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――翌日 午前10時過ぎ
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辺り一面に色褪せた十字架の墓が広がっている。
まるでこの世の光景とは思えないほどに不気味で神秘的な"その場所"。
ここは無数の魂が眠っている墓地。その殆どか悪魔との戦いで命を落とした者ばかり。
時たま墓の前に何者かが訪れたのか花が供えられたものが目に付く。
そしてその傍らの道を歩く3人――
「ホテル事件と今回ので、デンジ君が敵勢力に狙われていることが分かった。だから4課を強化しようと思ったんだけどほとんど死んじゃったね。」
マキマの背後を距離を保ちながら歩く2人の悪魔。デンジは終始嬉しそうに表情を呑気に緩め、パワーは珍しく静かに歩みを進めていた。
「もしかしてマキマさんが指導してくれるんですか!?」
「――残念だけど私は忙しくなっちゃうから適任を紹介するね。」
ピタッとマキマの足が止まる。
そして目線の先にまさかの人物達が墓の前に佇んでいた。
黒いロングコートを纏った2人の後ろ姿。
デンジとパワーはその左に立つ女性の後ろ姿には見覚えがある。
「君たちを指導するのは"彼ら"だよ。……"ハル"ちゃんのことは説明は不要だね?」
2人の顔は強ばり、あまりの驚きに言葉が出てこない。ふるふると微かに体が揺れる様子にマキマは言葉を続ける。
「ハルちゃんの隣の彼の名前は……」
「"シー"、黙れ。」
ハルの隣に立つ男――岸辺。
彼はマキマの言葉を遮ると有無を言わさず背を向けたまま、悪魔2人組に質問を投げかける。ハルも同じく背を向けたまま言葉を発することなく静かに佇む。
「俺の質問に答えろ。
――仲間が死んでどう思った?」
「別に〜?」
「死んだ!と思った!!」
あっけらかんと答える2人。
仲間の死には大した思いはないらしい。
「敵に復讐したいか?」
「復讐とか暗くて嫌いだね。」
「ワシも!」
2人らしい回答に岸辺の隣で静かに佇むハルは小さく口元に笑みを零す。悪魔的な答えだ。
「お前たちは人と悪魔どっちの味方だ?」
「俺を面倒みてくれるほう。」
「勝ってるほう。」
岸辺が提示した3つの質問。
悩むような様子は一切見せず、間髪入れずに彼らは嘘偽りなく返答した。
すると岸辺はくるっと振り返り、そんな2人組に指を指す。
「――お前達、100点だ。」
「「あ?」」
"この男は一体何を言っているんだ?"と言いたげに2人は眉を顰め岸辺に視線を送り続ける。
その傍ら、ハルは手にしていた白い花が活けられている花束を目の前の墓に供えると、ゆっくりと岸辺と同じく振り返る。
ハルは瞼を閉じ、マキマと同じように手を後ろに組み、そんな3人の会話を静かに聞いていた。
「お前達みたいなのは滅多にいない。素晴らしい。――大好きだ。」
抑揚のない低い声。そして表情は無機質で人間らしさを感じない岸辺。そんな不気味な男の隣に立つハル。2人をよく知るはずの彼女にさえ、不気味に見えてしまう。
その様子にパワーは珍しく怖気付いたのか、小声で"怖い"と口にする。
「マキマ、お前は帰れ。今すぐこいつらは指導だ。」
「……じゃあ、後はよろしく。」
「マキマさん!?待っ――」
デンジが立ち去っていくマキマに視線を向けたその瞬間。岸辺はデンジとパワーの首に目に見えぬ早さで抱え込むように腕を回す。
「俺は特異1課でデビルハンターをやっている。お前らがよく知っているハルのバディだ。……先生と呼ばれると気持ちよくなれるから先生と呼んでくれ。」
「岸辺さんいきなり…」
「お前は黙ってろ。ハル。」
ハルは岸辺が行うであろうこの先の行動についてら容易に想像ができていた。容赦のないその行動に対し、ハルは注意を促そうと声をかけるも彼のドスの効いた低い声に制止される。
「…好きなのは酒と女と"悪魔を殺す事だ"」
「あ?」
「は?」
刹那、岸辺の腕にとんでもない力が加わる。そして痛々しい骨が折れる音が響き渡ると、ハルは微かに眉を顰めるため息を漏らした。
「っが……あぁ!」
「うぅ……ぐっ……くは……ぁ」
その力に抗えない2人。
悪魔を容易にねじ伏せることができる岸辺のその馬鹿力は本物だった。
首の骨から頸椎、胸椎、腰椎……全ての骨を折られた2人は岸辺の腕から開放されると同時にその場に倒れ込む。
あまりにも突然の出来事に2人は全く反応が追いついていない様子だった。
「うげぇ……」
「お、……起きれん…」
「お前達も筋肉と骨の仕組みは俺達と同じだ。首の骨を折れば動けなくなる。」
「……でも、人間と違うところは……」
ハルは胸ポケットから真っ赤な液体が入った輸血パックらしきものを取り出す。そして岸辺の隣へと立てば、真っ先にパワーがその匂いに反応を示した。
「血……血の匂いじゃ!!」
「血を飲めば復活するところ。ですね。」
そのパックを隣の岸辺に手渡すと地面に力なく体を転ばせる2人の口に鮮血を流し込んでいく。
すると2人は回復し、ゆっくりと体を起こせば微かに恐怖に戦く様子を見せ、岸辺とハルから離れるように後退する。
「ぐっ……なんじゃ……」
「チキショー……何しやがるテメー!よりによってハルの前でよお……」
ギャーギャーと騒ぎ立てる2人。
それを顔色一つ変えない岸辺。そして瞼を閉じたまま、微かに口元に笑みを浮かべるハル。
「マキマにお前達を鍛えてくれと頼まれた。お前の心臓がなぜか知らんが銃の悪魔に狙われている。なのにお前が簡単にやられるザコだから困ってるんだろうな。」
「……岸辺さん。言い方。」
「事実を言っているだけだ。」
容赦のない男の言葉にムッと口を尖らせるハル。デンジもパワーもハルからしてみれば可愛い弟と妹みたいなもの。言い過ぎでは?なんて呑気なことを考えるも、岸辺相手に意味を成すわけがなかった。
「なっ……なんでさっきワシらをシメた!?」
「…俺は人間を鍛えた事はあるがお前達みたいな悪魔は一度もない。酔った俺はどうしようかと考えた。――そしてアルコールでやられた脳でついに閃いた。」
虚ろな瞳を2人に向けたまま、岸辺は右手人差し指を顬に当て相変わらず抑揚のない口調で言葉を並べる。
「俺は最強のデビルハンターだ。最強の俺を倒せる悪魔は最凶なワケだから……お前達が俺を倒せるようになるまで、俺はお前達を狩り続ける。」
「((……岸辺さん。今日はいつもより調子よさそう。))」
どうやら彼はこの状況を愉しんでいる。
酒の進みも早いし、言葉数もやけに多い。
「それに。お前達が日頃から慕っているハルが攻撃を仕掛けてきた時、咄嗟にどう動くのか非常に興味が湧く。飼い主相手にどんな手を使うのか――」
「コイツ頭が終わっておる!」
「な〜〜?しかもハルを使うなんて卑怯だぜ。」
「ハルは俺ほどに最強とは言えないが本気を出せばお前達はひとひねりだ。コイツも同じくしばらくの間はお前達を狩り続ける。2対2で丁度いいだろう?ハンデはやらん。」
ツンツンと岸辺の人差し指がハルの頭を何度も啄く。ちょっとムカつくその行動に、かすかに眉を潜ませ不機嫌そうに首を傾げた。
「ちょっと待てよジジイ。ハルは目が見えねえんだ。そんな相手に……」
「お前達は"ハルの力"を知らない。」
「ハルの事は知っとるが?なんじゃ、このジジイ……」
「ナメてると狩られるぞ。例え可愛がってるお前達が相手でもな。」
「……あまり煽らないでくださいよ、岸辺さん。」
ニッと口元に笑みを浮かべるハル。
手を後ろに組んだまま、2人の気配を感じる前方に神経を研ぎ澄ませる。
「―――じゃ、再開だ。」
岸辺が2人に向けて歩き出す。
ハルも少し遅れて歩き始めた。
「酔ったジジイでも殺しちまったら逮捕だぜ?」
「ハルはどうするんじゃ?」
「そりゃ手加減するしかねえだろ?ハルの事は殴りたくねえ」
「ワシも同じ事を考えとる」
刹那、パワーは自身の能力を使い"血で作られたハンマー"を生成するとデンジに投げ渡す。
そしてそれを手にしたデンジは容赦なく岸辺に振り下ろした。
「......ッ!がぁっ......」
「デンジ!......ぐ!!!」
容赦なくデンジの体をナイフで滅多刺しにする岸辺。その一瞬の出来事に呆気に取られたパワーはあっという間にハルの刀の刃が振り下ろされた。
最強バディ。その2人の刃に一切の惑いは無い。
そして家族のように可愛がっていた2人にさえ、ハルは本気だった。
「―――男の方は不死身。魔人の方は半分不死身。咄嗟に人の頭をぶん殴れる脳みそを持っていて2人に人権は無い。」
血を流しその場に倒れ込む2人。
急所を一瞬で突かれ、先程のように再び死にかけている様子。
それを上から見下ろす岸辺とハル。
どちらが悪魔と言っていいのだろうか……
「……俺はガキの頃から力が強くておもちゃを直ぐに壊しちまう。だから壊れないおもちゃが欲しかったんだ。」
「本当にどっちが悪魔なんだか……。過去に指導してくださった時のこと思い出しちゃいました。」
「お前だって最初から狂ってただろうが。初対面の俺に向かってナイフ振り回しやがって。あの時食らった左の腿の傷が疼く。」
「......アレは"まぐれ"でしたから。」
何事もないかのような表情を浮かべ会話を続ける2人。その様子を痛みに悶えながら見上げるのはデンジとパワー。
「((……コレが……早パイやマキマさんが言ってた最強バディ……))」
「((あのハルがここまでやるとは……予想外じゃった……))」
ハルは血に濡れた刃をギラつかせると、動く気配のないデンジとパワーに容赦なく向けられる。
そしてそれと同時に隣の岸辺もナイフを構え、冷酷さを凝縮し、すごみさえ感じる低くて太い声で呟く―――
「俺"達"がお前らを最高にイカした奴らにしてやるよ。―――」
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