エンジョイ勢のたのしいむしジム   作:ハッソ

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《ブロッキング》

今更の話だが。

 

ガラルのリーグ戦は何度も戦う総当たり戦だ。

対戦表が一周するまでで一区切りされており、区切りごとにルールが違う。例えば一周目の今はもちものなし、ダイマックスありのシングルバトル。手持ちの数こそ試合時間の調整のために試合ごとに変動があるものの、とってもシンプルなルールだ。

 

これを「オープン戦」と呼んだりする。

オープン戦はシンプルな分、タイプ相性の有利不利のアドバンテージで決着って事も多い。勿論技や特性でそれをひっくり返すのも各ジムリーダーの手腕の見せ所なんだけど。

 

オープン戦のシンプルなルールで強いジムリーダーが一番強いという人も居れば、オープン戦では真の実力は分からないという人も居る。

 

まぁリーグ戦は長い。オープン戦ではまだ新顔や新戦術を試したりしているジムリーダーが多いから、実力がはっきりするかって言われたら微妙かもしれない。

ただ、オープン戦で今年の調子が見えてくるってのはある。例えばマクワは今年のオープン戦今のところ連勝してる。そういう勢いは無視できないだろう。

‥‥長いリーグ戦を毎試合腕組んで見ている屈強な男が居る気がするけど、あの人は一体普段何しているんだろう。

 

 

 

とにかく、ジムリーダー同士はプライベートの付き合いと関係なく、リーグ戦中は何度も会う事になる。

会うって事は言葉を交わすってわけだ。

ネズと俺だって試合前に少し話すし、ネズはバトル中もよく喋る。

例えば、こんな感じ。

 

 

 

「今日は妹が見に来てるんでね。悠々と勝たせてもらいますよ」

 

 

「昨日は妹が初めてポケモンバトルに勝った記念日になりまして。アニキがカッコ悪い姿は見せられないんですよ」

 

 

「マリィがお祝いのケーキを作って待っているらしいんです。残念ながら今日は君の負けですね」

 

 

「あまり下手なダイマックスをしやがらないでくださいよ。マリィに悪影響が出かねない」

 

 

 

 

「ハッピーバースデー!マイシスターマリィ!この勝利と歌を捧ぐぜ!」

 

 

 

 

毎 回 こ れ だ よ 。

 

 

何故か聞いてもないのにどんどん妹のマリィちゃんに詳しくなっていく。

少なくとも誕生日と好きなケーキの種類と初めて捕まえたポケモンがモルペコってのは完全に覚えた。

だが、肝心の本人のビジュアルが解らない。

なので、俺は試合後に言った。

「そんなに言うなら写真くらい見せてくれよ」

ネズは眉間にしわを寄せて、少し考える素振りを見せた後にこう言った。

 

 

「‥‥何かお前に見せるのは嫌です」

 

 

何だこいつ???(半ギレ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日こそ勝ってマリィちゃんに会わせて貰うぜ!」

 

「相変わらずベリーノイジーなやつですね…。だから会わせたくないんですが…」

 

目の前にいる白黒のでかい唐辛子みたいな前髪の男がネズ。ローテンションで物凄い猫背。こんなアングラな雰囲気を醸しておきながら、正体はただのシスコンだ。

いつの間にか「写真見せろ」から「会わせろ」に変わっていたが些細な事だ。

ネズ曰く世界で一番クールでスイートなマイシスターことマリィちゃんに会いたいんだよ俺は!

顔も知らないけど!

顔も知らないけどクッソ羨ましいもん!

俺もマリィちゃんにショッピングに誘われて財布を当てにされたりしたいもん!

いつもいつも自慢話されれば羨ましくもなるだろうよ!

因みにネズと年中対戦するジムリーダーはほとんど同じ被害にあっている。

音楽と妹の話しかしないんだよ、このネズって男は。

みんな何故かマリィちゃんのプロフィールに詳しくなっているので、マリィちゃんクイズ大会とかやったら盛り上がるかもしれない。

 

他の人は写真見せてもらったらしいけどな!

 

最近だとサイトウは新人なのにもう見たらしくて「かわいい子でしたよ」とか言ってた。

やっぱりかわいいのかマリィちゃん。

何で俺だけ見せてもらえないんだよ。

 

 

「まぁ今日も勝たせてもらうので心配は要らないですがね。連勝記録、伸ばさせてもらいますよ」

「うぐ…」

 

そう、俺はネズに今まで勝ったことがない。

扱っているタイプの相性は有利なはずなのに、全く敵わないのだ。

「きょ、今日は一味違うぜ!」

「強がりが見え見えですが…」

ネズはどこからともなくマイクを取り出して…

 

「見せてみろよ!お前の《とっておき》!」

 

片腕を挙げれば、スタジアムにかっこいいBGMが流れ始める。

 

打ち合わせした?

いいなーあれ。今度俺もやって貰おう。

 

 

 

「いけっ!ヘラクロス!」

 

「まずはこいつ!頼れるリード!頼むぜ!ズルズキン!」

 

 

フードをだらしなく垂らし、腰パンみたいな毛皮に両手を突っ込んだふてぶてしい奴。

小さなドラゴンのようなポケモン、ズルズキンだ。

ガンをつけるような《いかく》にヘラクロスが委縮してしまう。

こいつがまた嫌らしいんだよなぁ…。

 

「だが、びびってられるか!ヘラクロス!《つるぎのまい》!」

 

「きみのこころはまるで《クリアボディ》。見えすぎちゃって困っちゃうよ」

 

角を剣に見立てた構えを取り力を高めようとするヘラクロスを前に、軽く口ずさみながらニヤリと笑うネズ。

笑い返してやりたいが、笑えねえ。冷や汗が流れる。

集中が高まり、やる気十分なヘラクロスの前にズルズキンがまるで瞬間移動のように現れた。

「しまっ…」

ズルズキンは、ネズと同じようにニヤリと笑う。

 

パァン。

 

小さな破裂音がして、ヘラクロスが仰け反った。

ダメージは、大したことはない。だが、意表を突かれてヘラクロスは《つるぎのまい》を使えてない。

《ねこだまし》。

初手に限り、必ず先手が取れる技。こっちのリズムが崩された。

だけどまだかすり傷だけ…ここから始まったようなもんだと思え。

 

「仕切り直し!もう一度《つるぎのまい》!」

 

「今度はマイクパフォーマンス決めろ!ズルく行こうぜ《ちょうはつ》!」

 

手をぶらぶらと振るズルズキン。

退屈そうに「来てみろよ!」と言わんばかりだ。

角を構える《つるぎのまい》の眼前でのその態度。

ヘラクロスは拳をフルフルと震わせて「親父ィ…止めんでつかぁさい…!」とこちらに目で訴えている。

これ以上変化技は使えない。

ヘラクロスはもう殴り合いを始める事しか考えてねえからな。

 

だけど、それは相手の狙い通り。

絶対に何か仕掛けられてる。《ちょうはつ》に乗って安易に攻めるのがまずいのは分かる。

じゃあ、どう攻めれば…。

 

「‥‥‥‥‥」

 

ネズは無言だ。

さっきまでペラペラ喋っていたのに、不気味な程静かにこちらを見ている。

な、何だ…?

 

「ふっ」

 

鼻で笑われた。

 

 

 

「やってやろうじゃねえかこの野郎!!!」

 

 

 

俺の声と同時に突撃するヘラクロス。

向かってくるズルズキン。

二匹がフィールドの中央で衝突する!

 

 

 

 

 

……………。

 

 

 

 

 

 

衝突音は、しない。

 

ヘラクロスとズルズキンはそれぞれ、すれ違うように場所を入れ替えてぐるりと廻り元の場所へと戻る。

 

「はぁ‥‥お前の馬鹿さ加減だけは読めないですね」

 

「‥‥‥わざとだし。罠って分かってたからわざとだし」

 

今のはヘラクロスが《メガホーン》を外しただけだ。

《つるぎのまい》を一度積んだ大技の破壊力なら、当たっていれば致命傷は間違いなかった。

 

 

だから、外して助かった。

 

 

ズルズキンは《カウンター》の構えを取っていた。

ヘラクロスの突撃に飛び込んできながら、その力をそのままこちらへ返す気だったのだ。

当然、喰らえばヘラクロスはせんとうふのう。今のは肝が冷えたな。

 

 

駄目だこれ。

全部読まれるぞ。

思わず、今日頼りにする予定のあいつのボールを確かめる。

どう勝負に出るべきか?

 

 

‥‥ヘラクロスを今引いてみるってのは、どうだ。

《ちょうはつ》を食らったが、《つるぎのまい》を一回積めたヘラクロス。

それを引くって言うのは読めないんじゃないか…?

 

もし相手の《カウンター》に合わせられたら安全に交代が出来る。

‥‥よし、これだ。

 

「っしゃ行くぞ!」

 

読まれないように勢いよく声に出しながら、突撃しようとするヘラクロスを戻し、次のポケモンを出す。

我ながらスムーズに行けた。

 

これなら、このまま――――

 

 

「《であいがしら》ぁ!」

 

 

入れ替わったアイアントの意表を突いた一撃。

ボールから飛び出すと同時の最速の打撃。

 

だが、完全に不意をついたはずの攻撃は()()()()の腕に止められる。

 

「アィアン!?」

 

 

 

()()()()()に対して、()()()()()

 

 

 

「ガラワルルル…‥‥」

 

 

タチフサグマの《ブロッキング》。

 

 

「メンバー紹介!甲高い唸り声が自慢のタチフサグマ!」

 

 

タチフサグマが両手を上げてポーズを決めると同時に観客席からブブゼラが鳴り響く。

この試合、まだオープン戦のデイゲームなのに熱心な観客だなぁ!

俺がアイアントに交代するタイミングに綺麗に合わせて、ネズも交代したのか!

 

 

 

何もかも後手。

相手に全て上手を行かれて、俺は自然と笑っていた。

 

「ここから見せてやるよ、ジャイアントキリング」

 

「お前のその、ドゴームみたいなビッグマウス、嫌いじゃあないですよ」

 

 

 

 

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