エンジョイ勢のたのしいむしジム   作:ハッソ

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《メガホーン》

 

 

その対決は、やはり現在のガラルポケモンリーグの花形だろう。

 

 

マグノリア博士が発見したダイマックスとパワースポットの関係性。

そして、それを興行の目玉へと据えて各地にスタジアムを建設したリーグ委員長ローズの手腕。

 

今やガラル中の民が夢中になっている対決が、ジムリーダー同士という最高の舞台で行われていた。

 

巨体と巨体。

 

ダイマックスとダイマックス。

 

二人のエースが激突し、スタジアムが震える。

しかし、片方の攻撃がついにクリーンヒットする。

その巨体故に常識を超えたタフさを持つダイマックスポケモンだが、同じダイマックスポケモンの火力の前には沈むことになる。

 

ぐおおおおおおおおおおおん!

地響きのような音を立てながら、ダイマックスポケモンが倒れていく。

見上げていた巨体が見る見る間に縮み、普通のポケモンよりも縮み、モンスターボールへと戻っていく。

 

 

俺の手元へとモンスターボールが収まった。

そう、俺のダイマックスポケモンが負けていた。

 

 

 

 

 

あっれええええええ!?

 

思わず対戦の最中なのに対戦相手を確認する。

俺の相手はヤロー。おおらかな性格のくさタイプのジムリーダーだ。

今もダイマックス戦に勝ったというのに悠々と落ち着いた佇まい。

あれは他の誰にも真似できない。

うん。間違いない。

くさタイプだから、むしタイプには弱いはずだ。

うん、ちゃんと合ってるね。

手持ちを確認しよう。今日のルールは6vs6のダイマックスありシングルバトル。

ヤローの手持ちは残り一匹のアップリューまで追い詰められていて、それが目の前でキョダイマックスしている。

おお、あと一息だ。かなり追い詰めているぞ。

俺の手持ちも確認しておかないと。

 

残り、一匹。

 

ダイマックス対決には負けたが、俺にはあと一匹だけ手持ちが残っていた。

それは出来れば使わずに温存したかった一匹。

「マジかぁ‥‥、マジかぁぁぁ‥‥!」

ボールの中身はガタガタと震える例の暴れん坊。今にも飛び出していきそう。

こちらはダイマックスを使い切っているが、相手のキョダイマックスはまだまだ元気な状態だ。

うぐぐ‥‥。

俺は最後の一匹を繰り出しながら叫んだ。

 

「一寸の虫にも五分の魂ってな!俺の魂なめんじゃねえぞ!ヤロー!」

 

「なめとりませんよ。君は強い。全力で行かしてもらいます」

 

万年マイナー相手にまるで油断がねえ!ジムリーダーはみんなこれだから困るぜ!

騙すわけじゃないが、飛び出した虫は一寸の大きさではない。

むしろむしポケモンの中ではかなりの巨体。

毒々しい色合いと刺々しい角。戦車のような風格さえある無骨さ。

あとついでに短くて丸っこくてかわいいたくさんの前足。

 

その名はメガムカデポケモン、ペンドラー。

 

「ギュオオオオオ!」

よっぽど暴れたかったのか。

ペンドラーはキョダイマックスアップリューを前にしても猛々しく吠えた。

扱いには困るけど、頼りにはなるぜ。

さて、こいつはちょっと特殊な『とくせい』を持っているから…

 

「ペンドラー!《どくづき》!」

 

一先ず、どの程度キョダイマックスに攻撃が通るか確かめるために一撃。

「ギュアア!」

「ぬっ!こりゃ速い!」

ヤローが驚いている通り、図体に似合わぬ素早さでペンドラーがキョダイマックスアップリューへと毒を突き立てる。

絶望的な体格差だが、大きな衝突音と共に巨体が揺れる。これはかなりいいダメージが入ったぞ!

 

「アップリュー!《ダイジェット》じゃ!」

 

当然持ってるか!ひこう技!

キョダイマックスアップリューが反撃で巨大な竜巻を巻き起こす。その勢いは凄まじく、踏ん張らないと立っている事も厳しい。

ペンドラーは…無事だ。

吹き飛ばされはしたが、見事に着地した。

むしろ、風に流されそうな俺を不甲斐なさそうに見ている。ごめんて。

 

「もう一度《どくづき》だ!」

 

とにかく不利な状況を覆すためにも攻めるしかない。

相手にむしタイプへの有効打があるが、こちらの攻撃も確かに効いてる。ここは攻め時だ。

幸いこのペンドラーはそう簡単に落ちる程ヤワじゃない。殴り合いなら問題ないはず。

 

「こちらももう一度《ダイジェット》じゃ!」

 

そう指示されたアップリューの動きが先ほどよりも速い。

《ダイジェット》を放ったポケモンは風を味方につけ、どんどん動きが速くなっていく。

そして、もう一度衝突音。

 

「ギュアアアアアア!」

「カジィィィィッツ!」

 

竜巻を裂きながら迫る毒色のムカデと巨大なリンゴが激突し、スタジアムの空気がビリビリと震える。

 

吹き飛ばされたペンドラーがまた着地するが…

おいおい、大丈夫かよ暴れん坊。

二度目のダイジェットを受けたペンドラーは見るからにボロボロだ。

先程よりも余裕はなく、あと一撃でも喰らえば戦闘不能だろう。

対してアップリューは

「お疲れさん、アップリュー」

ヤローの横でキョダイマックスが解け、元の大きさに戻っていく。

だが、あのぶつかり合いで、相当消耗しているはず…あれ?

 

アップリューは何故か生き生きとはばたいているように見える。

弱ってはいるがペンドラーの攻撃の手ごたえからすると、もっと弱っていていいはずだ。

 

「不思議そうな顔ですねえ。足元をご覧なさいな」

 

 

ハッとして見渡すといつの間にか、フィールドには草花が生い茂っていた。

 

 

「《グラスフィールド》!いつの間に!」

 

グラスフィールドはポケモンによって作られた草タイプのフィールド。生い茂った草花に触れたポケモンを回復させる効果を持つ。いつ仕込まれたかは分からないが、俺達は草にとってのホームグラウンドで戦ってしまっていたらしい。

「ダイマックス対決する直前にやっとりました。それに君のペンドラーもグラスフィールドで回復していたんだな」

「ぐううう!ダイマックス対決で目線が上に行きがちなのを利用したのかこれ!」

あるいはペンドラーがダイジェットを二回耐えられたのもこれのおかげかもしれないけど!

何か手のひらの上みたいで凄い悔しい!

 

 

「はっはっはっ、だけどアップリューも精一杯。

 さぁ二回《ダイジェット》をしたアップリューときみのペンドラー。

 どちらが速いか、最後の勝負じゃ!」

 

 

 

 

 

「いや、勝負は俺の勝ちだぜ。ヤロー」

 

 

 

 

ドンッ!と大きな音。

 

それは大きな何かが空気の壁を突き抜ける音。

俺の横に居たペンドラーはもう居ない。

 

次の瞬間、ヤローの前に居たアップリューが吹き飛ぶ。

 

恐るべき速度で近づいたペンドラーが強く突き上げたのだ。

《メガホーン》。

少し不安だったが、当ててくれた。

 

ボロボロの身体で不満を隠さずに俺を睨みつけるペンドラー。心なしか得意げだ。

「なっ…!」

ヤローの驚いた顔なんて珍しい。突き上げられたアップリューがどさりと落ちてくるのを見て、慌ててそのたくましい身体で受け止めた。アップリューは流石に戦闘不能。

ヤローの胸筋の上で目を回している。

「アップリュー、戦闘不能!ネーナジム、アベリ選手の勝利です!」

審判のダンペイさんがそう声をあげるのを聞いて、ついガッツポーズをしてしまう。

 

グラスフィールドには驚いたが、俺とペンドラーの勝ちだ。

 

「なんちゅう速さだ。その子のとくせいは《かそく》ですか」

「ピンポーン。ネタばらししたかったのに、流石だなヤローは」

《かそく》。

常にすばやさが上がり続ける便利なとくせいだ。有名なポケモンだと俺が前回使ったテッカニンとかもこのとくせい。ペンドラーがこのとくせいを持っている事は非常に珍しいので、ヤローもあまり警戒していなかったのだろう。

ヤローはキョダイマックスとグラスフィールドで消耗戦に持ち込み、ダイジェットを二回使って最後はすばやさで勝負するつもりだったようだが、相手がダイジェットを使っている間にもペンドラーは早くなり続けていた。

 

速度の「差」は、全く縮まっていなかったのだ。

 

「驚いた。こんな隠し玉がおったとは」

「いや扱いが難しくって。最近ようやくバトルで扱えるようになったんだ。

 あっ、みんなにはまだ内緒にしてくれよ。驚かせたいからさ!」

ヤローが握手を求めてきてくれたので喜んで返す。

いやー!勝利の後に褒められるのは嬉しいね!今期は比較的早めに勝てたんじゃないかな俺!

公式戦の結果だけならこのペンドラーのとくせいまでは気付かれないだろうし、このまましばらくは《かそく》ペンドラーで不意をつけそうだな。

いやーこれならペンドラーをもっと早く使っておけばよかっ…

 

‥‥あっ。

 

慌ててフィールドを確認する。

 

 

いつの間にか、ペンドラーの姿がない。

 

 

ボロボロだったから油断した!あいつやりやがった!

「次からはぼくももっと速いポケモンへの対策を考えんと」

「やっべえ!ごめん!ヤロー!手伝って!」

「ん?おや、ペンドラーがおらん」

キョロキョロとあの毒々しい姿を探す。隠せないはずの巨体がもう広いフィールドに見当たらない。もしかしてジムチャレンジ用の施設に行っちゃったか!?

これはてだすけが必要だ。

俺はヤローにすぐさま手を貸してもらいたくて、何が起こっているのか端的に伝えようと試みる。

 

 

 

「あいつ、性格がなんつーか!暴れん坊と言うかヤンキーと言うか‥‥『走り屋』なんだよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ポケモン暴走団、大脱走!?】

 先日、ターフジムにてジムチャレンジに用意されていたウールー達が大脱走する事件が発生。ターフタウンは一時大騒ぎになった。原因になったのはジムリーダー、アベリ選手のペンドラーだ。ポケモンリーグの公式戦のためにターフスタジアムを訪れていたアベリ選手はポケモンバトルの中でこのペンドラーを使用。バトル後、目を離した隙に今回の事態を起こしてしまったとのこと。彼のペンドラーは珍しい《かそく》のとくせいを持っており、その気性も合わさりウールー達を引き連れて最前列を走り続けた。

 ペンドラーが障害物を壊し、ウールー達がそれに続く迷惑な暴走団はヤロー選手がその鍛えられた身体でペンドラーを受け止めてしまうまで続いた。専門職であるはずのジムリーダーによる不手際に街角ではアベリ選手の実力を疑う声があがり始めているようだ。

 

 ヤロー選手のコメント

「勝負の後やったが、大変元気で素晴らしいポケモンでした。次の対戦が楽しみですねえ」

 

 

 

 

翌日、あの後ペンドラーと大喧嘩してボロボロになった俺はネットニュースを見て泣いた。

「ペンドラーの《かそく》、ネットニュースでバラされたじゃん…」

 

 




ペンドラー ♂
せいかく いじっぱり
とくせい かそく

原作の図鑑説明通り、獰猛で容赦なく攻撃的な性格。
攻撃性のほとんどはバトルに向いているので普段は問題ないが、時折興奮を抑えられずに暴走する悪癖がある。
厄介な事に何故か種族を越えたカリスマを発揮するので、背中に憧れたポケモン達が彼の後へ続く。
俺についてきな、いい『夢』見せてやるよ。

因みにアベリは嫌われていると思っているが、不満があるだけで嫌ってはいない。
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