エンジョイ勢のたのしいむしジム   作:ハッソ

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《もえつきる》②

 

 

「アベリ選手!定石破り、掟破りの初手ダイマックスウウウウ!」

 

 

肩にオンバットを乗せた新人アナウンサーが大興奮でマイクを振り回す。

ついには放送席にてもちを持ち込んでいるが、これはオンバットの人気がついに新人アナウンサーを越えてしまったためだ。

この新人、てもちのバーターで仕事を得始めている。

 

「解説のマクワさん!凄い展開ですね!」

 

「…ええ。あの手の奇襲はアベリの得意技ですからね」

 

解説席に座るのはハードロッククラッシャーの二つ名で知られるジムリーダー、マクワ。

今日は屋内でバトルでもないのでサングラスを外した姿だ。

誰かと違ってTPOを弁えられている。

現在、フィールドに居るアベリとはジムチャレンジも同期で、ジムリーダーへの就任も同期という腐れ縁だ。

 

ライバルのような二人…しかし、過去の決着からライバルと言うのがお互いに少し気まずい二人。

 

そんなアベリの試合を見るマクワの顔は少し、険しい。

ベテランのカブを相手に好調だから面白くないのか?

いや、マクワはそんなつまらない男ではない。

マクワが考えているのは…

 

(カブさんの先ほどの反応、『わざとらしく』見えた…)

 

初手の対面。

先鋒で見せたオニシズクモに対してのカブが見せた僅かな反応のことだ。

アベリが『僅かに動揺した』と判断した反応。

マクワも解説席から気付いたが……その反応に、少しだけ違和感があった。

 

まるでアベリに『動揺している』と思わせたいかのような。

 

(だとしても、目的が分からない。オニシズクモが有効だと思わせたかった?

そもそも、思わせずとも実際カブさん相手には有効な一匹のはず…やはり勘違い、か?)

 

考えている間にも状況は変わる。

フィールドでは、巨大オニシズクモの威圧感を前にコータスが慌てて《ステルスロック》をばら撒いた。

周囲に撒かれた岩が瞬く間に見えなくなる。

アベリは少しだけ《ステルスロック》を目で追おうとしたが、すぐに首をぶんぶん振った。

諦めたようだ。

オニシズクモへ、大きな手振りで指示を出す。

 

ダイマックスしたオニシズクモが自身の眼前へと大きな水泡を形作る。

観客席では皆が傘やビニールシートを慌てて用意した。

 

 

《ダイストリーム》。

 

 

バッシャアアアアアアアア!!!

 

何十人と入ってしまいそうな水泡が勢いよくフィールドへと叩きつけられる。

叩きつけられた水が荒れ狂う奔流となり、打ちあがった水が雨のように降り注いでくる。

水に飲まれたコータスは全く抵抗出来ずに押し流されていく。

 

「コータスならば耐えてもおかしくはないのですが、これは急所に当たってしまったかもしれませんね」

 

水飛沫が観客席にまで跳ね、空を見上げればいつの間にかフィールドの上空には黒い雲が覆っていた。

 

「基本ですが、一部のダイマックス技はフィールドに天候変化を起こします。《ダイストリーム》の後の変化は、ほのおタイプに厳しく、みずタイプには心強いですね」

 

マクワの丁寧な解説に新人アナウンサーはしきりに頷く。

オンちゃんが呆れ気味に見ている気がする。

 

水に流されてぐったりとしたコータス。

戦闘不能が宣言され、カブがボールへと戻す。

大胆なマサカリ投法で次に繰り出されるのは…

 

「次鋒はウインディ!オニシズクモにはやはり厳しそうに見えます!」

 

現れたのは雄々しい赤毛のポケモン。

伝説と見紛うような雰囲気を持つカブのチームの一体だが、オニシズクモへ有効打があるようなデータは残っていない。

 

「一旦ダイマックスの時間を潰しに来ているように見えますが‥‥3vs3では1匹の価値が重いですね」

 

余りに順調過ぎる。

アベリのオニシズクモのダイマックスによる力業に成す術なく押されている。

 

「対戦前にカブ選手は『クワガノンは怖いね』と言っていたそうですが…予想を大きく外してしまった形でしょうか!!」

 

新人アナウンサーがカブの失策の可能性について、手元のデータをひっくり返しながら考察する。

試合の直前に聞いたインタビューでクワガノンへ言及があったことを発見した。どうやらクワガノンを意識していたようだ。

 

「クワガノン…ですか?」

 

そこに、マクワが引っかかった。

確かにクワガノンは最近の試合でも活躍が多い。

ポプラとの試合でも決め手となったのはクワガノンの《ラスターカノン》だ。

アベリのチームの中でも注目されるのは当然かもしれない。

 

だが、普通に考えるならほのおへの対策に選ばれるはずもない。

 

最近の試合ならば、メロン戦で起用されていたイワパレスなどの名前が挙がってもいいはずだ。

それなのに、カブはクワガノンに注目していたらしい。

「‥‥っ!アナウンサーさん、アベリの最近の試合データはありますか」

一つの可能性に、気付く。

当たり前と言えば当たり前の可能性に。

「え?はい。この辺りに…」

新人アナウンサーが机の上に広げていたプリントの中からいくつか拾い上げる。

注目するのは、使用されたポケモン。

 

 

 

 

対ドラゴン

 

① アブリボン

② モスノウ

③ クワガノン

 

 

対フェアリー

 

① アイアント

② アブリボン

③ イワパレス

④ ペンドラー

⑤ ドラピオン

⑥ クワガノン

 

 

対どく

 

① ドラピオン

② ペンドラー

③ クワガノン

 

 

対じめん

 

① テッカニン

② ヘラクロス

③ クワガノン

 

 

 

 

「えーっと、ここ最近はクワガノンが常に選出されていますね?」

ただ、どくの試合ではクワガノンは姿を見せていない。

二匹目までで決着してしまっているからだ。

それでも、公式戦には記録としてしっかり残っている。

 

「カブ選手がクワガノンを警戒していたのはこの選出率、ということでしょうか?」

「ええ。恐らくは。特に注目したいのはキバナ選手との対戦での選出ですね」

キバナとの試合、クワガノンにドラゴンへの有効打は一切ない。

むしろ、《ふゆう》で躱せるとは言え、キバナの手持ちにはじめんタイプだって多い。

本来なら、少し避けるべき局面だ。

 

「それ自体は…おかしくないですよね?ジムリーダーの皆さん、エース格は常に起用しているような」

例えばセキタンザンやアップリューのようなキョダイマックスするポケモン。

バディのような彼らをジムリーダーは基本的に起用している。

どれだけ不利で、どれだけ対策を取られようとも、だ。

勿論、絶対、とは言い切れないが。

 

ジムリーダーと言えばこのポケモン!という子は確実に一匹はいるだろう。

 

「アベリ選手にとってのエースがクワガノン、というだけなのでは?」

「いえ、それは…」

 

だが、マクワには分かっている。

アベリがジムチャレンジの頃、相棒としていたむしポケモン。

恐らくむしジムを選んだきっかけになったであろうポケモンを。

今は試合に出てこないが、アベリがあの子以外をエースと呼んでいる所は見たことがない。

 

クワガノンを最近頼りにしている事は確かだろうが、それはあくまで一時的な傾向のはずだ。

もしかしたら、アベリ自身すら起用を意識していないかもしれない。

 

「ですが、カブ選手はエースとして見たようですね」

 

問題はカブからその情報が出ている事。

恐らく、本人にも無自覚なエース起用。

キバナ戦を見るに、多少の不利も気にせず登板している事実。

 

対策、とだけ言えばどのジムリーダーもやっている。

相手のタイプの弱点を突く。戦術の欠点を露わにする。

アベリだってその手の対策への対策くらいは練っている。

だが、それらの対策とは少しだけ違う。

アベリがクワガノンをこれだけ重用しているのはここ最近だけの話。

 

カブが対策したのは、むしタイプでもクワガノンでもない。

 

 

(カブさんは、アベリ個人への対策を講じている‥‥)

 

 

カブはアベリをそれほどの『脅威』として見ている。

恐らく、アベリにとって『初めて』のことのはずだ。

 

思わず、マクワはフィールドのカブを見やる。

 

どこまでも真剣に険しい顔でフィールドの状況を見つめるベテランの姿だ。

カブの指示を受け、ウインディが果敢にも《しんそく》を放つ。

オニシズクモの体力を多少なりとも削るが…ダイマックスしているオニシズクモからすればかすり傷と言ったところ。

反撃として、もう一度巨大な水泡を生成し、構える。

 

「あわあわあぁぁぁあ!」

 

もう一度激流が流れる。

 

怒涛の勢いで迫る水を前にウインディも早く駆ける事で逃れようとするが、最早フィールドには逃げ場などない。

コータスと同じように波の中に飲まれ、戦闘不能が宣言された。

 

「ウインディも戦闘不能です!カブ選手は残す所あと一体となりました!」

 

マクワの考察を聞いてしまっていた新人アナウンサーが慌てて試合の実況に戻る。

そう、今の話はあくまでマクワの推測に過ぎない。

その上、もし推測通りだとしても実際にカブは窮地に追い込まれている。

 

二度目の《ダイストリーム》でフィールド上空の雲が一層分厚くなる。

観客席にまで届く豪雨はまるで嵐のような有様で急遽雨合羽が配られ始めている。

 

そんな豪雨に打たれながら。

 

 

ほんのわずかに、チャレンジャーが微笑んだ。

 

 

 

 

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