エンジョイ勢のたのしいむしジム   作:ハッソ

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《もえつきる》③

 

残り一匹。

それほどに追い詰められてもカブさんの瞳の炎は消えない。

小さな火など掻き消えてしまいそうな豪雨の中、まっすぐに俺を見つめ返す。

 

「カブよ 頭を燃やせ動かせ! 勝てる道筋を探すんだ!」

 

最後のボールを手に自分を叱咤しながら繰り出してくるのは。

 

「まるやくで」

 

頭部に燃え盛る炎を宿した胴の長い百足のようなポケモン。

はつねつポケモン、マルヤクデ。

タイプはむし・ほのお。

 

迷う必要もない。間違いなく、カブさんのエース。

苦楽を共にした、こちらもベテランのポケモンだ。

正直な話、色んな試合を見て来て、かなり好きなポケモンでもある。

むしタイプだしな。

 

色々と警戒をすべきポケモンではあるが、今は何よりも…

 

「さぁ 行くよ!マルヤクデ!」

 

キョダイマックスが、来る。

 

 

一度ボールに戻されたマルヤクデにカブさんからガラル粒子が注がれる。

巨大化したボールに熱い想いを全身全霊で込めるようにして、ぶん投げる。

 

 

「キョダイマックスだ!燃え盛れ!天まで燃やせ!」

 

「まるやくでええええええええ!」

 

 

現れたのは、龍。

長く伸びた姿は百足よりも東洋の龍に近づいている。

フィールドに現れただけで豪雨の中なのにぶわっと熱い風を全身で浴びた。

そもそもマルヤクデ自身が体内で可燃性ガスを作り、体内で燃やしている火力発電所みたいなポケモン。頭部の触覚のような炎さえ、体内から『漏れ出た』熱に過ぎない。

キョダイマックスすればなおの事。

身体に当たった雨粒が瞬時に蒸発してマルヤクデの周囲だけサウナのような状態になっている。

 

カブさんは流れる汗も降り注ぐ雨粒にも構わず、いつものように腰を据えてフィールドを見据える。

本当に追い詰めてるのか、これ?

 

いいや、分かっている。

カブという選手はここからが強いんだ、と。

 

だからこそ、俺は攻める。

今、『流れ』が俺に来ているのは確か。

そして、『流れ』が試合を決める事は少なくない。

 

手持ちの数、フィールドの状況。

「あわあぁぁ!」

ここに来るまで、オニシズクモだってほとんどダメージを受けていない。

リスクを気にせず、強気に攻めていい状況だ。

《ダイストリーム》でどんどんほのお技は使いにくくなっている。

更に負担をかけさせてもらう!

 

「ガンガン行こうぜ!《ダイストリーム》!」

 

巨大化したオニシズクモが三度目の《ダイストリーム》を構える。

豪雨により水量を増した大きな水泡。

ダイマックスわざによる天候変化は一時的なものだが、強力な後押しだ。

押し流す!

 

「《ダイウォール》だ!マルヤクデ!」

 

マルヤクデの眼前に強大なエネルギーが集まる。

《ダイウォール》。

宿ったガラル粒子を透明な壁にして、あらゆる攻撃を防ぐダイマックスわざ。

 

しっかり冷静な男だぜ、『燃える男』。

この熱血でありながら冷静なのがベテランの強さか。

 

《ダイストリーム》が《ダイウォール》に防がれる。

思わず苦しい表情になりそうなのを、何とか笑って誤魔化した。

 

「はっ、流石ベテラン!」

 

「熱くなっていこうか、アベリ君!」

 

カブさんも楽しそうに笑う。

当然、分かっているか。

ジムリーダーなんだ。お互いダイマックスを扱う事は多い。

感覚で分かる。

 

そろそろ限界だ。

 

「あわわわわぁ…」

 

オニシズクモのダイマックスが、終わる。

時間切れだ。

 

暴威を振るったオニシズクモの巨体がみるみる縮み、通常の大きさへと戻る。

いつもならば、それでも頼もしいポケモンだが…

 

「まるやくで」

 

キョダイマックスしたマルヤクデの前だと、少し心許ないぜ。

 

だが、オニシズクモ自体が強力なポケモンなのに変わりはない。

天気も味方だ。散々ばら撒いた水が天から降り注ぎ、みず技を強化してくれる。

とくせいの《すいほう》はみず技の攻撃を倍加する強力な効果だってある。

 

大きく燃え盛ろうが炎は炎。

《ダイウォール》は二回連続ではほとんど使う事が出来ない技だ。

勢いはまだ、俺にある。

 

 

「オニシズクモ!《アクア

 

 

 

 

 

 

 

バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリ!!!! 

 

 

 

 

 

 

 

そして、光と音が炸裂した。

 

 

迸る《ダイサンダー》が雨雲で暗かった視界を真っ白に染め上げる。

フィールドに流れていた水にバチチチチチ!と大きな音を立てて電流が流れた。

 

流れた電流が熱を生み、小規模な爆発がフィールドの各地で起きる。

 

 

そんな轟雷の中央に居たのはオニシズクモ。

 

 

キョダイマックスマルヤクデが大怪獣のように口から吐き出した雷撃が、《アクアブレイク》を構えようとしたオニシズクモを貫いた。

耐えられる、はずもなく。

「あわ、わぁ‥‥」

「オニシズクモ!戦闘不能!」

ダンペイさんから宣言されて、急いでオニシズクモをボールに戻す。

プスプスと焦げ臭い程の電圧。

流石にみずタイプ相手に無策なわけがないとは思っていた。

《ダイサンダー》も試合で見たことはあったが、直接受けるととんでもない迫力だ。

 

迸った電流が今なお、フィールドで残り続けている。

時折バリバリと帯電しているように見えるが、これは《ダイストリーム》と同じく場の変化だ。状況は《エレキフィールド》。

でんきに有利な状態に場が切り替わったわけだ。

水浸しの状態で帯電していると言ってもダメージを受けたりするわけじゃないが…。

 

「いけっ!ペンドラー!」

 

とにかく、相手はキョダイマックスをしている。

このまま、無謀に攻め入る事は出来ない。

先程までカブさんがオニシズクモのダイマックスを時間稼ぎで凌いだのと、今度は真逆。

俺が耐え凌いで、序盤の有利をどれだけ残せるか、という場面だ。

結局のところ、カブさんが今、背水の陣である事には変わりないんだから。

さっきと同じ感覚に従えば、そう長くはないはず。

 

あと一撃耐えるだけで、マルヤクデのキョダイマックスは終わる‥‥と、思う!

 

「ギュオオン!」

「気合入れろよ!ペンドラー!」

 

ペンドラーがいつものように対戦相手を鋭く睨みつける。

 

何だかいつもより、気合が入っている気がするな。

確か、ペンドラーとマルヤクデは種族的に仲が悪い…とかどこかで読んだ気がする。同じムカデモチーフだしな。

そのせいか?まぁいいや。気合が入ってるのは悪い事じゃないし。

 

「ここからが火花散る大勝負!烈火のごとく!燃え盛るよ!」

 

「まるやくで!!!!」

 

気合が入っているのは向こうも同じだ。

 

キョダイマックスしたマルヤクデが体内の発熱機関を更に熱くするのがフィールドの気温で伝わってくる。

大技が来る。

俺はペンドラーに《まもる》のサインを出した。

一部、 読まれちゃ不味い技は指示なしでも伝わる様にしてある。

《まもる》は通常ならば敵の攻撃を完璧に防げる技。ネズが使っていた《ブロッキング》と同じ『最速の防御』だ。

ただし、読まれれば全くの無駄。

流石にこのタイミングで攻めないって事はないだろうが…。

 

雨がぽつぽつと降り続いている。

《ダイストリーム》によるこの雨は一時的なもの。

だが、まだ降っているということはほのお技は弱体化されているはずだ。

 

《まもる》による防御は通常ならば完璧だが、流石にダイマックスした相手には防ぎきれない。

それでも、ダメージは軽減してくれる。まともに受けるより遥かにマシだ。

 

キョダイマックスマルヤクデの大火力、いや超火力を耐えられるかどうかが一つ目の勝負になる。

雨を計算に入れれば分が悪いってことはないと思うが、どうかな。

 

 

 

「天まで焦がせマルヤクデ!《キョダイヒャッカ》!!」

 

 

マルヤクデが長い身体を波打つように炎を 全身から 噴出する。

体内で作られた熱を余すところなく炎に変換する大技。

 

 

 

フィールドが百の大火に包まれて、燃え盛る。

 

 

 

「うおっ」

 

火傷してしまいそうな熱風が水気を吹き飛ばしながら、フィールドに吹き荒ぶ。

 

思わず目と口を守ろうと腕で覆うが、隙間から必死に目を凝らす。

ペンドラーはどうだ。無事なのか。

フィールドは《キョダイヒャッカ》の影響で巨大な炎の渦に覆われている。

その向こう、陽炎のように見える影はまだ立っている。無事だ。

「ギュオオン!」

ペンドラーは《キョダイヒャッカ》を耐え切った!

「まるやくでぇ」

そして、《キョダイヒャッカ》を撃ちきったマルヤクデのキョダイマックスが、終わる。

 

炎上する渦に囲まれたフィールドの中央でマルヤクデとペンドラーの二体が互いに敵意全開でにらみ合いだ。

 

お互い切り札は切りあった。

 

「「勝負は、ここからだ」」

 

奇しくも俺とカブさんが、同じ言葉を呟いた。

 

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