トライアングル・シャッフル   作:カオス箱

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あらすじとは裏腹にゆるーくやります。
ギリギリまで投稿するかどうか迷ってたんですが、せっかくだしやることにしました。よろしくね。
日常モノは初めてだから色々不安だけど、がんばります。


第1話 暁月真人①:トライアングル世界の非日常

 

 

 それは唐突に始まった。

 

“オレがいる⁉︎ オレが女の子になっていて⁉︎ オレがテレビに映ってる⁉︎ ”

“な、なによこの身体ぁ⁉︎ 股間に変なモノぶら下がってるし、ヒゲモサモサだし、どうなってるのよぉー⁉︎ “

“なにこれぇ……ぼくの胸が大きくなってる……?”

 

 トライアングル・シャッフル。

 全人類の半数以上が、“3人1組”の肉体の入れ替わり現象に巻き込まれた。

 空想の産物でしかなかったこの現象が現実に起き、人類は未だかつてない危機に直面することとなった。入れ替わりによって発生した経済的・文化的な混乱は治安悪化を招き、各国政府は迅速な対応を余儀なくされた。

 そんな未曾有の大災害から早2ヶ月。混乱の極みにあった現代社会も、このちぐはぐな現状に慣れてきたのか、少しずつ落ち着きを取り戻しつつあった。

 そして今日、日本では、入れ替わり現象からずっと休みであった学校が再開される事となった。

 

 

 

 

 

 

************************

 

「今日から学校、か」

 

 暁月真人(あかつきまこと)は、自室でそう呟いた。

 鏡の前に立ち、服装を整える。今までとは随分と勝手が違うから時間がかかるだろうと予想し、少し早めに起きて支度を始めたのだが、予想よりも手間取らなかった事に自分の事ながら驚いてしまう。

 

「……慣れって怖いなぁ」

 

 鏡に映るのはブレザー姿の美少女。触り心地抜群の短めの黒髪も、ハリのある肌も、ダイナマイトとまではいかないものの出てるところは出てるボディも、程よく肉の乗った下半身も、可愛い声も、元は他人の身体だった。でも、今はコレが自分なのだ。

 始めは違和感バリバリで凄く苦労したものだ。なんせ15年弱付き合ってきたかつての身体とはまるで違うのだ。というか男と女で性差ありすぎだろう。男と女は別の生き物とはいうが、こうしてなってみると、やはり違うなと実感してしまう。

 まだ赤の他人と入れ替わっていたなら、少しは気が楽だったのだろうが、自分の今の肉体の持ち主はよりによって幼馴染という間柄。身近な人の身体を使っていて、それを本人にも知られている、というのは無意識ながらも余計に気を遣ってしまう。本人がどう思ってようが関係なく。

 

「以前のアイツと遜色ない状態なのが余計に怖くなる……ヤバいな、オレの女心育ちすぎでは?」

 

 鏡を見ながら過去に想いをはせていると、そこにノックの音がする。入っていいぞ、と返答すると扉が開き、そこから学ラン姿の弟・大智(だいち)が入ってきた。

 大智は兄もとい姉の制服姿を初めて見て、ニヤニヤと笑っている。

 

「へぇ、兄貴似合ってるじゃん。あ、今は姉貴だったか」

「おい大智、覚悟できてんだろーな?」

 

 他人事だからって揶揄いやがって。家族で入れ替わり被害者は自分だけだからか、こういった感じに揶揄われてしまう事も多々ある。

 マコトがすごむと、大智はヘラヘラと笑いながら最後にもうひと揶揄いをして、逃げるように階段を降りていった。

 

「そんじゃ姉貴、俺もう行くから」

「だから姉貴って言うんじゃねえよ!」

 

 部屋のドアから身を乗り出してそう怒鳴るも、その時にはすでに、玄関の扉の閉まる音がしていた。まんまと逃げられたのだ。

 

「ったく、いい気なもんだぜ」

「マコトー?もうそろそろ家出た方がいいんじゃないのかー?」

 

 マコトが弟のクソガキっぷりに悪態をついていると、階下から父親がそう声をかけてきた。廊下の時計を見ると、確かにもうそろそろ家を出る時間だ。

 鞄を持って階段を降り、リビングに向かうと、丁度父親が母親から弁当を受け取り、家を出るところだった。

 

「お、サマになってるじゃないか。いやあ、これから毎日これが見られると思うと、案外トライアングル・シャッフルもいいもんだなぁ」

「あなた、何馬鹿な事言ってるのよ。色んな意味でヤバい発言だって分かってる?」

 

 父親の無神経な発言に呆れるマコトだったが、母親の声色の変化に、親子揃って身震いしてしまう。まあ父親の発言は、入れ替わり被害者、ましてや実の息子に言っていい台詞じゃない。

 まあ、変わってしまったマコトを快く受け入れてくれた点では、両親に感謝はしているのだが。

 

「それじゃーいってくるねー……」

「次あんな事言ったら来月の小遣い1割減だからね」

 

 逃げるように出勤していった父と、能面のような顔でそれを見送る母。子の視点から言わせていただくと、朝から子の目の前でこんな光景を見せないで欲しいものだ。

 弁当を持って、マコトも家を出ようとする。すると、母がこんなことを言ってきた。

 

「随分と変わったわね」

「そりゃあ、な。今更なんだよ」

「……例えあんたがどうなったって、私達の息子である事には変わりないわ。安心して」

「俺だって同じさ。肉体的には血の繋がりは無くなっちゃったけど、母さんの息子だよ。それじゃ、行ってきます」

 

 今は娘になってしまったけど。

 身体だけが繋がりではない。少なくとも今だけは、そう思っていたかった。

 

 

 

精神:暁月真人(16)男性

肉体:空衣夜空(16)女性

 

 

 

 

************************

 

(スカート……予想以上に恥ずかしい……!)

 

 通学路を歩く事数分。マコトは出発早々羞恥心に苦しんでいた。

 入れ替わってから休校中もちょくちょく女物の服も着てきたし、スカートだって何回も履いたのだが、スカートを履いて外に出るのは初めてだった為、予想以上の恥ずかしさにテンパっていたのだ。風でスカートが揺れる度に、下着が見えるのではないかと不安に感じてしまう。女性の皆さんはよくこんなモノ履けるなぁと感心せざるを得ない。

 

「……てか、周りも似たような感じじゃねぇか」

 

 恥ずかしさを紛らすため、辺りを見渡してみると、周囲を行き交う人々もちぐはぐだった。バス停でバスを待つリクルートスーツを着た小学生くらいの女子、明らかに成人済であるにも関わらず、赤いランドセルを背負った半袖半パンのムキムキの白人男性と、その隣で同じくランドセルを背負いながら小学生らしい下品なトークをする、テレビで見かけた事のある人気女優達。ダンプカーを運転するガテン系な服装のマダムなどなど……なんだこの悪夢。これが夢ならどれほど良かったでしょう。頭の中にLemonが浮かんで離れないよ……。

 だが、多分彼らも同じなのだ。こうしてマコトが感じている不安も、今や普遍のものになってしまった。

 

「おっはーマコト!」

「んひぃ⁉︎」

 

 声を掛けられたかと思えば、突然後ろから抱きつかれ、思わずマコトは変な声をあげてしまう。背中に当てられる柔らかい感触に、マコトの顔が赤くなる。

 そして続け様に、胸を揉まれる感覚がマコトを襲う。男ならば(一部を除いて)決して味わうことのない感覚に、マコトちゃんの精神力は凄まじい速度ですり減ってゆく。

 気持ちいいかといわれたら頷けるのだが、これ以上は公衆の面前では大変よろしくない。マコトは慌てて腕を振り払い、セクハラ犯の腕を捻りあげる。

 

「いいモンもってるわねぇ。いっちょ味わせなさいででででで!」

「いいモンって……そもそもこれお前のだからな夜空!」

 

 セクハラの犯人は、今のマコトよりも少しばかり背の低い女の子だった。朝日を反射して翡翠色に輝く髪と、三日月型の髪飾りが目立つ美少女。

 そう、目の前に居る少女こそが、マコトの今の身体の元持ち主・空衣夜空(そらいよぞら)であった。

 

「あのなぁ!幾ら肉体的には同性だからって急に抱きつくなよ!」

「アレェ〜?もしかして照れちゃってるぅ〜?」

「……っ!」

 

 夜空はおちょくってくるが、事実、身体が美少女になろうが中身は思春期の男子高校生。股間のブツが無くとも彼(女?)の心にあるブツは健在で、女体にバリバリ反応してしまう。

 

「だいたい、お前気持ち悪いとか思わないのかよ?目の前で自分の身体を人に使われてるの見てて」

「まあそれは無くはないけど……少なくとも自分の目が届く範囲のことだし、マコトならある程度信頼できるじゃん?」

「……その信頼はどっから来てんだよ」

 

 あっけらかんとそう言い放った夜空に、マコトは小声でそう返す。

 今の2人は、側から見れば仲睦まじい女の子同士の登校風景なんだろう。だが、そんな見かけなんてこの世界では無意味なのだ。

 

 

 

************************

 

 教室の扉を開けると、すでに半数近くの生徒が来ていた。

 扉が開くなり、彼らは一斉にマコト達の方を見る。入れ替わり発生後初めて顔を合わせる奴らが大半なので、皆クラスメイトがどうなっているのか、興味があるのだろう。さながら新年度のようだった。

 

「おー、ラブラブカップル1組到着ぅ!」

「ラブラブだなんて照れるなぁ」

「居るんだよなぁ、男女で並ぶとすぐ恋愛関係に結びつける短絡的なヤツ。まあ今は女同士だけど」

「夜空ちゃんの姿でそんな毒吐かれるとかめっちゃ興奮する」

「ダメだこいつ」

 

 教室に入るなり、猿みたいな顔をした男子生徒がマコト達に絡んできた。彼の名は田中開知(たなかかいち)。見た目に違わぬエロ猿だが、彼は入れ替わり被害者ではないので、前と変わらぬその様子に、マコトはどこか安心感を覚えている。

 田中はマコトの肩に手を回すと、興奮気味に話しかけてくる。一応今のマコトは女の子なのだが、その距離感で大丈夫なんだろうか?

 

「エロ自撮りの件、俺はまだ忘れてねえからな。送ってくれるまで言い続けるぞ?」

「なんで送らなきゃなんねーんだよ。てか仮に送ってきても中身オレだぞ?まさかお前それで抜くのか?」

「むしろなんで興奮しないのか、俺は理解に苦しむね。お前なんなの?修行僧かなんかかよ?」

「お前それオレじゃなかったら百烈ビンタ不可避なんだけどな」

「腕振り上げながら言うのやめてね……マジで反省してるんで」

 

 田中が沈黙したので、マコトは振り上げた腕を下ろす。

 マコトは、申し訳なさそうに小さくなっている田中を見ながら「次があったら問答無用で暴力ヒロイン化してやる」と決意をするのであった。暴力ヒロインはこうして生まれるのです、はい。

 

「お前は知らないだろうけどさぁ、色々とあってそんな暇なんか無かったぜ?市役所の手続き然り、性教育しかり、入れ替わりの周知しかり……未知の体験だったぜ、あれは……」

「へえ〜そうなんだ〜。わたしは性別変わんなかったからさ、割と簡単にその辺りは済んだんだよね」

 

 自分の知らない入れ替わり被害者達の苦労話に感心しながら相槌をうつ田中だったが、その時、教室の扉が開くと共に、こんな声が割り込んできた。

 

「あー懐かしいわこの雰囲気。見た目変わっても中身はそう変わらないもんなのねー」

「む……その声は!」

「あ、夜空おっはー」

 

 いかにも優等生ですと言わんばかりの眼鏡美少女がやってきた。彼女は白石美紀(しらいしみき)。風紀委員を勤めており、夜空と一番仲がいい女友達だ。

 彼女は夜空の前の席に座ると、身体を後ろに向けてマコト達の会話に入ってきた。田中は美紀の姿を見て、わかりやすくほっとしている。恐らく、彼女が入れ替わっていなかったことに安堵しているのだろう。下心込みで。

 

「美紀遅かったねー。時間ギリギリじゃん」

「風紀委員の仕事がめちゃんこあったのよ。ほら、このご時世じゃん?こーゆー時こそ心身共に引き締めないといけないんじゃないかな」

「なんで俺達を凝視するのかな美紀サン?」

 

 ジロリとこちらを見つめてくる美紀の視線に耐えきれず、マコトと夜空は目を逸らす。

 だが、美紀の懸念は最もだ。入れ替わりの影響で少なからず風紀が乱れている。異性の身体同士になった生徒と教員がヤってるのが発見されたり、異性の身体になった生徒が教室で自家発電してたのが見つかったりという事案が、全国各地で散見されているのだ。日本の将来が心配である。

 

「あれ、山岸は?お前いつもアイツと登校してたよな」

「あー、あいつな。学校に来れなくなったんだ、ほら」

 

 田中はそう言うと、スマホを取り出してその画面をマコト達に見せる。そこにはチューブに繋がれベッドに横たわる老婆の画像が映し出されていた。

 この老婆が、田中と仲の良かった山岸だ。中学の時から喧しいエロ猿だったが、こうなってしまうほどの奴では無かったので、彼の変わり様には流石のマコト達も本気でかわいそうに感じていた。

 

「これが今の山岸だ。アイツん家、家族全員入れ替わり被害者だから色々と苦労してるみたいなんだ」

「マジか……」

「隣のクラスの絵麻さんなんか、入れ替わりのショックで引きこもりになっちゃったらしいし……」

「あー確か殺人犯の身体になったんだっけ……犯罪とか不祥事やらかした人になると大変だよね」

 

 美紀と夜空も、人生が詰んでしまった同級生の話に心を痛めている。

 入れ替わり現象は、対象を選ばない。だから場合によっては大の大人が赤ん坊や老人の身体になったり、健康な身体の人が障害者や重い病気に罹った身体になるケースも多い。そのせいで職を失ったり、中には元の身体が死んでしまったケースもあるのだ。

 そう考えると、性別は違えど同年代で健康な身体の人間同士で入れ替わったマコト達はまだ恵まれているのかもしれない。

 と、その時。

 

「おーお前ら席につけー、ホームルーム始めるぞー」

 

 チャイムと共に、担任教師が教室に入ってきた。彼は苗字が白樺(しらかば)なのと、カバみたいな顔をしているので、皆からはカバセンと呼ばれている。どうやら彼も入れ替わってはないようだ。

 田中はそれがつまらなかったようで、ボソリと不平を漏らした。

 

「うわカバセンだ。なんだバカセンは入れ替わってないのかよ、つまんねぇの」

「おい田中、お前今馬鹿って言ったろ」

「げ、ばれた!」

「なんか……バラエティ豊かだな」

「見る限り半分以上が高校生じゃないんだが」

 

 改めて教室を見てみると、半数以上がどうみても高校生に見えない外見をしている。オッサンだったり、小学生だったり、筋肉モリモリマッチョマンの変態だったり、明らかに堅気に見えなかったりと、なんだか、いい歳した役者に無理やり制服を着せたような、下手な学園ドラマを見ている気分だ。そのせいか、所々にいる、入れ替わっていないクラスメイト達が居心地悪そうにしている。

 入れ替わった側としては、彼らに多少なりと申し訳ないとは思っている。

 マコトと夜空は、教室の最後尾で未来を憂う。それは全人類共通の不安だった。

 

「カオスだねぇ……」

「……これ学校生活成り立つんですかね」

 

 カオスな教室内を見ていると、学校生活が早速不安に思えてきた。

 こ 新生活なんて比じゃない。ここから、前代未聞の非日常が始まるのだ。それに終わりがあるかはわからない。ひょっとしたら、死ぬまで続くのかもしれない。

 期待と不安に押しつぶされない様に、マコトは膝の上の拳を強く握りしめた。

 

 

 

 

 




次回に続くよん。
次もマコトちゃん編だよ。
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