=マクワ視点=
僕の
男二人でスイーツをつつきながら、いつものようにため息を吐いた。
サイトウさんに教えてもらったそうですが、何故二人で?
美味いからいいじゃんと言われても、確かに美味しいですが…。
「何だよ」
今日の僕達はスケジュールの調整で急遽の休日。
街中ということで、二人共普通の恰好。
アベリもいつものサングラスを外し、髪型も普通に直してこう見ると‥‥誰か分かりませんね。
最近では日常生活でもあのユニークな恰好をしているから、あちらの印象が強いんですよ。
サングラスを外すタイミングを見計らっているらしいけれど、外したら誰か分からなくなるのでは?
「君の不甲斐ない試合を思い出しましてね。ズルズキンのタイプは覚えてないんですか?《メガホーン》や《ストーンエッジ》は効果抜群じゃありませんよ」
「お前、よくチェックしてんなぁ…」
あれは《いかく》が入っていたから急所狙いをしたのであってーなどと言い訳をしているアベリを聞き流しながら、僕もスイーツを頬張る。
これも美味しい。紅茶とよく合っている。
弟達に持って帰ってやりたいけれど‥‥母には顔を合わせたくない。
配達サービスなどやっていたりしないだろうか。
「おい聞いてんのかマクワ!《メガホーン》は言い訳出来ないけど、《ストーンエッジ》は俺とアイアントのリベンジも兼ねた感慨深い一撃で」
「すみません、お土産に買って帰りたいんですが、配達サービスはやっていますか?」
「聞いてないじゃねえか!」
「アベリ。こっちのメッソンのケーキとか美味しそうですよ」
「メッソンって何?へー、かわいい。俺次これ取ってくる!」
アベリはいつも通り元気だ。
今日はオフなので目立たない方がいいと思いますが…。
追加でケーキを取ってきたアベリがふと思い出したように話題を振ってくる。
「そういやマクワは今年の推薦状どうするんだ?」
「今年の?恐らく近くのトレーナースクールにお渡しすると思いますが…」
今の僕には後進を育成するような余裕はない。
自分のジムのジムトレーナーすらイベント時は母のジムに頭を下げて借りなければいけない。
推薦するジムチャレンジャーを見出すなんてとてもじゃないが出来ないだろう。
幸い、キルクスのトレーナースクールに信頼出来る人が居るので、その方に毎年託している。
「あなたの方は?」
「地元の悪ガキにいい年の奴らが居たら渡してやろっかなーって感じ。むしとりたいかいに来てたやつらな」
「ああ、彼らですか。悪くないんじゃないですか?いい所まで行きそうです」
「まぁ一年目でいきなりジムチャレンジクリアまでは思ってねえよ」
「ここに二人居ますけどね。一年目クリア」
「毎年それなりには居るだろ……居ない年もあるらしいけど」
アベリはちょっと不貞腐れたように、ケーキを食べる手を止めてそっぽを向いた。
それでも、セミファイナル優勝者は一人だから、と言いそうになったのだろう。
僕も少し無神経に似たような事を言いかけてしまったから。
勝者と敗者。
いつかは笑えると信じているが、未だに僕達には無理そうだ。
今、これだけ仲良く出来るなら充分だと思おう。
「急にどうしたんですか?ジムチャレンジはまだ先でしょう?」
本来ならそろそろ目をつけていてもおかしくない時期だが、若手が、特にアベリがそんな先の話を振るなんて珍しい。
「いや、この前ローズ委員長にさ…これ言ってもいいのか?」
「聞かない方が?」
「大丈夫だろ‥‥大丈夫だろうけど、一応他言無用で」
「了解です」
元々人のうわさ話を広めるような趣味はない。
その辺りは信頼されているのだろう。僕が了承するとアベリは話し始めた。
「マクロコスモスに頼まれてローズ委員長が今年推薦する子の資質を確かめてくれーって様子見に行ったんだよ」
「ほう、ローズ委員長が?」
「ああ。小さい頃から面倒見ている子なんだってさ」
確か去年ローズ委員長の推薦された方もかなり活躍されていた。
あの後、確かマクロコスモス主催の大会でも好成績を残していたはず。
次の推薦者にも期待の目は集まるでしょうね。
「滅茶苦茶才能ある子だったぜ。態度は昔の俺っぽいところがあったけど」
「ジムチャレンジ中のあなたに?」
そう言われて思い返されるのは
『なんだよ、俺とバトルする気か?
いいけど、俺強いからさ。負けても、泣いたりするんじゃねえぞ?』
『おぼっちゃまのマクワがしょうぶをしかけてきた!ってな!』
当時生意気だったアベリだ。
アレに似ている…。
大丈夫でしょうか、今年のローズ委員長の推薦は。
実際、当時のアベリも才能は凄かったですが‥‥何故かバトル中に長考する癖があったので勝てたんですよね。
攻撃したら『ああっ!?まだコマンド選んでないぞ!?』とか言って。
似ていると言うのがあの才能と慢心両方だとすると…。
「どうした?歯にバチュルが挟まったような顔して」
「いくらバチュルが小さくても挟まりませんよ…。少し心配になっただけですよ。その方の今後が」
「まあ大丈夫だろ。マクワレベルが居なければ優勝だよ」
「いえ、強さではなく…」
アベリも当時はかなり悩んだり苦しんだりしたはずですが。
いや、自分が悩んだり苦しんだりしたから、それが自然だと思っているのか。
僕だって当時はかなり悩んだ。
ジムチャレンジに挑む中で、母の敷いたレールを進む自分に疑問を持った事が始まりだったのだから。
確かに、あまり口出しし過ぎるのも野暮ですか。
自分自身の答えは自分自身で見つけなければいけないものです。
「そういや俺、しばらくリーグ戦の時以外連絡取れなくなるぜ」
最後のケーキを食べながら、突然そんなことを言われた。
このお茶会、意味不明な上に急だと思っていましたが、そういうことでしたか。
始めに説明しておくべきでは?
「僕の方も改めてジムトレーナーの募集を始めるところでしたが…連絡が取れなくなる?」
ネーナタウンは田舎だが、そこまで音信不通ではない。
交通の便は最悪ですが。
「ワイルドエリアで気になるポケモンの目撃情報が出ててな。空いた時間は張り込みに使うつもり」
スマホロトムに映して見せてくれたのは見たことのないポケモン。
赤い翅が鮮やかな虫ポケモンだ。モスノウに少し似ている。
「珍しいポケモンなんですか?」
「少なくともガラルではかなり希少。渡りの途中でワイルドエリアを通るんじゃないかって話だ」
ふむ、珍しいだけではワイルドエリアに張り込んでまで探したりはしないでしょう。
彼、野宿嫌いですし。それでも探す相手。
このポケモンは相当警戒してもよさそうだ。
「因みに名前は?」
「ウルガモス」