メロンさんに勝った。
劇的な勝利だった。
一回勝っただけだけど、あれはもう三回分くらい勝ったことにしていい。
これはお祝いをしなければならない。
となると、やることは一つだ。
「おらー!野郎どもー!カレーは持ったかー!全員分あるぞー!」
「ギュオン」
「アイァン!」
「イタダキマッシャー!」
カレー。
カレー以外あり得ない。
ここはカレーの支配するガラル地方だ。
俺達はワイルドエリアにやってきて、盛大な祝勝キャンプを開いていた。
みんなで作ったカレーを青空の下でガツガツと食べる。
これをガラルでは幸せと呼ぶんだぜ。
まぁぶっちゃけ俺は一部のカレー狂い程凝ってないけどねー。
たまにみんなで食べるなら大好きだよ、うん。
ていうか、みんなで食べる程大量に作れるの最早これしか思いつかないっつーか…。
今日は俺とてもちだけのささやかな会‥‥になるはずだったのだが、飛び入りゲストが居た。
「そこそこですね。マホミル級と言ったところでしょうか」
はい。口の減らないエリートことビート君です。
どうやら彼、ワイルドエリアに出ようとしていたらしい。
でも、ジムチャレンジ前の子供って一人でワイルドエリア出られないんだよね。
因みに、ジムチャレンジしなくても大人なら一般人開放エリアは歩ける。
まぁ大人でも結構な人が専門のトレーナーに護衛を依頼する事が多い。
とにかくビート君が入口でワイルドエリアに入らせろと揉めていた所に俺が到着。
珍しく徒歩で行くかと思ったのが失敗だった。
普通に通過しようとしたんだが、俺の事を覚えていたビート君が絡んできた。
『そこのマイナージムリーダー!ワイルドエリアに行くならボクも連れて行きなさい!』とか言ってきたわけよ。
俺はうわぁと思いながら会釈だけして通ろうとしたんだが、何故か止めてきたのがスタッフさんだ。よっぽどビート君がしつこかったのだろう。
俺に押し付けようと必死だったよ。
『アベリさんこの前の試合見ました!素晴らしかったです!』とか言われたもん。
そんなの同業者にも言われたことねえよ俺。絶対お世辞だろ。
前にちょっと調べた時は俺の数少ないファンもアンチも「真面目にやれ」とか「メジャーに勝つアベリは解釈違い」とか言ってたもん!騙されんぞ!
そもそもちょっと褒められた程度で言う事聞いちゃうほどちょろくない。
ちょろくないのだ。
………。
ただまぁ?ガラル全体のトレーナー達の見本になるのがジムリーダーって奴なので?
困っている人を放っておくのもね?
ワイルドエリアの管理ってことはこのスタッフさん達もマクロコスモス傘下だろうし?
仲間みたいなもんよな?
と、いう訳で今に至る。
ビート君とワクワクキャンプとなった。
今も取り出したサイコソーダを「カレーとの組み合わせとか考えました?」とばっさり切られたが。
流石エリート。普段から相当いい環境で育っているに違いない。
まぁ、別に捨てたりはせずに素直に飲んでいるので、構わないだろう。
いいじゃん。青空の下でサイコソーダ。
ユキハミが頑張って冷やしてくれたからスカッと爽快だ。
あ、ここに来るまででちゃんとビート君を引率はした。
どうやらワイルドエリアで新戦力を見つけたかったらしい。
個人的にはいきなり強いポケモンを捕まえてしまうのは違うと思うので、ビート君にも扱えそうないい感じの子を探してみた。
エスパータイプが好きみたいなのでエスパータイプ中心に。
ドーミラー。
「ボクに相応しくないのでは?」
ヤジロン。
「これはダメですね」
何でや!ドーミラーとヤジロンが何したんや!
俺はかわいいと思うんだけどなぁ。
だが、改めてみると確かにビート君のてもちではちょっと浮いてしまうかも。
全体的にゆるふわというかサン○オというか…。
かわいいもの好きなのか?
カレーを食べているのに機嫌が悪いのはその辺もあるかも。
うん、きっとそのせいだな。
午後こそは良いポケモンを見つけてやろう。
ラルトスとかいいんじゃないか?
‥‥‥俺とは言えジムリーダーに引率されてラルトスを捕まえる、か。
前世でやっていたエメラルドでそんなイベントがあったな。
何だか変に感慨深くなってしまって、にやついてしまう。
「随分余裕ですね」
ニヤニヤしているとビート君が絡んできた。
文句言いながらカレー食い終わってるじゃん。
お代わりが欲しいのか?
まだあるからじゃんじゃん食ってくれ。
「まだオープン戦も終わっていないのに、こんなことをしている場合ですか?」
「えっと、対策とかはちゃんと立ててるけど?」
「ふん。今回は偶然作戦が上手く行っただけなんですから、調子に乗らないようにしてくださいね」
「おお、わざわざ試合見てくれたのか」
前は俺の名前も知らなかったのに。
はっ!相手がメロンさんだったからか。ああいうのがタイプかビート君。
でも、その歳で人妻は業が深いんじゃねえかな。
あの人すっごい旦那とラブラブだよ。
「‥‥偶然です。偶然テレビに映っていたので」
恥ずかしそうに目を背けられた。
やっぱりそういうことか。
これから苦労するだろうな、ビート君。
「それでも嬉しいぜ。俺ファン居ないからなー」
俺は大人なのでそこには触れずに流してあげよう。
実際嬉しいよ。
身近で俺を真っ当に応援してくれるのなんて両親くらいだ。
普通に試合を見てくれただけで十分嬉しいね。
「次の試合ははがねでしょう?対策を教えてあげますよ」
おおう、俺とは言え一応ジムリーダーに凄い上から目線。
実際ビート君はエリートだから参考になる意見も出てくるかもしれないが…。
「ああ、それは大丈夫」
お断りさせてもらうと、ビート君がいつものように睨みつけてきた。
お、今のは怒りポイントが分かるぞ。
でも、ビート君のアドバイスを断ったわけじゃない。
単純にはがねジムには対策が要らないのだ。
「はがねジムはリーグ戦に参加しないからな。俺の不戦勝になるんだ」
「はい?」
知らなかったらしい。
テレビマクロではあんまり取り上げないし、事情が複雑だからあんまり話題にならないもんな。
「ジムは経営していて、門下生も募集してるけど、リーグ戦には不参加なんだよ。はがねジムは」
イベントには参加してくれないけど、ジムリーダーもちゃんと居る。
何度か会った事あるけど、真面目そうでいい人だったよ。
門下生も優秀な人が多く、たまーに大会で活躍して無名選手かと思ったらはがねジム出身でしたーって事は多い。
ジム自体の評判はいいのだ。
リーグ戦参加しないから、知名度は年々落ちているけど。
「理由はローズ委員長への不信だってさ。ローズ委員長の辞任を要求してるとか、してないとか」
はっきりとしたところは知らない。
リーグ不参加を表明したのは俺がジムチャレンジするより前だったし。
ただマクロコスモスとはがねジムは何度も話し合いの場を設けているが、未だに同意に至ってないってのはマジだ。
「そんなこと、許されないですよ!」
ビート君が立ち上がった。
眉毛を吊り上げ、ぶちぎれまくっている。
ビート君はローズ委員長に手塩にかけて育てられているから、そりゃそうだろう。
ローズ委員長へのボイコットだもんなこれ。
「ふざけたジムなんてリーグ運営として潰してしまえばいいのに!」
カレーの皿を持ったまま、声を荒げる。
人が少ないワイルドエリアでよかった。
うーん、実際、そういう話は結構出てくる。
ここまで短絡的な物言いではないにせよ、リーグ戦への徹底不参加は十分ジムの資格を取り上げる理由になる。
だけど、ローズ委員長はそれをしない。
あくまで興行的なリーグ戦はマクロコスモスが主体として行っている事であり、ジムの本質は後進の育成であるため問題ない…とか。
まぁ明らかに苦しい建前だ。
「ローズさん自身も色々悩んでいるんだろうけどなー」
「悩む必要もないでしょう!そんなの!」
一貫して不参加だって言うならリーグ戦からいっそ排除してしまってもいい。
だけど、未だにリーグ戦の対戦表には一応はがねジムの名前があって、ジムリーダーは一勝ずつそこで貰っている。
歪な状態がもう十年は続いてしまっている。
俺も一度だけローズ委員長に似たような事は言った。
はがねジムの事じゃないけど。
『一旦廃業にしようとは思わなかったんですか』みたいな事だ。
確か、俺がむしジムを引き継ぐ時だったな。
その時、ジムリーダー代理とか言う初めて使う制度まで引っ張り出して、俺をジムリーダーに据えた。言っちゃなんだが、マクロコスモスで地方の外から人呼んだ方が楽じゃないか。と思ったわけだ。イメージを一新するって言うならそっちの方がいい。
ちょっとジムリーダーをやる自信がなかったのもある。
ローズ委員長は答えた。
『必要とあれば、そうしますよ』
‥‥‥ちょっと怖かったな。
でもきっとはがねジムに対しても同じことだろう。
ローズ委員長の考える未来って奴に必要だからそうしているのだ、きっと。
「ボクが今からはがねジムに行って自主的に辞職すべきだと伝えてやりますよ…!」
とりあえず俺も午後の予定のためにぷんすこぷんぷんのビート君を宥める事が必要だ。
ラルトスは相手の感情を読み取る…とか聞いたことあるような、ないような。
カレーのお代わりとメロンさんのサイン付きレアカードで何とか機嫌治ってくれないかなぁ。
ビート君はいつも通り怒らせてしまったが、俺はいい気分転換にはなった。
やっぱりカレー。
カレー最強だな。
さて、俺が今考えなきゃいけないのは、はがねジムの事じゃない。
はがねの次はドラゴン。
トップジムリーダーとの、対決だ。