都合のいい夢を見させて   作:鈴夢

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艶笑浮かべる侵入者

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――午後21時

都内自宅――

 

 

 

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今日はアキの見舞いに行った日。

そして久しぶりに彼に会えた事に内心ほっとしていた。姫野を含む仲間の死に若干疲弊している様子を感じたもの、まだ涙を流すその心は失っていなかったのだ。

どうか心を失わず、アキには生き続けて欲しい。なんて夢物語のような話ではあるがハルはただそれだけを願い続ける。

 

 

 

「……えーっと。鍵、鍵……」

 

マンションの高層階、自宅前の扉に辿り着くと鍵を探すためにゴソゴソと鞄を漁る。

 

「んー……」

 

視力が戻るまであと2日。

難なく普通に生活はできるが、やはりどうにも慣れない。

 

「((……鍵。早川家に忘れてきた?そんな訳ないか……))」

 

手探りで鍵を探すにもなかなか見つからない。

先程まで早川家にてデンジとパワーと夕食を食べていたのだが、ニャーコに鞄を漁られた時に持っていかれた?なんてニャーコのせいにしかけた時……

 

「…ぁ……あった。」

 

 

無事鍵を見つけ出し鍵穴に鍵を差し込む。

……しかし、目が見えないのはとことん不便だ。介助者が居るならともかく……

 

 

「……((目が見えないってやっぱり疲れる。全盲なんて久しぶりだし。前なんて1ヶ月間も全盲だった時もあったののに……))」

 

ガチャッと解錠する音と手元に手応えを感じれば、そのまま扉の取っ手に手を伸ばし勢いよく引っ張る―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「"お帰りなさい"ハルさん?」

 

 

 

目の前に人の気配。

そして嫌いな男の艶めいた声。

 

 

 

 

「―――ツ!!!……"お"―――」

 

咄嗟に悪魔を呼び出そうとするもそれは叶わない。

思いっきり腕を強く引かれ、口と鼻を覆うように布のようなもので塞がれてしまう。

 

そしてそのまま室内へと引き摺り込まれる。

 

「ぅ……んッ!んん!!」

「そんなに慌てると"吸い込んじゃうよ"?」

 

突然の事に驚いたハルは咄嗟に呼吸を荒らげていた。

すると微かにツンとした刺激臭が鼻から体内へと入っていくような感覚。

 

「((……マズイ…………手足が痺れ……))」

 

 

 

 

"居るはずのない人物"。その男は人差し指と中指を絡めると悪魔の名前を口にした。

 

 

 

「"蛸"――」

 

 

刹那、どこからとも無く現れた蛸の足。

そして男はハルの体から手を離す。力を失った様子のハルの体に蛸足が絡むと広いリビングへと無理矢理引き摺られてしまう。

 

 

 

「ぐっ……ぁ……」

「ハルさんと真っ向勝負なんて自殺行為だし。だったら不意打ちしかないよね?」

「......ょし......だ......ッ......」

 

"吉田ヒロフミ"

姿は見えないが、彼がどんな表情をしているか容易に想像がつく。

 

コントラストのない真っ黒な不気味な瞳。口元に弧を描き、妖艶に嗤っているのだろう。

 

 

 

「……ッ………デ…く……」

「ダメだよ。悪魔は使わせない。……ていうか、もうまともに頭回ってないでしょ?」

 

吉田の氷のように冷たい大きな手。その手が容赦なくハルの首に掴みかかると呼吸を遮るように力が込められていく。

 

あっという間に蛸足に自由を奪われる体。やけに生暖かく、吸盤の嫌な感触が体にまとわりつくと吐きそうになる。

 

 

「……"蛸"。もう大丈夫そう。解放してあげて――」

 

抵抗する力を失ったハルの様子を見た吉田。彼は契約悪魔である"蛸"を引かせ、ハルの首を掴んだまま厭らしく嘲笑う。

 

 

 

「ビックリした?」

「......ぁ............は......」

「..かーわいい。......ハルさんの苦しむ顔。――見てるだけで興奮するよ。」

 

ミシミシと皮膚に食い込む吉田の指。男の手は容赦なく緩む気配は無い。

 

「((変な薬品嗅がされたみたい。……体が完全に動かなくなる前に……何とか……ッ))」

 

不意打ちに薬品。どんな姑息な手を使われようともハルは簡単に負けるような人間では無い。

実際、この男に何度か"仕掛けられた"事はあるのだが今の今までその手に落ちたことはなかった。…まあ、今回は酷いものだが。

 

……というより。この男は何故ここまでして自分に執着するのか理解できない。

 

 

 

「……ッ……んん!!」

 

なんとか力を振り絞り隙を見つけたハル。すると覆い被さる吉田の腹を躊躇なく強く蹴り上げれば"形勢逆転"。ジワジワと麻痺する感覚に抗いながらも今度はハルが吉田の上に跨り、彼の頭を右腕全体を使って強く抑え込む。

 

 

「「……ハル。このクソ餓鬼を殺そう。今すぐ。」」

「………………」

「「"緑"か?それとも"黒"か?お前が決めろ。…お前がその気なら代償は軽くしてやる。」」

 

ハルの背後から現れる鬼の悪魔。

鬼はハルに対して友好的。そして吉田を忌み嫌っていた。

 

契約者のハルを"狂おしいほどに好いている"鬼の悪魔"。吉田のような危険分子は排除したいと考えているのだろう。

 

――しかし、ハルは色を口にしない。

瞼は強く閉じられ、強く唇を噛み締めていた。

 

 

「……デーくん…………。大丈夫。

こんなのただの子供の悪ふざけ……」

「「――全く。警告はしたぞ。ハル――」」

 

悪魔は姿を消す。

 

そして同時に、ハルは吉田の頭部を更に強く押え込む。冷たい床にねじ伏せられる吉田のその姿。体格差があるにもかかわらず、ハルの力に圧倒され一切動くことが出来なかった。

 

しかし彼は一切表情を変えることなく、むしろ喜んでいるようにも見て取れる。

 

 

 

 

「さすがハルさん。薬も強いの用意したのに"また"負けかな。」

「……ねえ。…………本当にに。何が…………ッ……もく、てき……」

 

気を抜いたら直ぐにでも倒れてしまいそうだ。ツンとした刺激臭がまだ鼻に強く残る。それは徐々にハルの体を蝕んでいく。

 

「だから何度も言ってるよ。――ハルさんが好きだから。無茶苦茶にして"飼い殺したい"って。」

「…意味不明。……お子様は、早く、…帰りな……」

 

体の痺れに抗えないハル。

相手にそれを悟られないようにと、あえて吉田から手を離しその場から立ち上がると壁に体を預け小さく息を吐く。

 

 

この少年。――吉田ヒロフミは巫山戯てる。

岸辺に紹介されたあの日からまるで彼はストーカーのようだった。岸辺に若干似てるような不気味さを持つこの"少年"。何故かいつも調子を狂わされてしまう。

 

こんなに無茶をする相手なのに憎みきれないのだ。理由は分からなかった。

 

 

 

「……ほら。出てって…………ぅ……」

「..................」

 

 

壁に背を預ける体勢に。

なんとか足腰は生きてる。しかし既に頭は回っていない。思考は停止寸前だ。

やけに冷や汗が体から滲み出ると、自然と呼吸も更に荒くなる。

 

 

「彼氏さん。今回の騒動で死にかけたんだよね?」

「……何……急、に」

「デビルハンター同士。しかも公安局の特異対魔……辛くない?」

「……は……」

 

近寄る気配。吉田の匂い。

再び彼の冷たい手がハルの体に触れられる。撫でるように頬に添えられたその手の温度に体がビクッと反応してしまう。

 

「いつ死んでもおかしくない危険な任務ばかりの公安デビルハンター。……それだったら民間、未来のある俺と付き合った方が良いよ?イイコトいっぱいさせてあげられるし、顔も悪くないし……。」

「……は?」

「――っていうのはまあ置いといて。……ハルさんって実は凄く臆病だよね?……怖がってるんだ。"ココ"が失くなっていく感覚が。」

 

"ココ"とハルの胸に人差し指を突き立てる。心を意味しているのだろう。

 

 

「強くなるにはハルさんのバディを良い例に"頭のネジを外さないと"。正常な心を保ったまま、ましてや銃の悪魔を倒す事なんて出来ない。」

 

「…………」

 

「恋人、大切な人が心を失わないようにって。そればかりハルさんは願ってるんだ。」

 

薬品の効果が更に体に現れていく。

追い討ちのように吉田の言葉は容赦なく放たれ、それは麻酔のように更にぼんやりとハルの精神を蝕んでいく。

 

 

「――ハルさん自身が泣くことも出来なくなった"心を亡くした人形"になっちゃったから。……そうだよね?」

 

「……っ……」

 

本当にムカつく男だ。

まるで見透かすように全てを分かりきったように台詞を吐く。

吉田は真っ暗な瞳の奥底でハルの心を全て暴いていた。

 

 

 

「フフ……ハルさんは優しすぎるよー。ここで悪魔を使って俺を倒せばいいのに。……というより、俺の事やっぱり好きだから殺せない?」

 

吉田は壁に両腕を付けハルの足の間に膝を差し込む。壁に押し付ける形で密着する2人。

ハルの耳元に吉田は口を近づけると、甘ったるい声で更に惑わせるように台詞わ吐き続ける。

 

 

 

 

「もっともっとハルさんの頭のネジ外してあげるよ。

……"前"言ったでしょ?例えハルさんの頭がぶっ飛んでも俺はそのままのハルさんの事を愛せる。例え四肢を失ったとしても、永遠に目が見えなくても、理性を失っても、記憶を失っても……」

 

「………((……ダメ。……体が動かない。声も、思考も……何も……))

 

 

 

 

「犯してあげる。滅茶苦茶に、どんなに嫌がっても止めてあげない。飛びそうになったら何度も殴って、何度も悲鳴を上げさせる。」

 

刹那、男の手はハルの髪の毛を力強く掴み上げると嬉しそうに笑っていた。

 

 

 

 

「俺が残した跡を見て。彼氏さんに棄てられて、ハルさんは俺に縋りつけばいい。――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

吉田の手が、指が、唇が。ハルの体を蹂躙していく。

 

好き放題殴って、気が済むまでそれを楽しむ。強い相手を捩じ伏せている光景に興奮し、"やめて"と弱々しく吐くその唇に、何度も自分の唇を交え強く唇を噛んでやる。

 

涙を流さない彼女は"薄情"とでも言おうか?

まるで人形のように感情を出さないその姿。最愛の彼がいると言うのに、簡単に組み敷かれる彼女の軽薄なその様子は余計に興奮を覚える。

 

 

 

 

ネジが外れ、コロコロと転がっていく――

 

 

 

 

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