エンジョイ勢のたのしいむしジム   作:ハッソ

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《キョダイセンリツ》①

 

 

「うぉぉぉ!間に合えええっす!」

 

急いで家に帰ってきて、頭の上のモンメンもそのままにテレビの前へと直行。

マクロテレビへとチャンネルを合わせると、試合はまだ始まっていないようだ。

 

「ふー、間に合ったっす。アベリの試合、テレビで見れる時間帯なのは珍しいっすからね」

 

昼休みなどにネット配信で見ているが、それはそれ。どうせなら自宅のテレビで悠々と見たいものだ。

「まだあるみたいだし、ツマミと酒でも…おっと、お前の分もあるっすよ」

さておき、試合までは時間がありそうだ。

頭の上のモンメンも下ろして…と考えているとテレビに映ったものに驚く。

 

「えっ今日の解説キバナっすか!?」

解説席でニコニコと人好きのしそうな笑顔で軽く手を振っているのは最強のジムリーダーにして、炎上常連のインフルエンサー、人呼んで「ドラゴンストーム」のキバナ。

「はぇーオープン戦は数字取れないから力入ってないって話なのに」

基本的には手の空いているジムトレーナーが解説を務める事が多い。

熱狂的なファンになると、ジムトレーナーがこぼすジムリーダーのちょっとした日常がたまらないご褒美だとか何とか。

 

俺にはそこまでは分からないっすけど…。

 

それはそれとしてキバナのビッグネームくらいは当然分かる。

今こそアベリを推しとしているが、やはりガラルリーグのトップジムリーダーには憧れや尊敬を抱いてしまうものだ。

「この試合、録画しとこっと」

そんな風に上着も脱がずにテレビ前のソファーに座り込んでしまえば、頭の上のモンメンの事などすっかり忘れてしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さぁオープン戦も佳境です!本日の手持ちの数は3vs3になります!』

 

『解説はオレ様、キバナ様でお送りするぜー』

 

テレビに映るのはいつものように胡散臭くにやつくアベリと真剣な顔のメロン。

二人が指定の位置に着き、同時にボールを投げた。

 

 

現れたのは岩石を背負った平べったいポケモンと、白くて華麗に宙を舞う綺麗なポケモン。

 

 

『お互いの初手は‥‥イワパレスとモスノウ!奇しくもむしタイプ同士の対決となりました!』

 

『メロンさんのモスノウはよく見るが…アベリのイワパレスは新顔か?』

 

『ちょ、ちょっと待ってくださいね、データが‥‥』

 

解説のキバナの漏らした言葉に新人アナウンサーが慌てて机の上に広げられた資料を漁る。

知識量に追いつくために用意された資料だったが、慌ただしい。

なお、視聴者からはあわあわする姿が好評であり、キバナのSNSは炎上した。

 

『同じ子かは分かりませんが、以前にもイワパレスは使っていたようです!そもそもアベリ選手、試合ごとのメンバーの入れ替わりが激しいですね!』

 

『まだまだ若手だからな。チームメンバーを決めずに色んな戦い方を模索中なんだと思うぜ』

 

 

「イワパレス!やれ!」

 

実況、解説の声は試合中の選手には聞こえない。

アベリの指示を受けたイワパレスが早速行動を始める。

 

背負った岩壁から岩をいくつも射出。

それらの岩がモスノウの周囲を漂い…消える。

 

『《ステルスロック》。見えない岩で行動を阻害する厄介な技だな』

 

『えーっと、《ステルスロック》はアベリ選手、公式戦初使用です!』

 

確かに珍しい。

アベリの試合は基本その試合で暴れさせるポケモンを主軸に置く事が多い。

《ひかりのかべ》や《リフレクター》を使って守りを厚くすることはあっても、敵への妨害を初手に持ってくるのは今までのアベリのイメージとは少し違うだろう。

 

「モスノウ!」

 

対してメロンの指示を受けたモスノウが空中に漂う《ステルスロック》を避けながら、フィールドを飛び回る。

そして、翅を大きくはためかせるとフィールドを強風が襲った。

 

 

『これは《かぜおこし》…《ぎんいろのかぜ》!?どっちですか!?』

 

『残念!これは《おいかぜ》だな』

 

 

向かい風を浴びる形になったアベリ。

ダメージは受けていないのに、心なしか動揺しているように見える。

 

『《おいかぜ》で《ステルスロック》の場所が変わるんだ。自分で仕掛けた罠の場所が分からなくなっちまうんじゃないか?』

 

『そもそも見えないのですが…』

 

『オレ様にはまだ分かるが、バトルしながら少しずつずれていく岩の位置を覚えるのはアベリには厳しそうだな!』

 

 

「さっさと決めるぞイワパレス!」

「モスノウ!頼んだよ!」

 

キバナの解説は勝負を急ぐかのように攻めにかかったアベリの姿で信憑性が上がる。

 

次に選ばれた技は《ロックブラスト》。

《ステルスロック》と同じように背負った岩から次々と砲弾が射出されていく。

狙いも付けずに乱れ撃ちにも見えるが…

 

『お、上手い。ちゃんと《ステルスロック》で誘導して当たりやすくしてるな』

 

モスノウの逃げ場を失くすような追い詰め方になっていたようだ。

追い込まれたモスノウに《ロックブラスト》が次々と命中する。

 

岩の連打に耐えきれず、モスノウがついには倒れた。

 

『モスノウ、ダウン!アベリ選手、まずは上々の立ち上がりです!』

 

『いや、これは‥‥フィールドの空を見てくれ』

 

キバナの言葉を受けたカメラが上空へとカメラを向けると、重そうな雲がフィールドの上に集まっている。

そして、倒れたモスノウの上へと白い氷が降り始めた。

 

 

『《あられ》だ。しっかり仕事はされたな』

 

『まさに一進一退です!』

 

 

モスノウを一体倒したというのに、苦しそうに笑うアベリと泰然と微笑むメロン。

 

「さぁ、次はこいつだよ!」

 

メロンがフィールドに次のモンスターを出す。

当然のように、《ステルスロック》の影響は受けない登場だ。

対面のアベリが何とも納得しづらい顔をしている。

 

現れたのは頭部の上にもう一つ頭があるかのような特徴的なシルエットだ。

白い巨体は鼻息荒く、しかし冷静にメロンの指示を待つ。

「ゴリゴーリ」

ヒヒダルマだ。

 

『さぁ次鋒はヒヒダルマ!アベリ選手、イワパレスでどこまで…』

 

アナウンサーが言い終わる前に、ヒヒダルマが動いた。

待っていたのはメロンの指示ではなく、《ステルスロック》が邪魔にならないタイミング。

 

「ウッホホ!」

 

直進で迫るヒヒダルマに反撃しようとイワパレスが抵抗を試みるが、一歩遅い。

 

気付けばイワパレスの岩壁を両腕でがっしりと掴み、避けられないようにしつつ大きな頭部を振りかぶっている。

 

 

 

《アイアンヘッド》。

 

 

 

強烈な破砕の音。

全身を使ってアフロのような頭部が叩きつけられ、イワパレスの岩壁に罅が入った。

 

 

「ゼロ距離だ!反撃しろイワパレス!」

 

 

そこはイワパレスにとっての砲塔でもある。

掴んだまま離さないヒヒダルマには、もう外す方が難しい。

だが、イワパレスの動きが、どこか鈍い。

岩の砦から岩石が射出される、そのタイミングで

 

「もう一度叩き込みな!《アイアンヘッド》!」

 

もう一度、ヒヒダルマがアフロのような頭部を振りかぶる。

掴まれたままのイワパレスが今度は抵抗も出来ない。

 

そして、

 

 

ガッシャアアアアアアン!

 

 

強烈な打撃でイワパレスの岩壁が今度こそ砕かれた。

「パレパレ…」

本体もぐるぐると目を回して、完璧な戦闘不能だ。

アベリが悔しそうにボールへと戻す。

 

「戻れ!イワパレス!」

 

 

 

 

息を飲む速攻が終わり、アナウンサー達もマイクを握り直す。

 

『あまりにも一瞬でしたが…メロン選手のヒヒダルマの速攻!猛攻!でイワパレス倒れてしまいました!』

 

ゴリ押しにも見える《アイアンヘッド》二発叩きこみ。

しかし、確実に仕留めにかかっていた。

 

『これは一発目の《アイアンヘッド》の強烈さで意識が飛んでたな。岩をも砕く一撃、それも仕方ないが、隙を逃さず追撃をぶち込む容赦のなさ!流石メロンさんだな』

 

『なるほど!これが敵の弱みを的確に突くストイックさ!ジ・アイスなんですね!』

 

『だが、アベリのイワパレスも立ち上がりはよかったな!

 ここからのメロンさん対策によっては、この勝負まだまだ分からないぜ!』

 

戦局こそ押されているようには見えるが、実際はお互いに一体ずつ落とされたのみ。

勝負はこれからだ、というキバナの解説にテレビの前の人々がアベリへ期待の目を向ける。

 

アベリの次の一手に誰もが注目する中、アベリは思った。

 

 

 

 

 

(やっべー。唯一のいわタイプもう落とされたわ‥‥)

 

 

 

 


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