エンジョイ勢のたのしいむしジム   作:ハッソ

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ふねのチケット

 

 

 

『拝啓 アベリ様

 

 

 今年もバウタウンの潮風が恋しい季節になりました。いかがお過ごしでしょうか。

アベリ様におかれましては今期のオープン戦にての奮戦、拝見いたしました。大変素晴らしいバトルの数々で見ているこちらまで晴れやかな心になりました。

 

 今回お手紙を送らせていただいたのは、我ら『かつてのリーグを想う会』にて開催されます船上パーティーに躍進の最中にあるアベリ様を招待したいためです。

 

 我ら『かつてのリーグを想う会』では現在の記録に残っていない過去の名選手、名試合について振り返り、古き時代に想いを馳せる活動をしています。ネーナジムの先代ジムリーダー、タラクサ様のファンも多く、歓談弾む事と思いますので、是非ご参加いただければと思います。

 

 

敬具

 

                   『かつてのリーグを想う会』代表

                     はがねジム ジムリーダー    リアン』

 

 

 

 

 

 

 

『かつてのリーグを想う会』。

 

初めて聞く団体だが、どうやら引退したジムリーダーのファンの集いのようだ。

何か脳裏に「セミナー」とか「ねずみ講」の単語が過りまくる。

いや、流石に失礼か。仮にも公認ジムのジムリーダーが代表の団体なのに。

 

スマホロトムで調べてみたら、一応SNSの公式アカウントが出てきた。

基本はどこぞの社長達の集会みたいだが、時々有名選手を呼んでイベントのようなものをしているらしい。色んな会社の名前が出て来ているけれど‥‥一つも分からん。

とりあえずマクロコスモス関連事業はない。

俺が知ってるのは、代表のはがねジムくらいだな。

 

ネットに上がっている写真では、随分煌びやかなパーティーが開かれている。

都度ファンタジー世界に転移してパーティーしてんのか?ってくらい別世界だ。

でっかいシャンデリアとかが普通に飾られている。シャンデラよりデカい。

 

 

改めて手紙を読む。

 

 

先代にまだファンが居たとは驚きだが、悔しい事にあの人に人気があったのは確かだ。

一応、あの人だってポプラさんに次ぐベテランだったから、古いリーグファンに知名度だけはあるんだよ。

 

俺と違って、ちゃんとジムリーダーに相応しい実力はあったし。

それこそ『ダーティープレイの害虫』なんて極悪ヒールの二つ名がついていたのも、ある種人気と実力の証拠だ。

悪名だけど。

 

高い技量に長年の経験、勝負勘。

先代は卓越したそれらを盛大に無駄遣いして、巧みな反則や八百長をしていた訳だ。

 

まぁそんな最低な手段が許されていたのはローズ委員長が来るまでの話。

リーグ改革が始まってからはルールが厳しくなり、ダイマックスにも適応出来ず、老いる身体能力を技術で誤魔化す事にも無理が出て…

 

 

と、とにかく。

先代の知名度が無駄に高かったからこそむしジムの醜聞は根強くなっちゃった訳だ。

 

この招待状も『かつて人気だったジムリーダーの後継者』を呼びたいと考えて、送られたのだろう。

 

先代宛ての招待状もあるのは、もし連絡取れるなら連れて来てくれってことだろうか。

無理無理。失踪してから一度も連絡なんて取ったことないよ。

どこに行ったかも知らない。

 

のらりくらりとした人だったから今頃高跳びした先でのんびりあくどい事やってるんじゃねえかな。他の地方のゲームセンターを荒らすとか。地下闘技場みたいなのに参加するとか。

のんびりって何だよ。

 

 

 

‥‥まぁ参加は断るか。

今はダブルバトルへの対策で忙しいし。

 

そもそも、俺が出来る先代の話なんてたかが知れている。

一応、数年師事はしていたけれど、結局まともに教えてもらったこともほとんどないのだ。

麓まで延々とお使いさせられるか、役に立たない修行させられるか。あとは何も言われず放置されてたからな。

 

決して、決して、思ったよりガチのセレブの集まりっぽくて二の足を踏んでいるわけじゃない。

 

 

今回は残念ながらご縁がなかったということで‥‥。

 

 

 

 

 

興味深そうに覗き込むイオルブに手紙を渡して、自分は足元にいたユキハミを抱き上げる。

 

‥‥イオルブ、たまにああやって論文とかも読んでいるような素振りをするんだけど、まさか本当に読めているわけじゃないよな?俺の真似してるだけだよな?

 

「終わったらリビングの机の上に置いとけよ。行かないけど、マクロコスモスには渡すかも」

 

 

 

「待ちな!」

 

突然、背後にピンクの化け物が現れた。

 

ひっくり返った。

マジで逃げ出そうとして足がもつれてひっくり返った。

腕の中のユキハミだけは守ろうとひしと抱きしめる。

 

だってここ家の中なんだが!?リビングなんだが!?

俺の穏やかな日常が音を立てて引き裂かれている!

「もうホラー映画じゃん!」

唐突な侵入者に文句を叫ぶ。

心臓の弱い方に注意書きが必要な出現をしないで欲しい。

 

 

「あんた、リアクションが古臭いんじゃないかい?」

 

駄目出しまでしてくる侵入者の正体はピンクと紫の婆さん。

略してピンク婆のポプラさんだ。

腰は曲がり、背も丸めてしまっているが、気骨は今でも反り返っているとんでも婆さん。

隣町のアラベスクタウンでフェアリージムを受け持つジムリーダーであり、先代が突然失踪した俺の世話を焼いてくれる後見人のような人でもある。

17歳にジムリーダーに就任して以降、70年にも渡ってジムリーダーであり続けている。

当然、現役ジムリーダーでは最年長、最長就任期間。

多分妖怪だ。フェアリータイプなのは間違いない。

 

俺の恐怖の視線を意にも介さず、ポプラさんは我が家のようにソファーに座った。

ソファーに集まっていたみんながそそくさとスペースを空ける。

無敵か、この人。突然やってくるのはいつものことだが。

 

「前から言おうと思っていたけれどね。ジム正面の扉、カギが壊れているよ」

嘘、うちのセキュリティ危なすぎ…。

本格的にリフォームの必要性があるじゃん。

「えぇ…さっき閉める時も確認したんだけど…」

「コツがあるのさ、少し角度をつけて引く必要があるからね」

HAHAHA。そんなド田舎のオンボロ住宅みたいな…

 

ド田舎のオンボロ住宅だったわ、ここ。

 

 

後で玄関先に防犯用のレドームシ置いておこうっと。

「アイツのために鍵を変えないのかと思って言わないようにしていたんだよ」

「いやーないない」

気付いてなかっただけです。

先代、鍵変えてもどうせピッキングとかでどうにかしそうだし。

 

「‥‥で、急にやってきてどうしたんすか」

お茶でも出そうかと思ったら、いいから座りなとジェスチャー。

指示されるまま、向かい側に座る。

あれ?ここ、俺の家なんだよね?

 

「それだよ」

指さされたのはイオルブが持っている赤い便箋。

『かつてのリーグを想う会』の招待状だ。

ポプラさんも懐から同じ便箋を出す。どうやら同じものが届いていたらしい。

まぁ古参リーグファンならポプラさんは真っ先に声をかけるべき人だよな。何せ70年前から現役なんだし。

生き証人って奴だ。

 

 

「乗り込むよ、一緒に来な」

 

 

‥‥え?招待状に書いてあるパーティーにってコト?

確かにポプラさんに豪華なパーティーは似合いそうな気はするけど。

「な、何で?」

「前々からこいつらが徒党を組んでいるのは気になっていてね。ちょうどいいから見に行ってやろうじゃないか」

こいつら?ちょうどいい?

よく分からないけど、ポプラさんは行く理由があるらしい。

「大丈夫なんですか?この団体」

少なくとも俺はちょっと怪しいと思うから行きたくないんだけど。

「さぁね。だけど、時には自分で行かないと分からない事もあるさ」

 

「マクロコスモスに頼るのは?」

「ローズなんかに伝えたら、私が直接乗り込めなくなるよ。こっちは色々確かめたいことがあるんだ」

 

「何で俺が?」

「か弱い老人を一人で行かせる気かい?」

 

「えーっと…」

 

テキパキと答えるポプラさんはどうやら有無を言わせないらしい。

助けを求めて、後方のイオルブに目線をやる。

 

相棒は黙って横に首を振った。

 

 

「行くよ!!」

 

 

 

行くことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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