エンジョイ勢のたのしいむしジム   作:ハッソ

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あばれる

 

あの試合から数日。

休日に行う予定の虫取り大会の準備をしていると来客があった。

因みに虫取り大会はむしジムとして後進の育成とヘッドハンティングの場、布教活動としてかなり力を入れてやっている。

‥‥‥‥参加者は地元の悪ガキばっかりだけど。

 

「アベリ先輩、先日はありがとうございました!」

 

やってきたのは何故か懐いたらしいサイトウだ。

「お、おう」

 

キラキラした目で先輩と呼んでくれるのは嬉しいが、意味が分からない。

 

俺の盤外戦術を励ましだったと受け取ったとかインタビューで答えてたけど、どうしたらそうなる。

フィジカルだけじゃなくメンタルまでモンスターかこいつ。

 

今日なんてわざわざネーナタウンまで顔を出してくれた。徒歩で。

俺ですらいつも来る時タクシー使うよ。森の中通って軽く山登るんだぜ?

それをこの空手ガールは「軽い運動になりました。いい立地ですね」とか言ったからね。

 

フィジカルもメンタルも完璧なモンスターならそれはもうモンスターでしょこれ。

 

「で、今日はサイトウ、何しに来たんだ?礼なら前も言ってたし、そもそも勘違いだからな?」

 

因みにサイトウへのさん付けは本人の希望で廃止された。

俺も年下相手に呼び方が堅苦しすぎるかな、と思っていたところなので助かる。

敬語、苦手なんだよ。

正直そんなに歳も離れてないだろうし、俺も敬語は要らないって言ったんだが、サイトウ側は敬語をやめないらしい。

サイトウ、結構我が強い。

 

「浅学で申し訳ないのですが、ネーナジムについて詳しくなかったのでお話を伺えれば、と思いまして」

「あー…なるほどね」

 

うちのジム、マイナー常連だからな。表の歴史にほとんど名を残してないのだ。

リーグの対戦結果くらいは残っているだろうけど、むしジムは人気もないからビデオとかはあんまり残ってなかったのだろう。

俺でさえ自分でむしジムの門を叩いてから、このジムについて詳しく知ったくらいだ。

 

「先代が若い頃はメジャー常連だったらしいけどな、うちのジム」

「先代の‥‥。すみません、調べても見つからず…」

 

申し訳なさそうに眉を下げるサイトウ。いや、逆にこちらが申し訳ない。

活躍してたのは調べても簡単に見つからないような大昔ってことだからな。

かくとうジム等のメジャー常連なら歴代のジムリーダーも名前でピンと来るようなそうそうたる顔ぶれだったりするけれど。

うちのジムなら、マニアックな人なら何とかってくらいだ。

 

「しょうがない。先代、ポプラさんと同年代だったらしいし。ちゃんとした写真が残っていたりしたらプレミア付いてるんじゃないか?」

ポプラさんと!?と驚きの声。素直でいいねぇ。

かわいい後輩についつい俺の口も軽くなる。

「ネーナの先代はポプラさんと違ってバケモノじゃなかったからさ。年齢と共に成績も下降していってマイナーが定位置になっていったんだよ」

 

ポケモンバトルはタフなバトルだ。反射神経、状況判断能力、記憶力。トレーナーに要求される能力は多く、やはり老化は大きな敵になる。

ポプラさんはバケモノだから仕方ない。本人は厳しいって言っているけど。

 

「さぞかし経験を積まれた素晴らしいジムリーダーだったんでしょうね」

どうだろうか。俺が知っている先代の姿は経験を積んだというよりも…

「今はどちらにいらっしゃるんですか?」

期待に満ちた目を向けられてしまう。そんな流れにはなると思っていた。

「いやぁそれがさっぱり」

正直に答える。先代、今頃どこにいるんだろうか。

多分ガラルにはもう居ないと思う。出来れば元気にしていて欲しい。

 

遠い空を見上げて、引継ぎもせずに仕事を投げ捨てて失踪した先代の事を考えていると、腰のモンスターボールが一つ震えた。

「お」

確かめるとそいつは凶暴そうな一匹のむしポケモン。

 

ガタガタと機嫌悪そうにボールを揺らしている。俺達が先代の話をしていたから腹が立ったのか?

 

「その子は?」

 

「先代から引き継いだポケモン。ちょっと暴れん坊でな」

 

元々凶暴なポケモンみたいだが、こいつは特にやばい。

俺の手持ちの中だとぶっちぎりの気性難。

 

「大丈夫ですか?」

急にサイトウの目つきが厳しくなる。これはあれだ。

稽古というか『躾けますか?』って感じの目だ。いや『殺りますか?』かも。

因みにボールから向けられる視線も『お?殺るか?』だ。

君達怖いよ。かくとうジムってやっぱりそんな感じなのかよ。

 

「バトル中の指示には従うから大丈夫。単に俺が嫌いなだけだよこいつは」

 

どれだけ従ってくれるかとポケモンからの好悪の感情は別だ。

こいつは俺の事を主人として認めてくれてるが、それはそれとして俺のことは嫌いなのだ。

普段触れ合ったりしようとすると危ないが、バトルに使うのは問題ない。

こいつも、バトル自体は好きみたいだしな。

 

「出来れば使いたくないけどな。

 強さは確かだし、タイプ相性いいから一応次の公式戦には連れていくつもりだ」

 

どさくさに紛れて俺を攻撃に巻き込むくらいはしてきそうなんだよな。

なまじ賢い分、その辺が上手いのだこいつ。

「アベリ先輩の次の公式戦の相手は確か…」

真面目なサイトウは俺の対戦表もチェックしていたらしい。すぐに分かったようだ。

俺は頷き、不敵な笑みを返す。

ふっふっふ。今度ばかりは負ける事はない。正直、この暴れん坊はあくまで保険。

楽勝も楽勝だろうと俺は見ている。

 

 

「次の相手はヤロー。むしタイプの恰好の餌のくさタイプだ!」

 

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