トライアングル・シャッフル   作:カオス箱

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水着回その②です。
いろんな奴らが出てきます。オールスターだぞみんな喜べよ。


第11話 スワップ・アフター・サマーバケーション②

 

 

 さんさんと降り注ぐ夏の日差しの下で、マコトは死んだような目をしながら呟いた。

 

「……………来てしまった」

 

 何処に?

 ——もちろん、海にだ。

 なんか勝手に海に行くことになって、強引に水着を買いに行かされてから数日後。彼女は今、海に来ていた。夜空をはじめとするその他大勢も一緒だ。

 馬鹿みたいに照りつける太陽の下、海水浴場は浮かれに浮かれた馬鹿どもでごった返していた。

 それも例年の比ではない。なんせ全人類の半数近くが入れ替わった未曾有の災害、トライアングル・シャッフルが起きた後なのだ。これを機に新しい自分の身体を存分にアピールしてやろうと、どいつもこいつも躍起になっているのだ。

 ちなみにだが、マコトは現在、水着の上からパーカーを羽織っている。やはりというかなんというか、ここに至ってもなお、彼女は水着姿を晒すことを躊躇していたのだ。

 このあまりの往生際の悪さには夜空といえども呆れる他なかった。

 

「朝からくらい顔してるんじゃあないっての。水着デビューを怖がるこたあないんだって!マコトちゃんは可愛いんだからっ!」

「可愛いって……そもそもコレ、お前の身体なんだからな?」

 

 なんとかマコトを褒めて自信を付けさせようとする夜空だが、そもそもマコトが使っているのは夜空の身体なので、どう足掻いても自画自賛の域を出ない。

 が、マコトの気分が優れないのには、もう一つ理由があった。

 

「夜空……着替える時、変な視線感じなかったか?」

「私は別に……?まあマコトちゃんみたいに女の子になった男の人も割といるから、そのあたりだったりしないの?」

「中じゃない。外から見られていた」

「マ?それってつまり覗き⁉︎ 許せんっ!他人の彼女の生着替えを覗くとかマジ許せないっ!」

 

 そう。

 更衣室で着替える際に、何者かの視線を感じていたのだ。

 最初はマコトも、女体化した野郎がジロジロ見てるのかな、と思ったのだが、視線の発生源が明らかに室外だったので、すぐに覗きだと看破した。しかし相手も中々素早いようで、気づいた直後に逃げられてしまった。

 

「気のせいだといいんだけど、気をつけるに越した事はないからな……お前も気をつけるんだぞ、夜空」

「ま、そうだね。忠告ありがとね」

 

 そう言いながら、夜空はマコトの手を掴む。

 

「……なんで手を掴んでるのかな」

「君を逃がさないためだよ。さあマコトちゃん、私と一緒に海にダイブしましょうぜ!」

「あかんテンションイカれてるぅっ‼︎ 」

 

 夏の魔物に狂わされた幼馴染みに手を引っ張られるがまま、マコトはビーチに引き摺り出される。

 そこで、見てしまった。

 

「お嬢ちゃん迷子?おじちゃんが親探しを手伝ってあげようか?」

「なんならおじさん達とあそぼうよ。きっと楽しいよ?」

「ふざけんな変態共男性器三枚おろしにするぞ」

 

 東雲慎二(しののめしんじ)(見た目女子小学生)がキモいおじさんコンビに絡まれていた。

 それを見てしまったマコトと夜空は、思わず素っ頓狂な声を上げた。

 

「「なんかやべー事になってるーっ⁉︎ 」」

 

 


 

 

 

 その頃、ビーチの別の場所にて。

 

「スイカ割りじゃあっ!行くぞオラァッ!」

「上等だ!俺の方がぜってー上手いしっ!」

「ははははッ!お前なんかに負けるわけがないって証明してやラァっ!」

 

 明智翔琉(あけちかける)(見た目は金髪の外国人少女)VS相馬孝司(そうまたかし)(見た目は黒人少年)のスイカ割り対決が幕を開けていた。

 同じサッカーチームで互いにエースの座を競い合うライバルである二人は、今日もバチバチにやり合っていた。

 10メートル程先に置かれたスイカと対峙しながら目隠しをし、棒を持って準備バッチリ。今まさに、少年たちの熱い戦いが幕を開けようとしていた。

 

「よし、準備できたわね?じゃあいくわよ!READY GOッ‼︎ 」

 

 皆原(みなはら)ひさか(肉体:錦健吾(にしきけんご))の開始の合図の直後、両者は同時に動き出した。

 ちなみだが、日頃から健吾の身体で女装しているひさかは、今日も女装していた。しかも何処で手に入れたのか、旧スク水だった。白いゼッケンには“けんご”と平仮名で書いてあるしで、なんかもうめちゃくちゃだった。

 

「あれに違和感を覚えなくなった自分が怖い……」

「健吾くん泣かないで、健吾くんの水着も似合ってるから、ね?」

 

 変わり果てた元の自分の身体を眺めながら、健吾(肉体:阿波栗千夜(あわぐりちや))はどこか遠い目をしていた。自分は異性のクラスメイトの身体になるわ、自分の身体で女装されるわで、健吾の自尊心はもう滅茶苦茶になっていた。涙なんかとっくに枯れちまっている。

 そんな彼女を慰めるのは、クラス一の優等生である阿波栗千夜(肉体:皆原ひさか)だ。彼女は彼女で、バリバリのお転婆娘だっなひさかの見た目になったことで、大人しい中身とのギャップがクラスの男子から人気を博していた。

 

「ほら、わたしたちも泳ぎに行こうよ。せっかく来たんだから楽しまないと、ね?」

「阿波栗さんありがとう……でも引っ張らないでいたいいたい」

(健吾くん、前々から仕草が可愛らしかったけど、今はほんとうに女の子みたいだ……)

 

 健吾を海へと連れてゆきながら、そんなことを思う千夜。

 今の二人は、仲のいい女の子同士にしか見えなかった。

 

 


 

 

 ビーチパラソルの下では、翔琉の姉・矢霧(やぎり)と母・(かえで)が寛いでいた。

 彼女達は、翔琉達の付き添いでこの海水浴場に来ていた。なんでも、“小学生だけで遠出するのは危ないから保護者が誰かしらついていけ”と学校から言われているからだ。

 

「元気いっぱいねー、

「母さんもあの中に混じっていったら?きっと違和感ないよ」

「いや私おばさんだし……子供の輪に入るのは流石に恥ずかしいというか……」

「どの口が言ってんだ、子供ルックス悪用して色んな恩恵受けてるくせに」

「子供の姿だと色々とみんなが親切にしてくれるんだよねぇ助かるよねぇ」

 

 入れ替わりで得た身体を割と有効活用してしまっている母親の姿を見て、矢霧は本気で情けなく思えてきた。

 なんでこうも順応できてしまうのかわからない。自分も入れ替わっていれば理解できたのかもしれないが、それと同時に、理解したくないという気持ちも確かにある。矢霧は頭を抱えていた。

 

「あ、お姉さん達ここにいたんですね」

 

 そこに、一人手持ち無沙汰だった呉竹真澄(くれたけますみ)(肉体:渡会未可子(わたらいみかこ))がやってくる。

 入れ替わりによってひと足先に女子高生の身体となった彼女は、子供達の中でも色んな意味で目立ってしまう。それを嫌って矢霧のもとにきたのだろう。

 

「あれ、真澄ちゃんは遊ばないの?」

「この身体で翔琉達といたら悪目立ちするんで嫌です。さっきから男共の視線が気になりますし」

「あーね、わかるわかる。でもね真澄ちゃん、男ってだいたいそんなもんだから」

 

 まだ11歳の真澄には、大人の女性に対して向けられる熱のこもった視線は、まだまだ辛いものだった。彼女はこうしてまたひとつ、世界の汚さを垣間見たのだ。

 真澄は矢霧の隣に腰を下ろすと、思い出したかのように矢霧に頭を下げる。

 

「あ、そうでした。お礼を言うのをわすれてました。ありがとうございますお姉さん、保護者役を買って出てくれて」

「いいって事よ。あたしも暇だったからさ」

「いや保護者って私がいるんだけど……」

 

 見た目女子小学生の専業主婦が何か言ってるが、矢霧は当然の如く無視する。今の楓の見た目で保護者を名乗れる訳がない。見た目的には真澄の方がまだ名乗れると思う。

 そんな感じに楓がぷんすかしていたところに、

 

「ヘイそこのおねーちゃん達ヨォ、おねーさん達と一緒に遊ばなーい?」

「君可愛いねぇ!オレ達と一緒に快楽天国いかなーいかーい?」

 

 ……なんかやべー目つきの女性達が来た。

 言動からしておそらく中身は男。大方、女同士ならば女をひっかけやすいと踏んで声をかけてきたのだろう。

 だが、(見た目はともかく)母である楓の前でナンパしたり、所謂逆コ○ンである真澄に声をかけるというのはいただけない。

 

「母親たる私の目の前で娘をナンパとか度胸あるじゃない。ちょいと面貸せよ」

「ガキンチョがしゃしゃんなよっ」

「ぐひゃあ目に砂がッ⁉︎ 」

 

 むっとした楓がナンパ女共に食ってかかるが、顔面に砂をぶっかけられてあっさりとダウンしてしまう。だめだこのロリ人妻、まるで役に立ちやしない。

 こうなったら自分がなんとかするしかない、と矢霧は真澄を庇いながら身構える。幸いにして互いに女。身体的なハンデはないに等しいので、矢霧ひとりでもなんとかなるだろう。

 

「反抗的な目つきも嫌いじゃないぜ?」

「むしろ濡れてきた!さあお姉さんと一緒に——」

「ちょわあーっ!」

「ぶぐひゅひいっ⁉︎ 」

 

 オカマ共が矢霧達に迫る直前の出来事だった。

 グシャッ、と鈍い音を立てて、オカマ共が砂浜に沈んだ。

 

「な、何?」

 

 突然の出来事に戸惑う矢霧。

 そこに、

 

「あ、真澄ちゃん元気にしてたー?」

 

 にゅっ、と。

 妙に女っぽいシナを作っている男子高校生・渡会未可子(わたらいみかこ)(肉体:東雲慎二)が顔を出してきた。

 状況的に、彼がオカマ共を成敗したのだろう。未可子は真澄に気づくと、倒れたオカマ共を踏みつけながら真澄の元へと近寄ってゆく。

 

「未可子さん……貴方も海に来てたんですね」

「気をつけなよ真澄ちゃん。今の君は花の女子高生なの。悪い男とかよりまくりだからね?気をつけないと怖い目にあっちゃうからね?」

 

 未可子はそう言いながら、真澄の身体のあちこちを確認する。元の自分の身体だからというのもあるが、どちらかというと、真澄自身を心配しての行動なのだ。

 

「知り合い?」

「近所に住んでる人ですね。入れ替わ(こうな)ってからちょくちょく話したりしてるんです」

「どーもですっ」

「と、ともかくありがとう。助かったわ」

「いいってことさお姉さん。じゃああたしはコレで。友達と来てるからね」

 

 矢霧に礼を言われた未可子は、さっそうと何処かにいってしまった。ろくに声をかける暇すらなかった。

 

「今の、真澄ちゃんが使ってる身体の持ち主さん?なんか逞しいなあ……」

「あの人に限った話ではないと思いますけどね、ほら」

 

 真澄はそう言いながら、海の方を指差す。

 そこには、仲睦まじく水の掛け合いっこをしている健吾と千夜だったり、スイカ割り第二ラウンドと称してチャンバラをおっ始めやがった翔琉と孝司だったりと、なんか無茶苦茶やってる友人達の姿があった。

 皆が皆、ちぐはぐだった。

 見た目と中身がまるで合っていない。しかし矢霧にとってそれらは、この3ヶ月間で日常になってしまっている。

 

「結局、人間って大抵のことには慣れちゃうんですよ。翔琉も健吾も千夜もひさかも……私だってそうです。きっと、いつかは元の身体の感覚も忘れて、このちぐはぐな状態に慣れてしまうんです」

「……でもそれって悲しくない?元の自分を見失っていくのってさ」

「だったら、お姉さん達が覚えていてください。入れ替わっていない皆が、昔の私たちを覚えててくれたらいいんです」

「……………」

 

 真澄の言葉を、矢霧は黙って聞いていた。

 彼女の言葉を借りるならば、入れ替わった者と入れ替わらなかった者の両方がいるのは、きっと、変化を記憶して欲しかったからなのだ。

 ならば、その役目を喜んで受け入れよう。

 普通のサッカー少年だった弟を。普通の主婦だった母親を。普通の子供達だった皆を。入れ替わってしまう前の皆のことを忘れずにいよう、それが部外者たる自分の務めだ。

 そう矢霧は思っていた。

 

「じゃあ私も遊んできます。見てたら混ざりたくなってきましたので」

「あ、ちょっと……」

 

 真澄はそう言うと、千夜達の方へと走っていってしまった。

 矢霧はひとり、海で遊ぶ(おとうと)達を眺める。

 いや、正確にはもう一人いた。

 

「……それはそうと、母さんはいつまで目潰し状態続行してるんだろうね」

 

 砂で目潰しされていまだに悶え苦しんでいる楓。

 そんな彼女を、矢霧は冷めた目で見つめるのだった。

 

 


 

 

 またまたその頃。

 

「しまったな……皆と逸れてしまった」

 

 三度の飯より妹が好きと豪語する変態・未柴学人(みしばがくと)は、絶賛迷子中であった。

 可愛いフリル付きのビキニに身を包んだ彼女は、兎に角目立っていた。なんせ彼女が使っている妹・遊羽の身体は、顔もいいことながら、中学生とは思えないレベルでスタイル抜群なのだ。そんな彼女が少し歩くだけで、周りの男共は次々と悩殺されていた。

 その恐ろしさは凄まじく、彼女に見惚れたいたいけなショタ数名が精通し、通りかかった学人に見惚れた彼氏が彼女にキレられるという形で仲違いを起こすレベルだ。その有り様たるや、もはや現代に現れた淫魔というか災害だった。

 

「ふっ……可愛いとは罪なものだな……」

 

 こうして10人の少年を性に目覚めさせ、3組のカップルを修羅場に巻き込みながら、ビーチの橋までやってきた学人。

 

「む、そこにいるのは……誰だ?」

 

 そこで彼女は、一人の少女と出会った。

 その少女は、夏だというのに長袖パーカーを着てフードを目深く被っている。短パンから覗くふとましい脚やパーカー越しに確認できる胸の膨らみから、学人はその人物の性別を推測できた。

 まるで息を潜めるかのように、岩の上に腰掛けている彼女に興味のわいた学人は、岩をよじ登って彼女の隣まで行き着く。

 

「何してるのだ、こんなところで。海水浴……に来た訳ではなさそうだが」

「…………別に」

「なんだか暗い奴だな……」

「初対面の人間にそれ言うとか、失礼極めすぎでは……」

「ん……?」

 

 少女の声を聞いて、学人は眉を顰めた。

 はて、今の声。何処かで聞き覚えがあるような気がしてならない。一体何処の誰なのだろうか。

 その時だった。

 ぶわっ、と強い潮風が二人に吹きつける。それによって学人は危うく岩の上から落ちそうになるし、少女は被っていたフードがずれて、隠していた顔が顕になる。

 そして。

 少女の素顔を見た学人は、思わず目を丸くした。

 

「……増田(ますだ)ひばり?」

 

 そう。

 少女の正体は、若者中心に絶大な人気を集めている高校生アイドル・増田ひばりだった。

 いや、正確には、“増田ひばりの姿をした誰か”だ。

 ひばりも入れ替わりに巻き込まれ、今は小学生の身体でアイドル活動を続けている。だから、目の前の少女の中身は間違いなく別人だ。

 学人に素顔を見られれてしまった少女は、悲鳴を上げながら学人から離れようとする。

 

「うわああああっ⁉︎ 」

「ちょ、そんなに暴れたら落ちるぞっ⁉︎ 」

 

 が、不安定な足場の上でそんなに乱暴な動きをすれば、転倒するのは自明の理。少女は足を滑らせ、岩の上から落ちかける。

 咄嗟に学人が手を伸ばすが、遊羽の細腕では引っ張り上げることも叶わず、二人揃って海にダイブしてしまった。

 激しい水飛沫をあげながら浅海の中に落っこちる二人の少女。学人は少女の手を取りながら、なんとか海面から顔を出す。

 

「ばっ……浅くて助かった……」

「ぐぇっ……」

「気をつけるのだぞ?ったく……そんなに顔を見られたくなかったのか?」

 

 人気アイドルの姿をした少女は何も言わない。

 だが学人は、その沈黙で理解した。きっと彼女には何かしらの事情があるのだろうということを。

 

「我は未柴学人、妹をこよなく愛する魔王だ。お前、名前は?」

「…………樫葉宗介(かしばそうすけ)

 

 互いに名乗る少女達(中身はどっちも野朗だが)。

 学人の判断は早かった。

 

「そうか。なら、一緒にふざけ倒すとしよう」

「え」

「こうしてあったのも何かの縁だ、せっかくの海で、我が誘っているのだから、辛気臭い顔を根こそぎ吹っ飛ばすレベルで遊び倒そうではないかっ‼︎ 」

「あの、ちょっと……いきなりすぎない?」

「夏は有限!笑えばどんな辛いもんでもあっという間に消し飛ぶぞっ!さあ行くぞ!」

「少しはこっちの話を聞いてくれませんかね⁉︎ 」

 

 有無を言わさず学人は宗介の手を引っ張ると、バシャバシャと浅海を突っ走ってゆく。

 この時、宗介は後悔した。なんかめちゃくちゃヤバそうな人に絡まれてしまった、と。

 その出会いが吉と出るか凶とでるかは、まだわからない。

 

 

 


 

 

 なんやかんやあって慎二を助けた後、とにかくマコト達は遊び倒した。

 水着が波にさらわれてマコトがすっぽんぽんになったり、無理やり参加させられたミスコンで脱がし合いの大乱闘になったり、どっかから女の子拾ってきた学人の提案でビーチバレーをやったりとめちゃくちゃだったが、退屈はしなかった。

 そして海に訪れてから数時間後。

 

「疲れたぁ……」

 

 更衣室の前にあるベンチに背中を預け、マコトはだらけ切っていた。

 ここに来た当初は水着姿を晒すのをあんなに嫌がっていたくせに、今の彼女はすっかりビキニを曝け出していた。慣れとは恐ろしいものである。

 

「……暑いな、裏手に回るか」

 

 ベンチに座っていたマコトだが、直射日光に耐えきれずに動くことにした。更衣室の裏手ならばまだ日陰だから涼しいはずだ。そう思いながら、彼女は裏手にまわり——

 

「フゥ—————————」

「………………」

 

 更衣室の窓に張り付くようにして中を覗き込む男の姿を目撃した。

 そいつは、短パンTシャツにバーコードハゲという、エロ漫画とかに出てくる典型的なキモいおっさんみたいなルックスをしていた。その上、手足は細いくせに腹だけは異様に膨れている。まるで奇行種の巨人みたいな体型だ。

 彼はしばらくの間、マコトに見られていることに全く気付くことなく、蝉のように壁に張り付いて小窓から女子更衣室の中を覗いていた。

 が、

 

「きゃあああああああああああああっ!」

「うわあああああああああああっ⁉︎ なんだあのオッサン⁉︎ 」

 

 どうやら気づかれたらしい。

 更衣室の中から悲鳴がした瞬間、男は慌てて窓から顔を引き離してその場から逃げ出した。

 

「待てこの変態野郎っ‼︎ 」

 

 マコトは慌てて覗き魔を追いかけはじめる。今のマコトは女の子。男から邪な視線を向けられることの辛さは身に染みてわかっているがゆえに、逃げる覗き魔を許せなかった。

 男は石階段を駆け上がり、すぐ近くの道路に上がる。マコトは水着姿であることも厭わずに、男の後を追って海岸沿いの道路に出る。

 

「くそっ……アイツ早速いっ……」

 

 が、男女の身体能力の差故に、なかなか追いつけない。

 ふと男の顔を見ると、彼はマコトの方を見て邪な笑みを浮かべていた。あれは、女を制欲発散のための道具としか見ていないクソ野郎の顔つきだ。

 “女のくせに俺をどうこうしようなんて馬鹿なことを考えるのはやめるんだな!”とでも言っているかのようだった。

 マコトは必死に追いかけるが、男女の身体能力の差に加え、ビーチサンダルを履いているが故に、思うように速く走れない。

 このままでは逃げられる。

 

「誰かっ‼︎ その男を捕まえてくれっ!」

 

 マコトがそう叫んだ直後。

 ゴッ‼︎‼︎‼︎ と。

 マコトを嘲笑いながら逃げていた男の顔面に、何か丸いものが激突した。

 

「ぶかっ……」

 

 何かをぶつけられた男は、口から数本の歯を吐き出しながら地面に倒れる。飛んできた物体はコロコロと地面を転がって、ガードレールの支柱にぶつかって静止する。

 それはフルフェイスのヘルメットだった。投げつけられた衝撃でバイザーはひび割れており、側面にも傷のようなものができてしまっている。

 

「だ、誰だっ⁉︎ 誰がこんな真似ぐひゃあっ‼︎ 」

 

 男はヘルメットを掴んで激怒するが、そこに間髪入れず、真正面からのローキックが男の顔面に炸裂する。

 鼻血やらなんやらを出しまくりながら、男は仰向けになって地面に倒れる。

 覗き魔が顔を挙げると、そこには金髪ピアスの青年とライダースーツの青年——山内亜衣(やまうちあい)丙寅美咲(ひのえみさき)が立っていた。

 彼らはゴミを見るような目で覗き魔を見下ろしている。

 美咲はタバコを一本ふかしながら、男の胸を踏みつける。

 

「ったく、油断も隙もありゃしない」

「なっ……なんだテメェらッ⁉︎ 」

「と、通りすがりの者ですぅ……」

「亜衣、犯罪者相手に萎縮する必要なんか無いって。アタシ達は正しいことをやった、そこに遠慮なんていらないのさ」

 

 美咲はぐりぐりと、男を踏みつけている足に力をこめてゆく。彼は元女として、この男のやったことに怒りを顕にしていた。

 そこに、遅ればせながらマコトが追いついてくる。周りの人間は、美咲の気迫に完全に気圧されていた。

 

「アタシ達はよくこの辺をツーリングするんだけどね、近頃海水浴場で覗きや盗撮が問題になってるって噂を耳にして、ちょいとこのあたりで待ってたんだよ。そしたら大当たり。わらっちまったぜ」

「と、盗撮覗きはダメですっ!しっかり罪を償ってくださいっ!」

「ぬ………………ぐう……!」

 

 美咲に気圧された男は抵抗することもできずに、なすすべなく亜衣の持っていたロープでぐるぐる巻きにされる。彼らがすでに呼んでいたのか、ほどなくして1台のパトカーが到着し、男を連行していった。

 すべてが終わった後、美咲と亜衣はマコトの元へと歩み寄り、握手を求めてきた。

 

「君が見つけてくれたんだよね?ありがとう。おかげで捕まえられたよ」

「あ、いや……オレは全然だよ。追いつけなかったし」

「それでもよくやったよ。アタシ達も女の子だったからさ、アイツが許せなかったんだよね。ほんと助かったよ」

 

 美咲は微笑みながら、マコトと握手を交わす。

 そして落ちていたヘルメットを被って被ると、亜衣と一緒に近くに止めてあったバイクにまたがってどこかに行ってしまった。

 マコトはひとり、その場に取り残される。

 何よりも強く正しくあろうとする二人の姿は、ひとりの少女の瞳に、確かに焼き付いていた。

 

 


 

 

 こうして、幾つもの出会いと交わりが生まれた、夏の1日が終わろうとしていた。

 

「マコトちゃんそんなヒーローチックなことしてたの⁉ いいなあわたしも活躍したかったなあ!」

「羨ましがるポイントじゃないからな⁉ 」

 

 マコトから上記の一件を聞かされた夜空は、なぜか羨ましがるそぶりを見せる。やめろやめろ、ヒーロー願望は無理にかなえようとするものではないのだ、とマコトは彼女を何とか説得させる。

 他の皆も、色々と楽しんでいたようだ。

 田中は終始サーフィンではしゃいでいたし、学人はなんか知らない女の子と仲良くなって遊羽から嫉妬されていたし、慎二は小学生の集団にとりこまれていたしで、とにかく各々が各々で、いろんな出会いと遊びを体験していたことだけは確かだった。

 

「来年も来れるかな」

「ああ。その時には、元に戻っているといいんだけども」

 

 道路に接続する石階段の途中で振り返り、夕日に照らされた海を眺めるマコトと夜空。

 ねじまがったこの世界は、今日も何事もなかったかのように終わってゆく。この入れ替わりが元に戻る日が来るかどうかは、まだだれにもわからない。だが、現状を悲観するだけでなく、楽しむことも大切なのだ。

 少なくともこの日だけは。

 マコトは、そう思った。

 

 

 

 




なんとか書き上げました……残すは後1話。
後半投げやりすぎるだろ!
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