エンジョイ勢のたのしいむしジム   作:ハッソ

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《すなかけ》

そんなこんなで次の日。

今日は俺の公式戦がある。

俺達ジムリーダーは1シーズンの間、総当たりのリーグ形式で何度も戦い、上位八名がファイナルトーナメントに出場出来る。

そして、ファイナルトーナメントに優勝すればチャンピオン、ダンデに挑戦出来るのだ。

 

ジムの数は18。なので大体半分に分かれる。

上位八クラスがメジャージム。ジムチャレンジを受けたりするのはここになる。

ジムチャレンジの都合上スタジアムのある町に拠点を置く事が多い。

当然地元の人からは注目されるし、応援も根強い。

一年はそのジムリーダーの町になるわけだしな。

 

下位10クラスがマイナーリーグ。

ファイナルトーナメントやジムチャレンジには参加出来ず、よって注目度も低い。

 

因みに我らがむしジムは現在マイナージム。少なくとも俺が就任してからはずっとマイナーだ。

だが今年こそは!今年こそは目指せメジャージムだ!勝率を上げるための計画も練った。

初戦いきなりマクワに負けてるけど、まだリーグ戦は始まったばかり。

ここから勝てばいいんだよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

対戦相手は既にフィールドで俺を待っていた。

何と正座だ。心を落ち着けているのか、目を瞑って正座をしている。明鏡止水、みたいな感じか?

そんな褐色肌の空手ガールは俺が声をかける前にパチリと目を開き、立ち上がった。

足音で分かったんだよな?気配を察したとか達人みたいな事言い出さないでくれよな?

この子、フィールドで見ると一段と達人めいて見える。

これだからトレーナーも鍛えてしまうかくとうジムは怖いぜ。

 

「よろしくお願いします」

 

礼儀正しく一礼。初対面の時もそうだったし、徹底している。

いい事だよ。俺は先輩として笑顔で挨拶を返した。

 

 

「デビュー戦、負けたんだってな!」

 

 

お、サイトウの表情がちょっとだけ動いた。

でも努めて表情を出さないようにしてるのがバレバレだぞそれ。

 

「先輩として教えておいてあげるけど、デビューでコケるとしばらく引きずるぜ。

ジムリーダーとしての責務、公式戦のプレッシャー。

いつも通りにやろうとしても中々上手く行かなくて、な」

 

サイトウは生真面目な顔のまま、無言で俺を鋭く睨みつけた。

余りに眼光が鋭すぎてちびりそうになった俺は背を向けて、フィールドの中央からトレーナーの基本位置へと移動する。

くくく…効いてる効いてる。

目線だけでサッチムシくらいなら確一に出来そうなくらい怒ってた。

 

そう!俺の今期の作戦とは!

 

後輩達に俺への苦手意識を植え付けて、勝ち星を稼ぐという作戦だ!

 

さっきサイトウに言った話のソースは俺だ。

俺もデビュー戦、マクワとぶつかり敗北した。

調子を崩しまくってぐっだぐだのガッタガタで初年の成績は最下位だった。

 

簡単に崩れた俺も悪いが、周囲のトレーナーも真剣勝負。

俺の崩れかけのメンタルをぼっこぼこにいじめられて勝ち星を稼がれた。

ヤローとかは優しかったけどね!

 

つまりこれは正当な手段!

見ていてくれよなポプラさん!これが年功序列の厳しさだってことを俺、証明するよ!

既にサイトウのメンタルはデビュー戦の敗北と俺の煽りで本調子ではないだろうが…

 

このアベリ容赦せん!

 

 

 

 

「それでは、試合開始!」

 

 

 

ジャッジのダンペイさんの声で俺とサイトウはボールを投げ込む。

こっちの作戦は決まっている。俺は相手の先発を確認もせずに指示を出す。

 

 

「テッカニン!《すなかけ》!」

「っ!」

 

 

ボールから飛び出した小さな影が音より早く相手へ近づき、羽で砂を巻き上げる。

しのびポケモン、テッカニン。セミのような姿をしたこいつは最速のポケモンの一角だ。

 

出てきたばかりのサイトウの先発はいきなり迫ってきた風のようなスピードに対応出来ず、砂塵で目つぶしを喰らう。

 

サイトウの初手は‥‥ネギガナイトか。

初戦だとルチャブルを使っていたから《すなかけ》にしたけど、これなら《どろかけ》でもよかったか?

とにかくスピード勝負だ。ネギガナイトが何とか目を開こうとしている間に俺は次の指示を出す。

 

「次は《かげぶんしん》!」

 

「ネギガナイト!一旦落ち着いてテッカニンを…」

どうやら俺の意図を掴んだようだ。サイトウがネギガナイトに指示を出そうとするが、判断が遅い!

というかテッカニンが速い!

 

「落ち着く暇はあるかな!もう一度《すなかけ》!」

咄嗟にネギガナイトが葱をぶん回すが、砂に潰された目では高速で動くテッカニンをとらえ切れない。

テッカニンは華麗に躱し、もう一度ネギガナイトへ砂塵をぶつける。

 

これでネギガナイトの視界は奪った。あとは悠々と…

「右です!《リーフブレード》!」

「テッカニン!」

判断が早い!

視界を奪われたネギガナイトのために代わりの目として即座に指示出ししてきたサイトウも凄いが、指示を受けて即座に技を放ったネギガナイトも凄い。

 

だが斬ったのは《かげぶんしん》だ。

 

もう一度行った《かげぶんしん》によりフィールドには何体ものテッカニンの分身が現れている。加速をし続けるテッカニンの残像と現れている分身を即座に判断して指示する事は流石のサイトウでも不可能だろう。

いやさっき危なかったし‥‥もう一回くらい一応すなかけしておくか。

とにかく冷静にさせたらいけない。俺はサイトウを更に煽ろうと声をかける。

 

 

「目に頼ったな?姿を信じたな?安直だぜサイトウ。俺達ジムリーダーが信じるのはただ一つ、自分のポケモン達だ!」

 

 

それっぽいことを言いながらもう一度テッカニンが《すなかけ》。

よし、これで完全に封じた。

後は動けなくなったネギガナイトをじわじわ《れんぞくぎり》で調理するだけだ。

「目、姿‥‥。自分の、ポケモン…」

サイトウの様子を見ると余程今の言葉がショックだったのか、顔を伏せて眼も閉じてしまった。

 

えっ。泣いてる?

 

な、泣いてないよな?そりゃちょっと精神攻撃したけども!女の子泣かせたりしたら俺最低みたいじゃん!だってサイトウさんしっかりした子みたいだったし…。

でもデビュー戦負けて、その事を先輩に弄られながら嫌がらせみたいな戦法使われるって考えてみたら泣くかもしれない。いや、泣くわ。俺なら泣く。

 

 

俺は最低の先輩だった‥‥? 

 

 

これから先ずっとサイトウさんに嫌われてリーグを続けていくのか。いや、サイトウさんどころではない。俺の敵はきっとガラルの全てだ。新人の女の子を害悪戦法と盤外戦術で泣かせたクソ野郎。汚名も悪名も当然の罰だ。それだけの事を俺はしてしまったのだ。

自分の罪悪感に苦しめられていると、いつまでも指示が来ない事にテッカニンが不思議そうに視線を送ってきた。

 

そうだった。今は試合中。

俺はもう既に最低の先輩になった。

ならこのまま突き抜けて勝つしか!勝つしかないんだ!

 

メジャーになれるなら悪名くらいなんぼのもんじゃい!

 

「トドメだ!テッカニン!《れんぞくぎ

「今だ!」

俺が迷いを振り切って指示を出そうとする瞬間、サイトウとネギガナイトがカッと目を開いた。

 

 

 

「《つばめがえし》!」

 

 

 

葱が描いたV字の斬撃が、回避不可能な軌道を描く。

残像に惑わされないたった一つの『真実』が、テッカニンの姿を完璧に捉えた。

 

 

 

 

 

 

‥‥‥は?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――サイトウ選手、初勝利おめでとうございます。

「ありがとうございます。皆さんの応援に応えることが出来て嬉しいです」

 

―――――初戦ではオニオン選手のゴーストタイプに翻弄されての敗戦でしたが、上手く立て直せましたね。

「これからも精進していきたいと思います」

 

―――――まずは序盤、アベリ選手は中々嫌らしい立ち上がりに見えました。

「はい。トレーナーとポケモンの目を封じられ、厳しい局面でした。姿が捉えられない、という意味ではかなり初戦を思い出しました」

 

―――――アベリ選手の今回の戦い方はかなりトレーナーシップに反する戦い方だったと思いますが、リーグ委員会に訴えを起こす予定はありますか?

「いえ、あれはアベリ先輩なりの叱咤激励だったと思っています」

 

―――――叱咤激励、ですか?

「はい。迷いは晴れました。これから先、私とポケモンを信じるのみです!」

 

 

 

 

 

――――――なお本日の観客席ではアラベスクジムリーダー、ポプラが珍しく声を上げて笑う姿が確認されたとのうわさだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何でカモネギの《つばめがえし》覚えてんだよおおおおお!」

俺は泣いた。

 

 





ネギガナイト「思い…出した!」
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