珍しく俺にジムリーダーとしてお仕事が回ってきた。
ジムリーダーのお仕事は多岐に渡る。
まずは試合。
そして、それのための鍛錬だ。
直近の試合の反省点を洗い出し、次の試合へ準備を整える。
他の地方の事情は分からないが、ガラルでは『まず』と言っていいお仕事だろう。
まぁ、今やもうお仕事って感じもしないけど。
次に研究だ。
自分の専門のタイプについて大学の論文を探して読んだり、逆に大学に求められてレポートを提出したり。
勉強は嫌いだけど、この世界の論文は大真面目に「何故ヤドンの尻尾は美味いのか」とか「ストーンエッジの命中率と天候の関係性」とか書いてあったりして面白い。
元々俺にはポケモンの専門的な知識がないからどれがどこまで正しいのか分からないってのも面白く読める原因かもしれないけど。
最後に宣伝。
自分のジムにトレーナーを多く引き入れたり、専門タイプの良さを布教したりするのがそもそもジムっていう施設の主目的…らしい。
うちにはジムトレーナー居ないし、ガラルでは試合に出る事自体が宣伝になっているからあんまり意識したことはない…かな?
ああ、むしとりたいかいは定期的に開催してるな。
他にもジムがある町の地域振興や防災、マクロコスモスから頼まれたお仕事をする事もあるけれど、まぁ大きくは上の三つだろう。
ほとんど知名度がなくて仕事のない俺でも案外忙しい。
試合の日程、ぎっちぎちなんだよ。
オフシーズンならそこそこ暇になるんだけど。
無名の専業ジムリーダーでこれなんだが、副業やってる人達はどうなってるんだろう?
今回俺に回ってきた仕事はレポート…みたいなものだ。
いや、向こうが用意した設問に答える感じだから自由形式のアンケート?
使うデータベースとしては聞き取り調査になるのか?
中身はこの世界における職業調査…っぽいものだ。
ジムリーダーとしての業務実態についての質問が多い。
専門タイプについての知見とか、ジムの意義についての見解を述べるような感じ。
このレポートが何に活かされるかは知らないが、光栄なことに是非俺に書いてみて欲しい、と回ってきた。
「うーん」
パソコンの前で、俺は唸っていた。
レポートを書くのは初めてじゃない。実際、今回だって九割はサクサクと書けた。
唸っている原因は最後におまけみたいに着いている質問だった。
「あなたにとって『ポケモントレーナー』とは何ですか?」
難しい。難しすぎない?
何か深い事言えって大喜利みたいなもんだろこれ。
もう無記入で出してしまおうか。逆の逆に深いのでは?
そんな気持ちが何度も湧くが、結局パソコンの前で唸り続けている。
書きたい、と心のどこかが思っているのかもしれない。
何も文面思いつかないのに。
何度も書き始めては消してを繰り返す。
ポケモンと共に居る人。
ポケモンを戦わせる人。
ポケモンと暮らす全ての人。
俺の中では、どれもしっくりとは来ない。
間違ってはいない、と思うのだが。
かと言って、「トレーナーとはこうあるべき」と考えている訳でもないのだ。
ただ、もっとしっくり来る言葉を考えたいだけ。
「ビババグ」
相棒のイオルブがフラフラと飛んでいる姿が見える。
俺が知っている頃よりも高度は低く、姿勢も安定していない。
身体を支えているサイコパワーが万全ではないのだ。
周囲にはクッションを敷き詰めているから安全にしてある。
が、それでも心配なのだろう。下ではクッションを持ったアイアントやヘラクロスがハラハラと見守っている。
イオルブの状態はまだ、快復とは言い難い。
サイコパワーは不安定のようだし、病院で調べてもらったところ各種感覚器にも不調が残っている。
意識を取り戻しただけ、奇跡だと言われてしまった。
勿論これから先も今まで通りリハビリでも何でも出来る事はするつもりだ。
そもそもイオルブをああしてしまった加害者は俺なのだ。
昔、俺は自分のてもちを全て逃がしたことがある。
マクワに負け
マクワがメロンさんに負け
そのメロンさんがチャンピオンのてもちを一匹も倒せずに敗北した。
その時に分かってしまった。
自分の才能のなさと、ずる…チート行為をしてしまったのだ、ということに。
俺は転生者だ。
ポケモンの知識はほとんどないけれど、全くないわけじゃなかった。
だからポケモンをたくさん戦わせた。
ゲームではそうすれば強くなれたからだ。
俺が強かったのは普通の子供じゃなかったことと、自分のゲーム感覚を疑わなかった馬鹿さが原因だ。
だけど、バトルをするだけじゃこの世界では本当の強者にはなり得ない。
感覚としては多分40か50くらいでレベルキャップがある感じだろうか。
ただのレベリングではその辺が限界。ちゃんと才能のある奴が、正しい知識や経験を絶え間なく積み重ね続ける事で少しずつレベルキャップを越えていく。
俺はただ転生チートで凡人の限界に人より早く辿り着いてしまっただけだった。
壁の先には天才が居て、その向こうには努力した天才が居て…
そして、その先にはチャンピオンダンデが居る。
誰も到達出来ない先の先。
これは俺がネガティブなんじゃない。
無敗と言う結果が証明している事実だ。
壁の存在を知って俺は……壁を越えようとはしなかった。
そもそも俺がバトルをしていたのはゲームでそうしていたからってだけだ。
壁を越えるためのモチベーションが俺の中にはなかった。
夢も目標も見つけられないまま、自分の限界を知った。
こんな俺がここまで来れてしまったことを申し訳ないとさえ思った。
それで、てもちを逃がした。
逃がす時にはみんな大暴れしてボコボコにされた。
だけど、俺が心変わりする気がないと分かると散って行った。その時、相棒のイオルブだけ反応がなかったが、きっと怒っているから無視しているのだろうと思った俺はそのまま別れ…だけど気になって数日後に同じ場所に戻った。
そこではイオルブが別れた時と変わらない場所で横たわっていた。
ぐったりと身体に力が入っておらず、目は開いているのに話しかけても反応しない。
すぐさまポケモンセンターに駆け込んだ。
そして、ポケモンセンターから大きな病院に搬送された。
そんな病院がある事すら俺は知らなかった。
一日かけて色んな検査を受けたが、イオルブは治らなかった。
原因は精神的なものだろうとお医者さんは言った。
つまり俺のせいだ。
俺は治療法を求めてイオルブを抱えて…
今はそんな話はいいか。
とにかくイオルブが体と心の自由を失ったのは俺が原因だ。
一生かけても取り戻して、あいつには楽しく暮らして欲しいと思う。
因みに他のてもちも探してみたけど、見つけたらボコボコにされた。普通に元気に恨まれてた。
「あ」
リハビリを頑張るイオルブを見ながら、過去を思い返していると一つ思いつく事があった。
「あなたにとって『ポケモントレーナー』とは何ですか?」
今、俺はあの日ぶつかった壁の先を歩いている。
才能がないから、ゆっくりと。
壁の先に夢を見ているわけじゃない。
ただバトルが続けたい。
今はそう思っている。
子供の頃の俺は続けていれば、いつか自信が手に入ると思っていた。
『ポケモントレーナー』として胸を張れるようになる、そう思っていた。
正直今も自信はない。
今は分不相応なジムリーダーにまでなっちゃってるし尚更だ。
だけど。
脳裏にいつかの太陽がよぎる。
洞窟の中で眺めた焚き火と、空を渡るウルガモスの瞳。
どうやらいつの間にか俺にも積み上げたものがあるらしい。
あの時諦めたはずのものがいつの間にか手元にあったわけだ。
俺が楽しんでいたことを教えてくれた先代に感謝したいような、したくないような。
ほんの少しだけ、感謝しておくことにする。
俺にとってポケモントレーナーは『ポケモンと共に歩き続ける人』だ。
バトルに限らずにその道がどんなものであろうと、自分とポケモンが歩いてきた道に胸を張れるような、そんな人だ。
ここまで書いておきながら何だが、やっぱり俺にはまだまだな気がしてきた。
夢はいつか本当になるって誰かが歌っていたけど、俺にはまだ少し遠い話。
これからも俺の挑戦と言う旅は続く。
俺に分かるのはたった一つだけだ。
この楽しい旅と夢は終わらないと言う事だけが、分かっている。
第一部完!
アベリ(レアカード)
最近 注目株の 若手ジムリーダー。
いつも たのしそうに 笑っているが
ここまで 苦労も多かった らしい。
本人は 楽しいからやめられなかっただけ
と笑いながら 語る。
そろそろ メジャーを と期待する声も
増えているようだ。
サングラスは ダサい。