エンジョイ勢のたのしいむしジム   作:ハッソ

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ラブラブカップル 後編

 

 

それは困難な戦いだった。

 

 

今をときめくジムリーダー、サイトウの『彼氏役』作り。

 

カロスに渡り、本場ミアレシティで本格的なファッションを学んだメイクアーティスト。

その力を持ってなお、困難な戦いだった。

 

まず難航したのは目標設定。

 

知識というのはヴィジョンを明確にするものだ。

知識のない人間では自分の理想像すら想像が出来ていない。

未だ恋を知らないサイトウのヴィジョンはあやふやだ。

『理想の彼氏』と言われて頭に浮かぶのは少女漫画のヒーローやドラマの俳優が多分を占める。しかし、それはまだ憧れ。好悪の土壌ではあるが、少し地盤には弱い。

皆が好きだから、みんながかっこいいと言っているから。

結果出来上がるファッションではきっとサイトウが真に満足出来るものにはならない。

 

なのでまず行われたのはヒアリング。

サイトウの恋愛観、男性観。無自覚に出来上がりつつあるそれをプロが知識を使って情報を拾い上げていく作業。

 

出来上がる理想は、それでも朧気で現実味がない。

理想と言うのは徐々に折り合いをつけ出来上がっていくもの。

出来上がる前のそれを抜きだせば、当然のことだろう。

 

だが、ここにはプロが居る。

理想を現実にするためのメイクアーティスト達が居る。

かつては夢を見て業界に脚を踏み入れた者たちが少女の無垢な夢を踏みにじるはずもない。

 

 

超一級の『魔法使い』達は全力で戦った。

 

 

イメージが違うならメイクを。

メイクは顔だけに施すものではない。全身に渡って手が加えられていく。

肌の色を変えて、シェーディングを入れればホリが深まり、顔の骨格が変わったように感じさせる。

眉を描き、目尻も睫毛も整えていく。

だが、まだ足りない。

体格が足りないならルーズな服でボリュームを。

肩パッドやシークレットブーツなど基本中の基本。

先程のシェーディングの技術で存在しないはずの筋肉だって生み出していく。

 

長い時間がかかり、そうして出来上がったのが

 

 

 

 

「すごいです、先輩。まるで別人みたいです!」

 

完成した俺を見たサイトウが感動したように口許を手で覆う。

そりゃ感動もする。俺だってプロの技術の凄まじさを思い知った。

口を挟む隙もなかったぜ。みんな迷いなく作業を進めてくれた。

 

 

お陰で俺が言えるのは一つだけだ。

 

 

 

 

「別人みたいってか別人だろこれは!」

 

 

鏡の中には典型的な『からておう』が立っていた。

 

青い胴着を着て、鉢巻を巻いた屈強な成人男性だ。言葉を選ばずに言うなら髭と胸毛の生えた頭髪の寂しいおっさんだ。

勿論、普段の俺とは何もかも違う。

「本当にこれでいいのか?!小汚いおっさんだぞ!?」

鏡を見ているのに知らないおっさんの顔が動くのすげえ気持ち悪いんだけど!

おっさんには申し訳ないけど、理想の彼氏ってこういうのかなぁ!?

 

メイクどころか途中からカツラとか仮装用の筋肉スーツみたいなの着せられてるんだぜこれ!

特殊メイクした着ぐるみと大差ないよ!

メタモンもびっくり!

 

「ノンノンノン。私達は最善を尽くしたわ。これがサイトウちゃんの理想像よ!」

マジで言ってんの?場合によっては犯罪だぞ、絵面。

しかし、サイトウは感激したように目を輝かせている。

「その風格、父にそっくりです。確かにある意味、理想像だと思います。私は父のような格闘家を目指していますので」

「小汚いおっさんとか言ってごめんな」

 

 

「とりあえず時間もないしこれで撮っちゃいましょ。元々大きく写すつもりはないしノンプロブレムよ」

「彼氏匂わせになるかなぁ。これ…」

「ノンノン。ノンウォーリー。リーグ運営からもなるべく彼氏役は普段のイメージから変えてくれって指示もあったのよ。ちょっとスタッフが遊び過ぎたケド。別段かっこよさは求められてないワ」

スタッフさん達の方を見ると苦笑いだ。

言われてみれば肉襦袢とかカツラなんて普段から使うわけないか…。

普段のイメージと変えてくれ、は一応俺が炎上しないような気遣いなのかな。

結果、実在するサイトウ父に似ているらしいのはセーフなのだろうか。

…オリーヴさんのことだから「あの顔で彼氏役は無理ですので」と判断してる可能性もあるな。というか、多分それだな。間違いねえ。

 

 

 

そうして始まった撮影は、意外にも順調に進んだ。

 

小汚…たくましいおっさんの姿に効果があったのかは分からない。

が、確かにサイトウの表情は柔らかくなり、客観的に見て魅力的な写真が撮れたようだ。

多分、リーグ運営もメイクさんもこういう表情を撮りたかったんだろう。

 

試合中のサイトウ、恐いしな。

せっかくの若い女ジムリーダーなのに勿体ない、とか思う部分があったのかもしれない。

元々この手の企画が有って、サイトウからの相談は渡りに船だった、とか。

 

そういえばサイトウはリーグカードをあまり出したがらないって聞いたことあるな。

撮影の合間に調べてみるとまだ最初の一枚しか出ていないらしい。

デビューしたばっかりとは言え、少ねえ…。せっかく人気なのに。

そりゃリーグ運営もこじつけてでもリーグカード作りたがるわ。

 

スタジオ経由したのも一回のチャンスで可能な限りリーグカードを増やすため、か。

 

あっという間に撮影は終わった。

すぐに日も傾いてきたので、撮れなくなったのだ。

しかし、満足のいく写真は撮れたらしく皆笑顔で解散となった。

 

だけど、俺は————

 

 

 

 

帰りはサイトウと二人、そらとぶタクシーを使った。

流石のフィジカルモンスターもシュートシティからラテラルタウンまでを徒歩で帰ろうとは思わなかったらしい。いや、歩く時もあるのかもしれないけど、今回はとりあえずタクシーだ。

だけど、俺は少し考えていた。

 

スタジオの撮影から薄々感じていた事。

リーグ運営の方針みたいなものだ。

それに対してちょっと「もやっ」としていた。

 

脳内でああでもないこうでもないと考えてしまう。

だけど我儘だしなぁと考え直したり、でもなぁと蒸し返したり。

ラテラルタウンの出口までサイトウが見送ってくれ(ネーナタウンへはここからがキツイ道なのだが)、いよいよお別れになる。

 

最終的に別にいいかと開き直り。

迷った末、俺は言うことにした。

 

 

「サイトウ、付き合ってくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご、ごめんなさいっ!」

 

 

 

アベリはめのまえがまっくらになった!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いや、違う違う。

そもそも告白じゃないし。

サイトウは更に申し訳なさそうに眉を下げた。

「すみません、先輩のことは尊敬していますが…」

 

…何か《おいうち》しようとしてるんだけど、この後輩。

俺は頭も下げようとするサイトウを止めた。

そんなもの必要ない。

 

 

「お前、勘違いしてるぞ」

 

 

「えっ」

サイトウは意外そうにしているが、皆さんは勘違いしなかっただろう。

さっきのは当然交際の申し込みなんかではない。

そもそも俺とサイトウは全くそういう関係ではないんだし。

告白もしてないのに振られるとか酷くない?

 

 

 

もう一度言うけれど、告白でも交際の申し込みでもない。

『彼氏になってください』より簡単な謎かけだ。

 

「ちょっと個人的な撮影に『付き合ってくれ』ってだけだ」

 

以下説明。

 

俺が気になったのはリーグのプロデュース方針だ。

 

スタジオでもかわいい格好をさせ、彼氏匂わせ写真でも柔らかい表情を引き出そうとしていた。

 

どうやらリーグ運営はサイトウの事を「実は可愛らしい女の子!」みたいな売り出し方をしたいように見受けられる。

実際可愛らしい女の子だとは思うのだが。

 

 

「でも、サイトウの一番の魅力ってそこじゃないと思うんだよな」

 

 

やっぱりジムリーダーなんだし、一番魅力的なのは試合中の姿だろう。

ポケモンバトルに真剣で、達人めいた風格を纏ったあの顔。

目指すもののあるストイックさと、抑えきれない獣性のような渇望。

 

常人には決して出せないあれこそがサイトウが積み上げてきたものであり、サイトウ自身の魅力だと俺は思う。

 

 

「だからこう、リーグ運営のやりたいことも分かるんだけど、こっちの魅力のリーグカードも撮ろうぜ!」

 

どうせ彼氏疑惑で邪なファンは減るだろうし!

いやー理屈では分かってるんだよ。

試合中に十分見せているだとか、既に一枚出しているリーグカードはそういう系だとか。

でも別にそう言ったカードもっと出してもよくない?

多分ファンもそういうのあれば嬉しいと思うんだよ。

 

何より俺がかっこいいサイトウのリーグカード見たいし。

 

そうだよ、完全に我儘だよ。

でも俺はサイトウの先輩だから直接頼み込めるんだよなぁ!

 

「お前どうせこの後まだトレーニングするんだろ?それ撮らせてくれよ」

 

サイトウとはよくトレーニングについて話すから、この後トレーニングする事も分かっている。俺から見ると異次元の内容だが、多分サイトウなら今日も欠かさずやるはずだ。

 

別に俺としてはリクエストを伝えるだけ伝えてサイトウに自分で撮ってもらっても構わない。

だが、サイトウは機械音痴だとも聞いている。

その上、ゴーストポケモンが苦手でスマホにロトムを入れていないし。

慣れてしまうと便利なのだが、本人が手元に置くのは嫌だと言うので仕方ない。

写真撮って編集するのにも便利だから、撮るなら俺がスマホロトムで撮ってやった方が早いと思う。

 

あくまでリーグ運営はメイクやスタジオを用意して豪華に撮ってくれるってだけで、リーグカードの発行自体はスマホロトムと公共の端末があればすぐに出来る。

 

 

勿論、サイトウからOKが出ればの話だが。

 

以上説明というかリクエスト終わり。

俺の要望を聞いたサイトウは何故か難しい顔で頷いた後、至極真面目な顔で言った。

 

 

「あまりそういう事を軽々しく言うのは勘違いされるので気を付けた方がいいと思います」

 

「お互い自傷ダメージで恥ずかしいからその話やめようぜ」

 

《いたみわけ》って事で許してくれ。

 

 

 

 

 

 

かくとうジムは道場のような作りになっていた。

 

古い、という意味では結構ネーナジムと似ているのだが、ネーナジムは更に『寂れた』とか『薄汚れた』って感じになってるからな。俺も人来ないからって修繕してないし…。

かくとうジムは人の出入りがあるからか、綺麗で文化遺産みたいな雰囲気がある。

 

日が暮れつつあるから、道場内は少し暗い。

ワンリキー達が燭台の蝋燭へ灯りを付けていく。

一々古風だなぁ。雰囲気あっていいけどさ。

サイトウやてもち達はそんな道場の中心で、正座をして目を閉じている。

《めいそう》って奴だ。

多分、もう俺が居る事なんて忘れているだろう。

俺としてもそれで構わない。トレーニングの邪魔にならないように、隅っこで大人しくしているつもりだ。撮影はスマホロトムの仕事だしな。

 

そうして、サイトウが集中を終えて目を開く。

トレーニングが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【かくとうジムリーダー、サイトウに彼氏疑惑!?】

 

 

 

 

ガラルリーグの新鋭、サイトウ選手に突然の嬉しいニュースが飛び込んで来た!

いや、人によっては悲しいニュースかも(笑)

 

伝統あるかくとうジムの新ジムリーダーとして今期から就任していたサイトウ選手。

愛らしい顔と真剣勝負への真摯さから爆発的に人気急上昇中だった彼女だが、今回新たに出た二枚のリーグカードが物議を醸している。

片方はスタジアムの前のサイトウ選手、片方はトレーニング中のサイトウ選手とのことだ。

 

最近では珍しくリーグカードの少ないサイトウ選手。ファン大喜びのはずなのに一体何が!?

詳細は君の目で確かめて欲しいのだが、どうやらリーグカードを見た人達からは「サイトウ選手に彼氏が!?」との声が上がっているようだ。

なんだって!気になるー!

 

と、いうわけで腰の軽い筆者ととくせい《かるわざ》のフォクスライで早速本人に訊いてきました!

そうしたところ、何と‥‥‥本人に直接聞けちゃいました!

件のカードについて聞いたところ

 

「あの姿が魅力的だと語ってくれた方がいたので…」

 

と珍しく照れた顔で答えてくれたぞ!

写真撮っておけばよかった!

 

これはもしかしたらもしかするかも!

サイトウ選手の恋模様はこれからも『ちゅうもくのまと』になりそうだ!

 

因みに新たなリーグカードで明らかになったトレーニングメニューのせいで現在かくとうジムの入門希望者が激減中!

今なら競争倍率も低いので是非宣伝してくれってお願いされちゃった!

 

 

次回は筆者がかくとうジムに行ってみた記事を掲載予定!

筆者の無事を…祈っておいてくれ!

 

 






サイトウのファンの数がさがった!
かくとうジムのジムトレーナーの数があがった!

アベリのアンチの数がぐぐーんとあがった!
むしジムのジムトレーナーの数はこれ以上さがらない!
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