【完結】それでも死にたくないな、と貴方は笑って言ったのだ。 作:しゅないだー
薄ぼんやりとした電灯が照らす公園で、自分と寅地は対峙していた。
頬を掠めるように突き出された切っ先を、紙一重で避ける。その太刀筋には紛れもなく殺意が篭っていた。躱して一撃入れようとした拳が虚しく空を切る。
分かってはいた事だが相手の得物は刀、つまりリーチが自分よりもずっと長い。となれば距離を取るのは下策、ただひたすらに前に出て攻め続けるしかない。
だが。のらりくらりと柄で拳を捌く寅地にはまだ計り知れない余裕があるように見えた。
「なあ、一つ聞きたいんだけど。お前、今本気でやってるか?」
突然手を止めたかと思うと、寅地は此方を睨み付けながらそう問う。質問の意図が分からず困惑している自分に溜息を吐くと、彼は刀を握り直すように軽く振る。
「死ぬ気でやれよ。殺すぞ」
その瞬間、手首が落ちた。
何かの比喩ではなく、そのままの意味で。間合いを測るように伸ばしていた左手、それが痛みを感じる間もなく地面に転がっている。その様は悪い夢のようで、現実味の欠片もなかった。
「──っ!?」
一拍遅れて噴き出す血に、強制的に思考を引き戻される。
斬られただとかそういうレベルではない。
その一太刀はもはや何らかの怪異の力ではないかと疑ってしまうほどで。目の前の相手が人として逸脱していると言える力量を持っている証左に他ならなかった。
「芥屋は怪異を自分に憑ける奴もいるんだっけ? 安心しろよ、俺はそんな下手物じゃない。正真正銘、ただの人間だ」
まだ痛みは無い。あまりにも鮮やかな切り口に、恐らくまだこの身体は斬られた事にすら気付いていない。
「芥屋とか水無とは真逆でさ。伊勢は自分達の血に拘らない。アスリートとかそういうひたすらに強い肉体を、溢れる才能を持った人間を呼び込んでずっと子を作って継いできた。作りからして違うんだよ、お前らとは」
芥屋は血を以て怪異を祓う。
水無は継いできた儀式を以て怪異を祓う。
なら、何の特色も持ち合わせていない伊勢はどうやって両家に並び立ってきた? 八尺災害の際、伊勢の当主は
「腕の骨が疲労で折れるまで毎日馬鹿みたいに刀振って、死なない為に小さな村一つでしか聞かないようなマイナーな怪異の事まで頭の中に詰め込んで」
刀をまるでペン回しのようにくるくると弄ぶ。
「人にすら負けるような奴が怪異に勝てる訳ないじゃん? だから俺達は文字通り死ぬ程、死ぬまで鍛えてる。単純などつき合いで人のお前に負ける訳がない」
学ラン越しにすら隆起する筋肉がそれを誇大広告ではないと表していた。
単純な暴力。
それが伊勢の本質だとしたら。自分は人のまま、その本家筋に勝てるのか?
否。無理だろう。
「使えよ。あるんだろ、
こいつはどこまで自分の事を知っている?
挑発するように寅地が手を広げてみせる。何か対抗策があるのか、それとも素で怪異を憑けた自分に勝つ自信があるのか。だが、いずれにしても自分に選択権はないと歯噛みする。
「……心依」
陰に隠れている彼女に見えるよう、耳を塞ぐジェスチャーをする。
そして懐から小瓶を取り出し、地面に叩き付けた。割れた硝子片の中で蠢くトンカラトンの幼体を掴み、一息に飲み込む。これが最後の一匹、斬られた手を止血する必要は無いだろう。
また割れるような頭痛と共に、飛び出した包帯が全身を覆っていく。健在の右手には何処かから現れた日本刀が握られていた。擽ったいような奇妙な感覚が斬られた左手首の断面を駆け巡る。視線を向ければ、物凄い速度で肉が盛り上がり再生を始めていた。
「マジで化け物じゃん。治るから良いとか思ってんじゃないだろうな」
蔑むような口調は、どこか憤りにも似ていた。
ただ、今それよりも重要な事は他にあった。前回使った時よりもずっと意識がはっきりとしている。それが良い事か悪い事なのかは定かではないが、少なくとも今は自分にとって追い風だ。
「トンカラトンと言え」
「……あ? トンカラ──」
そのワードで察した寅地が言い切る前に、日本刀を叩き付ける。刀身で受け止められはしたものの、怪異の膂力で強化された一撃は相手に一瞬の隙を生んだ。
そして今の自分には、その一瞬さえあればいい。
不可避の斬撃が寅地の胴を薙いだ。何かを引き裂くような異音が辺りに響く。
「──っ」
そのまま仰向けに寅地が地面に倒れてゆく。そして何度かの痙攣の後、動かなくなった。それを怪異に侵されてノイズの混じった視界で確認して、自分のやった事に気付いた。動悸が激しくなる。
まだ、間に合うだろうか。今から医者に見せればまだ助かるかもしれない。伊勢の人間は丈夫だと自身でも言っていたのだから。けれどこいつは自分達を殺そうとした。
斬れ。奪え。殺せ。犯せ。汚せ。
「うるさい……! 黙ってろ……!」
頭の中で頻りに声がする。以前よりもずっと脳髄に響くそれに気が狂いそうだった。早く吐き出さないと。いや、それよりもまず心依の無事を確認しなければ。
寅地に背を向け、震える足を踏み出した時。
腹部がじんわりと熱を持った。目を向ければべっとりと血の付いた刀が自分の身体から飛び出しているのが見えた。ぽたぽたと地面に鮮血が滴り落ちていく。
味わった事のない感覚に全身の細胞が警鐘を鳴らしている。
抜かなければ、と定まらない手で刀身を握った瞬間にそれは物凄い速度で引き抜かれた。一際強い痛みが背中を襲う。弾みで落ちた指などもはや誤差だった。
転がるようにしながらも、何とか後ろを向く。そこには涼しい顔をした寅地が立っていた。
落ちている掌大の肉片は、自分の背の肉だろうか。抉られたようにささくれて裂けた断面が電灯の明かりを照り返してぬらぬらと光っていた。
「怪異はすぐ傷が治るからさ。ただ斬るんじゃ駄目だ。治りが遅くなるように抉り取るんだ。離れざまに傷口を刻んでおくと尚良い」
「な、んで……」
寅地は無表情で学ランを脱いだ。その下には一文字に傷付いてはいるが編み込まれたチョッキのような装備が仕込まれており、先程の一撃はそれで防がれたらしい。
「対怪異用の防刃装備。浄めて祈った高耐久の素材で作った鎖帷子みたいなもんだよ、高いのに一発でお釈迦にしやがったな」
血を失い過ぎて頭がくらくらとする。背中に意識を集中させても痛みが増すばかりで治癒する気配は殆どない。
「そんな物、どこで」
「お前らがおかしいんだよ。俺達は人が使えるもんなら何でも使う。刃物でも銃でも防具でもな。特別じゃない俺達は工夫する事でずっと生き延びてきた」
血と脂で汚れた刃を脇で拭うと、寅地はギターケースを拾って肩に掛けた。淡々と距離を詰めてくる相手にとにかく離れなければ、とよろけながら後退りする。が、何かがぶつかる感触に振り返ればもう後ろにはコンクリートの壁しかなかった。
決死の覚悟で振り上げた左腕を、縫い止めるように寅地は壁ごと刀で突き刺した。腱が断ち切られたのか、ぴくりとも動かない。
「小学校の自由研究でさ、二人で山に入って昆虫標本作ったの覚えてるか? 蝶や黄金虫なんかをこんな感じに針で留めて、お前は『殺すのは嫌だな』って嫌がってたけど」
呻く自分に何の感慨もない口振りで彼はそう言うと、ギターケースを足で蹴り開けた。中には幾本もの刀がぎっしりと詰まっているのが見える。
「得物持ち運ぶ時にこれに入れてると職質されなくて済むんだよな。っていうかさあ! 心依ちゃんはこいつがこんな目に遭ってるのになんで出て来ないの? 全部君のせいなんだけど!」
「隠れてろ……!」
そう叫んだ瞬間、二本目の刀が右腕を突き刺す。磔のような格好になった自分の胸倉を勢い良く掴んで、寅地が吐き捨てる。
「この期に及んでまだ他人の心配かよ! お前の事見てきたけどな、ずっと嫌いだった! その『自分は死んでも構わない』みたいなスカした面!! どうせ自分なんかって拗ねたような目が!!」
捲し立てる言葉は怒気に溢れているのに。
なんで、言ってるお前が泣くんだよ。
「怪異憑かせたら心まで人じゃなくなるのか!? 違うだろ! 痛いって言えよ! 逃げたいって言えよ! お前は人間だろうが!!」
自分は、見誤っていた。
これは自分と彼との殺し合いだと。そんな事は全く無かった。
始まってからずっと、自分は寅地から本気の片鱗すら引き出せていなかった。ずっと死なないように手加減されていた。自分にとってこれは命を奪る戦いだったのに、寅地にとっては心を折る為の戦いでしかなかった。
生まれて初めて、
「口ばっか動かして手足の一つも出てねえじゃん、悔しいとかそういうレベルにいないって気付けよ。守りたいだのほざいていい訳ないだろ、お前みたいな奴が」
三本目の刀を取り出すと、自分の腹部に寅地は狙いを定めた。
「もう、いいだろ。嫌われようがどうしようが、お前をただの高校生に戻してやる。巫女を殺して、来た芥屋も全員殺す。お前は寝てろ」
そのまま流麗な太刀筋が月灯を反射して流れ星のように光った。腹の肉を抉られたのだろう。何かが身体からぼどぼどと垂れる感覚があったが、もはや痛みを感じる機能すら喪失しているのか目を向ける気力もない。ただ焼けるように熱い。
しかし僅かながらに再生している感覚から死ぬ事はないと分かった。トンカラトンを自浄作用で吐き出す頃には、丁度良く人間として瀕死の自分が地面に転がっているのだろう。きっと、それも含めて全部寅地の掌の上か。
霞む視界には、まだ血の滴る刀を下げて心依を探す彼の姿がある。
守らないと、そう藻掻こうとした時。
ぷつり、と何かが切れたような感覚があった。これ以上は保たないというのが本能で分かる。意志に反して手足が全く動かず、頭から地面に倒れ込みたくなる。
トンカラトンを憑けても、本気を出させるには至らなかった。それほどまでに実力差が開いているならば、初めから無理だったのだろう。今はただ、眠たい。
けれど、それでも。
────それでも。
筋肉だけで縫い付けられていた両腕を、刀ごと壁から引き剥がす。腱を切られて動かない腕に構わず、倒れ込んだ際に懐から零れ落ちたそれを這い蹲って飲み込む。人でいたければ使うな、と言われた
それは小さな菅の一本に過ぎないが。
暗転する意識の中、音に気付いて寅地がこちらを振り返る。勝負はまだ終わっていない。
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伊勢虎時は目を疑った。
完膚無きまでに叩きのめした筈の友人が、まだ立ち上がってくる事に。
そしてすぐにその異常性に気付く。
「縺雁燕縺ォ縺ッ雋? 縺代◆縺上↑縺」
もはや言葉の体を成していない唸り声を上げる姿は、先程の包帯に覆われていた時とあまり変わらない。強いて言うならば、山伏のような装束をその上から身に纏い、その表情は深く被った菅笠で隠されている。だが、そんな変化は些細な事であった。
血溜まりの中から骨を軋ませ、人ではあり得ない方向に関節を曲げながら起き上がる。それが、一人。二人。三人。四人。五人。六人。
「一砂、お前、お前……何入れたんだ馬鹿!!」
全く同じ様相をした七人に、寅地は怒りと焦燥で声を荒げる。何を入れた、と口では問いつつも彼は既にその怪異の目星がついていた。
トンカラトン×七人ミサキ。
七人ミサキは中四国に伝わる集団死霊の怪異である。
その最大の特徴は常に七人いるという事だ。
彼らに取り殺された者もまた七人ミサキとなるが、犠牲者がその怪異に変身するという点でトンカラトンと親和性がある。
だからこそ崩れそうになる肉体で、引き裂かれそうな精神の中で。その二体同時憑依は辛うじて成立した。
七人とも同じようにトンカラトンの日本刀を携え、ただ一点に倒すべき相手を見つめている。一砂の死に体の身体を突き動かしているのは、妬みという負の感情だった。
強さが欲しい。負けたくない。対等でありたい。
自身の命すら今まで大して執着のなかった彼にとって、初めてと言っても良い誰かに対して向ける自分の為の負の感情。
呪いとは、即ち誰かに対してぶつける歪な想いであり。彼は齢十八にして、漸く己の真価を発揮した。
「繝医Φ繧ォ繝ゥ繝医Φ縺ィ險? 縺」
鉄板を爪で引っ掻いたような金属音を一人が喉から絞り出すように叫ぶ。
次の瞬間、不可避の斬撃が虎時の刀をへし折り身体ごと吹き飛ばした。壁に叩き付けられる瞬間、身を捩って受け身を取る。
折れた刀を地面に捨てると、服に付いた砂埃を払いながら歩き始めた。
「……七人全員トンカラトンか? 本体は? そもそも一体でも殺していいのか?」
懸念される可能性を呟き、言語化する事で状況を整理していく。彼にとって祓いのルーティンの一つだった。
「やっぱさ。お前、俺には勝てないよ」
困ったように、意識の無い友人へ虎時は笑い掛けた。
七人全員が金切り声を上げた瞬間、地面に転がったままのギターケースを渾身の力で蹴り上げる。それは高速で端の一人の頭部にぶつかり、その首を圧し折った。
「七」
衝突の拍子に砕け散ったギターケースから、中に仕舞われていた幾本もの刀が飛び出した。その内の二本を手に取り、勢いで抜刀する。
そして迫り来る七回の不可避の斬撃を。
「六」
二刀で巧みに逸して受け切り、あまつさえすれ違い様にもう一人の首を落とした。黒い汚泥を断面から撒き散らしながら倒れる残骸を蹴倒すと、残る五体へ一歩踏み出す。
「五」
首の下から差し込むように二刀を捩じ込み、挟み斬る。刃が肉に絡んで抜けなくなったが、確かに殺した。飛び散った血を拭って視線を周りに向ける。
「四」
後ろから斬り掛かってきた一刀を躱し、フロントネックチョークの要領で首を絞め上げ、そのまま折る。枯れ葉を踏んだ時のような乾いた音がした。
「三」
先程首を折った個体の刀を奪い、手近にいた一体を胴薙ぎにする。鍛え上げてきた膂力を以て振るう一刀は、受けた筈の刀すら叩き折りながらその身体を両断した。
「二」
逆手に持ち替え、菅笠の上から脳天に刃を突き立てた。痙攣の後に倒れ臥した身体を蹴り飛ばし、最後の一体に向き直る。
この間、僅か十秒にすら満たなかった。
「一」
腰から捻り、回転を加えた抉るようなボディブローを叩き込む。数瞬の硬直の後、血で染まった吐瀉物を大量に地面に吐き出し始めた。
数十秒経ってそこにあったのは、人の姿に戻って倒れている一砂の姿と。
吐瀉物の中で蠢く二匹の怪異を踏み潰す虎時の姿があった。
「見分け付かなそうに見えたけど、やっぱ腹抉っといて正解だった。一体だけ腹に血が滲んでたんだよ。つまりお前が本体だ」
気絶しているのか、微かに呼吸で胸が上下する以外は一切の反応を示さなくなった一砂を見下ろしたあと、彼はスマホを取り出し電話を掛けた。
「……兄貴? 終わった、ああ。一砂は死んでないって一鼠さんに言っといて。俺は今から巫女殺すから」
命を賭した覚悟すら届かなかった友人を憐れむような目で見ると、背を向ける。が、その足はすぐに止まった。
「……お前はさあ」
もはや意識はない筈なのに。一砂の手は引き留めるように、縋るように虎時の裾を掴んでいた。
「お人好しも大概にしろよ!! 本気で殺すぞ!!」
怒りのままに蹴り飛ばす。彼が憤っているのは何に対してか、自分自身でもよく理解できていなかった。自分の心配を無碍にする友人に対してか、友人一人すら説得できない自分に対してか。
だが彼の怒りは次の瞬間、最高潮に達した。
蹴りを叩き込もうとした時、後ろから何かにぶつかられて狙いが崩れる。目を向ければ決着を感じ取ったのか、一砂を庇うように心依が傷だらけの身体を抱き締めていた。それが虎時にはどうにも不快で仕方無かった。
「謝ってよ、一砂くんに」
「あ?」
低い声で拳を鳴らす。素手で十分だと虎時は理解した。その華奢な首を折ってやれば、それでこの二人の悪夢のような逃避行は終わるのだと。
だが震える声で彼女は一砂くんは、と言って生唾を飲み込む。
「貴方の事、大事な友達だって言ってたのに」
「……もう黙ってろよ」
心依は芥屋一砂が自身を助ける理由が今ひとつよく理解できていなかった。彼の利益になるからだろうか。哀れみだろうか。好きだと言われても、それだけで誰かの為にあれほど身を粉にできるのだろうか。嬉しくはあったのだけれど。
彼女は今、震える足で自身を殺そうとしている男に立ち塞がり、自分ではない誰かの為に怒りを向けた。そしてそこまで彼女を突き動かす気持ちが、彼が自分に向けていた物なのだと気付いてしまった。
これが恋だと言うのならばそんな物、知りたくはなかったのだ。
彼女は心の底からそう思ってしまった。
─────君がもし、本当に誰かを許せなくなったらこれを飲むといい。君が怒る為の力をくれるから。大丈夫だよ、何があっても君の王子様が助けてくれる。
芥屋家に来た初日、一砂君には内緒だと言う違明に渡された髪束。彼がトンカラトンを自身に憑けた時から、これもそれに準ずる物だと彼女は理解して震えた。私にそんな物が扱える訳ない、と。そんな事は決して無かった。
それでも死んで欲しくないから、そう貴方に笑ってそれを食んだ。
伊勢虎時は自身が冷静さを欠いている事を自覚できていなかった。長年怪異祓いとして経験を積んできた彼ならば、その結論に辿り着く可能性は十分あっただろう。
だが彼は思い至らなかった。
芥屋の本質は誰かを怨み、呪う事であると。
そして自分自身が希薄である依代にそういった負の感情を齎すのは、自身を大事にしてくれる誰かが傷付く事ではないかと。
彼はその日、初めて
何かを心依が飲み込む。気付いた彼が手を伸ばした時には、溢れ出る妖気が黒い風となって流れ出した。思わず目を閉じ、開いた次の瞬間。
視界に映ったのは、倒れた一砂を慈しむように取り囲む異形の肉体。
─────大百足。
古くは藤原秀郷、俵藤太の百足退治の伝承で広く知られている。
妖怪という括りではあるがその特徴として蛇や龍と敵対しており、特に先に挙げた俵藤太の百足退治では龍神すら退けていた。山を七巻き半にすると伝えられている体躯は比類する物などなく。
即ちそれは、神を超える怪異。
だが、彼が目を見開いたのはそこではなかった。
公園を優に覆い尽くす巨大な百足の下半身に、一糸纏わぬ人の上半身。色白の身体に淡雪のような髪が腰まで垂れ、特徴的な赤い瞳が夜の闇の中で爛爛と輝いている。虚ろな殺意が向けられる中、虎時は滲む手汗を拭った。
「聞いてない、聞いてない……! あのイカレ野郎、混ぜやがったな……!」
彼女の胴体には、
人ならざる下半身と女性の上半身、そして呪う事を主とする芥屋と相性の良い怪異は特徴からして一つしか考えられなかった。
其は旧き神と新しき怪異の落とし仔。
否、これはもはや神でも怪異でもなく。
■月■日、午後■時■■分。
神級災害:仮称"百足巫女"、或いは
■県■■市にて一回目の顕現。