エンジョイ勢のたのしいむしジム   作:ハッソ

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《もえつきる》①

 

 

 

カブというジムリーダーの選手生命は波乱万丈だ。

 

 

 

異郷の地からガラルへと単身やってきたチャレンジャー。

名門であったほのおジムに他地方の人間が就任したことへの反発は大きかったが、彼はただ実力を見せつけて、批判の声を黙らせた。

 

『燃える男』、カブ。

まさに炎のような果敢に攻めるスタイルと挑戦を忘れない若き才覚。

確かな実力を持ち、次々と躍進を続けた。

チャンピオンへあと一歩、というシーズンも少なくはなかった。

 

それでも、あと一歩を逃し続けた。

 

 

気付けば若さは失われている。

中堅、メジャーの壁と呼ばれるような立ち位置が定位置に。

それに逆らうかのように我武者羅に多少汚い戦法を試した。

皮肉にも当時のリーグ体制がそれを許容していたし、ネーナのジムリーダー等そういう風に『傾いてしまった』ジムリーダーも少なくはなかったのもあるだろう。

 

最後の一線だけは越えず、しかし、もしかしたら『越えられない』事が自分の弱さなのか、と悩み始めていた頃。

 

 

『最強のチャンピオン』が現れた。

 

 

当時10歳。チャンピオンへと就任したばかりのダンデ。

余りにも眩しく、余りにも輝いていた。

その輝きは、ガラルに来たばかりだったカブが持っていて、いつの間にかなくしていたもの。

 

カブの中でくすぶり始めていた火は、ダンデとの一戦を機にもう一度燃え上った。

リーグ体制の大規模な改革で多くの同僚が去っていく中、カブだけは新たな挑戦者となった。

 

カブはここからだと言わんばかりに新たな強さを見せ始める。

新たなる戦術。新たなる戦力。

貪欲に、若々しく。燃え盛る炎のように。

チャンピオンに迫っていた頃よりも、この時期こそが彼の『全盛期』だったと語るファンも多い。

 

 

そして、ダンデの時代が続く。

 

もうすぐ10年。

その間、常に勝率は10割。

余りにも無敗。余りにも無敵。

 

カブの才覚は燃え上ったが、若い世代もまた輝かしい活躍を見せていた。

新たなる時代の荒波を乗り越え、新たなる世代の挑戦を退けて。

そんな時代が続く。

先に引退した同僚たちからは『ダンデさえ居なければもっと』などと言葉をかけられたこともあった。

 

それでも、『挑戦者』であり続けた。

 

 

だが、カブの炎は一度もダンデに届かない。

 

 

そして、今期。

カブの成績はオープン戦から振るわず。

マイナー相手にも勝利を逃してしまう事が増え、ずるずると順位は下がり。

気付けばメジャー圏内からも外れつつある。

 

今、目の前に立つのはかつて『名門ほのおジムを継いだ異邦人』のように『醜聞に塗れたジムを継いでしまった若手』。

真逆のようで、世間からの向かい風の前に立つ姿にどこか親近感を覚えてしまうような相手。

 

引導を渡すに相応しい相手なのではないか、うっすらと漂うそんな空気。

だが対戦前、スタジアムへと向かうカブは取材陣へと笑ってみせた。

 

「胸を貸す?とんでもない。ぼくが胸を借りる側ですよ」

 

 

 

チャレンジャーとチャレンジャーの戦いが始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日は何だかとても静かだ、と控え室で思った。

 

遠くからは観客達のざわめき。

こそこそと神聖な何かを待っているような囁きが幾万も積み重なって、静かにスタジアムを揺らしている。

「控え室でも分かるんだな、こういうの」

誰かが勝った時や試合で波乱があった時の「喜び」ではない。

ただ静かな「期待」が控え室にまで伝わっていることに初めて気付いた。

 

「こういうの、初めてかい?」

 

声をかけてきたのは、今日の対戦相手。

見慣れた姿だが、今日はいつもと違う。

熱だ。

身体に纏う熱が、スタジアムと同じように静かに昂っている。

気後れしてしまいそうだ。

スタジアムにも。対戦相手にも。

「今まですぐにフィールドに出ちゃってたの勿体なかったなって」

「ふふ。そうかい。じゃあ、行こうか」

容赦がない。

強がりだと分かっているだろうに、心の準備をする暇は与えてくれないらしい。

 

二人でフィールドへの通路を歩く。

 

会話はない。

 

どんどんと大きくなっていく「期待」が、フィールドのライトの前に出ると割れんばかりの大歓声に変わる。

うるさすぎて何も聞き取れん。

やっべえな今日。

ここはエンジンシティ。カブさんのホームだ。ほとんどの人は、カブさん見に来てるんだろうけど。こんなに居るなら少しは俺のファンも居たりして。

いい試合にしなければ。と思いかけてあれ?俺ってそんなやつだっけ?と疑問に思う。

 

「燃える試合になるね」

 

瞳に熱を灯したカブさんも言う。

俺も、熱にあてられたのか?

いや、違う。

気後れする必要はないんだ。

観客が俺達に「期待」するように。

カブさんが俺に「期待」するように。

 

俺も「俺」に期待したい。

 

 

「ああ、楽しい試合にしようぜ」

 

 

こころゆくまで、楽しみたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試合が始まってしまえば、脳内からすっと歓声が消えてしまう。

ダンペイさんの合図と共にあれだけ意識してしまった観客の事も霧散し、楽しむという気持ちだけが残った。

先鋒に決めていたボールを投げ放ち、バトルが始まる。

 

 

「頼んだよ!コータス!」

 

「いけっ!オニシズクモ!」

 

 

熱い炉のような甲羅を背負ったポケモンと、水泡を被った長い脚の虫ポケモン。

 

「っ!」

 

腰を低く構えたカブさんが、ほんの少しだけ動揺した顔を見せた。

そりゃそうだろう。この一匹には驚いてもらわなくちゃ困る。

 

すいほうポケモン、オニシズクモ。

俺がカブさんへの対策に用意した一匹だ。

鬼のような形相だが、ペンドラーと違って心優しい子なんですよ。

タイプはむし・みず。

とくせいは《すいほう》。

ほのおタイプの攻撃を半減し、逆に自分が放つみずタイプの技を強化する。

それだけじゃない。《すいほう》はカブさんの得意技を事実上無効化出来る。

 

カブさんの得意技は《おにび》。

敵をやけど状態にする技だ。

やけどになったポケモンはじわじわとダメージを受けるし、物理攻撃が上手く出せなくなってしまう。

 

だが、《すいほう》を持つオニシズクモは火傷しない。

 

まぁ常に水を纏っているわけだから当然っちゃ当然だが…。

カブさんはそれを知っていたから、少し動揺したわけだ。

知らない訳ないとは思ってたけど、流石ベテランジムリーダー。

 

コータスが場に出た瞬間、甲羅から打ちあがった火が周囲を少し明るくする。

向こうの特性、《ひでり》だな。

天気が強い日差しに変わり、ほのお技を強化する。

 

コータスがよく一番手になるのは《ひでり》があるからだな。

 

更に色々と嫌らしい技を持っている事も分かってる。

カブさんはベテランだ。

参考になる試合はいっぱいあった。

その分の経験も向こうはきっと積んできているが…。

後続として、まずは情報量という有利で押させてもらう。

 

そのためにも、まずは―――

 

 

 

「さぁ!最初からクライマックスだぜ!」

 

俺はオニシズクモをボールへと「戻す」。

光り輝くダイマックスバンドからガラル粒子がボールへと。

 

 

「今日の天気は晴れのち大雨!火の扱いにはご注意くださいってな!」

 

 

抱える程になったボールを全身で振り回しながら、ぶん投げる。

 

 

「あわあわあぁぁぁあ!」

 

 

ダイマックスしたオニシズクモがフィールドに着地する。

長い脚は見上げる程。目つきの悪さも相まって、まさに怪獣だ。

本当に優しい子なんです。信じてください。

身に纏う水泡も巨大化し、ちょっとやそっとの炎なら飲み込んでしまうだろう。

 

 

初手ダイマックス。

通常、ダイマックスは先に切るべきではないとされている。

勝負所以外で使ってしまえば、相手のダイマックスに対抗出来ないからだ。

だが、敢えて先に切る事で一気に勝負を傾ける可能性だってある。

相手は大ベテラン。

初っ端から文字通り鬼札を切らせてもらった!

 

 

 

「このまま、押し流すぜ!!」

 

「あわあわぁあ!」

 

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