エンジョイ勢のたのしいむしジム   作:ハッソ

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《キョダイセンリツ》③

 

 

 

《いわなだれ》が逆流する。

 

最初、誰も何が起こっているのか分からなかった。

ヒヒダルマが《いわなだれ》に飲み込まれ、起き上がって来るかどうか。

そう思い、《いわなだれ》の勢いが止まらない事に気付かない。

 

解説のキバナでさえ、《いわなだれ》の色が白く染め上げられてようやく表情を変えた。

 

対面のアベリも思わず呟く。

 

「まじかよ」

 

笑うしかない。

 

 

起こった出来事は単純だ。

《いわなだれ》が《ゆきなだれ》に変わった。

 

逃げ場所を探すが、あるわけがない。

先程の面制圧の理屈がそのまま帰って来るのだ。

 

ペンドラーが雄たけびをあげて、自身も《ゆきなだれ》に飛び込む。

その雄たけびも轟音の中に搔き消えて。

 

 

フィールドが、白に染まった。

 

 

ヒヒダルマも、ペンドラーも居なくなり、観客席まで静寂に包まれる。

 

 

 

『‥‥‥‥』

 

『‥‥‥‥えーっと…』

 

絶句。

解説席のキバナが仕事を放棄してしまった。

今の彼は真剣な顔をして何が起きたのかを分析している。

いち選手として、いちトレーナーとして、今の攻防から読み取り、奪い取ろうとする顔だ。

 

新人アナウンサーが肩をちょんっと触れてようやく戻ってきた。

この触れあいにより炎上に油が注がれ場外乱闘まで始まったが、試合には関係ないので割愛する。

 

『キバナ選手、申し訳ありません。《ゆきなだれ》と言うのは初めて見るのですが…』

 

『あ、ああ。悪い。《ゆきなだれ》は珍しい技だな。確か自分がダメージを食らっている場合、威力が倍増するという強力な技だ』

 

『その技ならば《いわなだれ》を返せるということでしょうか』

 

『いや、初めて見た!倍増するんだから押し合えば力押しでそうなるという理屈だと思うんだが…そのために自分から飛び込んでタイミングを調整したのか』

 

話しながら考えがまとまり始めたらしい。

キバナは独り言のような解説を続けつつ、また真剣な顔へ戻っていく。

 

『そもそも、《いわなだれ》を耐える事も厳しいはずなんだよな。飛び込んだのはタイミングだけじゃなく、ダメージ量を調整するためでもあるんじゃないか?ダメージを受ける瞬間、《ゆきなだれ》で押し返す事で…』

 

 

ポン!と軽快な音と共に積雪の中から、ヒヒダルマが跳ね上がった。

そのままピョンピョンと元気に跳ねる姿を見せてくれる。

 

 

『ヒヒダルマを生き残らせつつ、反撃の手段とした。

  おっそろしいな。雪の女王』

 

 

ヒヒダルマの無事を確認できたことで、ようやく観客から歓声が上がる。

 

「よくやったよ、ヒヒダルマ」

 

よく見れば、決して無傷ではない。

ヒヒダルマにとっても決死だったことは間違いない。

それでも成功させたのは、トレーナーへの厚い信頼。

指示を一切疑うことなく遂行した信頼の強さだった。

 

そんなヒヒダルマの背中を見つめるメロン。

トレーナーの理想的な姿だ。

 

「さぁ、最後のポケモンを出しなアベリ!」

 

それに対して、アベリはただ立ち尽くすのみ。

《ゆきなだれ》に覆われたフィールドを前に茫然としているように見える。

 

審判のダンペイがちらりと時計をチェックした。

このままペンドラーが《ゆきなだれ》から出てこられない場合、戦闘不能と判断せざるを得ないからだ。

その後、すぐに次のポケモンに交代させなければ試合放棄として敗北になる。

アベリの様子に心配になりながらもダンペイは厳密な判断を下すため、フィールドから目を離すまいと集中する。

 

ヒヒダルマのみが跳ねる数十秒。

 

それ以外に動く音は聞こえない。

観客の歓声も少しずつ小さくなり始め、ざわめきのような声に変わり始める。

 

ダンペイがペンドラーの戦闘不能を宣言しようとした。

 

 

一瞬の油断。

ヒヒダルマやメロンの注意が一瞬、ほんの少しだけ審判の旗の動きに移る。

 

 

 

ドスッ。

 

「ゴッリーン…?」

 

気付けば、ヒヒダルマの胸元から角が飛び出していた。

 

 

「ギュオオオオ‥‥!」

 

 

ボロボロのペンドラーがヒヒダルマの背後から現れていた。

 

 

跳躍の音を雪の下から聞き取り、このタイミングを待ち続けた。

天性の負けず嫌いが放った《スマートホーン》が今、ヒヒダルマをしっかりと捉えている。

 

だが、ヒヒダルマはまだ動ける。

《いわなだれ》に飛び込み、《スマートホーン》を受けてなお、顔面の火花が闘志で弾ける。

 

 

「ヒヒダルマ!反撃を」

 

「そのまま《ばかぢから》!」

 

 

やられ際の反撃を許しはしない。

ペンドラーは突き刺したままの角を大きく振り回す。

脱出しようと藻掻くヒヒダルマを無視して、全身から力を迸らせる。

 

 

そして、勢いをつけてヒヒダルマを地面へと叩きつけた。

 

 

渾身、全力の一撃。

衝撃でフィールドの雪が大きく捲れあがり、雪煙を作り出す。

 

ヒヒダルマの身体が高くバウンドし、錐揉み回転をしながら跳ね飛んでいく。

跳ねる。跳ねる。跳ねる。今度もまたボールのように跳ねる。

 

ヒヒダルマが止まったのはフィールドの外。

「ゴリリィ…」

戦闘不能だ。

 

「やるじゃないか!アベリ!」

 

「ギリッギリ、だぜ。マジで」

 

ヒヒダルマが敗れたと言うのにむしろ嬉しそうにしながら笑う。

息子の友人が成長を見せてくれるという事に喜びを見出す。

 

「確かにその子ももう限界のようだね」

 

「‥‥‥‥」

 

笑顔のまま、メロンが凄む。

アベリは気まずげに目を逸らした。

 

ペンドラーはもう限界だ。

 

《ゆきなだれ》に加え、雪の中に潜み続けた事はかなりの負担になった。

意識が朦朧としているのだろう。ふらふらとどこか頼りない。

自分でもそれが分かるのだろう。

アベリの前へと移動し、アベリがボールを前へ出すとその中へと戻っていく。

()()()と気持ちいい音を立て、ペンドラーが手元へと戻った。

 

メロンも倒れたヒヒダルマをボールへと戻す。

 

 

 

一瞬の静寂。

クライマックスを予期して切り替わったBGM。

そこへ観客が手拍子を加えていく。

 

 

 

 

「最後の一匹だ!一寸の虫にも五分の魂ってな!俺の魂見せてやるよ!メロンさん!」

 

 

「例え一欠けらでも氷は氷!骨の髄まで震えなさい!アベリ!」

 

 

 

お互いに最後の一匹。

ボールから飛び出したのは

 

「ランララ」

 

メロンの切り札、ラプラスと

 

 

 

 

 

「ヤッテキマッシャー!」

 

 

 

アベリの、クワガノンだ。

 

 

 

 

 

 

ワァァァァァァァァァァァァァアアアア‥‥

 

 

 

スタジアムを歓声と悲鳴が揺らす。

 

『これは!これはこれは!アベリ選手!最後の手持ちはクワガノン!みずタイプのラプラスには効果抜群です!』

 

一目で分かる相性。

ここまでいわタイプといわ技を主軸に押していたアベリの最後の奇策。

それがハマった事を理解した観衆が勝敗を見切り、騒乱と化している。

 

『更にお互いにダイマックスを切っていません!つまり!クワガノンの大火力を外す事なく当てられるということでっ!』

 

そう、お互いにもう切れる手札はない。

残っているのは最後に全力をぶつけ合う事のみ。

 

新人アナウンサーが思わず興奮してしまうのも仕方ないだろう。

 

最後の最後のダイマックス戦。

一進一退だったバトルを劇的なフィナーレで〆る事になるのだから。

来たる幕切れに観客達の興奮はノンストップだ。

 

 

 

 

 

 

 

だが、解説席の一人だけが異を唱えた。

 

 

 

 

『いや、これは‥‥アベリの負けだ』

 

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