トライアングル・シャッフル   作:カオス箱

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第3話です。
割と酷い下ネタがあります。


第3話 暁月真人③:マッシュルームマザー

 

 

 

 色々とありながらも、体育の授業が終わり、放課後を迎えた。

 あの後、ソフトボールの試合で変態(オカマ)共へのリベンジに成功したマコトちゃんは、清々しい気分で放課後を迎える……はずだった。

 余談だが、変態(オカマ)共の暴れっぷりを考慮し、授業後の着替えの際は教師の監視が入ったので、ものすごーく平和裏に終わった。その点はマコトも慎二もホッとしている。

 ……話が逸れたが、兎に角マコトは精神的にもすっかり元通り……にはならなかった。

 理由はかんたん。

 

「……………」

「何?なんでこいつさっきから黙り込んでるワケ?」

「色々あったのよ……田中には教えてやんないけど」

「まぢむり……オレ馬鹿だろ……もうオレお婿に行けない……」

(マコト抱くの結構よかったなんて言えない)

 

 そう。

 メンタルブレイクされていたとはいえ、外で大っぴらに夜空に抱きついて、というかおっ○いに顔埋めてしまっていたことについて、マコトは今更ながら恥ずかしくなってきたのだ。

 今の彼女は、なんであんなことしちゃったんだろうと、自己嫌悪と恥ずかしさでいっぱいいっぱいになっていた。もうマコトちゃんのメンタルは踏んだり蹴ったりだった。そんな彼女を、美紀と夜空は半ば呆れながらも慰めている。

 そんな光景を見ていた田中が一言。

 

「羨ましいぜ……女同士だからって抱き合うとかよぉ……俺も抱きしめられたい!」

「田中、グーチョキパーのどれで顔面潰されたい?」

「や、やだなあ冗談でびぃがあああああああああんんっ!」

 

 空気を読まない発言をした田中を真っ二つにするように美紀のチョップが炸裂する。田中が床を転がりながら悶絶するのを背景に、夜空がマコトを落ち着かせる。

 

「大丈夫!お嫁に行けるし……それにほら、トライアングル・シャッフルのおかげで同性婚認められるようになったし、なんとかなるよ!多分!」

「お前は性別かわってねえからお気楽な発言できるんだよぉ……てかそれ慰めになってないからね⁉︎ 」

 

 そんな感じのやり取りがしばらく続いた後、ようやく落ち着きを取り戻したマコト。いつまでも教室で駄弁っているのもアレなので、そろそろ下校することにした。

 ちなみに美紀はというと、隣の教室から不純性交友の気配を感知したとのことで、風紀委員としての役目を全うすべく目にもとまらぬ速さで走り去っていった。外国人が見たらジャパニーズニンジャ呼ばわりしてそうなほどの、華麗な動きだった。

 今日は部活もないので、皆学校に残ることなく帰っている。が、その光景もカオスを極めていた。

 どうみても高校生じゃないだろ、というような見た目の奴らが多すぎる。朝も似たような光景を見たが、それでも慣れないもんは慣れないのだ。

 と、そこに、

 

「センパーイ!帰りましょう!」

 

 いやという程聞き飽きた、そして若干懐かしい —— 自分の声が聞こえてきた。

 マコトが後ろを振り返ると、そこには、ニコニコと笑顔を浮かべている男子高校生が居た。まるで典型的なラノベ主人公の如く、どこかパッとしない雰囲気の黒髪の少年。それが本来の暁月真人の姿だった。

 しかし、今その身体を動かしているのは全くの別人。

 彼の名は伊佐木舞(いさぎまい)。マコト達のひとつ下の後輩であると同時に、今の夜空の身体の、本来の持ち主。それが彼女もとい彼、伊佐木舞という少年(しょうじょ)だった。

 舞は笑顔を崩すことなく、マコトの顔を見るなり、後ろから抱き着いてきた。

 

「ちょっいきなり何すんだよ⁉ 」

「愛情表現に決まってるじゃないですか!私のマコト先輩を思う存分堪能したいという願望……わかってくれますよね?」

「わからんわっ!てか自分の姿をした奴から好意向けられるとか恐怖でしかないんだけどっ⁉ 」

 

 ――もうこの時点でお分かりだろうが、舞はマコトに行為を抱いている。

 2人は中学時代からの知り合いだったのだが、マコトは何だか知らない内に舞から好意を抱かれており、ある時彼女から告白される。

 が、マコトが断ったにもかかわらずその後もめげずに猛アタック。高校もわざわざ同じところに入ってきているので、正直言って怖い。てか男の身体になったことで余計に絵面が悪化している。

 そして夜空はというと、舞がやってくるなりあからさまに不機嫌になる。上記の理由から、舞と夜空は非常に仲が悪い。顔を合わせるなりバチバチやっているのだから、間に挟まっているマコトからすればたまったもんじゃない。

 夜空が舞の胸倉を掴み、睨みつける。

 舞も負けじと睨み返す。

 

「おい横恋慕野郎。いきなり割って入ってこないでくれませんかね?」

「は?夜空先輩こそやめてくれませんか?今の貴女は、自分が散々嫌ってきた横恋慕ちゃんです。先輩と結ばれるのは私がふさわしいと思いませんか?」

「マコトの身体だからって調子乗らないでよね。身体なんか関係ないし、私はいつでもマコト手に入れられるし!」

「告白する根性もない癖によく言いますね。てか女同士でとか……無理でしょ(笑)」

「フラれた癖に恋人面するなこの野郎。てか今の発言普通に駄目だと思うんだけどなぁ!」

「うわー、こんなコテコテのラブコメがこのご時世に見られるとは……なんか寒くなってきたぁ……」

「冷めた目で見られても困る……っ!てかヘルプっ!助けてくれ!」

 

 蚊帳の外に置かれた田中が白い目でマコトを見てくる。マコトは必死に助けを求めるが、親友・田中は動く気配が見受けられない。

 2人のバチバチは次第に過激になってゆく。心なしか、さっきからピー音が聞こえてきているような気がするのだが、果たして大丈夫なんだろうか。

 

「HELP~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!」

 

 間に挟まれたマコトの悲痛な叫びは、誰にも届かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 喧嘩の現場から逃げるようにしてマコトが家に帰ってくると、玄関に見慣れない靴がいくつもあった。

 階段の上の方からは、なんかガヤガヤドタバタと喧しい音がしている。恐らくだが、弟の大智が友達でも連れ込んでらっしゃるのだろう。男とはすべからく煩い生き物なのだ。

 これは一発注意せねばなるまいと思い、マコトは階段をあがり、弟の部屋の扉をノックする。が、反応がない。

 無視とはいい度胸だ。

 

「お前らうるせーぞ!ひとん家で何プロレスやって……」

 

 一応ノックしたしいいよね、ということでマコトは勢いよくドアを開け放つ。

 が、部屋の中に広がる光景を目にした瞬間、彼女は絶句した。

 

「揉~めっ!揉~めっ!」

「オレのπの触り心地はどうだ…………?」

「凄く……最高です(小並感)!

0818315(おっ〇いはさいこう)でっす!」

「俺の【自主規制】に大気圏突入(意味深)してくれよぉ……」

「ダインスレイヴ(意味深)発射しそう……!」

 

 乱雑に床に脱ぎ散らかされた服。服をはだけさせた少年少女。半裸の少女の胸に手をかけている男子中学生と、それを見て声援を送っている外野連中。中には持参したのか、まだ海開きには早いというのに水着を着てる少女もおり、男どもと一緒になって半裸になってる少女になんか言っている。

 彼ら彼女らは大層盛り上がっているようで、マコトに気づかずにわーわーきゃーきゃーと騒いでいたのだが、ふと、ベッドの上に立って音頭を取っていた大智が、部屋の入口で固まっているマコトに気づく。

 そして、沈黙した。

 

「あ……………………」

「なんだよ大智!急に静まり返ってさぁ!折角俺が女の身体教えてやろうとして――」

 

 恐らく中身は男子中学生であろう半裸の少女が、急に静まり返った大智に文句を言うが、彼女もマコトの存在に気づいた途端、一気に黙り込む。そして、他の連中もマコトに気づくなり、まるで蛇に睨まれた蛙のように固まる。ついさっきまでの騒々しさが嘘のようだ。

 マコトは一歩、部屋の中に入る。怒りの籠ったその一歩は床を大きく軋ませるとともに、大智達を震え上がらせる。

 大智は冷や汗だらだらになっていた。顔は青ざめ、歯をガチガチと鳴らし、思わず失禁しそうになる。13年弱もの間一緒に暮らしてきたが、こんなに怖いマコトはみたことがない。夜空の姿でこれなのだから、きっと元の姿だったらもっと怖いのだろう――ということを考える余裕もないほどに、大智は震撼していた。

 

「おい大智」

「はいいいいいいいいっ⁉ 」

「…………覚悟できてんだよな?」

 

 腰を抜かし、壁際に追い詰められる大智。彼はもう既に少しちびっていた。多分他の連中も同じだろう。

 マコトを突き動かしているのは強い責任感だった。兄、いや姉として、こんな不純性交友を認めるわけにはいかない。このわからず屋共にお灸をすえねばならないというならば、それは自分の役目だ、と。この瞬間、彼女は修羅となった。

 ――夜空よ、今だけはこの身体で誰かを傷つけることを許してほしい。

 そう思いながら、拳を強く握りしめる。

 大智がなんとか絞り出した言い訳は、修羅とかしたマコトには届かなかった。

 

「あ、あにっ……姉貴⁉︎ こ、これは……」

「問答無用っ!」

 

 大智が口を開いた瞬間。

 ドカバキドカドカズベラバキンッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! と。

 非常に暴力的な音が家中に響き渡った。

 

 


 

 

「で、言い訳はある?」

「触っただけなんです。脱いでもらっただけなんです。シてないです」

「大して変わんねーんだよこの馬鹿ブラザーッ‼ 」

 

 とりあえず一通りぶん殴ってから正座させた後、説教タイムが始まった。

 大智に至ってはもう顔中痣まみれであり、二回も鼻血を出してひくひくしている。

 

「お、俺達は別に【自主規制】する気なんて全然なくて……」

「冗談は格好だけにしとけよ?」

 

 赤髪の少女(もちろん中身は男子中学生)が苦し紛れの言い訳をするが、服をはだけさせた状態で言ってるので全然効果がない。

 正直なところ、マコトも大智たちの気持ちは分からなくもない。異性の身体に興味があるのは普通のことだ。だが、節度というモノがあるのだ。ましてや彼女らの身体は自身のモノでなく、全くの赤の他人のモノ。知らん奴に知らん間に自分の身体を傷物にされるとか、悲惨以外の何物でもないだろう。

 というか男子中学生に責任が取れるわけがない。コイツらは一体保健体育の授業で何を学んだというのだ。まさか教科書を勉強ではなくオカズにしか使ってなかったのではないだろうか。だとしたら我が弟ながら馬鹿にも程があるだろう。

 

「マジで責任とれんのかよお前ら?無理だよな?」

「そ、そーゆーお姉さんのほうはどうなんですか⁉ 俺達に説教かましときながら、まさか自分は楽しんだりしてませんよね⁉ 」

「女の子になったんだ!それなら女の気持ちを味わいたいじゃん⁉ あんただってわかるだろう⁉ 」

「反省してないようだな、もう10回ぐらい殴られるか?事情が事情だしお前の親御さんも快諾してくれるだろうしな」

「ご勘弁っ‼ 」

 

 未だに反省していないエロ猿がいたので、彼の目の前でマコトが拳をぎゅっと握って見せると、彼は悲鳴を上げながら土下座してきた。

 なんだかさらにムカついてきたので、マコトは土下座しているエロ猿の背中を思いっきり踏みつけると、大智たちを一瞥する。そして、部屋の隅でガタガタ震えている女の姿をした変態(ばか)共に活を入れる。

 

「お前らもだ。人様の身体汚そうとするな!妊娠したらどうする⁉ お前らにママになる覚悟があるのか⁉ ねえだろ⁉ お前らもういっぺん保健体育うけなおしてこんかいっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! 」

「「ごべんなじゃいいいいいっ!! 」」

 

 泣きじゃくりながら土下座するオカマ共を見て、マコトは振り上げていた拳を下ろす。

 ようやく――戦いは終わったのだ。

 

 

 

 


 

 

 それから少し経って。

 ひとしきり説教をし終わったマコトは、自室に戻って扉を閉めるなり、その場に崩れ落ちる。

 なんだか今日はどっと疲れた。学校では様変わりした同級生とかに終始振り回されていたし、家ではさっきのように馬鹿共に説教する羽目になったしで、もうめちゃくちゃだった。後者については、こんなことはマコトのするべきことではない。後は大人たちに任せよう。

 マコトちゃんは、人間ってあそこまで馬鹿になれるんだなと思うと同時に、自分の周囲の人間が悉く馬鹿まみれだったという事実を知って、なんか闇落ちするほどの勢いでショックを受けていた。人類に絶望して世界滅ぼす系の悪役の気持ちが分かったような気がする。確かにあれを見たら滅ぶべしと思わんでもないだろう。

 

「つかれた……けど、着替えないと」

 

 制服を脱ぎ捨て、クローゼットから私服を引っ張り出す。

 私服については、入れ替わって間もない頃に夜空から色々と貰ったのだ。本人曰く、サイズが合わないのでしばらく貸してやるとのことらしいが、当然ながらマコトは女物の服なんて持ってないので、渡りに船というかなんというか、そんな感じに使わせていただいている。

 まあ夜空は女子の中では結構背が高いから、身長的に服のサイズが合わなくなるのは当然ともいえる。

 そんな話はさておき、マコトは着替え終わると、力無くベッドに腰掛ける。

 

「何度見ても慣れないんだよな……」

 

 正面に置かれている鏡には、ベッドに腰掛ける夜空の姿が映っている。部屋にはほとんど変化がないのは対照に、部屋の主(マコト)だけが変わっている。

 暁月家でトライアングル・シャッフルに巻き込まれたのはマコトだけだ。だからこそ、余計に疎外感を抱いてしまう。学校が再開される前までは、ほぼ夜空としか関わっていなかった。

 でも、だ。

 今日久々に外に出て、分かったことがある。

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 夜空も学人も舞も、皆多少なりともはっちゃけてはいたが、根本的なところはあまり変わっていなかった。見た目が変わってしまっても、夜空は能天気だし、慎二は真面目だし、学人は中二病でシスコンだし、舞はアレだし。

 多くの人の努力があってこそだが、こんな突飛で非現実的な出来事に巻き込まれてしまったとしても、世界はなんとか回せている。その事実に、マコトはどこかほっとしていた。

 

「戻るのかな……これ……」

 

 ベッドに横たわりながら、少女はつぶやく。

 その口から出る声も、視界に入っている手も、それを映す目も、どれひとつとってもそこに暁月真人の要素は皆無だ。それを示すのは精神(こころ)しかない。だからこそ、自分を失いたくはないと強く願う。精神(こころ)まで染まってしまえば、それはもうきっと自分ではなくなるから。

 

(オレは……まだ暁月真人(オレ)でいられるのか……?)

 

 ねじ曲がったままの世界は、これからも続く。誰がなんと言おうとも、どれほど願おうともそれは終わらない。

 今日もまた、こんがらがった非日常(まいにち)が終わろうとしている。

 願わくば、次目覚める時にはすべてが終わっていますように、と。

 一縷の望みを胸の内にしまい込みながら、少女は目を閉じた。

 

 

 

 




この作品のテーマは「非日常を普通に生きる人たち」です。
異常な世界が広がったとしても、彼らは生きてます。
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