「テレビマクロをご覧の皆さま、こんにちは!『今日のポケモンリーグ』のお時間です!」
夕方ごろ。トレーナーズスクールから帰って来た子供達や家事がひと段落した母親達がテレビの前に座る。
そんな人々に情報をお伝えする番組の1コーナー。新人アナウンサーがはきはきとカメラに向かって笑顔を見せる。
今年に入ってからようやく任されたこのコーナー。
新人特有の明るさも好評で、人気コーナーとなりつつある。
「ガラルポケモンリーグ、オープン戦もいよいよ大詰め!対戦の組み合わせはこちらになっています!」
新人アナウンサーの言葉と共にオンバットがフリップをめくる。
彼女の手持ちのオンバットもこのコーナーの人気の理由だ。
四割オンバット、三割新人、と言ったところか。
二人で協力している所が好き、と言う声が勿論一番多い。
「どれも気になる試合ですが…特に注目する試合はどれかな?オンちゃん!」
呼ばれたオンバットが大袈裟に悩む仕草をした後に、シールを咥えてフリップへ。貼り付けられたシールには大きく『今日の注目ダイマックス!!』と書かれている。
「はい!オンちゃんの注目ダイマックスはこの試合!『燃える男』カブ選手と今期急上昇中のアベリ選手の一戦です!」
後ろのスクリーンに二人の選手の写真が対峙するように映し出される。
そして、新人アナウンサーは新しいフリップを取り出した。
アベリの今までの成績がまとめられたものだ。初年度こそ最下位で、以降もずっとマイナーだが順位は徐々に上がっている事が分かる。
「アベリ選手は3年前にジムリーダーとして就任した若きホープ!初年度こそ最下位でしたが、順調に経験を積み順位を上げていますね!今期には見所のある試合が…」
と、話しながら新人アナウンサーは内心冷や汗をかく。
(初年度はジムリーダー代理として途中参加なのが大きいんだけど…それは言わなくていいって『上』から釘刺されたんだよね…)
ジムリーダー代理、という聞きなれない制度に触れてしまうと、どうしても『何で代理なの?』『何で先代は失踪したの?』という疑問が自然と出てしまう。
ネーナジムの先代ジムリーダーについては報道機関上で禁句となっているため、そこには触れる事が出来ない。
勿論、かつてのリーグに詳しい人間ならば誰もが知っている事ではあるのだが。
実はアベリのまともな報道が少ないのは、こういったややこしい事情が絡みに絡みまくっているのが大きかったりする。
未だに逃亡し続けているネーナジムの先代ジムリーダー。
彼は証拠こそ掴まれたが、本人が逃亡したため罪状や当時のリーグ体制の内情についてはまだ解明が終わっていない。故に憶測で報道をするのは倫理上よろしくない。
更に、先代ネーナジムリーダーの実情に詳しく触れればリーグ体制そのものに批判が集まりかねない。その辺りの改革はマクロコスモスがかなりの急ピッチで推し進めたが、それだって限界はある。彼ら以上の力を持つマクロコスモスがリーグ運営から排除しただけで、当時のリーグを回していた方々は今でも当然力は持っているのだ。
逆に過去のリーグ体制へ未練を抱いている人も多いため、刺激する事自体が危険だ。現在のリーグ体制へ不満を持つ人間だって少なからずいるのだから、彼らの旗頭になられても困る。
本人の性格も併せて、どう触っても起爆する爆弾、というのが各報道機関から見たアベリだ。
勿論、本人の問題行動のせいで変な報道が多いのは自業自得だが。
(それでも、やっぱりこの試合は触れない訳にはいかないよね!)
今まで通りのノータッチで行きたがる先輩方を何とか説得し、コーナーの軽い紹介でなら…と許してもらえた。
なるべく経歴には触れず、現在のアベリにのみ焦点を絞る。これ自体は元々軽いコーナーなので難しい事ではない。
「そんなアベリ選手にカブ選手との対戦について、直接お話を伺ってきました!」
ここでテレビは映像が切り替わる。
恐らく試合後だろう。スタジアムの通路を背景にインタビューを受けているアベリ。
今日もキャラ付け重視のダサいグラサンと髪型だ。
肩にオンバットを乗せた新人アナウンサーが果敢にもマイクを向ける。
「まずは本日も勝利、おめでとうございます!」
「ありがとうございます。どくタイプ相手に有効打がなかったので、結構苦しい戦いでした」
因みにアベリ、ジムリーダー四年目になりつつあるのにこういったインタビューに慣れていない。
テレビどころか雑誌からも取材をほぼ受けたことのない悲しい男である。
ジムリーダーが多数参加するファンミーティングのイベントですら、若干腫れ物扱い気味で出番は少なめになっている。
「次はオープン戦最終試合、カブ選手との試合ですね!」
「あー…そうっすね」
何故か気まずそうなアベリ。
詳しい人ならばわかる。カブさんへの対策が全く決まっていないようだ。
「カブ選手についての印象をお願いします!」
「カブ選手?強いっすよね。序盤、中盤、終盤、隙がないと思います」
いやーマジでどうすっかな、という内心を必死に表情に出さないためにも、何とか不敵に笑うアベリ。
いつものように、はた目から見るとヘラヘラしているようにしか見えない。
「でも、俺は負けませんけどね」
最終的にはヘラヘラしながら大口を叩く。
「次の試合へ向けて、抱負などはありますか?」
「えー、むしゅ、むしたちが躍動する俺のバトルを、皆さんに見せたいっすね」
ついには噛んだ。隣の新人アナウンサーは苦笑するしかない。流石にこれでインタビューを終えるのはまずい気がする。
「さ、最後に一言お願いします!」
困った末に無茶振り気味の質問を重ねてしまう。
先程の質問とほとんど被っているし、直前に確認された質問の予定にもなかった。
当然、アベリは軽くパニクり…
「あ、明日も勝つ!」
強気だが無難な、しかし不穏な気配がする台詞で〆る事になった。
因みにカブとの試合は明日ではない。
「と、いうわけでアベリ選手でした!まだまだ初々しい対応でしたね!」
カメラがスタジオに戻ってくる。何とか先程の〆を必死にフォローする新人アナウンサー。
インタビューした過去の自分からの「何とかしろ」というキラーパスを何とか捌いた。
「最後に、もう一度カブ選手とアベリ選手の試合についておさらいです!」
最初に見せた対戦表と同時に出されるのは「順位表」。
「アベリ選手はフェアリー、どく、じめんに連勝し何と順位が‥‥8位!」
「逆に連敗が続いていたカブ選手は現在9位に位置しています!」
当然、現在はまだシーズンが始まったばかり。
オープン戦で上位に入っていたからと言って、ジムがメジャーに変わるわけではない。
「ここでアベリ選手が負けてしまうと、順位が入れ替わってしまう事になります!」
それでも、『落ち目のベテラン』と『急上昇中の若手』がこの順位を賭けて戦う事には何かを感じてしまう。
だからこそ、新人アナウンサーはどうしても取り上げたかったのだ。クライマックスを迎えるオープン戦の中でもこの試合を。
「オン!」
つい興奮してしまう新人アナウンサーに合わせて、オンバットが大きく翼を広げた。
「勝つのは『永遠のチャレンジャー』か!『次代のチャレンジャー』か!
『チャレンジャー』の継承を賭けた一戦に注目ですね!」
珍しくテレビで取り上げられたアベリ。
最終戦への注目は、静かに上がっていた。