いろんなシチュエーションをやっていきます!
短編集でショートショートとか馬鹿だろ!ネタ切れ誤魔化しにきてるだけだろ!と言いたげなみなさん。
……あたりです。
今回は、単体で話を膨らませるに至らなかった話をいろいろとぶちこみました。
入れ替わり部外者視点もあったりします。
それではどうぞ。
9-1:大国軍人の憂鬱
「はぁ……」
ダストン・バックロイは溜息をついた。
彼はとある大国の軍人である。
刈り上げた金髪、絶え間ない鍛錬と幾度となく潜り抜けた死線によって作り上げられた屈強な肉体。ギャングだろうと思わず逃げ出してしまいそうなほどの強者のオーラを絶えず出している(本人は無自覚だが)ダストンだが——この日の彼は、やたらとナイーブになっていた。
「何溜息ばかりついてるんだよ。久々のバーベキューだというのに、それじゃあ飯がマズくなるだろ?」
「酒臭いなマートン、一体どのくらい飲んだ?」
同僚の黒人男性・マートンが、ビール瓶片手にダストンの肩に手を回してくる。既に結構な量を飲んでいるのか、耳にかかるマートンの吐息はアルコール臭かった。
「マートン……これが溜息つかずに居られるか?俺たちは歴戦の
今日は軍の同期達とのバーベキューだ。
しかし、そこにいる参加者の内の半分近くは、体重3桁はありそうなデブ、幼稚園児ぐらいの子供、際どい衣装をきた美女と、どうみても現役の軍人には見えない。
——トライアングル・シャッフルによって、一部の業界は大変な被害を被った。
軍隊はその最たる例の一つだ。
屈強な肉体を失い、新たな身体となってしまった。その中には、老人や赤ん坊、病人や怪我人になってしまい、復帰が絶望的になってしまったものもいる。
今日こうしてバーベキューパーティーを開いたのも、同期達の現状を確認したいのもあってのことなのだ。
「酒ダァ!酒くれぇ!」
「駄目だアッシュ、今のお前は幼稚園児なんだ。酒なんか飲んだら身体に悪いよ。医者から飲酒を控える様に言われていただろう。これを機に禁酒生活をだな——」
「それは前の身体のことだ!今の俺の肝臓は健康そのものだ!妻にも飲酒を止められてんだ、ここでぐらい飲ませてくれ!」
ある場所では、幼稚園児の身体となったアッシュが駄々をこねていた。
アッシュは同期の中でも屈指の酒好きだった。
元よりアル中じみてるレベルで飲みまくってた彼にとっては、酒も煙草もできない今はキュークツで仕方がないのだろう。彼を諌める同期は、かなり苦労していた。
「まさか
「うわ、マジで腹の中で動いてるぜ。俺の娘の時と一緒だ」
「身体大事にしろよな。お前の大事な子供なんだからさ」
またある場所では、マタニティドレスを着た妊婦が、キャンピングチェアに腰掛けていた。
彼女——ローリーは、兎に角女にモテなかった。そんな彼女が、童貞を捨てる前に一児の母になろうとしているのだから驚きだ。
その身体の持ち主から子供を奪ってしまった形にはなるのだが、ローリーはその分、頑張ってお腹の中の子を育てていくつもりらしい。
そんな感じに、キャンピングカーのそばで、変わり果てた同期達の様子を眺めながら、マートンと一緒にビールを飲んでいたダストン。
そこに、むにゅんと、彼の背中に柔らかいものが当てられる。
「な、な、っ……何するんだヒューズ!」
ダストンは慌てて椅子から立ち上がって振り返る。
そこには、無駄に露出の多い服を着た巨乳の美女がいた。彼女の名はヒューズ。元はダストンに負けず劣らずの筋肉ダルマだった彼は、あらゆる男を悩殺するセクシーダイナマイトな身体を手に入れていた。
ダストンに突き放されたヒューズは、わざとらしく胸を寄せながらダストンにじり寄ってくる。
「ぱふぱふだよ。ダストンも好きだろ?」
「や、やめろよ⁉︎ その身体……教官の娘さんのだろう⁉︎ 」
「ウブだねぇダストン君は。股間でかくなってんぜ?それともなんだ?このように……おっぱいに顔埋めたいのかい⁉︎ 」
「うわ何をすぬぶっ⁉︎ 」
「ダストン⁉︎ おのれ……けしからん!」
ダストンが何か反論しようとするよりも早く、ヒューズはダストンの顔を自身の胸に押し付けてきた。
もがくダストン。
しかし、周りの奴らは皆バーベキューパーティーを満喫していてこれに気づかないし、マートンは羨ましがるばかりで役に立たない。力づくで引き剥がすこともできなくはないが、ヒューズが使っているのは、ダストンがお世話になった教官の愛娘の身体なので、傷つけるわけにはいかない。
早い話、手も足も出せない。
(頼むから、この悪夢から早く覚ましてくれ……!)
ヒューズのおっぱいを顔に押し付けられながら、ダストンは神にそう願うのだった。
9-2:リスタート・イン・レイン
「ひっぐ……うう……」
雨の降る、海岸沿いの道路の上で、彼は泣いていた。
—— 彼・
ある朝、彼女が目を覚ますと、“彼”になっていた。
めちゃくちゃ人相の悪い顔、下品に染め上げられた金髪、ピアスのじゃらじゃらついた耳、ボーボーのすね毛、そしてパンツ越しにはっきりと分かる、股間の膨らみ。
「何よこれ……」
そこから亜衣は、瞬く間に全てを失った。
バイト先の飲食店からは、
「その顔で接客はちょっと、ねえ……お客様を怖がらせかねないし……」
と、出勤を渋られた。
というか、他のバイト達からハブられだした。
1人だけ男になってしまったが故に女子グループから爪弾きにされ、かといって男子グループにも馴染めず。
彼の周囲には、入れ替わり被害を受けた者が少なかった事も災いした。亜衣の周囲の人物は皆、変わり果てた亜衣を腫れ物扱いする様になった。
極め付けは、友人の裏切りだった。
「アンタの彼氏、わたしと付き合うことになったから。いくら中身が女だろうと、男とは付き合えないってさ」
「………………嘘」
所謂寝取り。変わり果てた亜衣に耐えきれず、恋人も離れていってしまった。
それからはもう、どうでもよかった。
大学にもいかず、バイトもバックれ、毎日ぶらぶらする様になった。順風満帆だった人生設計が、あっという間に狂ってゆく。
結果として亜衣は、人間関係を全部破棄する羽目になった。身体を失うだけで、こうも呆気なく崩れ去る日常が馬鹿馬鹿しくなってしまい、何もする気が起きなかった。
(なんで……なんだろう)
現実逃避をするかの様に髭を剃りながら、亜衣は自問する。
何故自分がこんな目に遭わなければならない?それほどまでに悪いことをしたのか?
ふらふらと雨の中外を歩きながら、亜衣は涙を流す。
強面に似合わない泣き顔を晒しながら、アテもなく歩き続け——
「——何処?」
迷った。
完膚なきまでに迷子になってしまった。
ガードレールの向こう側には、海がすぐ横に見える。きっと晴れならばいい眺めだったのだろうが、生憎今は雨が降っている。
ここにくるまでずっと、心ここに在らずだった亜衣は、ここで幾許か正気を取り戻す。
「……うそぉ。どうしよう」
普段の徘徊でも来ない様な場所に来てしまい、亜衣は思わず焦り出す。あんなに絶望しきっていたのが嘘みたいだった。
「スマホないし財布ないし……終わったなぁ……」
あたりには民家らしきものがない。一体何処まで歩いてたんだ?と、少し前までの自分を責めずにはいられなかった。
不安に駆られる亜衣。
ポロポロと、ここ数ヶ月で脆くなった涙腺から涙が溢れ出す。
「う、うう……」
と、その時だった。
「何やってんのよ、そんなとこで」
突然かけられた声に、びっくりしながら振り返る亜衣。
そこには、雨に濡れた一台の大型バイクと、それに跨るフルフェイスヘルメットを被った人物。身体つきと声からして、男のようだ。
「その様子……アンタも女の子だったりするの?」
「え、じゃあもしかして……」
「そ。あたしもこう見えて元女よ」
この日。
同類が出会った。
近くにあった、潰れたガソリンスタンドの屋根の下に入り、雨宿りをすることにした二人。
「ふう」
「……」
声をかけてきた青年(中身は女性だが)・
「なんかずいぶんと生気のない顔してたから、てっきり幽霊かなんかだと思ったんだけど……人間でよかったよ」
ヘルメットを外した美咲は、顔に大きな傷を持つ男性だった。顔はいいしガタイもいいのだが、顔の傷の存在が、彼が普通の人ではないということを言外に示している様に見える。
亜衣が美咲の顔の傷を凝視していることに気づいたのか、美咲は笑いながら顔の傷を指差して、
「あ、この傷?あたしもわかんないんだよねえ。入れ替わり以前からついていたんだろうけどさぁ」
「よく笑えるなぁ……」
「まあ怖がられるのにはもう慣れたしね。てか今の亜衣ちゃんも大概じゃない?」
「それは、そうだけど……」
俯き気味にそう口にした亜衣だったが、その時ふと、足元の水溜りに映った自分の顔が目に入った。
当初金色に染められていた髪は脱色したし、チクチクしていた髭は剃った。それでも、元の自分とは遠くかけ離れた見た目だ。この身体になってから、亜衣はひとりぼっちになってしまった。持ち主には申し訳ないが、この顔を見るたびに亜衣は憂鬱になる。
「で、どうしたの。随分とやつれている様だけど……良かったら話くらいは聞いてあげるよ」
「え、いや……」
「こういうのって、案外赤の他人に話した方がすっきりするもんだよ」
「そう……なのかな」
美咲にそう言われた亜衣は、考える。
どうせ友人知人には分かってもらえないのだ。ならば、同じ入れ替わり被害者である美咲の方が、まだ分かってもらえるのではないか。
そう思った亜衣は、重い口を開く。
「じゃあ——」
そうして、亜衣は語り出した。
入れ替わりによって何もかもを失ってひとりぼっちになった、自分のことを。それを理解してくれない周りへの愚痴を。
美咲は黙ってその一部始終を聞いてくれた。
そして、亜衣が最後まで話し終わった後、
「そっか……まあ、辛いよね」
「両親も入れ替わりのせいで連絡取れないし……私の周り、入れ替わってる人が少ないから、味方が誰もいなくて」
亜衣の話を黙って聞いていた美咲。
話が全部終わった後、入れ替わる様に美咲が話を始めた。
「あたしさ、彼氏をぶっ飛ばしたんだよね」
「え?」
「あたしの彼氏、所謂DV野朗でね。些細な理由で暴力振るってくるクソカスだったんだ。同棲してるくせに家にピタ一文もいれず、自分の給料は煙草とパチンコに片っ端から注ぎ込んで……」
「そんな絵に描いたようなゴミ、いたんですね」
「いたんだよなーそれが。そういう奴に限って外面はいいからさ、あたしみたいに騙されるやつが出るのよ」
亜衣の言葉に対して自嘲気味に笑いながら、美咲はつづける。
彼氏のことを語るその目は、冷え切っていた。
「でさ、ある日目覚めたら、あたしは男になってた」
「……」
「彼氏はそのままだったんだけどさ、長年あたしを痛ぶってきて感覚麻痺ってたんだろうね。この身体になったあたしに殴りかかってきたのよ」
そしたらどうなったと思う?と、美咲が聞いてくる。
亜衣がしばらくの間、何も言わないでいると、美咲が先程よりも興奮したような調子で喋り出した。
「簡単に殴り倒せちゃったんだ。そしたらあいつ、馬鹿みたいに怯えて縮こまっちゃってさ。あいつ、弱いものいじめしかできないカス野朗だったんだ。それを知ったらすっごい気が楽になって、あっさり逃げ出せたんだ。今まで怯えて逃げ出せなかったのが嘘みたいに、な」
自慢げに笑いながら、美咲はそう言った。
そんな彼の顔は、どこか開放感に満ちたような雰囲気を出していた。
「すごいですね……私だったら無理かも……」
「いやいけるっしょ。亜衣ちゃんガタイ良いし、もうちょい気を強く持てば大抵なんとかなるんじゃないかな?要は気の持ち様だって」
「そう……なのかな」
「長年一緒だった自分の身体は、確かになくなった。けど今は、この強い身体がある。無くしたものばかり数えるより、今あるものを数えようよ?その方が気が楽にならない?人生、考えかたひとつでどうとでもなるんだから、さ」
美咲にそう言われて、亜衣は考える。
友人、恋人、バイト先——亜衣は、トライアングル・シャッフルによって何もかもを失った。今でもなくなったそれらを思い返すだけで苦しくて仕方がなくなる。
だが、泣き続けてもそれらは帰ってこない。
人生は得るものもたくさんあるけど、失うものだってたくさんあるのだ。亜衣の場合は、それが今だっただけの話。
ならば、ここでくよくよし続けるよりも、新しいものを手に入れるために動き出した方がいいのではないのか?
そう考えた亜衣の足には、いつのまにか、歩くだけの熱が戻っていた。
ヘルメットを持って立ち上がった美咲に、亜衣は立ち上がって頭を下げる。
「……ありがとう、ございます。私の話を聞いてくれて……私、入れ替わってから、こんな感じに話し合える人がいなかったから……」
「礼を言いたいのはあたしの方。一人で抱え込むにはアレだし、かといって他人にはちょっと話しづらくてさ。気が楽になったよ。ありがとね亜衣」
美咲は微笑みながら、ヘルメット片手に、停めていたバイクに向かう。
亜衣は元の美咲を知らないけれども。
美咲のその笑顔は、顔の傷が気にならなくなるほどに美しく見えた。
いつのまにか、雨音が聞こえなくなっていた。
雨は止んでいた。
「ついでに乗るか?走れば濡れた身体も乾くだろ。ヘルメットももう一個あるからさ、どう?」
「……うん」
亜衣はこくりと頷くと、美咲からヘルメットを受け取って被り、彼のバイクの後ろにまたがる。
雨上がりの空にエンジン音を轟かせ、2人を乗せたバイクは走る。
その行き来は、まだ——
9-3:サイドキックはキュートに去るぜ……
馬鹿みたいに明るい太陽の照りつける、初夏の翌る日。
とある公園のベンチに、二人の人物が腰掛けていた。
ひとりは短髪の男子高校生。特にこれといった特徴のない彼だが、ベンチに座っている足が内股気味だったり、やたらと女っぽいシナをつくっていたりと、その振る舞いの随所が少しずつ普通からずれているように見える。
もうひとりは、10歳くらいの女子小学生。白い髪によくわからない謎のヘアアクセをつけた、大人しそうな印象の少女だが、明らかにサイズの合っていないであろう女子制服を着ているあたり、彼女も彼女でおかしかった。
「それにしてもさ」
「んだよ」
男子高校生の方が、アイスキャンディーを頬張りながら、女子小学生のほうに話を振る。
「慎二、随分とちっちゃくなったね」
「うるせえよ。俺の身体盗っといてなんだよ、調子乗ってんのか?」
彼らもまた、トライアングル・シャッフルに巻き込まれた側の人間である。
今日はトライアングル・シャッフル以降初となる、高校の登校日。慎二と未可子は今、学校帰りの途中で、こうして並んで公園のベンチに座っては、アイスキャンディーを貪っていた。
「登校日が終わったわけだけどさ、どうだった?」
「それ聞く必要あるか?同じクラスだってのに」
未可子の問いかけに、アイスキャンディーを舐めながら答える慎二。
面倒くさかったので、彼女は答える気はなかったのだが、未可子は慎二の答えを待つかの様に、こちらを凝視してくる。
しばらくして、根負けした慎二が語り出した。
自分の顔に見つめられるのが、予想以上にキツかったらしい。
「まず色々と疲れた。身体小さくてすぐ疲れるし、クラスの奴らからは無駄に可愛がられるし、体育の着替えの時は他の連中が軒並み変態だし……もう最悪だよ……はやく戻りたい」
「わたしもだよー。すぐ汗臭くなるし、身体は重いし、事あるごとに股間のブツがデカくなるし……てか慎二のアレ、対して大きくなかったんだね」
「待て誰が粗珍だゴラぁっ!ナニした⁉︎ 一体ナニした⁉︎ 」
「入れ替わって2ヶ月だよ?そりゃあナニの2、3回ぐらいはやるのが普通じゃない。慎二だってやったんでしょ?」
なんというかことをしてくれたのでしょう。
なんと未可子は、慎二の身体でひとり遊び(意味深)をやったというのだ。メンタリティが性転換系のエロ漫画でよくいる女体化主人公のソレである。
まさかそれを隠しもせずに堂々とぶちまけるとは、今日一日、同級生達の暴走にツッコミ入れまくっていて色々と慣れてしまった慎二も、これには驚かざるを得なかった。
「お前なぁ!前々から性に対してオープンなところはあると思ったけどさあ!いくらかんでもそれはないよなぁ⁉︎ 」
「だって我慢できなかったんだもん!ギンギンに勃ってたんだもん!なんなら昨日も抜いたし!」
普通の入れ替わりならば反応的には男女逆だと思うのだが、そんなことはどうでもよかった。
慎二はベンチの上に立つと、未可子の胸ぐらを掴んでぐらんぐわんと身体を揺する。揺すっているのが自分の身体だとか、この小さな身体のどこにこんな力があったのかとか、そんなことも気にならないレベルでとにかく未可子を揺りまくった。
と、その時。
「何してるんだよお前よー!」
「ん?」
なんかすんごい生意気な声がしたので、未可子を揺するのをやめ、声のした方をみる慎二。
そこには、黒いランドセルを背負った少年がいた。半袖半ズボンのスポーツ刈りに加え、アホっぽい顔つきからして、いかにもわんぱく小僧ですといった感じの少年だった。
「なんだお前?」
「この公園は俺たちのテリトリーなんだそ!女は家でままごとでもしてるんだな!」
「あのなぁ……俺はこう見えてもお兄さんなんだ。帰れ帰れ」
少年の言動で、慎二は察した。
彼は慎二を小学生だと勘違いしているのだ。
そりゃあ今の慎二は見た目こそ女子小学生だが、これでもれっきとした男子高校生なのだ。なので、子供相手に生意気な発言をされたら、多少なりとむっとくる。
だが、ここでキレては大人げない。
慎二はなるべく穏当に少年をあしらおうとする。
が。
「てえええええええええええいっ!」
背後から謎の掛け声がした直後。
ぴらり、と。
慎二のスカートが捲られた。
「…………わお」
「…………………何した?」
ギチギチギチ、と。
慎二がゆっくりと振り返ると、彼女の背後にはもうひとりの子供がいた。
目の前のクソガキは囮であり、本命は後ろにいたもうひとりの方。敵は最初から二人いたのだ。
「お、真っ白!」
嬉しそうな声で、下着の色を口にするクソガキ。
この瞬間、慎二はキレた。
「てめっ……このクソ餓鬼どもめっ!覚悟しろよ!」
慎二は、スカートめくりをされる側の気持ちがわかってしまった。
——これは許してはいけない。
大人気ないとは思っているが、それでも、このガキ共にはお灸が必要だ。ちょうど今の慎二は女子小学生だし、絵面的には特に問題にはならないだろう。
慎二は顔を真っ赤にしながらベンチから飛び降りると、一目散に逃げ出したクソガキ達の後を追いかけはじめる。
「ゴラ待てやガキどもめっ!よくもやってくれたな⁉︎ 今度はお前らがズボン下ろされる番だ!」
「なんだコイツ⁉︎ めちゃくちゃだ⁉︎ 」
「逃げろ!なんかヤバいぜ‼︎ 」
未可子は、目の前で始まったあまりにもしょうもない追いかけっこを眺めながら、
「単純だなぁ慎二ちゃんは……だからこそ弄り甲斐があるんだけどね」
と。
実に呑気なことをのたまうのだった。
9-4:島崎家の5人
「ただいまぁ……」
島崎裕香は、玄関の壁に手をつきながら帰宅の挨拶をする。
走って帰ってきたのか、彼女は息をめちゃくちゃに切らしており、身体中汗べっとりであった。
「……」
裕香は、汗まみれの首元を手で仰ぎながら、下駄箱の上に飾られた写真立てに目をやる。
写真立てには、去年家族で行ったオーストラリアで撮った家族写真が飾られている。それを見た裕香は、無性に懐かしい気分になる。
「……だいぶ、変わったな」
島崎家は、裕香を除いた家族全員が入れ替わりの被害を受けた。
と言っても、世間一般からすればまだマシな方だと思う。双子の妹の
でも、この家族写真は撮れないのだ。
中身は同じでも、見た目が違う。
あまり目を向けていたくないその事実から逃げる様に、裕香は自分の部屋へと駆け込む。
「…………」
「あ、裕香姉おかえり〜」
が、先客がいた。
「何ずっと帰り待ってました的な風に振る舞ってんのよ……一緒に帰ってたでしょ。信号変わったせいで先越されたけどさ」
自分の部屋に行くと、何故か紗弓が勝手に上がり込んでゴロゴロしていた。
裕香とよく似た見た目をしていた紗弓だが、彼女は今、やや引き締まった身体つきのスポーティーな少女になっていた。どこの誰の身体なのかは知らないが、紗弓自身は割と普通に入れ替わりを受け入れてしまっている。
「いやー、この身体になってからすごい身軽でさ。運動も苦にならなくなったんだよね」
「でもそれ、他人が鍛えた身体じゃない?なんかこう……罪悪感とか、申し訳なさとか感じないの?」
「そりゃあ感じないと言ったら嘘にはなるけど……悩んでも身体が帰ってくるわけじゃないし。それにあたしの身体だって、どこぞの誰かさんが好き勝手に使っているし、この身体の持ち主の人も、他人の身体を勝手に使ってるわけじゃん?お互い様だと思うなぁ 、あたしは」
「わっかんないなぁ……」
紗弓の言葉をうまく呑み込めないまま、裕香は鞄を勉強机の上におきながら、そう口にする。
紗弓が能天気なだけなのか、自分が考えすぎなだけなのかはわからない。だが、裕香だったらあそこまで呑気にはなれないな、とは思う。きっと色々と無駄に考え込んで憂鬱になるのだろう。
そう考えると、自分はつくづく部外者でよかったと思うと同時に、そう思っている自分が嫌になってくる。
(ああもう、余計なこと考えるのはやめよう。ただでさえネガティブ思考って言われてるんだ。私が考えたって無意味だ)
着替えながら内心で毒づく裕香。
だいたい、紗弓が楽観的なのは昔からなのだ。それとは対照的に、裕香は余計に考えすぎる点が短所だと、昔からよく言われていた。
ならばこの件はあまり——
「見たまえ裕香、紗弓!俺の上腕二頭筋がかーなーり復活したぞ!」
裕香が着替え終わったその時だった。
バタン!と部屋の扉が喧しい音を立てて開け放たれると共に、それまた喧しい声が飛び込んできた。
それは、タンクトップを来た青年だった。タンクトップの布越しからでもよく見える、程よく引き締まった筋肉を見せびらかしてくるその様は、端的に言ってうざったらしかった。
部屋の入り口を塞ぐ様に立ち、鼻息を荒くしながら筋肉を見せつけてくる変人。
彼こそが、島崎家長男にして裕香と紗弓の兄・舞兎である。
裕香は舞兎の姿を目にするなり、一気にキレた。うるさかったのもあるし、もうちょっと彼がくるのが早かったら、裕香の着替えとバッティングするところだったのだ。そりゃ怒る。
「帰れ帰れ!何乙女の部屋にノーノックで入ろうとしてんだ⁉︎ デリカシーって概念ないのかこの筋肉野朗!」
「なにいっ⁉︎ ようやくここまで肉体美を取り戻したんだぞ⁉︎ 兄ちゃんの大胸筋に嬉しい悲鳴をあげていたじゃないか!」
「あれが嬉しい悲鳴なわけあるかっ!あれは汗臭さと胸板のゴツさと胸毛の感触を嫌がってたんだっての!」
「うそだろ……あれ嫌がってたのか⁉︎ 」
元より筋肉大好きな舞兎は、日頃から筋トレをしては、鍛えた筋肉を事あるごとに見せつけていた。そして筋トレをしまくった結果、特にスポーツとかやっているわけでもないのにゴリラみたいな体型になってしまった。
しかし、トライアングル・シャッフルによって、舞兎の肉体美は何処ぞの誰かに奪われ、舞兎は、ろくに運動もしていないような小太りな男になってしまった。
「だが、俺は弛まぬ努力の末、かつての肉体美を取り戻しつつあるのだ!ぬーははははははははっ!」
「煩いキモい帰れ出てけ!」
「あ、ちょ金的はやめぬぎょええええええええええええええっ⁉︎ 」
他人の身体だけどどうでもいい。
目の前にいるうざったらしい筋肉野朗の股間のブツを、裕香は躊躇いなく蹴り上げた。
そして、これまた喧しい絶叫が響き渡った。
そして時は流れ日没後。
「ただいまぁ〜」
「ごはんにする?お風呂にする?それともあ・た・しぃ?」
似合わないスーツを着た女子中学生に、ゴリラみたいな体格をしたハゲ男が、くねくねしながら擦り寄っている。台詞だけならばラブラブな新婚夫婦なのだが、実際にそれをやってるのは女子中学生とオカマなゴリラ男なのだ。
裕香にとってさらに最悪なのが、目の前で繰り広げているこの馬鹿げたやり取りをしているのが、
良い年した熟年夫婦が子供の前で何やってんだ。教育に悪いにも程がある。というかビジュアル的に逆だと思うし、単純に不快だ。
「あのさ……それやめてくれない?見るに耐えないんだけど……」
「夫婦円満で何が悪いんだ!お前たちだって嬉しいだろ⁉︎ 」
「私たちは愛し合っているの!そして母さんは、できればあなたたちにも同じくらい愛の溢れる過程を気づいてほしいと思っているわ!」
「思春期の子どもにとっちゃあ猛毒でしかないんだけど⁉︎ せめて二人きりの時にやってよ!」
裕香の苦情もどこ吹く風。二人は全然意に介さず、仲睦まじく抱き合っている。
この二人が島崎家の父・
「ご飯もうできてるわよ、先にいただきましょう」
「だな」
「さっきの三択の意味ないじゃん……」
裕香のツッコミをスルーし、流れるように食卓を囲むことになった島崎家の5人。
なんて事のない日常風景だったが、前述した通り、島崎家では裕香以外の全員が入れ替わっているので、中身は同じだが、見た目は完全にバラバラだった。
しばらくして、大皿に盛られた唐揚げを突きながら、信治郎がこんなことを言い出した。
「いやあ今日も沢山セクハラされたっ!部長も女の子になってるんだから、他人のを触らずに自分のを触ればいいのになぁ」
「信治郎さんに触るなんてその人、なかなか見る目あるわね。最高じゃない」
「それ訴えたら慰謝料搾り取れるんじゃないかな?」
「子供の発想じゃないよ……怖いよ裕香」
「父親がセクハラ被害受けてるとか、娘としてはちょっと感化できないというか……てか紗弓も嫌じゃない?」
相変わらず呑気なことを言ってる信治郎や紗弓だが、裕香的には、実の父がセクハラされてるとか知りたくなかった。
てか触られてるそれは他人の身体なんだから、もうちょっと本気で自衛とかしろよ、と裕香は思わずにはいられなかった。こんな馬鹿親父に身体を使わせてしまって、持ち主の子には申し訳ない。
「裕香はカリカリしすぎなんだって、もーすこしのんびり気楽にいったほうが人生楽しいよ、多分」
「みんなが能天気すぎるんだって……一応私としては、みんなを心配してるんだよ?入れ替わりでまったく別の身体になってるんだしさぁ」
「お、俺を心配してくれているのか⁉︎ さすが裕香、自慢の妹!この大胸筋でお礼を——」
「オメーの大胸筋なんか要らんわっ!」
前言撤回。こいつらは心配するだけ無駄だ。
裕香は、呑気に笑っている
(ほんっと、心配しがいがないというか……こっちの気苦労も知らないでさぁ)
入れ替わりに巻き込まれてしまった家族の支えになる。それが、家族で唯一入れ替わらなかった自分の責務だと、裕香はそう自分に言い聞かせている。
本人達は楽しんでいるようだけども、裕香自身は彼らをちゃんと心配しているのだ。
どうか家族が調子に乗ってやらかさないように、と。少なくともその程度には、家族を思っている。
だが、子の心親知らずというか。
なかなかにそれは、本人達には伝わらないのだった。
どいつもこいつもぶつ切りですまない……特に慎二パートはあまり内容が思い付かず、間に合うように急いで書いたからかなり適当なんだ。すまない。
次回はなつかしのキャラたちが勢揃いするかもです。