エンジョイ勢のたのしいむしジム   作:ハッソ

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ガラルの『魔術師』

 

ポケットモンスターの世界へようこそ!

 

 

俺が転生した時、そんな出迎えはなかったけれど。

 

現代社会に生きていた俺はポケモンの世界に転生した。

知識チートで無双してやるぜー!とか最初の方だけ考えた。

 

が、それは諦めた。

諦めざるを得なかった。

 

 

俺には無双出来るほどの知識がなかったのである。

 

 

そもそもこのガラル地方の事も知らない。プレイしたことあるのはルビーサファイアまで。そこからのポケモンは時折ニュースやまとめサイトで入ってくる情報くらいしか知らなかった。プレイしてた頃もストーリーだけクリアして対戦を始めたりはしなかったので、知識はほとんど頼りにならない程度。勿論にわかの知識でも最初は上手く行った。タイプ相性を何となく理解して、なるべく効果抜群をつくだけで一般人相手になら結構いけたものである。

 

 

だが、本当の強者にはそれでは勝てなかった。

 

 

それを思い知ったのは十歳のジムチャレンジの時。

初出場ながら何とかジムバッジを八個集めた俺はジムチャレンジャーの集うセミファイナルトーナメントに出場し、そして惨敗した。

 

相手は同じく初出場の少年だ。

現役ジムリーダーの息子であり本人も天才な麒麟児。

俺に勝った少年はファイナルトーナメントでもジムリーダー相手に決勝まで勝ち進む好成績を残した。

 

それがマクワ。

 

その才気から「未来のチャンピオン」とも評される期待の新星。

最も「無敵のダンデ」がチャンピオンを降りる未来がいつ来るのかなんてさっぱり解らないが。

 

とにかく俺はマクワに異世界転生無双人生の自信をポッキリと折られ、意気消沈を……しなかった。いや、落ち込みはした。滅茶落ち込んだ。バリバリ落ち込んだ。

 

 

でも、それはそれとして「才能ないからやめよう」とはならなかった。

 

ポケモン勝負は楽しい。

読めないなりに相手の手を想像してみたり、思いつきが上手く行って気持ちよくなったり。そしてその喜びを手持ちのポケモンと分け合うあの感覚と来たら!

気付けばバラ色の人生よりもすっかりポケモンにのめり込んでしまっていた俺はジムリーダーを目指し、ジムに入門した。

あ、ガラルでは全てのタイプにジムがある。専門学校というか道場というか…その辺はジムの特色によって結構変わる。とにかくそんな専門施設の代表者がジムリーダーだ。

俺が門を叩いたのは「むし」のジム。ジムチャレンジしている時にワイルドエリアで出会った虫ポケモンのかっこよさにハマってしまったのが主な理由。

いいよね、むし。あとむし使いって少なそうだからライバル少なそうだったし。

ただ、俺が叩いたむしジムの門は…

 

 

 

 

 

 

 

 

「アベリまた負けたー」

「弱虫アベリがまた負けたー」

地元の手厚い歓迎を受けながら、俺は愛しい地元のたんぱんこぞう達に髪ぐしゃぐしゃの刑をプレゼントしてあげる。

「ぐあー!やめろー!」

「うわーん!」

ふっ勝ったな。ジムリーダーに歯向かうからそうなるんだぞ。

さて、久々のホームなんだけど…見る度廃れていくなこの町、いやこの村は…。

 

むしのジムがあるネーナタウンは寂れた村だ。

タウンマップにも載ってないし、どうろも森に呑まれて通りにくい。場所で言うならアラベスクタウンのすぐ近くだが、勿論パワースポットもないしスタジアムもない。

悲しいかな、これがマイナージムのある村だ。都市化計画からガンガン引き離されている。

スパイクタウンもコロシアムがないけれど、まだメジャージムがあるだけマシだぜ。

「さてと、とりあえずジムに顔出さないと」

ジムトレーナーも少ない我がジムだが、だからこそ大事にしないと。そう思ってジムの扉を開ける。

 

 

「遅い!!」

 

 

「うわぁぉあ!」

 

扉を開けるとバケモノが居た。

 

魔女みたいな顔して魔女みたいな恰好をした‥‥知り合いだわ。

 

俺の目の前に立っていたのはガラルが誇る妖怪、長い鼻と威圧感が特徴のフェアリーのばあさんだ。バケモノ呼びは許してほしい。事実バケモノだし。

「なんすか!急に出てきていい顔じゃないでしょ!」

「ふん、リアクションまでつまらない男だね」

え、ええ…唐突に驚かされてリアクションを酷評されている。理不尽過ぎるよこのおばあさん。

 

ポプラさんはお隣のアラベスクタウンのジムリーダー。

身体は枯れ木のようだが、俺が知る中で最も生命力に溢れたご老人だ。

全身をピンクやパープルで彩って堂々と歩く姿には最早かっこいいと言う言葉が似合う。

何と70年現役のマジモンのバケモンである。専門タイプはフェアリー。俺がゲームでやってた頃はなかったタイプなので未だによく解らない時がある。

 

驚いてしまったが(毎回驚いてしまうが)ポプラさんがうちの町に現れるのは珍しいことではない。

俺がまだ若手であることや、前任の引き継ぎが充分でなかったこともあってジムが近いポプラさんは俺の後見のような立場だ。

 

いつものようにジロジロと俺を上から下まで見渡す。

 

「ひねくれ方まで身のほどを知っている風なのがダメだね。もっとプライド持って性根からひねくれな」

「そんな奴居る…?あ、マクワとか…」

ひねくれがご所望のようなので反抗期ボーイの名前を出してみる。押し付けたいわけではない。

「あんな真面目な子のどこがピンクなんだい」

知らんよピンクって何だよ…。

 

意味不明なおばあちゃんだが、実力は確か。

最近は後継者を探しているらしいが、ぶっちゃけまだまだ現役だと思う。

俺、公式戦で勝ったことほとんどない。

因みに俺の後見を引き受けた理由もジムチャレンジの時の調子に乗った態度が気に入り、アラベスクに持ち帰ってピンクに染めてやろう、と思っていたらしい。

こわいよ、この魔術師…。その場合、むしジムは潰す気じゃねえか。

 

「一応後見として様子を見に来たよ。調子はどうだい」

「かなりいいぜ。ポプラさんも覚悟しておいた方がいい」

「言うじゃないか弱虫アベリが」

「それ流行ってる?もしかして流行らせてる?」

ポプラさん、時折来て飴玉ばら蒔くから子供受けもいいんだよね。あいつらの悪口ってポプラさんの真似してるんじゃないか?俺のホームなのにアウェーになってない?

 

「いよいよ私も歳だからね。ゴーストとかくとうも変わったし、さっさと隠居しないと」

最近では毎年口癖のようにこれを言う。

「ジムチャレンジをオーディションにしてるんでしたっけ?去年は惜しい人居たんですか?」

「全然ダメだったね」

「さいですか…」

じゃあ可能性があるとしたら初挑戦組か。

このおばあちゃんのハードルを超える奴なんて居ないと思うが…。

「あんたらが作る新しい時代に老いぼれは邪魔になる。上手いこと見つかることをねがいぼしにでも祈っておこうかね」

「ポプラさん…」

どうやら本気で思い悩んでいるらしい。あのポプラさんからねがいぼしに祈るなんて言葉が出るなんて。もっとこう、願い事は自力で叶えるもんさ!みたいな人だと言うのに。

少し寂しいな。

本当に様子を見に来ただけらしい。それだけ言って去ろうとする背中は昔見た時より小さくなっている気がした。

 

「そう悲観しなくてもいいぜポプラさん」

 

 

「次の試合を見に来てくれよ。俺達の作る新しい時代は小さなおばあちゃん一人を邪魔扱いするほど狭くないぜ!」

 

 

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