都合のいい夢を見させて   作:鈴夢

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吉田ヒロフミという男

 

・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「珍しいね。キミが時間通りに現れないなんて。」

 

 

 

無造作な黒髪と左耳に付けた大量のピアス、口元には色っぽさを感じさせるホクロ。

目にはハイライトがなく、どこか物憂げな雰囲気を漂わせる青年。

 

その青年は待ち合わせ場所に指定した喫茶店のテーブル席に既に腰を下ろしていた。

テーブルに乗せられているオレンジジュースの減り具合から、恐らくかなり待たせていたことが分かる。

……ていうか伝票が2枚あるし、よく見るとケーキ皿が2皿ほどあることに気づく。

 

まあ、仕方ない。

遅刻した私が完全に悪い。

 

 

「少し用事があって。ごめんね?」

「ううん、大丈夫。ハルさん今日も可愛いー。」

 

好奇心溢れ、気乗りしたような声色と表情。動作やしゃべり方には少なからず演技的な部分がある青年の言動には妖しさしか感じない。

 

そんな青年に疑いのような酷薄とも言えるような視線を向けると共に、ハルは対面側に腰を下ろす。

 

 

 

 

"現役高校生"

"民間デビルハンター所属"

 

青年の名前は"吉田ヒロフミ"

 

かくかくしかじか。まあ色々あって吉田とは定期的に会うようになった。

彼は岸辺とも繋がりがある。そもそも彼と知り合ったのも岸辺経由だった。

 

 

 

「スーツ姿もいいけど、やっぱり私服ってイイ。」

「…………トーストとコーヒーを。ミルクもお願いします。」

 

じっとハルの身なりを見るなり、肩肘を立て口元を緩める。しかしハルは何も反応を見せず、お冷を運んできた女性スタッフにメニュー表を指さしながらオーダーする。

 

 

「オレ、ハルさんの服のセンスも好きだな。お腹が見えそうなのもエロいし、線は細いくせにお尻と胸はそれなりにあるし……」

 

だぼっとしたハイウエストのブルーカラーのバギージーンズ。そして白地のシンプルな長袖のコットンTシャツの丈は短く、チラッと腹筋の割れた腹部が露に。

メリハリのある体格に欲情する男たちは多いだろう。

 

「今日は髪の毛下ろしてるんだね。可愛い。」

「相変わらずだね、吉田くん。」

「髪の毛下ろしてるの、キスマーク対策でしょ?」

 

スっと伸びる手がハルの黒髪に触れる。髪の毛を捲るように持ち上げると左の首筋にはっきりとキスマークが残されていた。

 

 

 

「へー、妬いちゃうなー。」

「嘘。」

「嘘じゃないよ。」

「女誑しの"蛸"野郎め。」

「"鬼"に言われるのは怖いなあ。でもキミの事は好きだよ。」

「生憎、うちの悪魔は吉田くんのこと嫌いだから気をつけてね。」

 

いけすかない顔良しだけの目の前のこの男の事は、鬼の悪魔はたいそう嫌っている。

 

「ハルさんはオレのこと好き?」

「可もなく不可もなく。」

 

 

 

ハイライトの無い瞳と交わる視線。

高校生らしからぬその風貌と言動は数々の女性たちを魅了しているに違いない。

常にうっすらと浮かぶ微笑。なんだかんだ人当たりは悪くない。

しかし、彼から放たれる台詞には一切重みを感じない。軽い。ハルは半ば彼を軽蔑しているような様子だった。

 

 

 

 

 

「ねえ。彼氏サンってセックス上手?」

「うん。」

「オレよりも?」

「人聞き悪いんだけど。吉田くんとそういった行為はした事ないでしょーが。」

「ならさ、試してみない?」

 

ニコッと更に口角が持ち上がる。

シックな喫茶店でこんな話をするなんて罰当たりな気もする。

 

「嫌だよ、吉田くんとエッチするのは。」

「えー、何で?」

「なんか、行為中に殴られそう。」

「それ酷いなあ。偏見だ。」

「無表情で女の人とか殴ってそうだもん。」

 

勝手なイメージで申し訳ない。

でも、何度会っても"そういう"イメージしか湧かないのだ。

女子の上に股がって、にこやかに微笑みながら殴ってそう……なんて。

 

「次会うときはハルさんの家にしようよ。家知ってるし。」

「怖っ、ストーカー?」

 

"ゲッ"と眉を寄せ、明らかに嫌そうに表情を歪ませる。吉田は椅子の背もたれに体を預け、オレンジジュースの入ったグラスに手を伸ばし、カラカラとストローで中身を掻き回す。

 

「港区一番の高層マンションでしょ?さすが公安のデビルハンター様。オレも将来そこに住みたいな。」

「民間辞めて公安に来ればいいんじゃない?待遇は悪くないし。」

「ん、考えとくよ。」

 

殆ど中身のないジュースに口をつける。氷は溶け切りかなり薄味なんだろうな、なんてハルは呑気に吉田を見据えていた。

 

すると暫くしてオーダーしたトーストとコーヒーが届けられる。柔らかい麦の香り、芳ばしいコーヒーの香りに頬がついつい緩んでしまう。

 

「すみません。あとオレンジジュースも追加で。」

「優しい、ハルさん。好き。」

「私が飲むの。」

「……えー…」

 

表情変えず、明らかに声のテンションが下がる吉田。ついつい虐めたくなるような、歳下の男の子を相手にハルもハルで意地が悪い。

 

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

 

 

 

 

「はい、コレ。」

 

ミニサイズのショルダーバッグから取り出された茶封筒。それを吉田に手渡すと、ハルは小さく笑みをこぼした。

 

「私からのラブレターだよ。読んでね。」

「ははー。うれしいなー。」

 

"ラブレター"

そんな訳がない。

今日はこれを手渡すために吉田との時間を作ったのだ。

 

 

そんな2人は"盗聴"を恐れる。

だからこそ、本来の目的に関わることに関して、その会話は一切行わないと決められていた。

 

 

「岸辺さんは元気?」

「元気だよ?お酒の量は相変わらず増え続けてるけど。」

 

日に日に酒に手をつける回数が増えていると、ハルはバディながら彼を心配していた。まあ、心配したところで何も変わらないのだが、考えたところで無駄なのは確かだ。

 

 

 

「民間内でも有名だよ。公安の最強バディの話。」

「余計な噂とか流してないよね?吉田くん。」

「うん、まさかそんなことシテナイヨ。」

「……」

 

"きっと、彼のことだから余計なことを言いふらしてるに違いない"

 

彼のわざとらしいカタコト口調に、ムッと口を尖らせる。

 

 

 

 

 

「ところで、岸辺さんとはシたことある?」

「何で今日はそういう話が多いの?」

「キスマークに触発されて。」

 

まるで下ネタ好きの男子中学生だ。

やけにニタニタと笑い、試すように顔を覗き込んでくる吉田にハルはため息を漏らす。

 

 

「――あるよ、1回だけ。」

「それは同意の上?」

「半ば強引だったけど、一応同意。」

「殴られた?」

「そんな事しないよ、岸辺さんは。」

「じゃあ、オレとする時は殴ってあげるね。」

「……はい?」

「ハルさん、そういうの好きそう。」

「"酷いなあ、偏見だ。"」

「首とか締められると燃えるタイプじゃない?」

 

吉田の言葉に、ふと今朝の出来事を思い出す。

"先輩をナメるな"と恋人に犯されたばかりだ。

そういえば、アキに首を絞められて半殺しにされた、ような。

 

でもあれは、アキだから成立したんだ。

 

 

 

「オレも、ハルさんなら殴ってみたいかも。」

「えー……」

「歳下の男の子に、組み敷かれて殴られて。体格差で抗えないんだ。暴れても捩じ伏せる。」

「力は同じくらいでしょ?」

「お酒か薬を飲ませる。さすがに酩酊してれば無理じゃない?」

「……最低……ふふっ……」

 

 

なんだこの会話は。

歳下の高校生にこんな馬鹿げた会話を繰り広げ、傍から見れば気味が悪いだろう。

バカバカしくてついつい笑ってしまう。

 

 

 

「オレンジジュース、飲んだら?」

「やっぱりオレの為に注文してくれたんでしょ?……もう氷溶けて薄まってるんだけど……」

「要らないなら私が飲む。」

「嘘。それでも飲むよ。ハルさんが頼んでくれたんだもん。」

 

 

時間が経ってかなり薄まったオレンジジュース。水滴を纏ったグラスはやけに生暖かった。

 

 

 

「好きだよ、キミの事。」

 

 

 

冗談交じりのふざけた彼の告白に、

ハルは再び冷淡交じりの馬鹿のように口を開けて笑う。

 

 

・・・・・・

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