エンジョイ勢のたのしいむしジム   作:ハッソ

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《もえつきる》④

 

 

「「勝負は、ここからだ」」

 

自分自身を鼓舞し、叱咤するために呟いた言葉が相手の声と重なる。

 

そうだ、それでこそ。

 

カブは熱く脈動する自分の心臓を抑えるようにしながら、冷静にフィールドを見やる。

先程まで土砂降りだったフィールドは《キョダイヒャッカ》の影響でまた様変わりした。

 

通常、ほのおのダイマックス技《ダイバーン》であれば、コータスの《ひでり》と同じく強い日差しをフィールドに齎してくれる。

が、《キョダイヒャッカ》は通常の技とは違う。

 

キョダイマックスしたマルヤクデだけが使える技は天候に影響を与えないが…

 

「ギュオオオ!?」

 

《キョダイヒャッカ》の炎がフィールドを燃え上がらせ、ペンドラーへ絡みつくように襲い掛かる。

炎がまるで意思を持ったかのように四方八方から迫り、ペンドラーの動きを縛る。

「ギュオオオ…!」

ペンドラーは炎の渦に囲まれてなお、鋭くマルヤクデを睨みつけてくる。

「まるやくでぇ‥!」

ナイフのような切れ味の視線にマルヤクデも鋭く睨み返した。

 

なるほど。凄い反骨精神だ。

それでいて、トレーナーの事をよく慕っているのが伝わってくる。

 

本来なら、後ろが気になって仕方ないんだろう。

 

「ぬわっ‥‥!」

炎の向こう側からアベリ君の声。

燃え上ったフィールドの向かい側。アベリ君の眼前にはブラインドとなる巨大な炎の壁が立ち上がっていた。

勿論、トレーナー本人に炎が当たるような事はない。

そのような直接攻撃はリーグ戦のルールでしっかりと禁止されている。

 

だが、現状はあくまでアベリ君の眼前に巨大な炎があるだけ。

《キョダイヒャッカ》の影響によるもので通常なら狙って置けない炎だ。

それがアベリ君とフィールドを分断する形で妨害しようともルール違反ではない。

 

我ながら汚い戦法だ。

ジムリーダーになったばかりの頃ならば絶対にしなかっただろう。

むしろ毛嫌いしてしまったはずだ。

 

今は少し違う。

「ぼくの『ベスト』を、尽くさせてもらうよ」

やれることは全部やらせてもらう。

ルールは破らないが、ルールの中でなら何だってやる。

 

ぼくの持てる全てを出し尽くす事こそが、対戦相手への敬意だ。

 

そして、それを君の力で乗り越えて欲しいとも思ってしまう。

この『期待』は…ぼくも歳を取ったってことかな。

「ペンドラー!《いわなだれ》!」

フィールドの状況が見えないまま、アベリ君が指示を出した。

効果抜群なだけじゃない。狙いを付けられない以上大雑把でも攻撃の当たる《いわなだれ》を選択したんだね。

《いわなだれ》の範囲攻撃ならばトレーナーが細かく目標を指示せずとも当てられる。あるいは、ペンドラー自身への信頼かな。

だけど、状況自体には慣れていない。ペンドラーも初めての事態に少し戸惑っている。

その隙を、突かせてもらおう。

 

「マルヤクデ!《とびかかる》!」

 

ぼくの指示を受け、マルヤクデがペンドラーへと迷いなく飛び掛かった。

「ギュオオオ!」「やくでぇ!」

ゼロ距離で二匹が敵意をむき出しに吠える。

「ギュオン!」

ペンドラーが苛立たし気に振り払おうとする。

当然だろう。こんな至近距離では《いわなだれ》を撃つ事が出来ない。

そのまま撃てば、自身をも巻き込んでしまう。

トレーナーと意思疎通出来ない状態でその判断は出来ないだろう。

 

そして、炎で視界を塞がれたアベリ君にはその窮状を咄嗟に理解出来ない。

 

「そのまま《まきつく》!」

「くっ!ペンドラー!《ばかぢから》で振り払え!」

 

ぼくの指示を聞いて、ようやく状況を理解したアベリ君は対応策を即座に指示した。

悪くない判断力だ。

 

だが、ぼくは口頭の指示とは別にサインでマルヤクデへ指示を出している。

 

予め決めておいたこの状況でのみ使うサインを使った。

マルヤクデはペンドラーにしがみついているが、《まきつく》ではない。

しがみついたまま、ぼくの次のサインが出るタイミングを待っている。

 

全身に力を籠め、力業で束縛を解こうとしているペンドラー。

時折フィールドの炎が襲い掛かり体を焼くが、揺るぎもしないタフネスと恐れもしない気の強さだ。

 

さながらパワーボムのように巻き付いているマルヤクデを地面へ叩きつけるべく、全身をバネのようにしならせながら跳んだ。

彼の《ばかぢから》の威力は試合の映像で見せてもらった。まともに受けるわけには行かない。

 

 

その勢いを、利用させてもらう。

 

 

ジャンプが最高地点に達したその瞬間。

「今だ!」

思わずサインと共に声をあげてしまう。

熱くなりすぎだ。

「やくで!」

マルヤクデが合図と共に()()()()

ペンドラーが地面へと叩きつけようとする力を巻き込み、エネルギーを回転へと変える。

ぼくも故郷で耳に挟んだ事はあったが、この動きはかつてオトスパスとの対戦時にマルヤクデ自身が学んだ技術。

 

相手の力に逆らわず、むしろそれに乗り利用する体術だ。

 

そして、《ばかぢから》のエネルギーを吸収して()()()()()()()

 

絡み合った二匹が一本のタイヤになったかのように《ころがる》。

土煙をあげながら、二匹が燃え上がるフィールドを走る。

 

ゴロゴロゴロゴロ!

 

転がりながら二匹が激しく敵意をぶつけ合う。

拘束から逃れようと暴れるペンドラーと、力を受け流し回転へと変えるマルヤクデ。

二匹の闘争は回転の勢いへ転換され、更に勢いを増していく。

 

「くっ!《どくづき》だ!」

混沌とした戦況、炎のブラインドも相まってアベリ君の指示は精彩を欠いている。

炎の向こう側から陽炎のように見えているだろうフィールドに目を凝らしているようだが、ペンドラーとの意思疎通は取れていない事がぼくからも分かる。

ペンドラーも必死に応えようとしているが…回転しながらではそれも難しい。

 

そんなアベリ君の状況を見て、ぼくも判断する。

「マルヤクデ!」

技の指示は出さない。

ぼくの声にマルヤクデが転がりながら頷くのが分かった。

この場面は前以って想定していたからだ。

既に何をするか、マルヤクデとは話し合っている。

 

むしろ、この場面を目指し、ぼく達はバトルを組み立てていた。

ここからが最後の仕上げだ。

なるべく長い時間、この状態を維持しつつ仕込ませてもら…

 

 

 

「ペンドラァァァ!!」

 

 

 

燃え上る炎の外側からアベリ君が吠えた。

「っ!」

思っていたよりも動きが早い。

ぞくり、と嫌な予感がした。

まだ仕掛けは十分じゃない。

 

だけど今迷えば、ぼく達が負ける!

 

「マルヤクデ!」

「やく‥‥でぇ!」

指示を出すが、マルヤクデの視線はペンドラーとにらみ合ったまま離れない。

ペンドラーの鋭い敵意が、鬼気迫る圧が、目を離すには強すぎる。

アベリ君の声を聴いただけでもうペンドラーは覚悟を決めている。

決めに来る‥‥っ!

 

「自分ごと《いわなだれ》!」

 

指示されたのは自滅覚悟の大技。嫌な予感はこれだ。

ならもう仕掛ける時間は、ない。

 

「仕掛けは終わりだ!決めるよ!」

 

もう少し膠着状態を維持したかったが、仕方ない。

ペンドラーに先に動かれれば、マルヤクデが負ける!

 

 

「《もえつきる》!」

 

 

 

瞬間。

 

フィールドが爆発する。

音と光が一瞬、全てを奪い去った。

落ちていた《いわなだれ》が、消し飛ぶ。

炎の壁も何もかもが消し飛び、一気に視界が開けた。

 

が、直後に砕かれた岩石が爆風に乗って、噴煙のようになってフィールドから拡がっていく。

 

その爆風を前にしても、ぼくとアベリ君はフィールドから一切目を離さない。

勝負から、目を離さない。

そして‥‥

 

「ペンドラー!戦闘不能!」

 

ドッと言う音と共にペンドラーの巨体がフィールドに落ちてきた。

「やくでぇ!」

マルヤクデが勝鬨をあげる。

一瞬、あと一瞬でも遅れていれば戦闘不能なのはマルヤクデの方だった。

「お疲れ、ペンドラー」

アベリ君がペンドラーを手元に戻し、そして三つ目のモンスターボールを取り出す。

最後の一匹は

 

「ヤッテヤリマッシャー!」

 

 

 

 

 

スタジアムが揺れる。

観客達がBGMに合わせてする足踏みが大きな揺れになっている。

 

スタジアムが揺れる。

観客達の興奮が、期待が、熱狂が、大きなエネルギーとなっている。

 

スタジアムが揺れる。

 

試合が終わる。

 

 

 

 

「さぁ、カブさん。最後の一勝ぶ‥‥ん?」

クワガノンが現れたフィールドを前に楽しそうに笑ったアベリ君が、怪訝そうに首を傾げる。

フィールドでは異常が起きていた。

 

先程の爆発が生んだ黒煙。

未だフィールドに残るエレキフィールドの電気も相まって雷雲のようにも見える煙が、残り続けている。

全く晴れる気配がない。

 

準備が不十分になってしまったと思ったけれど、砕かれた岩石のおかげで状況が整った。

フィールドを埋め尽くし、視界を塞ぐ暗黒。

最早炎は()()()ない。

 

 

「さぁ、アベリ君。最後の一勝負だよ」

 

 

まだだ。

まだ終わらない。

まだ終わってない。

 

 

そうだろう?アベリ君。

 

 

 

 

 

 

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