都合のいい夢を見させて   作:鈴夢

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獣と狩人

 

・・・・・・・・・

 

 

 

 

朱を含んだ紫陽花色の夕空が病室の窓の外に広がる――

 

 

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

 

 

 

 

 

 

「コン」

 

 

 

病室に響くアキの声。

親指、中指、薬指を合わせ狐を呼び出すも何も反応は無い。その様子を傍らで見ていた京都公安の黒瀬と天童は分かりきっていたかのように冷静な表情を浮かべていた。

 

 

 

「――ほら、出てこないだろ?キミは狐を無茶に使って嫌われた。もう二度と狐は使わせてもらえないだろうね。」

 

黒瀬の言葉の後、天童はふとアキの傍らに置かれた刀に視線を向ける。

 

「その刀も呪いの悪魔んヤツでしょ?それも後どれくらい使えんの?」

「……指導ってのはそういう事か。」

「お察しが良くて助かる。」

 

 

 

 

「――ウチらは特異課にいる人間組のキャリア相談にきました。」

「不謹慎やけど今回の事件で辞め時だと思いましたけど?実際キミの課の人が一人民間にいったし。…ともかく。続けるなら続けるでそれなりの覚悟をキミにはしてもらう。」

 

若干、訛りのある喋り方をする2人は淡々と台詞を吐き続ける。それは気味が悪いほど表情を変えず……言わば"業務的"と例えようか?しかし、話していることは的を得ている。

 

そして、アキは黒瀬の放った"覚悟"という言葉に眉を顰めた。

 

 

「覚悟……?」

「そう、覚悟。」

 

黒瀬は微かに口角を緩め、アキの瞳をじっと見据えた。その瞳は鱶のような表情のない眼差し。しかし不思議と引き込まれてしまう。

 

 

「辞めないならもっと強い悪魔と契約して特異課に貢献してもらわなきゃいけないみたいです。」

「……公安辞めて残りの人生楽しむか。公安続けて地獄を見るか。――決めるのは君自身。」

 

 

辞めて楽になるか。

辞めずに茨の道を突き進むか。

その二択、至ってシンプルだ。

 

 

今回の事件はともかく今までの状況を踏まえても、普通の人間なら間違いなく前者を選択するだろう。

デビルハンターという仕事を捨てるなり、もしくは民間に行くなり……楽な道は幾らでもある。

 

 

アキは形容できない"無"の表情を2人に向けたまま、即座に口を開いた。

 

 

「家族を殺したやつも、バディを殺したやつもまだ生きてる。代償とともに傷を負った人間も―――」

 

 

"それに"と続けようとした言葉の先を詰まらせるアキ。脳裏にはあの時の光景が途切れ途切れに映し出されていた。

 

銃の悪魔に吹き飛ばされる家族。

自分が非力な故に消されたバディの姿。

代償に苦しむ最愛の彼女の姿。

 

 

 

「……なのに、なんで辞めれるんですか……?」

 

 

無表情の中に隠れる微細な本音。

それは鋭く、恐ろしい程に冷酷で燃えるような強い瞳と信念。

 

アキは迷うこと無く後者を選んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――そですか。分かりました。」

「じゃあ今日はもう遅いんで帰りますわ。明日また来て書類とか持ってきます。」

 

黒瀬と天童は互いに見合い、小さく息を吐く。

"この少年は正気の沙汰ではない"と言いたげな程に――

 

 

 

 

 

「……京都ん先輩の言葉はホンマでしたわ。」

 

病室の出口の扉の取っ手に触れ立ち去ろうとした瞬間、ふと黒瀬は先輩の言葉を思い出した。

 

 

「"特異課にはまともな奴はいないから気をつけろ"ってね。……聞いた話だと、東京本部公安で最強って言われてるバディの片割れもそれなりの代償を喰らったとか―――」

「…………ッ……」

「ホンマに……ソイツも正気の沙汰とは思えませんよ。もうちょっと自分を客観的に見た方がいいと思います。……じゃ、また明日。」

「……失礼しました。」

 

嫌な言葉を残して立ち去った2人組。しかしアキは表情を変えず、ただただ心の中で感情を押し殺していた。

 

 

 

気づくと外は夕焼けから夕闇へと移り変わる。

夕闇は辺りを飲み込み、紛れた街灯が点々と灯り出す。

 

車の音、電車の音、人々の声。

全てが深い闇へと呑み込まれていく。

 

 

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「……岸辺さん。初日から"やりすぎ"ですよ。」

「弱すぎるコイツらが悪い。俺は至って通常運転だ。」

 

 

あっという間に夜を迎えた岸辺、ハル。そしてデンジとパワー。

午前中とは違い、佇んでいる墓場の風景は不気味で恐ろしい。今にでも"ゾンビ"とやらが十字架の下から現れそうだ。

 

 

 

 

「俺は寝るから帰る。明日家に迎えに行くからな。」

「私も帰ります。」

 

「「…………」」

 

最"恐"バディは倒れたまま反応のない悪魔2人組から遠ざかっていく。

 

 

「ハル。アイツらの力量についてどう思う。」

「かなり伸び代があると思います。」

 

 

2人で肩を並べ、所狭しと並べられた墓場を歩く。建物も何も、遮るものがないこの場所はやけに風が強い。勢いよく吹く風にロングコートと髪の毛が勢いよく揺れ動けば、ハルは瞼を閉じたまま微かに眉間に皺を寄せていた。

 

 

「――パワちゃんは元々能力値も高いですし、魔人の中でも稀に見る逸材です。理性も保ててる。……血をもっと有効的に、賢く使えばさらに強くなりますよ。」

 

血の魔人、血を自由自在に操る悪魔。使いようによっては最強になる事は間違いない。

しかしパワーの性格上、理性は保てていたとしてもそもそも地頭が悪いのは確か。知性というものを身につければ確実に強くなる。

 

 

「デンジくんは………正直まだ掴みきれていません。動きが……なんというか雑……というか。ただ力任せに動いてるとしか思えないですし。」

 

無茶苦茶、突拍子もない行動。

後先考えず、ただただ右往左往と縦横無尽に暴れ回る猛犬とでも例えようか?

 

 

 

要するに、2人とも引っ括めると――

 

「"頭を使え"って事だな。」

「はい。」

「俺も同意見だ。アイツらが少しはまともに頭使って動けるように殺し続ける。」

「…物騒すぎますよ。もう少し寄り添って――」

 

その瞬間、岸辺の大きな手がハルの襟元を容赦なく掴む。突然の行動に驚いた様子を見せることなく、ハルはただただ目の前の岸辺の気配を感じ取り、グッと口を噤んだ。

 

 

「気持ちは分からんでもないが、あまりアイツらを甘やかすな。」

「分かってます。」

「明日からもアイツらを"俺たち"で狩り続ける。」

「覚悟の上です。」

 

閉じられた瞼の裏から感じる本気の視線。なんだかんだこの女は冷徹で覚めたやつだ。頭のネジがぶっ飛んだ、自分と同じぶっ飛んだ頭を持つ人間。そういう人間は大好物だ。

 

岸辺はそんなことを考えながらハルから手を離し、肩を引き寄せ耳元で言葉を放つ。

 

 

 

「…やっぱり、お前イイ女だな。」

「岸辺さんの行動が怖いんですけど。急に乱暴なことしてくるし……セクハラで訴えますよ、いい加減。」

「アキにもヒロフミにも勿体ない。オレにしとけ。」

「………………ぶっ飛ばしますよ。とくに吉田くん、岸辺さんからもよく言っておいてください。」

「気が向いたらな。」

 

酒臭い相手の顔を左手で強く抑え込む。冗談なのか本気なのか分からないが相変わらず意味不明でまともに頭が働かないまま言葉を放つ相手に嫌気がさす。

 

だが、なんだかんだ嫌いになれない最高のバディであるとハルは微かに心に本心を隠していた。

 

 

 

 

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「……よし……消えたぞデンジ。ワシらも……」

 

 

 

暗闇に消える恐ろしい2人組。

パワーはゆっくりと体を起こし、隣で寝転んだまま放心しているデンジに視線を向けるとギョッと目を見開く。

 

 

 

「おぎゃ……おぎゃあ……おぎゃぁ………」

 

「また頭が故障しておる!!治れ!治れ!!!」

 

まるで赤子のように、狂ったように駄々をこねるデンジ。目は焦点があっておらず何度も殺されたことによって精神崩壊を招いていた。

パワーはそんなデンジの頭を容赦なく何度も殴り続け、ようやくしばらく経った時正気を取り戻した。

 

 

 

 

「はっ!!おあ〜………俺ぁ何回殺された!?」

 

「20回…いや、30回以上じゃ。ウヌが死んだとき大体ワシも気絶しとるから正確にはわからん。」

 

「あのジジイもハルも…強すぎじゃ…」

「こんな生活続いたらマジで楽しくねぇぞ。」

 

 

暗闇に浮かぶ丸い綺麗な満月。一体自分たちは何時間狩られ続け……何度殺されたのか……

 

デンジは仰向けのままぼんやりと空を見上げ、だらしなくぼーっと口を開いていた。

 

 

 

 

「……楽しくなるために頑張ってきたのに、楽しくなくて頑張るのは糞だ。」

 

「一緒に逃げるか?」

 

「逃げたら公安から逃げた事になって、今度こそ本当に俺たちゃ悪魔扱いじゃね?」

 

マキマに拾われる前の生活と今のこの生活。間違いなくその頃に比べても天と地の差程に幸せだ。そんな生活が続いて、尚且つ楽しければもっと幸せだ。……だがこんな危険な日常が明日からも続くとなればそれは地獄。

 

かと言って逃げるという選択権は自分たちは持ち合わせていない。本当に逃げれば本当に殺される。

 

 

「それに見ただろーが。…いつもニコニコ優しいハルでさえ俺たちを容赦なく狩った。あれはマジだ。殺される……」

「わっ、ワシの予想じゃが、ハルはあのアル中に操られてるんじゃ!ハルはワシらにそんな事はせんはずじゃ!」

 

今日の行動は今までの優しいハルの姿からは想像できない程に残酷だった。本気で自分たちを狩るために両目が見えないという中でも容赦なく刀を振り回していた。

 

それはきっと"あのアル中野郎"のせいだと2人は目を合わせ、納得したように頷く。

 

 

「あんのアル中野郎!ハルも俺達もおもちゃ扱いしやがってよ〜〜。だんだんマジでムカついてきたぜ。」

 

呑気に寝転がっていたデンジはその場で思いっきり体を起こし、両手で拳を作ると強く握りしめる。

 

 

 

「……デンジ。ワシは閃いたぞ!!」

「何だ?」

「アル中を倒す方法じゃ!」

 

まるで幼子のようにワクワクと目を光らせるパワーと同じく、デンジも瞳を輝かせ脚をじたばたと動かす。

 

 

 

「アイツは超強いが!じゃが!酒で頭がダメになっておる!ワシらは頭を使って戦えばいいんじゃ!」

 

「なるほどな…。俺も最近めちゃくちゃ憧れたぜ!漫画とかの頭いいキャラみてえに戦えたらいいな〜ってよ!」

 

「そうじゃそうじゃ!きっとハルも冷静にワシらと話せば味方になってくれるはずじゃ!!」

 

「う〜っし……頭脳でアイツをぶっ殺すか!」

「そうじゃ!最終的にハルも引き入れて3対1なら勝てるぞ!デンジ!」

「へへっ!それなら間違いねぇ!!」

 

先程の弱った顔とは打って代わり、快活な表情を満面に浮べるデンジとパワー。

絶対この策なら"あのアル中野郎"を殺せる……と

 

 

「なーーんか俺、すげぇ頭良くなってきた気がするぜ!!」

「インテリ作戦じゃ!!」

「おうよ!こっちから迎え撃ってやる――」

 

 

 

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翌朝。清々しい青空と光り輝く太陽。雲ひとつない気持ちのいい気候――

 

そんな気候を楽しむ暇もなく、早川家の室内にチャイム音が鳴り響く。

 

 

 

"ピンポーーン"

 

 

響くチャイム音。

"何故か"丸メガネをかけた2人組はぬるりと顔を覗かせるように玄関に視線を向ける。

 

そしてゆっくりと足音を立てないように2人は玄関の扉に近づき、デンジは覗き穴からチャイムを鳴らした人物を確認する。

 

 

 

「んあ?外にいるのハルだぞ。」

「ハルじゃと?」

「ああ、ハル。」

「刀は持っておるか?チョンマゲと似たようなヤツじゃ。」

「……いや。普通に私服だし、武器みてぇなもんは何も持ってねぇぞ。」

「となると……やっぱりじゃ……」

 

パワーはメガネに指を添え、閃いたと言わんばかりに意気揚々と考えを口にした。

 

「ハルのことじゃ!やはりワシらを心配して手助けをしてくれるのかもしれんぞ!」

「おーー!確かに!ハルは優しいからな。」

「開けるぞ!ハルも入れて作戦会議じゃ!!」

 

扉の鍵を解除し、勢いよく扉を開くとそこには瞼を閉じ、口元に弧を描く笑顔のハルの姿。確かに服装は完全にオフモードなのかユルっとした上下スウェット姿にスニーカー……

結われてもいない長い髪の毛はサラサラと風に靡く。

 

 

 

 

 

「おはよう、2人とも。」

「へへへっ。はよ〜、ハル。」

 

ハルの優しい笑顔に"ニンマリ"と惚気けたような呑気な笑みを零すデンジ。2人は警戒するどころか完全にハルを目の前に気を抜いている様子だ。

 

 

「念の為確認じゃが、ハルはワシらとは戦わんのか?」

「うん。今日は私は観察するだけ。昨日の今日だし、私は相変わらず視力戻ってないし。」

「へへっ、やりい〜。だったら2対1で有利…」

 

 

刹那、ハルの右手が素早く動く。それは2人の視界に映る暇もないほどに物凄いスピード。

 

 

そして同時にデンジは左胸に違和感を憶えた。

 

 

 

 

 

 

「――獣が狩人の言葉を信用しちゃダメだよ?2人とも。」

 

 

胸元に突き刺さる鋭いナイフ。それは呆気なく貫通しており血液がとめどなく溢れ出していた。

1発で狙いを射止めたハルのスピード。そして片手に握られたナイフで筋肉質な体を簡単に貫通させるほどの力。

 

目の前の少女にこんな力が……

 

 

 

 

「ッ!!パワ子!!」

「分かっとる!」

 

パワーは素早く部屋の奥へと移動し、血で作られた長槍を生成した。するとそれを玄関に立ち尽くすハルに向けて投げるも、微かに頭を左に傾け難なく交わすハル。槍はハルの隣を通過し背後の玄関の扉を突き破った。

 

「((嘘じゃ!……このスピードの槍を……目が見えとらんハルがいなすじゃと!?))」

 

パワーは呆気に取られた様子でぽかんと口を開き、有り得ない動きをするハルに対して遂には恐怖心を抱く。

 

そしてその先に佇んでいた岸辺の頭スレスレで槍が動きを止めると男は無表情でその槍を掴む。

 

 

「……血の武器か。頭狙ってきやがったな。」

「あっぶな…ギリギリ交わせた……」

 

 

「っ……嘘じゃ…ろ…。コイツら……」

 

呆気なく血の槍がボロボロと折れる。先端はかなり鋭く尖っており、これが脳天を突き刺していたら即死だっただろう。

 

「2日目、スタートですね。」

 

玄関の扉を開け、律儀に再び閉じるハル。そして岸辺の隣に合流すると2人は冷静に淡々と会話を始めた。

 

 

「今度は私たちが狩られる側のようです、岸辺さん。」

「一晩でそれなりに策を練ってきたらしい。」

「…にしても気を抜きすぎだと思いますけどね。私が攻撃しないと信じてましたから。2人とも。」

「つくづく間抜けなヤツらだ。」

 

悪魔2人組に怯む様子を全く見せない岸辺とハル。"さて、次は一体どんな攻撃だろうか?"と言いたげな様子でピクリともその場から動かない。

2人はじっと。ただただデンジとパワーを待ち続ける。

 

 

 

 

「……俺達も殺られっぱなしじゃ性にあわねぇよな?パワ子。」

「当たり前じゃあ!!」

「パワ子発案の"超インテリ作戦"といこうじゃねぇの?」

「おう!」

 

会話内容は分からずとも、微かに室内から聞こえる2人の威勢の良い声。どうやら本人たちはヤル気はあるらしい。向こうも昨日以上に自分たちを殺しにくるに違いない。

 

「油断するなよ、ハル。」

「それは岸辺さんこそっ!!」

 

 

刹那、ハルと岸辺が立つ天井から凄まじい数の赤い槍が2人を狙って現れた。形状は先程の投げられた槍の形と同じでほのかに血液の香りが漂う。

 

「((……なるほどね。上層階にパワちゃんの血を使った仕掛け……それをそのまま武器として雨のように槍をふらせてる……))」

 

降り続ける槍を2人は瞬時に破壊していく。見た目の割に案外柔い。あっという間に粉々に散らばると、その猛攻は急に停止した。

 

 

「((右……左……下…………上……))」

 

ハルは感覚を研ぎ澄ませて次に起こるであろう攻撃に備える。先程の攻撃でかなりの血を消費したであろうパワーは暫く動けないはず。だとすればこの瞬間を狙うのは"彼"のみ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へへっ、もらったぜえ!!!」

 

 

背後に感じるデンジの気配。まさかこのまま突っ込んでくるとは……彼らしい。

 

 

「邪魔だ、退けろ」

 

岸辺の冷たい台詞と共にハルはその場にタイミング良くしゃがみこむ。すると岸辺はハンマー片手に背後から現れたデンジを呆気なく殴り飛ばすとマンションの通路にデンジの体が吹き飛ぶ。

 

 

「……ぁ…………うそ……だろ。」

 

 

また呆気なくついてしまった勝負。

デンジは床に転がったまま無表情で立ち尽くす目の前の2人を強く睨みつけた。

 

 

「今までで1番良かったぞ」

「いっ……てぇッ……」

「追い詰められた獲物は頭を使うもんだな。もっと頭を使え。」

 

昨日よりかは頭を使ったのであろう2人の動き。悪くは無いがやはり甘い。"弱すぎる"。

 

 

「今回の敗因は3つだ。…ハルを信じたお前らの甘い考え。それと、パワーは今の戦い方だと血を使いすぎて本体が貧血になる事と、デンジがハルの防御の動きと俺の攻撃を予測できなかった所だ。」

 

 

自分達の指導者でもあり、アル中野郎のバディでもあるハルを信頼しきってしまっていた大きな間違い。いつもの笑顔に、様子に呆気なく騙されてしまう彼らは……まあ健気で可愛いものだがそうはいかない。

 

インテリ作戦とご立派に名前まで掲げたものの結果は呆気なかった。パワーは血の武器を生成したばかりに貧血に襲われ室内で倒れてるし、不意打ちにしてもやはり雑なデンジは岸辺のワンパンでKO。

 

どう考えてもまだまだ弱い。そして甘い。

 

 

「今回は良かったからもう終わりにしましょう?」

「俺も酒が飲みたい、帰る。」

 

棒読みの台詞。踵を返す2人。

マンションの長い通路を背を向け歩き始める2人の背後をデンジは警戒する素振りなくじっと見据える。

 

 

 

「……パワ子…もう終わりだって……」

「ラッキーじゃ―――」

 

 

その瞬間、胸の次は今度は"頭"に違和感。憶えるデンジ。タラっと生暖かい鮮血が顔を這いながら垂れ落ちていく。

 

 

「あ……あえ……?」

 

岸辺のナイフがデンジの頭部に突き刺さっていたのだ。間抜けな声を発した後に、デンジはその場にどさりと音を立てて倒れ込む。

 

 

「獣が狩人の言葉を信用するな。」

「私がさっき言ったばかりなのに……」

 

 

岸辺はその場に立ちどまり、ハルは再びデンジたちの元へと向かう。スウェットパンツのポケットに手を突っ込み、倒れ込むデンジの傍らでしゃがみこむと怪しい笑みを零した。

 

 

「ホラ。頑張って?」

「……ハ……ル……、」

「頑張ったらご褒美だよ。」

 

デンジの頭部に刺さったナイフを躊躇すること無く抜き取り、ハルはデンジの口元に輸血パックの血液を流し込む。

 

あっという間に傷が塞がっていき、デンジの瞳に光が戻っていく。

 

「うへっ…………やってやろーじゃん。」

「そう、その調子だよ。」

「…マジなんだな、ハル。」

「うん。マジだよ。マジで私はデンジくんとパワちゃんを狩る。」

「……勝ったら褒美が欲しい。」

「いいよ。勝てたらね?」

 

ハルの暖かい掌がデンジの両頬を包み込む。

まるで美しい夢を見ているような、天女に包まれるような気持ちよさに"うっとり"とした法悦の表情をデンジは浮かべた。すると再びハルは立ち上がり、怪しい笑みを零すと右足に力を込める。

 

 

 

 

 

「――隙を見せない!直ぐに臨戦態勢になる!」

「はぁっ……うあああぁあああ!!いってえええええ!!」

 

 

デンジの股間に容赦なくハルの右足が踏みつけられる。グリグリと更に踏みつけられるとデンジの悲鳴と嗚咽が付近に響き渡っていたのだ。

 

 

「……はい。死んだ。」

「まるで"女王様"だな。」

「岸辺さんも次セクハラ発言したら同じことしますからね。」

「それは楽しみだ。」

「………………」

 

 

 

 

 

 

今日も続く。

獣と狩人の殺し合い。

 

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