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『いいですね?奴らは必ず来ます。気を抜かないように』
『はッ!』
『私は今から煩い蝿(アーチャー)を落としてきます』
『武運を!英霊城兵大将!』
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―――大気は澄んでいた。
淀んだ空気が漂っているわけではなく、禍々しいナニかで覆われているわけでもない。ただ単にそこは綺麗だった。そう、立香は感じた。
「こちら立香。ダヴィンチちゃん、マシュ、聞こえる?」
『良好です先輩。状況はどうですか?』
「ひどいもんだよ。見える?あれ」
『…チェイテ城に逆さピラミッド。いつもの、と言いたいところですがその上に和風なお城まで。ヒトの理解の範疇を超えていますね……』
『率直な意見どうも、マシュ。――西洋中東そして和のごった煮。まるで魔女がつくる鍋料理だ』
「あれは一体………」
レイシフトを無事に終え、一息をつきながら立香が油断なく魔女の大鍋を地上から見上げていると、今度は綺麗で可憐な声が聞こえてきた。
「あれが姫路城だよ、カルデアのマスターちゃん」
『!! あなたは!?』
「あれこそがチェイテ、チェイテピラミッド姫路城。英霊城兵が占拠し、貴女達カルデアを脅迫し、チェイテ領民を恐怖のずんどこに叩き落としてる爆心地…!」
「……ブフっ、もう駄目もう我慢できない何この名前この絵面。ホント色々ヤバイんだけど」
『それは言わない約束ですよっ先輩。―――英霊城兵?』
「バーサーカー・マカハドマ。アーチャー・ハドマ。ランサー・ウバラ。セイバー・インフェルノ。敵が召喚し、霊基に特殊な何かを添付された云わば特殊部隊だよ。総勢五騎。どれも一切豪遊をモットーにしているの」
「…五騎?」
『物騒な名前に反して遊び心しかないモットーに震えが止まりませんが、とにかく貴女は?サーヴァントのようですが…』
「わたしは刑部姫。あの姫路城の天守天井裏に住んでいた城化物。――どうかお願い、姫(わたし)の城を、」
『アタシのチェイテを取り戻すのを手伝ってえー!!!!!アイツから!!!!!』
『え、通信に割り込み!?って、エリザベートさん!?』
「……えっと、何からだって?」
『英霊城兵実戦部隊リーダーにしてアルターエゴ・フフバ………、あのメカエリチャンから!!!!』
「メカエリチャン!?!?」
極まった混沌を更にごっちゃごちゃに掻き混ぜる。立香達は正に坩堝の中に居るのだった。
◆
怪物に必要な物。それは景色である。
その証拠に城の天守からの眺めは絶景であり壮観であり、そして壮大な宇宙があった。幅はなく、域もない。綺麗すぎて世人では頭がおかしくなる。まるで青ざめた血の空だ。
――それら全てをこの鋼の眼(まなこ)にまるっと映し、かつ内包しているかのような彼女。チェイテピラミッド姫路城の主は正しく怪物じみて、いやそれ以上のモノだった。
「失礼致します。お食事です」
「ハイオクかしら?」
「勿論です。厳選に厳選を重ねました」
「結構よ、嗢鉢羅」
「デザートにディーゼルエンジンオイルをご用意しました。政務の一助に」
「パーフェクト」
「感謝の極み」
メカメカしい腕がボトルを掴み、それは一気に中身を飲み干した。
「カルデアからのレイシフト。恐らく既にここに来ているでしょうね?」
「左様かと」
「正面から堂々と来ると思う?」
「この城の弱点は、上から下が見え辛い事にあります。よって、攻めるならば下、チェイテ城からかと。上方はあの方のテリトリーですし」
「やはりね。全部隊に連絡」
「もう既に」
「何て?」
「サーチアンドパーティー(見敵豪遊)と」
「流石ね」
玉座から立ち上がり、メカが足を踏み出す。それを見たもう一騎は自身の羽を畳んで、恭しく一礼した。
◆
「ね~ね~、刑部姫ちゃんってすんごく綺麗だねー」
「な何言ってるのかなマスターちゃん!?!」
所変わって。
嘘偽りない本音を聞いた刑部姫は狼狽えていた。彼女は先を案内すると言って立香を先導中である。だからこそまじまじと背格好を観察する事が出来たのは立香、僥倖以外の何物でもない。彼女は感謝した。主に大腿四頭筋に。
「地下からお城に潜入なんて、らしいっちゃらしいけどさ。でもお話くらい良いじゃ~ん?ほら、こことかこことかムチっとしてるし」
「ムチっととか言うのやーめーてーえええ!!!」
『立香、奴らの指定したタイムリミットまで18時間を切っている。時間がない、急いでくれ』
「は~い」
「……。軽いノリだねマーちゃん。平気なの?」
「う~ん、平気っていうか…後はやるだけだし?マシュやカルデアの皆が居るし。それにあの兄さんが只で捕まるわけもないしね」
「――なるほど、歴戦の戦士ってやつだ」
「歴戦て程でもないけどね。ところで私達何処に向かっているのかな?」
「お城の地下だよ。そこに古井戸にみせかけた拠点があるの。霊脈もある優れ物」
『先輩、そのようです。その先に霊脈の反応があります。サーヴァント召喚が可能と思われますので試してみて下さい』
「オッケー!」
『…と、あれ? 待って下さい。誰かいます!』
「ああ、大丈夫大丈夫。そこに居るの、私のツレだから」
地下へ下りて、そこに居たのは騎士というか兵士というかかぼちゃというか。井戸底に座り込み天を見上げている、頭にかぼちゃを被った一人のサーヴァントだった。
……何か既視感があるなあ。立香は首をかしげた。
「やあ、おっきー。随分と遅かったじゃないか。俺はもう、朽ち果てるところだったよ」
「ってちょっとこれパンプキンヘッドの粛正騎士!!?やばいってこれやばいって色んな意味で!…ジャック?ジャックオー(ランタン)なの?!鎮魂を早く!」
『落ち着いて下さい先輩。今日はハロウィンですが敵性反応はありません。どうやらサーヴァントのようですが…』
「彼は私のツレ。ここで霊脈を守ってくれていたの」
「・・・よかった。応援を連れてきてくれたのだね。ああ、これで、希望を持って死ねるよ」
「パンプキンさん……」
立香が別れの場に相応しい声を出す。かぼちゃを前に。
…この人は英霊城兵というきっと恐ろしい敵に立ち向かい刑部姫を守ったのだろう。聞いた事のない若々しい声は男性のそれのようだが、こちらを見るカボチャの隙間からは彼女を慮る雰囲気の視線。レストインピース。
立香は胸に手を当てた。
『先輩騙されないで下さい。この方の生体反応はピンピンしています』
「あ、気にしないで。コレただの死ぬ死ぬ詐欺だから」
「…え?」
「・・・え?」
「え? じゃないよ。なに勝手に消えようとしてるの?馬鹿なの?」
「え、いやだって。流れ的にここは俺亡者になる前に消えるぅみたいな、結構感動的なクライマックスシーン的なトコでは?」
「そんな流れないから」
そうらしい。その証拠にかぼちゃヘッドは何事もなかったかのようにむくりと立ち上がった。
「あの。…貴方は一体?」
「失礼お嬢さん。自他ともにビックリしちまった。
俺はこの霊脈の番をしているソルジャー。ソルジャーのランサーって感じだな。そう呼んでくれ」
「ダサ」
センス×が二重丸。本音が立香から漏れた。
「おい今なんて言った?このセンスが分からんか・・・」
「ダサいからパンプキンさんて呼ぶ」
「パンプキンのランサー。…ぶふっ」
「おっきー」
「何も言ってないよ姫(わたし)は? あとおっきー言うな」
『気になるところですがとにかくサーヴァントを召喚してみましょう。先輩』
「…召喚?」
「カルデア式召喚術だよ。 告げる!」
以下略。
「―――何だこのような場所で。まさか邪魔者を交えて我(オレ)に忠誠を誓うのか?」
「金髪!王様!カッコイイ!!やったー!!!」
「やはり貴様は何時何時でも分際を弁えているようだな。当たり前の真実を述べても何も出さぬが、立香。その言葉(本心)は受け取っておいてやる」
「よろしく願います!ギルガメッシュ王!」
立香が召喚したのはアーチャー霊基・英雄王ギルガメッシュだった。百億の援軍を得たような気分に、カルデア総員が浸る。この戦いは我々の勝利だと。
マシュは丁寧に一礼し、口を開いた。
『ギルガメッシュ王。どうか先輩に御助力をお願いできないでしょうか』
「――うん?」
「助けて!ギルガメッシュ王!!これから私達は地下から地上へ、チェイテピラミッド姫路城へと進撃するんです!」
「ほう?なるほど。確かに地上から漂うこの王気(オーラ)。雑種にしては相応だが。よかろう、児戯に手を貸してやる」
『御協力感謝致します。英雄王』
カルデア所長であるオルガマリーが最敬礼し、ついで立香を見やった。
『立香、今はとにかく先に進んで頂戴。まずは人質の二人を探すのよ。…センサーによると、上に上がったチェイテ城エリアに捕まっているみたい』
「了解!」
不敵に笑うギルガメッシュ。その金色の王気(オーラ)にオロオロしだす刑部姫と、綺麗な物を見て目を丸くするパンプキン。
しかしこれが王たる彼との最期の会話である事を、立香達は夢にも思わなかった。