エンジョイ勢のたのしいむしジム   作:ハッソ

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《きりさく》②

=ビート視点=

 

「気付かない内にぼうぎょを下げられていたりするかもだぜ?」

 

そんなわけはない。

からかうような口調のふざけたジムリーダーに非常に腹が立つ。先ほどの「毒でも…」もそうだ。

ボクのユニランの特性は《マジックガード》。毒でダメージなんか受けるわけない。

仮にどこかで能力を下げられてるんだとしても次のゴチムの特性は《かちき》だった。そう言ったことが起きていればすぐに解る。

 

仮にもジムリーダー、それを知らないはずもないのに、ボクを馬鹿にするためにそういう言い方をしているに違いない。

 

「くっ…ジムリーダーであるあなたの顔を立ててあげただけです。いい気にならないようにしてくださいね」

 

この勝負は勝たなきゃいけない。

 

勝たないと、ローズ委員長にボクの価値を示すことが出来ない。

ローズ委員長に認めて貰わなくちゃボクの「特別」がなくなってしまう。

大丈夫。ボクはローズ委員長のおかげで施設を出ることが出来たし、トレーナースクールにだって通えた。勉強だって凄く頑張った。

だから、だから、その頑張りを…ローズ委員長に示さなくちゃいけない。

ボクを選んだことは、絶対に間違いなんかじゃないって、ローズ委員長に失望されたらボクにはもう…。

握りしめたボールの中からミブリムが気遣うような目を向けてくる。居たたまれなくなってボクは、ミブリムをボールから繰り出す。

 

「ふるるー」

「ミブリム!まずは…」

 

すぐに戦況を変えようと指示を出そうとして…脳内にイメージが浮かぶ。

キンキンと牙をならすスコルピにミブリムがぶるりと震えている。

 

これは《きけんよち》。効果抜群の攻撃がある時に教えてくれるミブリムの特性。

 

「どうして今…」

 

 

 

 

《かみつく》

 

 

 

 

「かみ…つく?」

「ん?」

《かみつく》は悪タイプの技。ボクの手持ちには全て効果抜群だったはず。それなのにスコルピがバトルで使ったのは《きりさく》だけ。

気付く。気付いてしまう。

 

ずっと、手を抜かれていたんだ。

 

「どうしてスコルピに、《かみつく》を使わせないんですか?」

ジムリーダーとスコルピは困惑しながら顔を見合わせる。

「え?《かみつく》なんて…ああ、今新しく覚えたのか。よかったなスコ…」

「ふざけた演技はやめてくださいよ!」

まだしらばっくれようとするジムリーダーに思わず声を荒げてしまう。

こんなのボクらしくない。だけど我慢が出来なかった。

「いい加減にしてください。ずっとずっと…《マジックガード》も《かちき》もジムリーダーが知らないはずないでしょう。その上《かみつく》を使ってなかった?」

どれだけ、どれだけボクをコケにするんだ。

ボクはローズ委員長から選ばれたエリートの中のエリート。

マイナーリーグのジムリーダー程度がこんな扱いをするのは許されない。

 

「そうか、わかりましたよ」

 

気付けば

 

「ボクが妬ましいんでしょう?だからこんな嫌がらせをするんだ。」

 

ボロボロと

 

「わざと手を抜きながら戦って‥‥スコルピの攻撃だってそうだ!何かタネがあるのは分かっていますよ!何か…何かズルをしたんでしょう!」

 

何かが崩れるように言葉が漏れる。

ボクの中にあるぐちゃぐちゃの何かがそのまま言葉になっていく。

それは汚くて、愚かな言葉だ。

ボクの嫌いな言葉をボクの口がペラペラと喋る。

 

目の前のジムリーダーは少し驚いたようにした後、ずっと浮かべていた笑みを消した。

それから、少し間を空けて口を開く。

 

「ズルも手抜きもしていない。

 《かみつく》を使わなかったのは、スコルピが覚えたことに俺が気付いてなかっただけだ」

 

「嘘ですよ」

「マジだ。そこのミブリム、エスパータイプなんだろ?俺が嘘ついてるかどうかくらいは分かるんじゃねえの?」

つい、言われるがままにフィールドを見やる。

向かい合ったミブリムとスコルピが二匹とも戦うのをやめて、心配するような目でボクの方を見ていた。

 

「てもちの数とかもちものの有無とか…平等ではなかったかもしれないけどさ。

 俺は真剣勝負のつもりだ。判断ミスはあるかもしれないけど…勝つ気で戦ってるよ」

言葉を選びながら喋っているのが分かるたどたどしい喋り。

サングラスのせいで気付きにくかった。

 

目の前のジムリーダーは、ボクを見ていた。

 

ボクの一挙手一投足を見逃すまいと真剣な、テレビで見たプロトレーナーみたいな目だ。

 

悔しいけれど。認めたくないけれど。

きっと本当に嘘をついていないと思った。

ミブリムに確かめなくたって、ボクには昔からそのくらいのことは分かる。

でも、それを素直に受け入れる事は出来ずに、黙ってしまう。

 

ボクが黙っていると、ジムリーダーはずっと待っていた。

そして、腕を組んだり、顎に手を当てたり、とまだ言葉を続けようと考えた様子の末に結局こう言った。

 

「まぁとりあえず、バトルを続けようぜ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行くぞスコルピ!相手をよく狙って…」

「ミブリム!先に《サイケこうせん》を!」

 

仕切り直されたバトル。

まずは、先手を取った。

ミブリムが心なしか先ほどよりも安心したような顔で伸び伸びと得意技の《サイケこうせん》を放つ。

相手のスコルピは確かどくタイプでもあったはず。エスパーの効きは決して悪くはない。

「しゃ、しゃあ・・・」

《サイケこうせん》を喰らったスコルピは‥‥効いている!

この勝負で初めてダメージを与える事が出来たが、スコルピは次の《サイケこうせん》を耐えられないように見えた。

 

「…手加減したりはしませんよ。あなたなんて関係なく、ボクは勝たなきゃいけないんですから」

 

次は間違いなく《かみつく》が来る。

勝つ気で戦っていると言ったからには、効果抜群の技を使わない理由はないだろう。ミブリムはまず、耐えられない。

 

でも、耐える事が出来れば…ボクとミブリムの勝ちだ。

 

 

「いい顔するじゃんビート君!俺も、当然手加減なしだ!」

 

スコルピが襲い掛かる姿勢を取った。

来る!

 

 

 

 

「スコルピ!《きりさく》!!」

 

 

 

えっ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「違うんだよ、ビート君」

「《リフレクター》がなかったら俺も《かみつく》を選んだかもしれないんだけどね?」

「《リフレクター》は物理攻撃を二分の一にしちゃうだろ?効果抜群でもそんなに効果がないんだ」

「え?『《きりさく》も物理攻撃じゃないですか』?確かに普通なら《きりさく》も半減されるぜ」

「へへっ!実はな!急所に当たるような会心の攻撃は《リフレクター》の影響を受けないんだ!そして《きりさく》は急所に当たりやすい攻撃!」

「更にスコルピのとくせいは《スナイパー》って言って急所に当たった時にその威力を高めることが出来て‥‥」

「待って待て待て違うんだって!それに加えてほら!《するどいツメ》も持ってるんだよ!急所に当たりやすくなるもちもの!」

「《するどいツメ》と《きりさく》を組み合わせた時の急所の確率はなんと‥‥50%!!」

「おいおいそんな目で見るなよ。信じられないかもしれないけど、これはタマムシ大学の偉い先生が昔に発表した論文でも証明されている数字‥‥ってマクワが言ってた!」

「『信じられないのはあなただ』『この勝負をそんな運否天賦に任せたんですか!?』・・・・いやいやもう一度冷静に聞いてくれよ」

 

「《かみつく》は効果抜群だから二倍になるけどその後《リフレクター》に半減されるから等倍」

「《きりさく》は50%の確率で急所に当たって急所に当たれば2.25倍」

 

 

「つまり、《きりさく》の方が強い!」

 

 

「だから手加減するような意図はまるでなく、単に俺は負けただけでして。俺は確かに負けたんですけど、ほら、ズルも手加減もしてないわけでね?」

「勝負前に言ってたようなローズ委員長への苦情は、別に送らなくてもいいんじゃないかな?いや、送らないでいただけませんかビートさん!」

 

 

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