都合のいい夢を見させて   作:鈴夢

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revenge

 

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長い、長い廊下の先

アキは真っ直ぐと視線を向けたまま歩みを進める

 

 

 

響く足音、静かな空気

 

 

その先に、あの女が立っていた

 

 

 

 

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「――ヘビ、吐き出し」

 

指揮をするように手元を動かす沢渡。

その直後、生温い風が勢いよくアキに吹き荒れる。

 

 

 

現れた悪魔の姿――

 

 

 

瞼と唇が縫われ、常に笑顔にも見て取れる髪の長い女性。首は大量の花になっておりその下は大量の腕で体を支えられている。

 

 

 

「糞ったれ……」

 

「"幽霊"――あいつを殺せ。」

 

 

姫野が全てを捧げた"幽霊の悪魔"。

どうやら沢渡の能力によって支配下に置かれているらしい。

 

そして悪魔は笑みを崩すことなくアキに容赦なく襲いかかった。

 

 

 

 

 

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「一本あげる。」

 

 

姫野はタバコを指で挟み、向かいに座るアキへと見せつける。しかし、アキは無表情のまま冷めた声で言い返す。

 

 

「骨が腐るからいらない。」

「長い付き合いになりそうだから吸って欲しいな〜〜……」

 

"むぅ"っと頬を膨らませ赤面する姫野。指で挟んだタバコに視線を向け、一向に引き下がらない姿勢を見せる。

そんな相手にアキは漸く手を伸ばした。

 

「一本だけ吸ってやる。一生で吸うタバコはこれ一本だけだ。」

 

ぶっきらぼうだが根は優しい。

そんな彼が姫野は好きだった。

 

 

 

 

「やった〜、火つけてあげる。」

「未成年に吸わせるなんて最低な先輩だな。」

「未成年なの!?」

「そうだけど……」

「じゃあ吸っちゃダメに決まってんじゃん!はぁ〜〜〜…」

 

 

しかし、まだ彼のことを詳しくは知らなかった。年齢さえも。

次々とバディは死に、その度に墓地に訪れる回数は増えていた。また1人、また1人……死にゆくバディ達を横に姫野の心は荒んでいた。

 

 

そんな時に現れた早川アキ。

"先生"に連れられてきたあの時……まあ、確かに幼い気もしたが。まさか未成年だったとは――

 

 

「よこせ。……じゃあこの一本は私が預かっておこう。」

 

 

"ニシシ"と歯を出して笑い、強引にアキの手からタバコを奪い返す。そしてその一本を立てるように持ち、顔の横へと掲げる。

 

 

 

 

 

 

「キミが大人になって、何かに寄りかかりたくなったら返してあげる――」

 

 

 

 

その言葉を放った後、姫野は無邪気な喜色に溢れた笑顔を見せた。

 

 

 

 

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「……ッ……く……」

 

 

 

次々と襲いかかる幽霊の悪魔の技に手も足も出ないアキ。先日契約を交わしたばかりの"未来の悪魔"の能力を使い、以前より動けるようにはなったものの……幽霊の悪魔の強大な力には敵わない。

 

 

 

しかし……何故だろうか。

ふと彼女の台詞が脳内で再生された。

 

 

 

 

 

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「――"気楽"に、だよ。」

 

 

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姫野の記憶。

ハルの台詞。

 

 

 

「…………」

 

 

 

アキは項垂れていた頭を持ち上げ、ゆっくりと幽霊の悪魔を見上げる。

にこやかに笑みを零す悪魔。そんな時、無数の腕の中から一本の腕が何かを握ったまま目の前で停止する。

 

その手に握られていた物。

 

それは以前、姫野に預かってもらっていた一本のタバコだ。

 

 

「……?」

 

 

アキはゆっくりとそれに手を伸ばしタバコを手に取る。

 

何の変哲もないただのタバコ。

しかしよく見ると葉巻部分に文字が書かれていた。

 

 

 

 

 

 

"easy revenge!"

 

 

――気楽に復讐を!

 

 

 

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「――はぁ!?」

 

 

 

なんの躊躇いもなく真っ直ぐと幽霊の悪魔へと歩み寄るアキに驚いた様子で声を上げる沢渡。男のその顔は感情を殺した能面のようなもので何も感じない。

先程まで優位に立っていたのは沢渡だ。しかしアキには間違いなく余裕を感じる。

 

 

 

「((――"幽霊の悪魔には目がないから恐怖心を見る"...姫野先輩が言っていた事だ。))」

 

 

 

ゆっくり、ゆっくりと―――

 

幽霊の悪魔の足元へと"入っていく"。

広がる白い花畑。まるで風が吹いているかのようにその中では花弁が舞い上がっていた。

 

 

 

「((姫野先輩―――))」

 

 

そんな異空間の中でアキは握っていた刀を振り上げる。

 

 

 

「((もうすぐ俺も行きます。―――

―――だけど……))」

 

 

 

アキの真っ直ぐ凛とした瞳が光り、ゆっくりと瞼が閉じられる。

 

そしてほんの一瞬だけ

ハルの無邪気な笑顔が浮かぶ。

 

 

 

「((……あと少しだけ、彼女のそばに居させてほしい。))」

 

 

そして瞼が持ち上がる。

瞳に陽炎のような希望の色が見えた。

 

 

 

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「…………」

「ん……」

 

 

ビルを見上げるふたつの影。

公安最強バディ、岸辺とハル。

 

それぞれが何かを察した様子だった。

 

 

「沢渡は大人しく捕まった……あとはあの"大男"だけですかね。」

「だろうな。」

「恐らくはデンジ君が相手にするか…………っと……」

 

刹那、ハルの手に握られていた無線機から声が漏れ始める。声の主は怯えたようなか弱い声で今にでも死んでしまうのではないか?というくらいこちらも不安を煽られるような声色だ。

 

 

 

 

『ほ……っ……報告……報告です!!』

「はい、市川です。コベニちゃん?」

『へぁぁああああっ!対象が……死……死亡しました!…』

「どういうこと?沢渡アカネが?殺さないようにって指示を出したはずなんだけど。」

『ち、ちちち違います!!いきなり首が失くなって―――』

 

 

無線機からの言葉に視線を向け合うハルと岸辺。確かに先程まで感じていた気配が失くなったのだ。

 

 

「…………」

「とりあえず首無しの死体だけでも連れて帰ってきてください。それで早川先輩は?」

 

『それが……ッ……別の階―――』

 

 

突如コベニの声を消し去る激しい爆撃音。そして目の前のビルの一部が大きく破壊され、2つの黒い影が猛スピードで飛び出すのがハッキリと見えた。

 

チェンソーの姿となったデンジ。

そしてもう1人は刀の大男。

 

止めようにも止められない状況。ふたつの影はそのまま街の方へと向かい、走行中の車両の上に降下した様子―――

 

 

「最悪の展開ですよ、岸辺さん。」

「お前の出番だ。」

「行ってきます。」

「一般市民の被害だけを考えろ。悪魔は使うな。」

「手出しするな?と」

「そうだ。お前はあの人外が起こす被害だけを食い止めろ。」

「了解です。」

「俺は中に残ってる残党とあの女の死体を確認する。銃を持ってる奴らが残ってる以上、こっちも放置できん。」

「了解―――」

 

 

テンポよく途切れることなく交わされる会話。どうやらあの刀男はデンジだけで十分らしい。……だが、そのせいで無茶苦茶な被害を被るのは御免だ。あとでほかの省庁からクレームが来ることもほぼ確定だろう。

 

 

2人はそれぞれ踵を返す。

そしてハルは再び無線機を握りしめると口元へと移動させた。

 

 

 

 

 

「こちら4課副隊長の市川です。早川先輩、応答願います。」

 

沢渡と対峙しあったのはアキで間違いないはずだ。しかし肝心な報告は何故か本人から入ることなく、同じくビルに侵入させたコベニからだった。そして先程のコベニとの通信を考えるに恐らく...

 

 

「―――やっぱり応答無し。先に向かってるかな。」

 

あの人外2人組を既に追いかけているのだろう。だとしても報告くらい入れて欲しいものだ。

 

 

「…私必要なくない?」

 

 

ため息混じりの台詞を吐き出すハル。

そもそも視線の先に広がる街は尽く破壊されているのだ。

人外……デンジとサムライソード。あのふたりが起こす被害を食い止めるという話の前に、後片付けの手配の方が必要そうだ。

 

 

 

 

「職務放棄……って後で岸辺さんに怒られそう。…ま、いっか。」

 

 

ハルはピタリと立ち止まり目の前の街へと視線を向けた。

ビルとビルの間に、きちんと四角い形の空が見えた。上部が光を帯び、どんよりと曇っていた空から太陽の端が現れ始めるのであった。

 

 

 

 

 

 

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「―――今回のテロ事件は沢渡アカネという元民間のデビルハンターが発端でした。彼女が銃の悪魔と契約し銃をヤクザに流しました。その対価として沢渡はチェンソーの悪魔の心臓を要求していたそうです。」

 

 

赤髪の女性―――マキマ。

公安幹部を前にし、表情ひとつ変えることなく淡々と口を開く。

 

「それで?なぜ沢渡はチェンソーの悪魔の心臓を欲しがった?」

 

 

 

 

 

「……それが、聞き出す前に自殺を計りました。」

「自殺…?」

 

 

コベニの報告曰く、突如現れた悪魔によって首を丸ごと持っていかれたらしい。

最悪、捕縛した沢渡をハルの悪魔を利用してここまでの全ての発端を聞き出そうと計画を立てていたのだが……その前に自害したのだ。そのお陰で真相は解明に至らず、年配の幹部たちは微かに表情を険しいものへと変えていく。

 

 

「銃の悪魔との契約で自動的に自殺をしたのかもしれません。―――そして、今回の事件でビル内から銃の悪魔の肉片1.4キロ押収。我々公安が持っている5キロの肉片と合わせた結果、ついに肉片が本体に向かって動き出しました。」

 

 

 

 

マキマの口角が微かに持ち上がる。

相も変わらず"何を考えているのか分からない"形容できないその表情に幹部たちもゾッと妙な違和感を感じる。

 

 

 

「…因みに刀の悪魔と契約したと思われるあの大男から、何か情報は?」

 

1人の幹部がそんなマキマに向けて口を開く。

 

 

 

「大した情報はありませんでした。市川ハルの鬼の悪魔を利用して何とか吐き出させようとしましたが―――」

 

 

 

 

 

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下着一枚のみを纏い、半ば失神状態のサムライソード。

結局あの後デンジによって拘束され、またまたその後アキも加わり"金玉を蹴って1番デカい声を上げさせた方が勝ち"なんて無茶な大会を開いたらしいが…

 

 

 

 

「―――ん…ぐっ………」

「マキマさん!これ以上は…」

「なんだ…ハル……目から血みてェなのが…」

 

 

停車する車両に括り付けられたサムライソード。そしてそれを複数の警官が取り囲みその輪の中に居るのはハル、アキ、デンジ、マキマ―――

 

 

しかし、ハルの様子がおかしい。両目からは赤い液体が溢れ地面に蹲る程に悶えている様子だった。

 

 

 

「ハルちゃん。まだいけるよね。」

「…ッ…はい。……」

 

マキマの声に反応するハル。苦しげに声を上げ、再び頭を持ち上げるとサムライソードの頭を掴み"鬼の力"を使っていたのだった。

 

 

「あぁあああ……あああああああああぁぁぁぁ!」

「ぐっ……」

 

泡を吹きながら悲鳴をあげるサムライソード。それに対し堪えるような声を漏らし、必死に苦痛に耐えるハルの姿。

 

 

 

 

 

「「…これ以上やってもコイツは吐かんぞ。様子がおかしい。」」

 

ハルの脳内で鬼が呟く。赤鬼の力を持っても相手は一切の情報を吐き出さない。

 

…それに。異常なほどのマキマの冷徹な行動に鬼の悪魔は憤怒していた。

 

 

 

 

「…………」

「んだよ…これ……死んじまうぞ!」

「マキマさん。これ以上赤鬼を使えばハルは―――」

 

静かに見下ろすマキマ、それを止めようとするデンジとアキ。そんな2人を他所にマキマは言葉を放つことなく後ろ手に組んだまま見据え続ける。

 

 

「ハルちゃん。"青鬼"を使って。」

 

 

 

"青鬼"

その煩悩は「瞋恚」。

相手の憎悪心を奪い混乱させ、錯乱させることが出来る。代償は自身が一定期間理性を失う。

 

錯乱させ、何かしらの情報を吐き出させようと考えているのだろうか。…いや、そうじゃない。

そもそもマキマは…"何かを試している"。

 

 

「マキマさん、それは…」

「早川くん。仕事に私情を挟むのは御法度だよ。」

「っ―――」

 

 

アキの表情が酷く歪む。それは困惑、恐怖、―――様々な感情が入り乱れていた。

辺りを取り囲む警官たちもその物々しい雰囲気にたじろぐ者が大多数。

 

 

 

「…デーくん。お願い…」

「「―――"色"は?」」

 

サムライソードの頭を掴むハルの右手がゆっくりと移動する。

 

 

「"あ―――"」

 

ハルが色を口にしようとしたその時。

突如現れた男の大きな手が強引にハルの口元を覆い隠した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マキマ。」

「ん…っ…」

 

 

 

ビックリするほど低いのに、何故か艶めかしくも聞こえる声。

その姿を目にしたアキとデンジは驚きを見せる反面、どこか安堵した様子だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「岸辺さん。」

「コイツを殺す気か。ハルはお前の部下でもあるが俺のバディ、4課を率いる副隊長でもあるんだぞ。扱い方を考えろ。これ以上使える人間を減らすな、本末転倒だ。」

 

 

 

予想外の岸辺の登場にも関わらずマキマは眉ひとつ動かさない。岸辺も同じく相変わらずの無表情だが、ハルの体に触れる手がいつにも増して慎重なのが見て取れる、

 

 

 

「おい。シャキッとしろ。」

「………」

「これくらいで倒れるな。また俺に半殺しにされたいか?」

「……いえ……、」

「青は使ってないな?」

「はい。」

 

軽々とハルを抱き上げる岸辺。白いシャツは赤い液体で染まり、まるで血を浴びたようにも見える。

 

―――赤鬼の代償、消滅した両目。

今回はどれだけの代償を被ることになったのだろうか。下手をすれば目玉ごと抜き取られる。

 

 

「アキ。ハルを本部に連れて行け。」

「…はい。」

 

 

マキマの横を通り過ぎるアキ。

ゆっくりと岸辺からハルを受け取るとマキマに軽く会釈し、その場から離れた。

 

 

 

 

 

「さすが。"バディ想い"ですね。」

「言っただろ。俺はアイツを愛してる。」

「そうでしたね。」

「その次の言葉は言わんぞ。思い出して脳内に刻んでおけ。」

 

淡々と抑揚のない言葉を吐き出すと岸辺は踵を返す。周辺の警官たちに何事も無かったかのように振る舞い、指示を出すその姿は異様だった。

 

そしてそれをなんとも思っていない様子のマキマも傍から見れば不気味でしかない。

 

 

その様子をただただ傍観していたデンジ。

力を使い果たし、ボロボロに傷ついたその体ばそのまま仰向けに倒れた。

 

 

 

 

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