トライアングル・シャッフル   作:カオス箱

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水着回その一です。
久々にマコトちゃん達が出ます。


第10話 スワップ・アフター・サマーバケーション①

 

 

 夏休み前日、伊佐木舞(いさぎまい)がこんな事を言い出した。

 

「海に行きましょう、マコト先輩!」

「やだやだやだやだ無理無理無理無理!」

 

 舞の唐突な提案に、暁月真人(あかつきまこと)は半狂乱になりながら猛反対した。

 明日からは待ちに待った夏休み。毎年日本中の子供達が熱狂する時期なのだが、今年はいつもと雰囲気が違う。

 なんせトライアングル・シャッフルによって全人類の半数近くが入れ替わっているのだ。その中には、新しい身体を思う存分楽しみたい奴らもいる。そういう人々にとって、夏休みとは、新しい身体を満喫する絶好の機会なのだ。

 

「 海かぁ……いいんじゃない?」

「俺も賛成するぜ!行こう行こう!」

「お前らは入れ替わってないから気楽に言えるんだよ……あと田中、お前は単に水着姿見られればなんでもいいんだろーが」

 

 マコトの友人である田中開知(たなかかいち)白石美紀(しらいしみき)はというと、笑顔で舞の誘いに乗っかっている。二人とも入れ替わっていないので、他人事だと思っているのだ。

 マコトはチラリと、幼馴染みにしてこの身体の元々の所有者である空衣夜空(そらいよぞら)の方を見る。

 彼女は舞とバチバチに睨み合っていた。元よりライバル関係だった二人だ。それは入れ替わってからも変わらない。

 どうやら夜空に助けを求めるのは無理そうだ、とマコトは早々に諦め、隣の席を占領している渡会未可子(わたらいみかこ)東雲慎二(しののめしんじ)ペアに視線を向ける。

 

「相変わらずお前の周りは騒がしいな、マコト」

「賑やかで好きだよわたしは。なでなで」

「撫でるなよミカ。俺は子供じゃないんだ」

「子供じゃん」

 

 隣では、慎二の身体になっている未可子が、女子小学生になっている慎二の頭を撫でている。

 今の慎二は、中身は同級生なのだが、見た目が女子小学生なので、どうしても可愛がられてしまう。慎二は大変不服なのだが、最近では慣れたのか、口では嫌がりながらもあまりナデナデに反抗しなくなっている。

 

「だめだなこいつらも……」

 

 どうやらここも望み薄。

 このままだと海に行くのが決定してしまう。誰か助けてくれないものかなー、と思いながら、マコトはため息をつく。

 

「その話、しかと耳にしましたぞっ!」

 

 が、ここで更なる頭痛の種が舞い込んできた。

 隣のクラスにいる、この学校随一の問題児・未柴学人(みしばがくと)とその取り巻き達だ。

 全員が重度の厨二病患者であるクソ馬鹿トリオなのだが、3人とも入れ替わりで美少女になっている。

 ノリは以前と変わらないくせに、美少女フィルターのお陰でマシに見える上、美貌の維持もちゃんとやっているのが余計に腹立たしい。

 

「何しにきたんだお前ら……」

「我が魔王も参加するのだ。いいだろう」

「我らの美貌を知らしめるチャンスでござるからなぁ!」

 

 恐ろしいまでの平常運転っぷりで、マコトは諦めた。そもそも、美少女になって調子こいてるこいつらに何かを期待するのが間違いだったのだ。

 そんな感じにギャーギャー騒がしくなってきたその時、

 

「海行こうって言ってるけどさ、お前ら水着どうするんだよ?」

「……………」

「……………」

 

 田中の発言で、オカマ共が固まった。

 先程までギャースカ騒いでいた厨二病トリオ達ですら、すっかり固まってしまっている。

 入れ替わって女体化してから早3ヶ月。ブラジャーもトイレも風呂も慣れたし、なんなら()()()()()すらも経験した。もう経験値的にはすっかり女の子になっている彼女達だったが、それでも水着のハードルは高い。

 

「……………水着、買わなきゃ駄目?」

 

 泣きそうな目でマコトがそう言う。

 しかし、その一言が乙女達のハートに火をつけた!

 

「駄目に決まっているでしょう!明日皆で水着買いに行きましょう!ね⁉︎ ね⁉︎ 」

「皆女の子なんだから、精一杯オシャレしなきゃもったいないじゃない!貴女達にはビーチの主役を取れるポテンシャルがあるの!」

「マコト先輩の水着プロデュースとかマジ最高です、ぜひやりたいです!あ、夜空センパイはお呼びじゃないんで。帰れ」

「何おぅ⁉︎ マコトちゃんを一番可愛くプロデュースできるのはわたしなんだぞ⁉︎ でしゃばるな小娘ち○この皮ベロンベロンに引き伸ばしてやろうか⁉︎ 」

 

 イカれたレベルで興奮しまくった女子ども(内身体男子が二名)の猛反対に合い、それはあっけなく却下されたのだった。

 圧に負けたオカマ共に唯一残された道は、明日が来ない事を祈ることだけだった。

 

 


 

 

 しかし現実とは非情なもの。

 数人が願った程度で明日が来なくなる、なんてことはなく。

 マコトの願いとは裏腹に、世にもおぞましき水着購入イベントが、今まさに始まろうとしていた。

 

「来ちゃった……」

 

 ショッピングモールの水着ショップの前で、まるで険しい山の頂上にたどり着いた登山家の様に、マコトがそう呟く。

 できることならこの場から一歩も動きたくはないのだが、そうはさせまいと、夜空と未可子が後ろからぐいぐいと身体を押してくる。

 

「やめろやめろぉ!オレは水着なんか!水着なんかぁっ!」

「だいたいなんで水着程度で恥ずかしがるかなあマコトは。もう一通り女の子は経験したんだからさ、水着ぐらい楽勝なんじゃないの?」

「いやだって恥ずかしいじゃん!理屈とかじゃない!もうなんていうか……その……無理じゃん!」

「恥ずかしいって……わたし達の方が恥ずかしいのよ?これまで胸隠してたのに、男になった途端胸板曝け出さなきゃいけなくなったんだから」

 

 この後に及んでもなお、なんとか理由をつけて水着イベントを回避しようとするマコトだったが、それを聞いた未可子が、羞恥心でマウント取ってきやがった。

 というか力めっちゃ強い。

 女の身体であるマコトでは、同性である夜空はまだしも、男の身体の未可子には抵抗できない。抵抗虚しく、ずるずると水着売り場へと押し込まれてしまう。

 こうなりゃ覚悟するしかない。身体は女でも心は男。度胸が試される時が来たのだ。

 

(やってやる……オレはこの試練を乗り越えてみせる!)

 

 少女の戦いが、幕を開ける。

 

 


 

 

 それからしばらくして。

 

「これいいんじゃないんすか?」

「なんかオバさん臭くない……?もっと可愛らしいやつをだね」

「慎二ちゃんはどうしようか……ワンピースタイプの方かな?」

「どうでもいいけど早くしてね……俺こんなところにいるの結構恥ずかしいんだからな」

 

 女子たち(夜空以外の2人は男の身体だが)+荷物持ち要員の田中がオカマ共に着せる水着選びでキャッキャワイワイと騒いでいるのを、オカマ共は水着売り場前のベンチに座って待っていた。身体が変わっても、女子のショッピングで待たされるのは男子であるというのは早々に変わらないのだ。

 ちなみにだが、待機組の中にマコトはいない。

 女子達が満場一致で「まずはマコトちゃんの分から選ぼう!」となったため、彼女は一足先に試着室にぶち込まれたのだ。慎二達に関しては、店の試着室が空いてなかったので、こうして待たされている。

 そして今。

 

「………………どうするよ?」

「私は既に覚悟を決めたよ……ハイレグだろうがマイクロビキニだろうが着てやるさ」

「拙者基本的に陰の者なので、目立つ可能性のある水着は避けたいというのが本心でありまして……」

 

 慎二・影浦・小野の三人は、戦々恐々としていた。

 既に同志マコトは彼らの餌食と化している。次は自分たちの番なのだ。

 ブラジャーとかはいい。あれは下着だし、こっちから他人に見せるものではないし、秘部を守るという意味では必要不可欠であるからだ。スカートもいい。制服として毎日のように履くので、正直言ってもう慣れた。

 だが水着は無理だ。なんで女どもはあんな下着同然の格好ができるんだ。あんな無防備極まりない格好を人前でできてたまるか。

 (実際にはもうほとんどなくなりかけている)男としてのプライドにかけて、この最後の砦だけは壊されるわけにはいかないのだ。女の男装と男の女装とで、ハードルの高さには天と地ほどの差があるのと同じことなのだ。

 

「マコトが終われは次は俺達なんだぞ⁉ 」

「わわわわ私はににに逃げようと思うのだが」

「抜け駆けはゆるさないでござるよ影浦殿ー?一緒に地獄に行こうよ、さあ!」

 

 口ではいくらでも言えるのだが、実際には逃げ出すこともできず、ガタガタ震えることしかできない。

 結果として三人は、ベンチに並んで座って、眼前の恐怖から必死に現実逃避をするかのようにスマホを動かしたりしていた。

 しばらくして、ふと慎二が影浦にたずねてきた。

 

「そーいえば、学人のやつはまだ来てないのか?」

「我が魔王からの神託(メッセージ)だ。そろそろ到着するとのことだ。ふふふ、我が魔王の美貌に恐れ慄き萌えるがいい!」

 

 引きつった笑みを浮かべながら、学人の到着を伝える影浦。その笑みは水着への恐怖からくるものであることなのは、想像に難くない。

 というか、こいつらはことあるごとに自分達の可愛さをアピールしてくるのだが、それはもともと他人の身体であるのだから、自慢するのは筋違いなのではないだろうか?と慎二は常々思っている。中二病トリオの厚顔無恥っぷりにはあきれるしかない。

 

「美貌って……他人の身体の癖によくそこまでイキれるよなお前ら」

「一応美容には気を遣っているでござるよ?せっかく美少女になったんだから、それを維持したいと思うのは当たり前だと思わないでござろうか?ほれ頬っぺたさわってみぃ」

 

 そう言いながら、小野が慎二の小さな手を取って自身の頬に触らせる。

 ほんとにすべすべだった。まるで別人だ(※身体はマジで別人)。

 

「マジですべすべしてる……無駄に触り心地がいいのが実にむかつくな」

「慎二殿もぷにぷにしてていいですねえ……二次性徴前の幼さ残る見た目と、中身のツンツンした慎二殿とのギャップがマジで愛らしいでござるよ~~~~」

「お前マジで通報してやろうか⁉ てか俺達男同士だぞ!くっつくな気持ち悪いっ!!!!!!」

 

 変なスイッチが入ったのか、小野は慎二に抱きついてきた。人目もクソもあったもんじゃない。

 小野をなんとか引きはがそうとする慎二だが、女子小学生の身体では思うように力が出せず、引きはがすことができない。見た目が女の子同士じゃなかったら、とてもじゃないが見るに堪えないシチュエーションだ。

 助けを求める慎二だったが、一番近くにいる影浦は、スマホで小野と慎二のツーショット写真を撮ってやがるし、女どもはいまだに水着選び中だしで、慎二を助けに来るやつはいない。

 まさに絶体絶命だったその時、

 

「ふはははははっ!家臣どもよ、待たせたなあっ!」

「嘘だろ……」

 

 さらに喧しい奴がきた。そう、厨二病トリオのリーダーである未柴学人の登場である。無駄にでかい胸をばーんと見せつけながら高笑いをしている様は、心底馬鹿馬鹿しかった。

 横には妹である遊羽まで侍らせているしで、鬱陶しさにおいてはパーフェクトだった。

 

「主人殿っ……待ち侘びていたでござる!」

「我が魔王、遅刻とはらしくない。一体どうしたというのか……」

「ふべっ」

 

 学人が現れると様子は一変、小野と影浦はすぐさま彼女の元へと飛んでは(ひざまず)く。周りの人達がすんごい奇怪の目を向けているのだが、こいつらはそれを気にしないのだろうか。

 影浦の腕の中から放り出された慎二は、情けない声をあげてベンチに放置される。先程まで猫可愛いがりされていたのが嘘みたいだ。

 

「なっ……なんでお前、妹連れてきてるんだよ……てかお前、来る必要あったか?お前妹の身体なんだから、妹の借りれば済むじゃん」

「遊羽の成長(主に胸)が凄まじすぎて、去年の水着が入らなかったのだ。この成長力、姉として誇らしいぞ」

 

 学人はうざ可愛いドヤ顔をしながら、ナチュラルに妹の胸自慢してきやがった。なんでトライアングル・シャッフルを仕組んだやつは、この馬鹿に美少女の身体を与えてしまったのだろうか。絶対入れ替わり先の人選間違ってるよ。

 

「水着買いに行くと言われた時はどうなるかと思ったが、遊羽が一緒なら問題ない!さあ我が妹よ、我を存分に飾り立てるがよいぞ!ぬははははははははははははははっ!」

「ガク姉のコーディネートはお任せください!さあお姉ちゃん、どんな水着が着たいか言って御覧!」

 

 この姉にしてこの妹ありとはよく言ったものだ。

 唖然とする慎二、跪いたままの小野と影浦を素通りした遊羽と学人は、仲良く恋人繋ぎしながら、意気揚々と水着売り場へと入って行ってしまった。その様子は完全に、仲睦まじいカップルであった。

 前に会った時はまともな子だと思ったんだけどなぁ……と、未柴姉妹の後ろ姿を眺めながら、慎二は思わず涙する。というか、遊羽の顔つきがなんかそっち系に振り切れている気がするのは気のせいだと思いたい。

 

「………………なんかもうめちゃくちゃだよな」

 

 水着売り場に消えて行った未柴姉妹の後ろ姿を眺めながら、ぽつりと、慎二はそうつぶやいた。

 

 

 


 

 

 そのころのマコトちゃんはというと、試着室のカーテンを押さえて絶賛立てこもり中であった。

 外から夜空が呼び掛けてくるものの、マコトが出てくる気配は一向にない。

 

「ほーらマコトちゃん!恥ずかしがってないで出ておいで~っ!」

「いや無理無理っ!こんな格好で人前出られないって!」

「今更何言ってるんだい!ブラもスカートも美容院も突破したんだ!ほら自分に自信を持ちなさい、マコトちゃんは可愛いんだからっ!」

 

 可愛いっていってもそれは夜空(おまえ)の身体だろうが!というツッコミを入れる間もなく、ずっと抑えつけていた試着室のカーテンが、強引に開かれる。

 そこには、

 

「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!!!!!」

 

 黒地に白いレースの付いたビキニ姿のマコトちゃんが、めちゃんこ顔を赤くしていた。

 シンプルなデザインの水着と、ほどよく整ったバランスの夜空の身体が見事にマッチングしており、なんとも言えない素晴らしさを醸し出している。恥ずかしがってる胸を隠している様も、余計に可愛らしさを際立たせている。これで中身が男なのだから、もう脳みそが2、3個程吹き飛んでもおかしくない。

 まさしくシンプルイズベスト。王道を地で行く女体化男子の水着デビューが、ここに生まれていた。

 それを見た女性陣の感想はというと。

 

「………………えっちだね。わたしの見立てに狂いはなかった」

「夜空の身体、一段と成長したくない?」

「恥ずかしがっているのがまたそそるんですよねぇ」

 

 眼孔ガン開きで魅入っていた。

 未可子と舞は、舐め回すかのようにマコトの水着姿を見ているし、夜空に至っては鼻血垂らしながらスマホのカメラを連写しまくっている。なんかもう、リアクションがオッサンのそれだ。

 

「あの……もう脱いでいいよね……」

 

 涙目になりながらたずねるマコト。彼女は恐怖と恥ずかしさでどうにかなりそうだった。

 これで終わりなわけがない、まだまだ着せ替えは続くのだ。

 そんなマコトの懸念を実証するかのように、舞が口を開く。

 

「駄目ですね夜空センパイ。マコトセンパイの可愛さはこんなモンじゃないんですよ……まさか自分の身体だからって、恥ずかしがっているんじゃあないでしょうねえ⁉︎ 自分の身体に破廉恥な水着なんて着せられない、そう思っていませんかね⁉︎ 」

「なにおうっ⁉︎ シンプルイズベストという言葉を知らないのかこの野朗っ!」

 

 夜空が選んだ水着にダメ出しをしまくる舞。その手には、一着の水着が。

 じりじりと、水着を持った舞が近づいてくる。ちなみにだが、今の舞はマコトの身体である。よって気持ち悪さ倍増だ。まさか自分の顔にここまで恐怖する日が来ようとは、夢にも思わなかった。

 

「さあ着替えましょうね、マコトセンパイ♡」

 

 悪夢が、再び迫る。

 


 

 

 

 数分後。

 試着室から再び姿を現したマコトの顔は、死んでいた。

 理由は簡単。

 

「ま、マイクロビキニッ……」

「なん、だと」

「…………………」

 

 舞が選択したのは、まさかのマイクロビキニであった。

 マコトは猛反対したのだが、舞の意思と力の強さの前にはなす術なく、こうして白いマイクロビキニを着せられていた。秘部だけ隠せればそれでいいと言わんばかりの布の少なさには、流石の田中も耐えきれずに、店の外まで逃げ出してしまった。それくらい破廉恥だった。

 というか、男の身体である舞が女の身体であるマコトを無理矢理着替

えさせるとか、普通にアウトな気がするのだが、その辺は誰も指摘していない。もう駄目だこの世界。

 

「センパイは可愛いんですから、もっと曝け出すべきですよ!」

「曝け出しすぎにも程があんだろ⁉︎ こんなのエロ漫画とかでしか見たこと無いわっ‼︎ 」

 

 必死にうずくまって身体を隠しながら、舞に抗議するマコト。

 こんな低防御力の水着が実際に存在することじたいが驚きだ。というかマイクロビキニなんて、女子高生に着せるようなモンじゃないだろう。もしも親しい異性がこれを着てるところを見たら、とてもじゃないが以前のような付き合いは不可能になるだろう。

 流石にこれは舞以外からは不評だったようで、夜空に至っては、自分の身体を辱められたと、怒り心頭の様子。

 マコトは速攻で元の服に着替え直し、マイクロビキニを床に投げ捨てる。

 それを見た未可子がやれやれ、といった風に首を横に振りながら、舞の肩に手を置く。

 

「舞ちゃん、まだまだね。闇雲に肌色の面積を多くすればいいってモンじゃないのよ」

「なんですとっ⁉︎ くそっ……夜空センパイの身体を辱めてやりたいという欲求が抑え切れないばかりに……っ!」

 

 なんか聞き捨てならない言葉が聞こえた気がするが、気のせいだろうか。いや、夜空がさらにキレているから気のせいではないだろう。

 最後は未可子チョイスの水着だ。

 

「あたしの水着は安心していいわ。きっとマコト君も気にいると思うから、ね?」

「もう不安しかないんだけど……」

 

 そう言いながら、未可子はマコトに水着を手渡す。

 マコトは手渡されたそれを見て、目を疑った。

 

「……これ何?」

 

 それは、常軌を逸した代物だった。

 見た感じは普通のビキニタイプの水着だ。しかし、()()()()()()()()()()()()()()()()

 おまけにスピーカーらしきものが紐の先端についてるし、そこからジャキンジャキンドカーン!とかいう音が繰り返しなっている。ハッキリ言って意味不明だった。マコトの頭の中では、これを見たときからひっきりなしに、脳内のデュエルキングが「なぁにこれぇ?」を連呼している。兎に角、それくらいぶっとんでた。

 

「“DX(デラックス)ライトニングビキニ”だって」

「何それ⁉︎ 仮面ライダーの変身ベルト買いに来たんじゃねーんだよオレはッ‼︎ てかどこの誰に需要があるんだよ⁉︎ 」

「男の子ってこーゆーの好きなんじゃないの?」

「少年心舐めんなっ!小学生でも着ねえよこんな水着っ!」

 

 しかも値札を見たら二万円と書いてあった。商品自体もそうだが、値段もイカれてやがる。なんでこんなもんが市場に出回っているのかが理解できない。

 というかさっきから、水着が無駄に光ったり鳴ったりしていて鬱陶しいことこの上ない。絶対水着にいらない機能だと思う。

 しかし未可子は無駄に自信満々であり、“DXライトニングビキニ”をぐいぐいとマコトに押し付けてくる。

 

「いや案外似合うかもしれないでしょ!一旦着てみてよ!」

「あからさまな地雷原に飛び込む趣味はねーんだよ!そんなに着せたきゃ自分で着ろよ⁉︎ 」

「分かったわ、着てあげる」

「おぬ#Mp¥くひょ@=7ぷび〒qD€らば☆ーっ⁉︎ 」

 

 なんと未可子は、自分で“DXライトニングビキニ”を着るとかぬかしやがった。念のため言っておくが、未可子は現在慎二の身体である。そんな彼がこの馬鹿みたいなビキニを着るところなんぞ、見たくもないし想像もしたくない。

 マコトは慌てて未可子を止めようとするが、彼は素早く試着室に入るなり、カーテンを閉め切ってしまった。

 マズイ。このままでは慎二の身体が辱められてしまう。

 

「おい誰かこの馬鹿を止めろ!地獄が生まれようとしてるぞ!」

「未可子センパイ、その水着うるさすぎやしませんかね」

「なんでお前マイクロビキニ着てんだああああああああっ⁉︎ 」

 

 いつのまに入っていたのか、隣の試着室からマイクロビキニを着た舞が姿を現した。ちなみにだが、今の舞はマコトの身体だ。つまり、マコトは自分のマイクロビキニ姿を目にしてしまったということになり——

 

「もう、無理——」

「せ、センパイイイイイイイイイイイイイッ⁉︎ 」

 

 マコトは目の前が真っ暗になった。

 もう何も見たくないし、考えたくもなくなった。

 

 

 


 

 そして帰りの電車にて。

 

「なんか大事なモン失った気がする」

「今日ほど入れ替わりを憎んだことはない」

「もうお婿に行けない……」

 

 しくしくしく、と号泣の嵐であった。

 あの後かなりの時間を使い、マコト以外の面々も着せ替え地獄に付き合わされることになった。女子達は終始はしゃぎまくっていたが、男子達はもう目が死にまくっていた。特に、舞はキワドイ水着ばかりを、未可子はゲテモノ水着ばかり選ぶしで、もう散々だった。

 例外的に、学人は遊羽とのマンツーマンで水着選びをしていた。シスコンパワーで水着への恐怖を乗り越えた彼女は——とにかく平常運転だった。彼女達は、今も車内で仲睦まじくしている。邪魔はしないでおこう。

 割と勝ち組だった学人とは対照的に、新品の水着が入った袋を抱えながら、座席の上で縮こまっている小野と影浦。そんな彼女たちに、隣に座っていた未可子が声をかけてくる。

 

「あんたらそんな有様で大丈夫なの?明後日こそ本番なのよ?」

「そ、それは分かっているのでござるが……」

「これを人前で着る……?買ってしまった後に言うのもアレだが、私は自信ないぞ……」

「あんたら見た目いいんだからオシャレしなきゃ勿体無いじゃない。あたしや舞はこの身体だから、女の子のオシャレなんてもう出来ないんだからね?」

 

 そこには、普段学校の誰もが頭を抱える問題児の姿はなく、ただ水着姿の披露を躊躇する内気な女の子達の姿しかなかった。

 向かいの座席では、買い物袋を膝に乗せたマコトが、虚な目をして電車内の天井を見上げていた。隣に座っている田中は、そんな彼女をなんとか慰めようとしている。

 

「……明後日かぁ、明後日これを着るのかあ」

「まあマコトも元気出せよ。男ならどんな逆境だろうと、ばーんと胸張って突っ込むしかないんだよ、な?」

「田中、お前の言葉は有難いが……正直な気持ちを言ってみろ」

「お前らの水着楽しみです」

「人事だと思いやがってこのエロ坊主っ!」

 

 メキョリ。

 マコトの一撃により、凄まじい音を立てながら田中の顔が凹まされた。

 ズシンと音を立てて、電車内の床に沈みゆく田中。端的に言ってめっちゃ迷惑です。車内が空いていてよかったというべきか。

 マコトはすたすたと車内を移動し、夜空の隣に座り直す。

 

「今日は最悪だった……」

「わたしは、今日はすっごく楽しかったよ」

 

 マコトの愚痴に、夜空はまんねんの笑みで返す。

 

「お前らは楽しかっただろうな……人の尊厳をメタメタに破壊してたんだからな」

「いやアレはマコトちゃんの反応が初々し過ぎてちょいと意地悪したくなっちゃったといいますか……でも、マコトとこうしてショッピングするっての、初めてだったからさ。それで余計にはしゃいじゃったんだよね」

「まあ、オレもだよ。本当は入れ替わってない状態で来たかったんだけど……入れ替わりがあったから、夜空ともっと近づけたというか……」

 

 そう。

 今は女の子同士だけれども、もしも身体が入れ替わっていなければ、普通のデートみたいになったのかもしれない。

 しかし入れ替わりがなければ、マコトと夜空は、こうして仲が進展することもなかったのかもしれない。そう考えると、一概にトライアングル・シャッフルを否定する気にもなれない。

 

「夜空はさ、オレが夜空にになってしまったことをどう思ってる?」

「ん、そうだなぁ……最初は、目の前で自分の身体が勝手に動いていることに違和感は感じたけど、今は慣れたよ。てか、マコトがわたしになってるんだって思うとめちゃくちゃ愛おしくてさぁ」

「自分の姿をした奴を愛するとか、ナルシストかよ……」

 

 なんとなく、夜空と目を合わせづらくなったマコトは、車窓の外に目をやった。

 ビルの隙間からは、夕陽に照らされた海が垣間見える。

 

「明後日、か……」

 

 膝の上に乗せた手に、力がこもる。

 分かっている。

 本当の戦いはこれからなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 




本来ならば「初回から海に行こうぜ!」となる筈でしたが、水着買いに行くだけで1話使ってしまいました。なんてこったい!
「あと2話しかないのにそれで大丈夫なのか⁉︎ 」と思っている皆さん、ご安心ください。なんとかしてみせます。

とりあえず次回に続きます。
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