「ヤラレマッシャー!」
「ぐわああああああ!」
『クワガノン戦闘不能!キバナ選手の勝利!』
完ッ全に負けた。
三回分くらい負けた。
俺の出した手は後手に回り続け、ボッコボコにされた。
「おう、おつかれー」
涼しい顔で出てきやがって。顔面600族がよぉ。
現在の俺はロッカールームで戦闘不能。
キバナさんとのバトル、天候がコロコロ変わるからトレーナーも疲れる。
俺だけかもしれんが。
キバナさんは倒れ伏している俺にニカッと牙を見せて笑う。
「これで炎上させられた分は返したな!」
「一人で勝手に炎上しただけだろ!」
現最強のジムリーダー、「ドラゴンストーム」のキバナ。
SNS上では常時火事現場と化している彼だが、バトルはマジで強い。
当然、俺は一度も勝ったことがない。
まぁキバナさん相手に勝てるジムリーダーが少ないし。
あのマクワですら最近ようやく勝ったくらいだ。
キバナさん相手に勝ち越しているのはマジでメロンさんくらいだろう。
何せキバナさん、メロンさんに勝てたことないんだからな。
じゃあメロンさんに勝った俺はキバナさんより強い…って事にはならないんだよな。
何でだろうなぁ。
ネズやポプラさんはたまにキバナさんから勝ち星取る事もあるんだが…これに関してはメロンさんがマジで異質過ぎる。
キバナさんのトップジムリーダーの地位は揺らがない。
‥‥その上に手も届かないチャンピオンが居るわけだが。
欠点はよく炎上する事。
直近だと、俺とメロンさんの試合の解説を引き受けてくれたけど、勝敗予想をどや顔で間違えて盛大に燃えていた。
俺の負けを宣言していたらしい。
やーいやーい!キバナさんより先にメロンさんに勝ったけど、どんな気持ち?ねえ、どんな気持ち?
と、SNS上で絡んだら俺も炎上した。
はい…申し訳ありませんでした…。
万年マイナーで勝率がキバナさんの半分以下の奴が調子乗りました…。
消火にあたったマクロコスモスのベテラン窓口さんには足向けて寝られないよ。
たまにしかSNS触ってないけど、触るたびに炎上している気がするな俺。
「そういえば、今日も使ってたな。クワガノン」
「へ?ああ。ドラゴン相手にあんまり有効なポケモンじゃないけど…」
感想戦?
キバナさんが俺に?
いや、仲悪い訳じゃないし、むしろいい方なんだけど、ちょっと珍しいな。
実力に差がありすぎるから、あんまりキバナさんと同じレベルの話題出来ないんだよ俺。
「チームメンバーも固まってきた感じだな!」
「あー確かに?」
はっきり決めたって訳じゃないが、クワガノンやペンドラー、ヘラクロスは採用率上がってきたかもしれない。
「ペンドラーは確か先代ジムリーダーから引き継いだんだっけか」
「そうだけど…詳しくない?」
「普通にネットに載ってたぜ」
え?俺、なるべくマスコミの前では先代の話しないようにしていたはずなんだが。
と、思ったら見せられたのは例の暴走事件の記事。
なるほど。確かにあの時は取り調べだったから、普通に入手経路答えたわ俺。
そこから漏れたのか。
でも、小さな記事のそんな隅っこの方まで読むなんて。
「うわぁ…」
「おいおい、引くなよ」
そもそも俺を取り上げた記事が少ないってのもあるだろうけどな。
「ペンドラーはかなり頼りになるよ。パワー負けしない上に小技も多いし」
「《バトンタッチ》とかな」
根に持たれている。
でも実際、ペンドラーを扱えるようになったお陰で今季の成績はかなり上がっていると思う。それでも負け越しているんだけどね。
「クワガノンがフィニッシャーの事が多いけど、エースなのか?」
「いやエースは…」
思わず腰に付けた七つ目のボールに触れる。
最近、バトルで使っていないエースを。
「エースは、別の奴だよ。クワガノンの火力で最後に押し込む事が多いのは確かだけどさ」
「ふむふむ」
キバナさんは何か頷きながら、目の前に浮かせたスマホロトムを操作している。
何なんだこれ。
逆なら分かるんだけど、何故俺がキバナさんに質問漬けにされているんだ。
「オレ様としちゃ、やっぱり直近で活躍したクワガノンについて詳しく聞きてえな!コイツは一から育てたんだっけか?」
「一からというか、ジムリーダーになってからワイルドエリアで捕まえた。‥‥‥直近でって一番近い出番はたった今キバナさんに何も出来ずに負けた試合なんだけど」
「いいからいいから」
そう言いながらまたスマホロトムを操作。
「メロンさん戦の最後、二発目の《ダイサンダー》を指示してなかったよな?サインも吹雪で見えなかっただろうし‥‥。あそこまで既に読んでたってことか?」
「いや、読んでたわけじゃ…でも、一発じゃ決まらないだろうなーとは思ったけど…」
「ん?クワガノンに先に何か伝えてたってわけじゃないのか?」
「えーっと、特別に指示はしてない。あそこが早かったのはクワガノンにはどんな時も《でんじほう》を撃つチャージをしておけって癖をつけてるだけで…」
「何だ?どんな時も《でんじほう》を?」
「そうすればクワガノンの攻撃の遅さを誤魔化せるかなーって…」
クワガノンのすばやさをあげるために色々試した苦心の一つって奴だ。
こだわりスカーフ、というどうぐがある。
技が一つしか出せなくなる代わりにすばやさが1.5倍になる、というもちものだ。
それを疑似的に再現出来ないかな、と思って試したことの一つだ。
結果から言えば、効果はなかった。流石にもちものを気持ち一つで再現は無理だった。
ただ、指示を決め打ちする事で『俺が指示を決めるまでの時間』はカット出来るようになった。
お陰で俺の指示が通りにくい状況でも即行動に移せるようになっていて、助かる事が多い。
‥‥《でんじほう》しか打てないけどな!
一応、前以て指示すれば別の技も撃つけど。
指示をする俺自身がこれに慣れ始めているから、ついついそれを忘れるんだよな…。
俺、弱点を教えてしまったのでは?
「くくっ、いやぁ~面白い事するなぁ」
キバナさんは笑いを抑えながら、また入力してらっしゃるが。
「ネット上に上げたりはしないよな?」
流石に炎上得意とは言え、情報漏洩で燃えるのは普通に付き合いを考え直すレベル。
「気にすんなって。個人的なもんだから」
「き、気になる」
「オレ様なりにメロンさんに勝ったお前も尊敬してるってだけだぜ」
尊敬?キバナさんが?俺を?
いやーないない。
これはリスペクトの精神って奴だな。前世でも優秀なスポーツ選手はどんなプレイヤーにもリスペクトの眼を向けて貪欲に吸収するって聞いたことあるし。
俺からも得られるものは得よう、と搾り取っているわけだ。
「貪欲だなぁ」
「はっ、何せオレ様はダンデのライバルやってるからな」
チャンピオンの、ライバル。
公言出来るのは、もうキバナさんくらいだ。
そして、キバナさんですらダンデに土をつけたことはない。
十年間、玉座は揺るぎも陰りもせず、傷の一つもついていない。
俺はかつてチャンピオンに『誰もライバルになれるわけがない』と言った。
言ってしまった。
発言自体は後悔している。八つ当たりみたいに言うべきではなかった。
チャンピオンだって人間なんだから。
でも、考えは変わっていない。
キバナさんだってライバルになれてない、と心の奥で俺は思っている。
でも、この人はライバルに『なろう』としているんだな。
‥‥少しだけ羨ましい気がした。
その強さが、その挑戦が。
少し、暗めに考え込んでしまった。
むぐぐ、キバナさんには悪いけど今日はもう帰って寝よう。
試合の反省は明日だ。
「おっ帰るのか?まだ話聞かせてくれよ!メシ奢るからよ!」
ロッカールームから先に出ようとすると歩幅がクソデカいキバナさんがぴったりくっついてきた。ここでも速度差がでかいなぁ!
「横に並ばないでくれ!俺がチビで短足みたいに見えるから!」
顔面だけじゃなくスタイルまで600族がよぉ!
言っとくけど俺は標準くらいだからな!キバナさんがおかしいんだからな!
嫌がると逆に楽しいのか、キバナさんがべたべたとくっついてきた。
ぐおおお!デカめの犬に襲われている気分!
「くっ!やめろぉ!炎上が感染る!」
「心配しなくても明日の一面はオレ様の劇的勝利だぜ!」
「今更俺に勝った程度で記事にはならないだろ!?」
やんややんやと揉めながら、ナックルシティを歩いていく。
実際、キバナさんの勝利は記事にはならなかった。
翌日のニュースはとある選手の敗戦で埋め尽くされたからだ。
『カブ選手!マイナークラスに三連敗!世代交代来るか?』
カブさんの連敗で。
オープン戦が、もうすぐ終わろうとしていた。
クワガノン ♂
せいかく まじめ
とくせい ふゆう
アベリがジムリーダーになった後に捕まえた子。
チームだとエースではなく四番と言ったポジション。
ジムリーダーとしてしっかり育てなきゃ、とアベリは張り切ったが、むしろ失敗は多かった。更に初年度のアベリはボッコボコにされて最下位に。
それでも、立ち上がり続けるアベリにクワガノンは後方で腕組みをしながら思った。
「俺が守護らねば…」
かくして、彼はアベリの命令を忠実に遂行し、アベリのために戦うのだ。
喋ってる気がするけど、気のせいだよ。