ワイルドエリア。
ガラルを横断する自然保護区域。
いや、ガラルの市街がワイルドエリアという大自然を横断している、と言った方が正しいかもしれない。
保護区域ではなく未開拓区域と呼んでもいい。
そもそもポケモン達の暮らす大自然を管理する事へのリスクから、「ポケモンと人間の共存」としてガラルが選んだ距離感がこれ、ということだろうか。
正直、地形も生態も危険すぎる。その上、天気まで時間ごとに驚くほど変わる。
大体ワン○ースのグラ○ドラインと思っていれば正解だ。
俺だって一応ジムリーダー。
普通よりちょっとだけ強くポケモンを育てている自信はあるのだが、それでもなおワイルドエリアは厳しい。
マジで整備出来ないような地形をしているし、何か野生のポケモンも鬼のように強い。
子供達がワイルドエリアを通って冒険するのがジムチャレンジの通例なのだが、正直言ってトチ狂っていると言わざるを得ない。
俺やマクワの世代までは毎年遭難者出ていたらしいからね。
勿論救助するためのスタッフも居たんだけど、見るからに手が足りていなかった。
マクロコスモスが本格的に管理し始めた十数年より前なんてもう。
遭難者どころか今でも見つかってない行方不明がどうとか‥‥。
‥‥流石にちょっと言いすぎた。
俺は人から聞いただけだが、当時は逆に引率のジムトレーナーが一緒に行動して集団で通っていたらしいよ。
マクロコスモスが管理するようになってからは安全性が保障されて、逆に子供だけで冒険するようになったってわけだな。
今はもう数人の遭難者が居た俺達の世代よりも更に安全。
マクロコスモスが常時スタッフを配備し、アーマーガアが定期的に巡回。
更にスマホロトムの通信範囲の発達によって、昨年は何と遭難者すらゼロ。
凄いよローズ委員長。
いや、本当にすごい。
何が凄いって純粋に会社の利益や開発を考えるならここまで手厚いサポートは必要ないって事だ。
ガラル粒子の採取やダイマックスポケモンのすあなの調査だけなら常時置く必要なんてない。
監視カメラくらいでいいんだ。
あくまでジムチャレンジの為、ガラルのトレーナー達のためにここまで環境を整えている。
マジでやっている事が聖人のそれだ。
まぁ俺は今からそんなマクロコスモスの手厚い保護の届かないような奥地に行く訳だけどね。
一般人は近づけないようになっている禁足地って奴だ。
凶悪なポケモンが多く、最低限の整備もされていない危険地帯。
その人の手の届かないような場所に、目的のポケモンがやってくるらしいのだから―――。
奥地でキャンプを建てた俺がまず始めたことは授業だ。
「はい皆さん、教科書開いて―。もうチャイム鳴っていますよー」
大量の生徒を前に教鞭を取る。
因みに生徒達はレドームシ。
レドームシ達は突然存在しない教科書とチャイムの話をされて困惑しているようだ。
「そこー私語は慎むようにー。内申点に響くぞー」
レドームシの困惑が強くなる。
私語どころか喋ってもいないし、いつの間にか内申点がつけられている。
一体どうしたんだこのトレーナーは。
時々ネジが足りないと感じる時はあったが、ついにネジがはじけ飛んだのか、と。
失礼な。単純にちょっとワクワクしているのと誰も返事をしないのをいい事に調子に乗っているだけである。
「これが今回探す『ウルガモス』だ!」
ババーン!と効果音が出そうな感じで、スマホロトムに映すのは赤い三対の翅を持つむしポケモン。
正直解像度はよくないが、レドームシ達は興味津々に群がってきた。
よしよし、よーく見ろよ。
何故こんなことをしているかと言うと、人海戦術…じゃないな?虫海戦術?のためだ。
俺にはリーグ戦もあるから、ずっとワイルドエリアに留まり続ける事は出来ない。
試合以外の時間はなるべく居るつもりだが、俺が居ない間にウルガモスが通り過ぎてしまうという悔しい結果は避けたい。
そもそも、この辺を通るかもしれないってだけで絶対にここに来るとは限らないのだ。
かといってあちこち歩き回れば当然すれちがいの可能性が出てくるし…。
そんな猫の手を、いやニャースの手を借りたいような状況で俺が借りたのがレドームシの手だったわけだ。
レドームシ達は周囲の情報を精力的に集めている知識欲の権化だ。
発達したサイコパワーで周囲の情報を探り、その巨大な脳みそで情報を処理する。
更に素晴らしい事に彼らはサイコパワーを鍛え上げるために食事を避ける傾向があり、長期間の張り込みにはぴったりだ。
彼らを定点配置して、広範囲探査でウルガモスを逃がさないネットワークを構成しよう、というのが今回の趣旨だ。
教科書や内申点はどうでもいい。
でも授業は続けよう。
「ウルガモスは地方によっては神様とも呼ばれる凄いポケモンだ」
「多分伝説のポケモンなんだろう」
「俺が調べた伝承では暗くなった時に太陽の代わりになったとか、寒さに苦しむ人々を救ったとか、そういう心優しい逸話が多かったので基本的に性格は温厚そうだ」
「ただ、相手は神様。なるべく無礼のないように気を付けて欲しい。辺り一面を火の海にするとかもあったからな」
「タイプはむし・ほのお。発見例は少ないけれど、しっかり図鑑にも登録されているのでリーグ戦にも使用可能だ」
「むしポケモン使いとしては是非捕まえたい!みんなの協力に俺は期待している!」
では、質問のある方は挙手を!と言うと黙って聞いてくれていたレドームシ達が「ぷぎゅる!」「ぷぎゅる!」と元気よく手をあげる。
「じゃあ、そこのレドームシ君」
「ぷぎゅる。ぷぎゅぷぎゅ」
ふむ。ふむ。
全く分からん。
素人質問で恐縮ですが…みたいな感じだったけど、何言ってるか全くわからん。
「ぷぎゅぎゅ」
以上です。みたいな感じで座ったレドームシ君を周りのレドームシ達が拍手する。
お前らは分かるんだ…。
っていうかどこで拍手してるんだろう…?
「実にいい質問だったと思う」
何か楽しそうだし、適当にレドームシ達に合わせておくか。
「俺からはあえて答えは提示しないでいようと思う。これについては各自課題として頭に入れておいて欲しい」
何故か凄い真剣な顔になって頷くレドームシ達。
ねえ、これ何なの?何の話してたの君達。
「それでは各員の努力に期待したい!ウルガモス捜索作戦!開始だー!」
俺の声の後に、レドームシ達の「ぷぎゅるー!」が洞窟内に響いた。