カランコロン
ドアに取り付けられたベルが鳴った。
先導する先輩に連れられて、店へと入っていく。
「どうよ、オレ様おすすめの一店だぜ」
「うわぁ…毎回違う女連れてきてそう」
「オイ!してねえよ!」
「火遊びはほどほどにね」
「カブさんまで!?オレ様、そんな印象悪かったのか!?」
お洒落なバーだ。
全体的に暗がりの落ち着いた雰囲気が店内に漂ってる。
カウンターの奥では顔に傷のあるマスターがシャカシャカとカクテルをシェイクしている。
あ、違うわ。シェイクしてるのカクテルじゃなくてツボツボだ。道理でムキムキだわマスター。へー、きのみジュース出すためにツボツボに手伝って貰ってる訳か。
時刻は夕刻。
試合の後、いいタイミングでばったり集まった。すると誰となしに飯でも食おうかという話になり、俺とカブさんはキバナさんのおすすめするお店までやってきたのだった。ナックルシティのお店、一番詳しいのキバナさんだし。てっきり居酒屋みたいなところ行くと思ってたら、凄い雰囲気ある高級店に通されてビビったよね。
絶対慣れてる。絶対女と遊んでる。そんな噂聞いたこともないけど間違いねえ。
…それにしてもマジで高級店じゃないか、これ。メニューに金額書いてないぜ。
「ゴチになります!」
「まだ何も言ってないだろ。心配しなくてもそんな高くない店だって」
ほんとかぁ?キバナさんどうもガチのいい家出身っぽいから金銭感覚信用出来ないぞ。
「あのな、オレ様達一応ジムリーダーだぞ。その辺の店で集まって飯食ってたら騒ぎになるって」
「常時炎上してる人が言うことは重みがあるなぁ」
まあ別に多少高くても不満はない。
それこそ一応ジムリーダー。お給料は俺だってそれなりにある。
大金使うこともないし。
「ボクは近場の店で済ませてしまうことが多いな…気を付けないと」
「あー、それファンの子から聞いたことあるな。カブさんのファンってマナーいいし、騒ぎになってないなら別にいいんじゃないですか」
へー。俺はまず街中に降りてこないや。
普段はカレーかレトルトめん食ってて、地元の料理上手なばあちゃんがたまーに食い物持ってきてくれるくらいだ。
どうせ街中の店に入っても、ファンなんて居ないから気付かれないだろうけど。
……別に寂しくねえし。
「聞きました?カブさん。ファンの子から聞いたですって…」
「彼もまだ若いから…」
「聞いたってのはSNS上でな!オレ様、今日ずっとこれで弄られんのか!?マジでないからな!」
そんなこんなで
「今日の勝利にかんぱーい!」
「すみません!一人乾杯出来ません!」
因みに今日の対戦表、マクワ対キバナ、アベリ対カブである。俺はカブさんに負けて今日ここにいる。割とどの面下げて参加しているんだろう俺。
マクワが来てない理由?
察してくれ。またロッカールームだよ。
「いやーオープン戦の屈辱を晴らさせて貰ったぜ。まだまだトップの座は譲れねえな」
そういやマクワ、オープン戦はキバナさんに勝ってたな。その後メロンさんに負けてたのが印象的過ぎて忘れてた。
「今年のオープンシーズンは新人の躍進が目立ったね。サイトウ君も上位だったし」
そう言いながらカブさんが俺に視線を向けてくる。今日の試合で仕返しされたと思ったらまだワクワクしてるこの人。
「俺は今日リベンジされちゃいましたけどね」
「ふふ…まだまだ勝負はこれからさ」
一見余裕ある大人の態度に見えるけど、目の奥から何かをバチバチ鳴らしている。怖い。
「アベリ君はダブルバトルルールが苦手みたいだしね」
げっ。バレてる。俺は頼んだきのみジュースを口に運んで誤魔化した。
因みに他二人は水。シロガネ山の湧き水と書いてあった『おいしいみず』だ。
自動販売機にある奴なんかより、はるかにいい奴だろうけど。
あんまりジュースとか飲まないようにしてるんだってさ。
へー、まるでプロ選手みたいだぁ。
「えーオレ様は大好きだけどな。ダブルバトル」
「一匹の時ですら精一杯なのに指示先が二つとかキツいんだって…コンビネーションとかもあるし。普通混乱するってあんなの!」
絶対俺だけじゃないって!ダブルバトル苦手なジムリーダー!
サイトウとかルリナも苦手だって!(失礼)
「経験もジムチャレンジでちょっとやったことあるくらいだしさぁ!」
「うーん。ボクは地元のホウエンでダブルバトルが賑わっていたからね。今思うと、アマチュアの大会もダブル仕様が多かったかな」
「確かにガラルってダブルバトルの大会って少ないよな」
「誰か開催してくれないかなー。経験値が欲しい」
「開催してもアマチュアの大会にジムリーダーは出られないだろ」
うぐ。やっぱりビデオとか見て勉強するしかないか。
ジムリーダーになれて不満はないけれど、こういう時はちょっと悔いるなー。
正体隠して謎のトレーナーAとかで出ちゃ駄目?
「今度ホウエンのジムリーダーのビデオを取り寄せてみるよ。ダブルバトルを主にした変わったジムリーダーだから、きっと勉強になるよ」
お、多分トクサネジム、だっけ。双子がジムリーダーのところだ。
「マジすか!やったー!」
「ちょっと待て。それオレ様も見せてくれよ。他地方のジムバトルは是非見たい!」
そうなのだ。ガラルでは少なくとも10年前からの公式試合は全て見ようと思えば見られる。何せライブ中継が基本だからな。だけど、他地方のジムでは記録は取っていてもネットには上げてなかったり、そもそもいちいち記録してなかったりとジムリーダーによって様々だ。
最近だと配信しながら戦うジムリーダーも居て、そういうのはバトルも探しやすいんだけど。
多分キバナさんも他地方のジムの資料は耳聡くチェックしているだろうが、それでも抜けはあるかもしれないから是非チェックしたいのだろう。
因みに最近のガラルでも例外はあり、何故か俺の就任より前のむしジムのバトルはアーカイブで見られなくなっている。不思議だねえ。
「あ。マクワにも教えていいですか?」
「はは、もうみんなで見られるようにしようか」
カブさんが眉を下げて困った顔で笑った。
どうせ話が広がってしまうなら、リーグに提出して資料として共有した方が早い。
リーグにはそういう資料をまとめた部署だってあって、ジムリーダーにも民間人にも公開されている。カブさんの交渉次第ではそこに他地方の貴重な資料がどんどん増えるかもだ。
‥‥あれ?ジムリーダーみんなで共有しちゃったら結局俺は相対的に弱いままじゃね?
食事会は続く。
酒も豪勢な食事もないが、話題は尽きなかった。
「そういえばオレ様、ハガネール使おうかと思ったんだけど」
「あれ?失礼ですが専門タイプは?」
「メタルコートがすっげえ高騰していてビビった!最近どっかの金持ちが大規模に買い占めしているらしいぜ」
「知らなかったな。マクロコスモスは何か動いているのかい?」
「一応確保には回っているみたいだけど、足りないみたいで」
俺達は水とジュースと軽いつまみだけで延々と話し続ける。
ジムリーダーだけで集まって食事するの、マクワ以外とは初めてだったけどかなり楽しい。
カブさんもキバナさんも肩の力を抜きつつも、真剣にバトルの話をする。
何だかそれが『この世界に生きてる』って感じで。
俺がぼんやりとなりたいなーと思っているポケモントレーナーの姿だ。
何の間違いか、そんな人達に混ざって今俺もここに居るわけで。
食事会は続く。
二人の話は凄くためになったが、逆に俺が二人に聞かれる事もあった。
精一杯答えてはみたが、あんまりうまく答えられない事が多かったと思う。
それでも、二人は真剣に聞いてくれ、持論をぶつけてくれる。
「へへ」
まだまだ俺は半端者だが、何だか無性に嬉しい気持ちになった。
最後に食べた〆のカレーが最高に美味しかったのは、きっと試合の疲れだけじゃなかったと思う。
幕間は次の話で終わりです