エンジョイ勢のたのしいむしジム   作:ハッソ

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ジムチャレンジの時期について言及していた部分を訂正しました
直近のジムチャレンジは来年ではなく今年になります


幕間
ラブラブカップル 前編


 

それは唐突だった。

大事な話がある、と呼び出され、向かった先での事だ。

 

 

「アベリ先輩!私の『彼氏』になってください!」

 

 

目の前で顔を真っ赤にしているのはサイトウ。

俺より後に就任したジムリーダーで何故か俺への好感度が高い女の子だ。

ガラル空手の継承者であり、幼いころから真っすぐ育てられた事が分かる真面目さは俺も好感を持っている。

試合に入ると達人のような顔つきで容赦ないバトルをしてくるが、普段はスイーツが好きなどと言った女の子らしい一面もギャップがあっていい。

 

ここまで女の子らしい顔は、初めて見たけど。

今のサイトウは試合の時のすばやさをがくっと下げそうな《こわいかお》ではなく、うるうると揺れる《つぶらなひとみ》でこちらを見ている。

緊張で潤んだ瞳に俺ことアベリの姿が映る。

 

その姿はまるで愛の告白をしたかのようで。

 

 

 

 

 

勿論皆様にはもうお分かりだろうが、勘違いしてはいけない。

 

俺とサイトウはそんな関係じゃないし、そんな関係になる事もないだろう。

確かにサイトウはかわいいし、先輩として懐かれるのは悪い気はしない。

 

告白紛いの事を言われてしまえば勘違いするのも仕方ない事だろう。

 

だが、時々自分でも忘れるが俺は転生者。

前世の経験(漫画やゲーム)のおかげで勘違いする事はない。

転生者でよかった。転生者じゃなければ危なかっただろう。

恐らくこれは何らかの理由で『彼氏役』が必要になったパターン。

 

これが『付き合ってください』だったらただの同行だったが、『彼氏になってください』は難易度が高い謎かけだぜ。

 

全く。俺以外だったら勘違いしちゃっていたんだからな!

 

 

 

 

 

 

 

「最近不純な目的でサイトウ選手へ近づくファンが多くて、アベリ選手に『彼氏役』になって貰うことで彼らへの《むしよけスプレー》にしようと思うのです」

 

 

「はぁぁぁぁぁぁぁ」

 

「ど、どうしたんですかアベリ先輩?深いため息を吐かれていますが…」

 

いや、別に?

勘違いしてないし?勘違いしなかったもん俺。

よかったわー転生チートで勘違いせずにすんだわー。

だから、別に全然?全然あれだけど?

「‥‥ちっ」

決して落ち込んでないけど、ちょっと凹む俺の前でオリーヴさんが舌打ちをする。

 

そう、ここはマクロコスモス本社。

俺がサイトウに呼び出されたのはマクロコスモスの本社ビルだったのである。

多分サイトウがリーグ運営に相談した形なんだろう。

 

その時点でね。勘違いする訳ないんだよ。

場所が場所だぜ。

当然だよ。ああ。当然。

 

「ええっと、もう一回最初から聞いていい?」

 

勘違いはしていなかったが、何故か話の詳細が頭にあんまり入っていない。

俺が聞くと、オリーヴさんは心底嫌そうな顔で俺を見下してからもう一度説明してくれる。

 

「サイトウ選手が今期ジムリーダーに就任してから、かくとうジムへジムトレーナーの希望者が激増しています」

 

ふむふむ。

要はサイトウに教えてもらいたい!というトレーナーがたくさん居るってことだ。

かくとうタイプは元々道場としての側面が強く、タイプ自体もかなりの人気だ。

そこから更に増えた、というのはサイトウがそれだけかくとうタイプを新しい客層にアピール出来たって事だろう。

 

「それ自体はジム経営としては喜ばしいのですが、問題はその…皆さんすぐに辞めてしまうのです」

 

それは希望者たちが悪い…と思おうとしたのだが。

思い出すのは本人から聞いたサイトウの日々のトレーニングだ。

イシツブテ(20kg)を軽々とダンベル代わりにして、毎日フルマラソンみたいな距離を走るのを『ジョギング』と称し、手持ちのポケモン達とは直接スパーリングをして技のキレを上げていく…。

 

「正直、俺にはすぐに辞めてしまう人達の気持ちが分かってしまうんだが…」

「さ、流石に初心者の方にいきなりキツい事はさせていませんよ。まずは体力づくりからです」

 

めっちゃキツそう。

疑いの目をサイトウに向けると、目を逸らされた。

少なくとも俺に出来るようなトレーニングじゃないな。

 

とにかく、その初級トレーニング(サイトウ談)の段階でみんな抜けてしまう、と。

流石に早すぎてあんまり本気じゃない雰囲気はあるな。

 

「トレーニングの内容は各ジムにお任せしますが…問題は希望者が多すぎてジムが対応しきれていません。ジム側で試験のようなものを用意しても、試験会場に多数のリーグスタッフを配備しなければいけないレベルになっています」

 

「試験で篩いにかけるのすらそれって‥‥そんな来るの?」

 

「多い時は一日に100人くらいが…」

 

「うわぁ。近いんだからネーナにも来てくれればいいのに」

 

こちとら試験で篩いにかけるどころか、お菓子で地元のガキ釣って集めてるんだぜ。

 

 

「彼らが本当にジムに入ってくれると言うのならばかくとうジムの規模拡大も考えるのですが、九割の希望者が翌週までに脱落。ただただジム運営の阻害になっている状態です」

 

「めっちゃ抜けるじゃん」

「アベリ選手のような方が非常に多いようですね」

 

おっ、相変わらずオリーヴさんのトゲは鋭いなぁ。

 

「先ほども言ったように試験を開催する際にはいつもリーグスタッフさんの手をお借りしていたのですが…このままだと根本的な解決にはならないのではないか、と」

「………我々としてはサイトウ選手のファン層は今、『過剰』に盛り上がってしまっていると思っています。好意的なものではありますが、最早炎上と変わりありません。余りに邪な目的のトレーナーが多すぎです。実害が出る前に沈静化を目指しています」

 

リーグ運営に相談して、今か。

オリーヴさんが出てくる辺り、リーグ運営も結構本格的に動く気らしい。

 

サイトウに偽彼氏を立てる理由までは分かった。

問題は偽彼氏のキャスティングだ。

 

マクロコスモスなら適当な人間用意するのは訳ないだろう。

わざわざ俺なんて呼ばんでも。

 

「じゃあ、何で俺が?」

 

その言葉にオリーヴさんとサイトウが目を合わせ、サイトウが気まずそうに目を背けた。

どうする?どっちが言う?って感じだ。

サイトウが言いづらそうなので、オリーヴさんが言うことにしたらしい。

 

「スケジュールに余裕があるのと、もし炎上してもリーグにダメージが少ないからです」

 

「もう少しオブラートが欲しかった」

 

リーグ運営公式の捨て駒じゃねえか!

確かに俺はファンが少ない癖によく炎上するから今更炎上したところで気にしないけど!

 

あと多分、炎上した場合にサイトウより俺に批判が集まりやすいようにも考えてんのかな。…それで厄介ファン炙り出すのが主目的じゃないだろうな。

 

やる事がやる事だから、リーグ運営に批判が集まるのもまずいもんな。

誰が《ひらいしん》じゃい。

 

「リーグ運営としても理想は炎上せず「彼氏が居るらしい」程度の『におわせ』で今回のブームを落ち着けたいと考えています」

 

さっき言ったようにリーグは希望者が増える事自体は歓迎してるんだもんな。

問題はキャパオーバーするほど盛り上がりすぎているってだけで。

サイトウとお近づきになりたいだけの不純な目的の奴を先に弾いてしまいたいという話だ。

 

でも、人気は落とさずに彼氏が居るっていう噂だけ広める。

難しそうだな。

証拠がないと信じないだろうけど、確たる証拠を作り過ぎても駄目だろう。

ファンがショック死したり、暴動起こしたりしちゃうよ。

そっちの方が今よりもっと危険だ。かくとうジムの品位も疑われかねない。

テレビマクロとか使ってうまーく間接的に伝えるのか?

 

 

 

「公式のリーグカードに載せようと思います」

 

 

「‥‥大量虐殺か何か?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リーグカード、というのはリーグ運営が発行しているトレーナーの名刺のようなものだ。

 

トレーナーであれば自由に発行する事が出来る有料のプリントサービスも提供しており、ガラルでは知らない人は居ないだろう。

 

自分が作るだけでなく、他人のカードを集めるのも人気だ。

特に有名なジムリーダーのリーグカードはファンならば誰もが欲しいだろう。

 

コレクターとしてだけでなく、プライベートな情報の発信源としても非常に有用だからだ。

 

好きなジムリーダーの事を知りたかったらリーグカードは是非欲しいもの。

そんなファンが必死に集めたコレクターアイテムに偽とは言え彼氏匂わせを仕込もうって言うんだから、リーグ運営の残虐さには参るぜ。

 

流石に「彼氏が居る!」って書いたり、彼氏とのツーショットを撮ろうって訳じゃないみたいだが…。

彼氏役の人滅茶苦茶恨まれるだろうな‥‥マジで俺呪われたりしないよな。

この世界だと結構馬鹿に出来ない危険度なんだぞ呪い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「サイトウちゃんいいわー!サイトウちゃん素敵よー!」

「ソーナノ!ソーナノ!」

 

テンションの高いカロス帰りのメイクさんとソーナノの声がスタジオに響く。

 

ジムリーダーのリーグカードは基本的にリーグ運営がデザインする事が多い。

勿論本人の希望が一番通るが、基本的にことあるごとにリーグ運営が「こんな感じで撮りませんか」「こんなテーマで更新しませんか」とグイグイ来る。

 

ファンが皆無の俺ですら熱心に更新しろと言われるので、たまに更新する。

バージョンがいっぱいある方が需要は増えるとか何とか。

つい最近も更新したばかりだ。

俺のリーグカードは雑に配った結果、ネーナタウンでは子供達にメンコとして親しまれている。一番人気は頑丈なラミネート加工をされた奴だ。強いらしい。

 

話がそれたが、リーグ運営はいつでもカードの作成に滅茶苦茶乗り気って事だ。

今回の作戦も正直サイトウの相談にかこつけて新しいリーグカードを作りたかったのかもしれない、と俺は思い始めていた。

普段のサイトウでは撮れないようなテーマで撮れそうだもんな。

 

今もサイトウが女の子らしいファッションで飾られて、テンションの高いメイクさんに言われるがまま、ポーズを変えたりしているようだ。メイクさんの足元ではてもちのソーナノが盛り上げている。

髪型やファッションに細かく手を加えられるが、サイトウ自体は表情が固く、若干困り顔だ。

 

「あの、これは少々私には可愛すぎるのではないか、と」

 

「ダメよぉん!今からサイトウちゃんは恋する女の子なのよ!相手があんなのなんだから、せめて精一杯かわいくさせてぇ!」

「ソーナノ!」

 

あんなの目の前に居るんですけど。

あんなのの聞こえるところであんなのって呼ばないで欲しいね。

因みに俺の方もサングラスを奪われ、髪型も清潔感ある感じにされ、服装も何かいい感じにされた。

メイクさん曰く、テーマは『没個性』。やかましいわ。

 

一方、サイトウはかわいらしくまとめられている。

柔らかい印象を与える白いセーターに大人しめのロングスカート。

普段とは違ってインドアな文学少女の雰囲気で、サイトウの新しい魅力を引き出していると言えるだろう。

 

クラスの同級生が「サイトウはないってwwあんな筋肉女www」とか言っていたら休日に街中で見かけてドキドキしちゃう奴だな。

 

率直に言うとかわいいと思いますよ、ええ。

知り合いの女の子相手に気恥ずかしいから口にはしないけど。

 

「さて、まずは二人とも無難な感じでまとめてみたわ。ここから二人の要望に合わせていくわよ」

要望と言われても。

サイトウも同じことを考えたのか、二人で目を見合わせる。

 

「プロが完成させちゃったものに口を出せるほど、ファッションに詳しくないんだけど」

「既に随分可愛らしくしてもらえたと思うのですが…」

 

俺もサイトウも普段からユニフォームで過ごしているくらい無頓着だからな。

だって便利なんだもんユニフォーム。生地は丈夫だし、同じのいっぱいあるし。

ジムリーダーは割とみんなそんな感じだと思う。

誰とは言わないけど、水着で出歩く人だっているんだぜ。

 

「ソーナノ?」

そうだよ。

だが、メイクさんは大きく頭を振った。

 

「ノンノンノン。ノンセンス」

「ノンセンスって何だよ」

「ノンリアルとは言え今日のあなた達はアベックよぉ。要望と言うのは相手役への要望。相手に染められた部分が垣間見える事こそ『におわせ』の極意なのよぉ!」

 

分かるような、分からんような。

『かわいらしい格好』と『彼氏が居る恰好』は別ってことか?

俺には深すぎてよく分からないぞ。

サイトウの方は興味深そうに質問している。女の子だなー。

「よくあるペアアイテム系でしょうか?」

「ノンね。今この場でとりあえず合わせただけのアイテムに匂いなんて着かないわよ」

 

もしかしたら以前から憧れ自体は強かったのかもしれない。

考えてみればまだまだ学生だった。

オシャレをしていない、ではなく、まだ試してみたいのレベルなのか。

両親が厳しいとか聞いたような聞いてないような。

よく知らんけど。

 

……。

メイクさんの発言がいちいち面白いのがじわじわ気になってきたな…。

ガラルの名家出身らしいが、エスパージムと言い高貴な血ってのは随分個性的なんだな。

会ったことないけど王族とか実は滅茶苦茶面白い人だったりするんじゃねえの。

 

 

‥‥流石に王族相手に失礼か。

 

 

「重要なのは方向性よぉ。宝石のカットと同じ。好きなだけ魅力的な一面を持っていいし、見つけていいの」

 

「大変勉強になります。わが身の未熟を思い知るばかりです…」

 

あれ?これ、会話成り立ってるの?

テレパシーでも使ってんのか?

かくとうでエスパーとかもうチャーレムになっちゃうよ。

 

どうやら俺はいつの間にか周回遅れになっているらしい。

全然分からん。

 

「とりあえず協議の末、大雑把に画面は決まったわ」

「ソーナノ!」

メイクさんとソーナノ曰く何か決まったらしい。

周りのスタッフも慌ただしく設備を片付けている。

え?移動するの?スタジオで終わるんじゃねえの?

 

 

「『ドキッ!スタジアム帰りに気になるあの子の素顔!その笑顔の向く先は!?』で行くわ!

 二人共、ユニフォームに着替えてスタジアムの前に行くわよ!」

 

 

‥‥‥えっと。

 

この衣装とスタジオは何だったの…?

 

 

 

 

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