓の騎士様であり、アーサー様です。あの方々こそ英雄でしょう」

 

「へ~、どういう人だったの?」

 

「綺麗でした」

 

「綺麗?」

 

「綺麗なものに人って憧れるんでしょうね。護り、闘い、笑う。俺には出来なかったものがあの場所にはありました。皆素晴らしく、凄かったです」

 

「へ~」

 

 あなたは何を為し遂げましたか? これです。と言える奴が英雄なのかもしれない。俺にはとても出来ない。

 

「というわけでボスの居る霧の前に着いたわけですが。

・・・・え?ていうかこのお城の立地おかしくないです?今更ですがなんで断崖絶壁のそのまた地下に、」

 

「ツッコんだら負けだよ」

 

「あ、はい」

 

「来るよ」

 

「――?」

 

 キャラクターが霧の中に入ると。玉座の守護者、玉座の監視者。

ムービーも無しに、ボスが二体現れた。

 

「やっぱりボスじゃないですか。しかしちょっと前のヴェルスタッドもこの者らも、己の責務を全うしている所は良いですね」

 

「え?そう?」

 

「王を守る、この場所を護る。それは監視と言えなくもないですが、どうも嫌いにはなれません」

 

「ふ~ん。 なに?それってシンパシー?」

 

「いえいえそんな、自分がこんなになってまで此処に居る事の出来る彼らが羨ましいかななんて。はは、そんな事は」

 

「…ぇえ?」

 

「・・・やっぱりダメですね。今日は何だか気が滅入ってきてしまいました。御暇して、私は扉の前に立っています」  

 

「ねぇちょっとねえねえねえねえねえねえねえねえ。

ゲームと現実をごっちゃにしちゃ駄目だと姫(わたし)は思うんだけど、貴方ちょっと真面目過ぎじゃあないかなあ?」

 

「はは、とにかく私はここを守りますよ。貴女が私を忘れても。じゃ、よろしくおっきー」

 

「…だからおっきー言うなあ!!!」

 

 コントローラーを握り締め、マスターはぷんすかしながらも楽しそうにボスと戦いはじめた。今回は真のラスボスと戦って勝つんだ!とか何とか言って自分の世界に入っていく。

 

 なので俺は扉を閉め、いつもの定位置。そしてすぐにいつもの戸締り見回りを開始した。同僚達は各々皆仕事をしている。

 

「お疲れ様」

 

「お疲れ様。パンプキン城兵」

 

「なあ」

 

「はい」

 

「これから俺、表出るから」

 

「はい?」

 

「俺、これから正面玄関から外に出るから。だから誰も入れるな」

 

「はあ?」

 

同僚が聞き返す。当然だ。なので俺は繰り返す。

 

「誰も入れるな」

 

これが今生の別れのように。

 

「――――」

 

事実そうなるだろうなあと思いながら。

 

「俺であっても、誰であっても入れるな。扉も開けるな」

 

復唱。 俺は念を押して、対するパンプキンヘッドの城兵は力強く頷いた。

 

「了解。誰も城の中には入れません」

 

「ありがとう。楽しかったよ、後はよろしく」

 

 礼をして、順番にカギを締めていく。厠、窓、稽古場、台所、廊下、階段、チェイテ、あらゆる思い出。そしてついに正面玄関が見えてくる。

 

「・・・・・」

 

 外に出る。異常なし。眼前には誰もいない。

回れ右してバタンと扉をしめると、俺は空を見上げた。いかれたお城はピラミッドの部分も姫路城の部分も綺麗で、夜空の星が霞むほどに美しい。

 なるほど、住めば都だったのか。ここでの生活は意外と楽しかったらしい。俺は最後に玄関を施錠し、手に持つ鍵束と思い出の全てを根元からブチリとバラバラ手でねじ切り、

 

後ろへと振り向いた。

 

「アポイントメントは御取りですか?お客様方」

 

 そろそろ来ると思っていた。だから声を出す。空気を震わせるように。底なしに、闇というよりかは空ろに向かって。

 冷える夜気もなんのその。黒塗りのそこには五騎のサーヴァントが歩いていて、この城目掛けて進んでいた。

 

「生憎と既に夜も更けておりますので、日を改めての登城を願いますが・・・・。ああ、すいません言葉が強めでしたね。つまり要約致しますと、」

 

「―――」

 

 顔も背格好も衣服で隠し、気配と得体の知れない一見さんとのファーストコンタクト。一言で言うと、やべえわこれ。

 

しかしそれはどこでも変わらない。

 

「そこ動くなテメエら」

 

ここでも、俺は俺の誓いを全うする。

 

 

 

◇最終話 英霊と城兵と

 

 

 

「フスカル・ローナルド殿」

 

「・・・・・」

 

 本名、つまり真名がバレている。まただよ。あ、もしかしてこいつ生前からの知り合いかな?

 

「そこをどいて頂こうか」

 

――全然違ったわ。

 

「失礼、自己紹介をしよう。我らは英霊城兵。この城を守る為に馳せ参じた」

 

「・・・・・」

 

「ハドマです」

 

「ウバラ」

 

「…………」

 

「マカハドマです」

 

「エンピレオだ。 我らは『一切豪遊』という宿業、つまりは特殊能力を付与したサーヴァントである。たとえ冠位と獣が総出でやってこようと負けぬし、一切の攻撃は通用しない。分かりやすく言うと、我らは次元が違うのだ」

 

「・・・・・」

 

「ペンドラゴンの大将座すログレス守兵隊。いや、キャメロット城正門担当守兵隊よ。この城は我らに任せ、貴方はゆるりと刑部姫の部屋の前に立っていて頂きたい。我らは貴方の仕事の邪魔をしない」

 

「なるほど。理解した」

 

「理解が早くて助かる。流石はローナルドの一族、」

 

「動くなテメエら」

 

首を縦に振り、もう一度言う。最初から俺は全てを理解しているので。

 

「―――何?」

 

「そこを少しでも動けば俺は、お前らを一人残らず殺さねばならなくなる。無闇な戦闘はしたくない。我がマスターは今楽しんでおられるし、戦いは疲れる。良い事がない」

 

「話を聞いていたか?我らは城兵としてこの城を守りに来たのだと、」

 

「嘘だろう?それ。最初から」

 

「―――」

 

無言のフードの中から、へえ?と。疑問の声が上がった。

 

「だってお前ら、城兵じゃないだろう」

 

「―――」

 

「少しでも城を守った事があるなら分かる事を、お前らは一つも分かっていない。城兵にそこを退けだの、城は任せろだの。そんなこと死んでも言わねえんだよ、城兵が城兵に」

 

「―――」

 

「つまりお前らは英霊城兵とかなんとかカッコイイ名前を名乗っているが、その実、城の兵士じゃあ断じてない。お前ら、本当は何を守ろうとしてる?少なくとも、それは此処ってわけじゃあねえんだろう?」

 

「――――」

 

・・・・・。

 

「ふ、ふふ」

 

「・・・・・・」

 

「フフフフ、フフ、フフフフフ」

 

大手を振るうように。五人が一斉に笑い出した。

 

「流石は。いやそうこなくては遊べない。ピクト人に恐怖の名を知らしめたログレス守兵隊その一人よ。ならば我ら六名、全身全霊で以って貴方と遊ぶ事としよう」

 

「・・・・・」

 

 ガチャリと音が鳴る。発生源は勿論俺の後ろ。確信と共に、俺は槍の穂先だけをグルリと後方に向け構えた。

 大事なのは間合い、そして退かぬ心だ。

 

「―――様式美だから訊くけれど。いつから気付いてたの?」

 

そして聞こえてくる。流星の如き、真っ直ぐで綺麗なあの声が。

 

「最初からです。貴女を見た時から」

 

「メカだから?」

 

「いえいえ。眼を見れば」

 

「………眼?」

 

瞬きなどしないだろう彼女が疑問の声を出す。

 

「貴女のその綺麗すぎる眼を見た時から、俺はもう駄目かもしれないと思ったので。俺の勘って、意外とバカにできないんですよ先輩」

 

 果たして俺の後ろにいるのは。麗しき声と美貌のメカエリチャン先輩であった。

 

「心眼ね。真(まこと)、色々経験してきた人間は予知するように洞察する。これも本音なのだけど、もっと貴方に興味が出てきたわ。

 この英霊城兵大将フフバは」

 

「であれば一杯。また酒でも呑みましょうよ先輩。いや、我が害敵。だからそこで何もしないで下さい」

 

 英霊城兵と名乗る敵共、これで六騎登場。俺の前と後ろに陣取るように立ち続ける様は、さながら水族館にあるという水槽の中身を見るように鮮やかだ。

 じっくりとっくり、俺を見定めている。それでいて威圧感がない。つまり只者じゃあない。

 

すると英霊城兵たちが。つまりは敵が、俺に向かって歩き始めた。

 

「・・・・・」

 

 なので脚で大地を強く踏みつける。こいつらを一匹残らず滅ぼし殺す為に、俺はいつも通り自身と周囲に音を、振動を反響させた。

 

 踏み込み、槍を振るう。その過程で聞こえる全ての音が彼我の間合いと実力を俺の耳に知らせる。だから槍を振るう、槍撃を繰り出す。

 

 ――敵は感嘆の吐息でもって俺を見ていた。

しかしながらそんな事は俺にとって重要ではなく、刮目すべきはこちらの攻撃がかすりもしないという事実であった。・・・躱されているのではない。防がれているわけでも、モチロンない。

 

 ・・・・外している。この俺がこの槍を?

何を言ってるんだと思うだろうが俺も何が起きてるのか分からない。頭がどうにかなりそうだ。催眠術だとか、超スピードだとかじゃあ断じてねー。もっと恐ろしい力の片鱗を味わってるたった今。

 

いや、にしたってこれは・・・・?

 

「・・・・」

 

「やめられよ」

 

ぬるりと。敵に振るっている俺の槍が、腕ごとあらぬ方向へと逸れてゆく。

 

「もはや感触で以って悟った筈。だったらさっきの我らのセリフは聞いていよう。この英霊城兵には一切の攻撃は通用しないと」

 

「・・・・」

 

「加えて我が胸の内を聞かれよフスカル殿。――我々は只守りたいだけなのだ。この城を、この世界を、この宇宙を、貴方も誰も」

 

「・・・・・」

 

「貴方が誓いで以って城を、ペンドラゴンを守るように。我々にも守りたいものが有る。そしてそれは広いのだ。とてもとても広いのだ」

 

「・・・・・」

 

「だが全て上手くいく。そういう風にする。エリザ粒子がそれを証明する。現に、貴方の槍は我々に届かない」

 

・・・こいつら。

 

「我ら六騎は負けぬ。

何人も、何事も、何物も、我らは屈する事なく。『一切豪遊』の名の下に城兵を全うする事を宣言する」

 

「・・・・・」

 

「そして我らは貴方を憶えていよう。城兵たるローナルドを。何故なら誰も自分の事を知らないという事は、死んでいるも同じだ。人も英雄も城兵も。刑部姫がそんな風な事を言わなかったかな?そうであろう?」

 

 俺は槍を振るうのを止めた。敵の口上を聞いて、一歩も動く必要のない事を理解したからだ。

 

「よろしい。では退いて頂こうか」

 

「・・・」

 

だから俺は動かない。

 

「聞こえない振りは止めてもらおう。今すぐそこを、」

 

「俺は退かない。為しえたいのならば殺すことだ。城兵もどき」

 

「―――」

 

「出来るものなら」

 

敵は誰一人として動かない。いや、動けなかった。案の定だ。

 

「それと自分の事を云々の件(くだり)だが、これ以上なく笑っちまうよ。人や英雄は知らないが、城兵ってのは誰かがこちらを知る知らない憶えてくれるじゃなくて、残せるかどうかだ。自分が守ると誓ったものを」

 

「ならば貴方は残せたのか?城兵」

 

「その問いの相手は俺ではない」

 

答えを口に出来るのは故人ではなく未来とか将来。先を生きる人間だけである。

 

「――なるほど、耳が痛いとはこの事だ。では我ら城兵もどきに指南して頂けまいか? 誰に何に、城兵はそれを誓うべきなのか」

 

「んなもんテメエで見つけなよ。英霊城兵さん」 

 

「そうこなくては。ではお言葉に甘えて、穏便に事を進めるとしよう。なあ?セイバー・インフェルノ」

 

 一歩踏み出す人影。厚い衣服で顔も図体すらも見えない敵の一人が、俺に向けて歩を進める。まるで炎に向かう蛾のように。

 

 インフェルノ。つまりは地獄みてえな敵って事だろうか?今更だろ。悠々と歩く敵に、俺は口を開いた。

 

「テメエらのカラクリは見切ったぜ。こんなに講釈垂れて隙だらけな俺に攻撃をしてこないのが良い証拠だ。しかるに貴様ら、俺や我がマスターには手出しが――」

 

「………」

 

 しかし瞬間、パサリと。小綺麗な音を立て、英霊城兵インフェルノはフードを下ろしてその顔を俺に見せた。

 

 風が吹く。香りも音も芳しく、その全てを俺に伝えるように。・・・この時を長年ずっと待ち続けていたように。

 

つまり、そこには、

 

「―――お前いったい何してる。ここで」

 

「バイバイ。お兄ちゃん」

 

 指先から何かが光る。すると俺の意識が消えかかる。記憶も消える。ここ最近のそれらが、瞬く間に失われてゆく。

 

「いや、だから何、で―――」

 

 色んな?(ハテナ)が俺に声を出させる。しかも何だか若々しい声が聞こえてくる。誰の声だ?と思ったがそれは他ならぬ俺の声だった。え?声変わり?

 

 時すでに遅いのか自ずと井戸底に落ちようとしてるのか、俺の体は勝手にトボトボ歩き始めていた。まるでそう命じられたかのように。

 

妹の命令には逆らえない、兄のように。

 

「またね」

 

 ヒューっと落ちる。懐かしさでいっぱいの胸を抱いて。

やっべえなあ、なんて。元気そうだったなあ、なんて。でも色々と苦労してきたんだろうなあ、お前。なんて事を、心のどこかで。

 

「・・・・すいませんマスター。貴女の城兵として召喚されましたが俺はもう駄目かもしれな、」

 

―――白鷺城の百鬼八天堂様。此処に罷り通ります!

 

「・・・・ありがとうございます。あとそれとすいませんホントもう、眠いです」

 

 思いのほか痛くなかった井戸底への着地でもって。俺の意識と記憶は完全に消失した。

 

 

 

 

 

 

「流石は城兵のローナルド。正門を背にしたあの方を前にすると、やはり肝が冷える」

 

「当然でしょう」

 

「…ちょっと」

 

「しかしインフェルノ。いいのですか?誰も貴女方の邪魔はしませんよ?」

 

「冗談。もっと好い場所で行うよ、感動の再会と積もる話って奴は」

 

「だがしかし?」

 

「そう、だがしかし」

 

「これで良い。それが良い」

 

「…ちょっとってばちょっと!」

 

「ならば宴の幕を開けましょう。『一切豪遊』、全てを覆い尽くす我らが診療を」

 

「念願叶う、我らの蜂起を」

 

「ちょっと聞いてってば…!!」

 

「ようこそ我らの。チェイテピラミッド姫路城へ」

 

「―――さあ、いざ勝負」

 

 

 

英霊城兵六番勝負

 

 

 

「いやあの、だからあ!!!」

 

「邪魔だギャグ要員。幕開けに貴殿は要らん。ゆえ昨今の記憶は消し、適当に造った記憶と共に、彼と井戸底におればいい」

 

「そして上がって来てほしい。だってその方が楽しいから」

 

「遊び続ける。それが今の貴女に必要な治療です」

 

「フィニス・カルデアの歓迎は貴殿に任す。姫路城を守り残した、刑部姫様」

 

「―――にゃああああ!!!?」

 

 

これにて。いざ開幕。

 

 

 

 

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