都合のいい夢を見させて   作:鈴夢

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早川先輩におかされて

 

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――午前6時

 

 

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ゆっくりと瞼を持ち上げる。

カーテンの隙間から微かに朝を告げる陽が射し込んでいた。

 

のっそりと怠そうに上半身を起こすと寝癖で絡まった長い髪の毛を擦る。

 

黒い無地のシンプルなコットン素材のブラとショーツ。そしていつの間にか、メンズサイズのグレーのスウェットを着ていたハル。恐らくアキが用意してくれたものに違いないのだが着た覚えが全くない。

 

「……あっくん」

 

微かに残る眠気を払うように目を擦り隣で寝ているであろうアキに声をかける。しかしその姿は既に無い。まさかと思い、耳を凝らして目を閉じる。

 

すると、微かに部屋の外から生活音が聞こえてきた。

 

 

 

 

洗濯機の稼働音、投函された新聞を取り出す音、沸騰するヤカンの音。

 

――そしてコーヒーの香り。

 

 

「……私も準備しないと……」

 

ギシッと音を鳴らすマットレスから脚を降ろし、使い古したルームシューズを履き、そのままリビングへと向かう。

 

 

 

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リビングに姿は無い。

洗面所にも、キッチンにも。

 

だとすれば――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはよ。あっくん。」

 

ベランダの大窓を開けひょっこりと顔を覗かせる。

少し冷たい風が吹く中、彼は椅子に腰かけ、コーヒーと新聞を手に取り"いつものモーニングルーティン"を満喫している様子だった。

 

「おはよう。」

 

上下スウェット姿。いつも結われている髪は下ろされ風に靡く。いつものパキッとした様子とは全く違い、ハルはアキのこの姿が好きだった。

ぼんやりと、ただただ自分の時間をリラックスして過ごす。丁寧な暮らしを心掛ける彼だからこそ、なんの変哲のないこの時間がより一層彼らしさを引き立たせていた。

 

 

そんな彼をじっと見つめていると、アキはハルの無防備すぎる格好に気づき、怪訝そうに眉を顰め、手に持っていたコーヒーカップと新聞紙を傍らのミニテーブルに置く。

 

「ハル。下も履け。」

「え……あ!何も考えてなかった……」

 

下着は身につけているものの、スウェットの上のみしか身につけていないことに気づく。サイズが大きく、ギリギリヒップラインは隠されているものの"デンジが見るとどうなるか分からない"なんてアキは心配の色を見せていた。

 

せっかくの憩いの時間を奪う訳にも、と

立ち上がり、こちらに向かってくるアキを制止する。

 

「もう着替えて帰るし、あっくんはそのままコーヒータイムを……」

「もう帰るのか?」

「うん。一旦家に帰らないとだし。それに待ち合わせの時間も逆算したらギリギリだから。」

 

そういえば、今日は忙しいと口にしていたハル。

昼は姫野、夜はマキマ。

午前中に誰かに会う約束があるという台詞を思い出したアキはそのままハルに詰め寄る。

 

「そんな早くに誰に会うんだ?」

「うーーん。……"秘密"」

「秘密?」

 

ベランダに立ち尽くすアキ、ベランダとリビングの境界に立ち、顔を覗かせたままのハル。

 

"秘密"という謎発言に納得いかないアキは表情には出さないものの、微かに嫉妬心に襲われる。ハルが何かを隠す事は今まで1度もない。しかし、何故か頑なにその秘密を話そうとしない彼女に、小さく息を吐く。

 

「言えない相手なのか?」

「うん。言えない。」

「男?」

「うん。男。」

「歳は?」

「たぶん歳下。」

「どこの輩だ。」

「秘密。」

「何で言えないんだ?」

「あっくん、絶対反対するから。」

「…………」

 

アキの台詞にテンポよく返されるハルの言葉。そして淡々と禁句を口にする彼女の様子に、ついに盛大なため息を漏らせば窓際に立ち尽くすハルの目の前に歩みを進める。

 

ほぼゼロ距離で向かい合う2人。

先程まで無表情だったアキの表情が徐々にムッとした、納得いかないと言わんばかりの表情へと変化する。

 

その様子を挑発するかのように、可笑しそうにクスクスと笑う。ハルは意地が悪い。一見、誰よりも真面目で、誰よりも強くて、若干20歳とは思えないほどの言動を繰り出すハル。しかし、相手がアキとならば話は別だった。

 

彼が、自分に嫉妬する姿。

それを見ると堪らなく愛おしいなんて狂った考えを浮かばせる。

 

 

「ふふっ、"早川先輩"。顔が怖い。」

 

つんつんとアキの胸元を指先でつつく。

 

「別にやましいことはないよ?」

 

その指先を厭らしく首元へと移す。

 

「私、"早川先輩"の恋人だから――」

 

 

右手人差し指がアキの唇に添えられる。

艶のある声、意地悪な台詞、微かに口元に浮かぶ笑み。

 

まるでマキマがそこに居るような感覚だ。

 

 

 

 

「じゃ、私行くね?早川せ――」

 

刹那、アキの大きな手がハルの華奢な首を掴む。力は入っていないが、首を掴まれる状況はまるで支配されているような気分だった。

 

 

「無茶苦茶に犯していいか?」

「……甘いなあ、先輩は。」

「何が言いたい。」

 

 

 

 

ハルは更に挑発を仕掛ける。

 

 

 

 

 

「――無茶苦茶に犯したい。レイプするつもりなら、相手に承諾を得るのはお門違いだよ?」

 

 

淡い水分を含んだ艶のある唇が放つ言葉。やけにリアルで生々しい言葉たちに、アキはゴクリと息を飲む。

 

スウェットの裾から覗く白く華奢な細い脚。適度に筋肉のついた太腿。か細い華奢な体に隠れた筋肉。真っ直ぐな黒髪は寝癖で四方八方に跳ね、まるで無邪気な少女のよう。

 

そしてハルの内に潜む悪魔の存在。

 

全てのその条件が何故かアキを興奮させる。

"先輩"と仕事の時にしか呼ばれない名称をこんな時に呼ぶハルはやはり意地悪だ。そして挑発が上手い。

 

 

 

 

 

「あまり"先輩"をナメない方がいい。」

「――――ッ!!!」

 

 

体を強く押され、そのまま床に倒れ込むハル。

派手な物音が室内に響いたものの、恐らくデンジとパワーには一切聞こえていないだろう。

 

 

彼らはまだ夢の中だ。

 

 

 

「上下関係っていうものを教えてやる。」

 

リビングへと戻れば、ベランダへ続く大窓を閉める。床に倒れ込む彼女の姿は無防備そのもの。

アキの突然の豹変ぶりに動揺を隠せていないハル。まるで肉食動物に追い込まれた草食動物のような光景。

 

 

「……状況的に主従関係って感じがしますが。」

「それも悪くない。」

「先輩、今日仕事でしょ?時間は?」

「余裕で間に合う。」

「私はギリギリなんだけど。」

 

 

体を起こそうと肘を着くも呆気なくアキに制止され、気づけば組み敷かれていた。

表情は相変わらず冷めている。だけど微かに感じる子供っぽさ。

 

押さえ込むようにハルの上にのしかかるアキ。そしてその手は再び首にかけられる。

 

 

「…好きだよ、あっくん。」

「このタイミングでそれか?」

「優しいあっくんも――」

 

首を掴むアキの手を掴む。

 

「デンジくんたちと戯れてるあっくんも。姫野先輩といちゃいちゃする早川先輩も。煙草を咥える先輩も……」

 

片膝を持ち上げ、アキの下半身に押し当てる。

 

「エッチのときのあっくんも。私に嫉妬してくれるあっくんも。――」

 

妖艶な笑みを浮かべる。

 

 

 

 

 

 

 

「涙を流すあっくんも、全部好きだよ。」

 

 

両手をアキの頬に伸ばし、ゆっくりと瞼を閉じる。温かな頬の温度にハルは胸を撫で下ろす。

 

 

 

しかしその瞬間、アキの手元に力が込められた――

 

 

 

 

 

 

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