エンジョイ勢のたのしいむしジム   作:ハッソ

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おもてなし

 

ティータニック号に入ると、豪華な内装に圧倒された。

 

本当に船の中か?と言いたくなるほどだ。

シュートシティにある高級ホテルと比べても、まるで遜色はない。

ふかふかの絨毯を歩くだけで自分も少し金持ちになったような気分になってしまう。

美術品は分からないが、各所のインテリアにも力が入っている事が無知な俺にも分かった。

 

 

「ニャオス」

船内に感心していると宙に浮いた猫のようなポケモンが、廊下の奥から滑るように現れた。

えーっと、確かニャオニクスだ。

オスとメスで姿が結構違う珍しいポケモンだったはず。

コイツは…やばい。どっちがどっちだっけ。毛色で判断するのは覚えてるんだけどな。

青いニャオニクスはこちらに礼儀正しく頭を下げると、手ですっと道を示してきた。

 

「案内役、ってことか?」

他の招待客を見ると、それぞれニャオニクスやニャスパーが現れ案内をしているようだ。

この礼儀正しさを見るにトレーナーは相当優秀そうだが、姿が見えない。

最初の案内はポケモンに任せているのかな。

「トレーナーは人手が足りないのかね」

「ついていきましょう」

まぁ、ここで案内を無視して変なことしたら迷惑がかかりそうだ。

ついていけば、そこに人が居るだろうし。

 

 

俺達は素直にニャオニクスの案内に従ってついていく。

入り口では少し多く感じていた招待客だったが、それぞれ別の通路へと通されていく。

どうやら通路は相当に入り組んでいて、混雑しないように上手くばらけさせているようだ。

向かう会場は同じはずだけど、どういう造りになってるんだ?

歩きながら案内状を広げると、イベントの最初には『オープニングセレモニー』と書いてあった。

「場所は船上部のスカイデッキ…外でやんの?」

「随分歩くね。老体には少し堪えるよ」

そんな話をしている内に、ニャオニクスが停止した。

だが、スカイデッキではない。未だ屋内…エレベーターも階段も使ってないから、当然だ。

強いて言うなら目の前に風景が一望できる大きな窓がある。

もしかして、一旦待機か?それなら待合室みたいなのが欲しかったけど…。

 

だが、予想に反してニャオニクスは一礼してから、両手を掲げた。

何だ?と聞く暇もない。

 

ふわり、と身体が浮く。

足元が床を離れ、空を切った。

目の前のニャオニクスの目が怪しく光っている。

《ねんりき》!いや、《サイコキネシス》か!?

ポプラさんもサイトウも突然のサイコパワーに抵抗も出来ない。

「な、何だ急に!」

「‥‥」

サイトウが無言でモンスターボールを構える。

それを見て、俺も腰元のボールへと手を伸ばし―――

 

「やめな。二人共」

 

ポプラさんの声で動きを止めた。

だが、ボールから手を放す事も出来ない。

 

警戒の目線を向けてしまう俺とサイトウに対して、ニャオニクスは優雅に一礼した。

えっと…なにこれ。

 

「敵意はないよ。安心しな。」

敵意はないって言われましても。

だが、ポプラさんのポケモンを見る目は確かだろう。年の功って奴だ。

黙って見ていると、ニャオニクスはそのまま俺達をサイコパワーで運び始めた。

 

目の前にあった大きな窓を開き、外へと。

 

「うおおおお!?」

流石にビビる。

もしも今ニャオニクスがうっかりサイコパワーを滑らせ(?)でもしたら、俺達全員夜の海にドボンだ。っていうか高さ的にそれだけで目の前が真っ暗になるかもしれない。

いざとなったら助けてくれよな、サイトウ…じゃなかった。エージェント!

こうなっては、最早神頼みならぬエージェント頼りするしかない。

早々に諦めた俺は、逆に周囲を見渡す余裕が出来た。

 

ティータニック号はまだ出発したばかり。

というか、まだ乗り場から離れてもいないようだ。バウタウンの夜景がすぐ近くに見える。

だが、今だけは目に入らない。

夜景は美しいが、それよりも驚いて見てしまうものがずっと近くにあったからだ。

 

 

そこにあるのは異様で、幻想的な光景だ。

 

船の外側に居るのは俺達だけではなかった。

ニャオニクスやニャスパーに案内されていたセレブ達もふわふわと宙を浮かんでいるのだ。

光るサイコパワーに包まれ、仮面を着けたセレブが夜空を駆けている。

向こうは随分と余裕がある。もしかして恒例なのかこれ。

 

空を飛ぶたくさんのセレブ。

その光景に唖然としている内にあっという間にスカイデッキに到着した。

俺達の他にも次々とセレブ達が空を飛んで到着している。

意外と立体的に動くとすぐなんだな…いや、ニャオニクスのサイコパワーがそれだけ速度が出てたのかな?海風も感じないくらい快適だったけど。

 

「お疲れ様でございます。マホミル様、ストライク様、タイレーツ様」

 

着地するとすぐに執事服の老齢の男性が現れて、声をかけてくる。

呼んでいる名前は、俺達が付けている仮面のポケモンだ。

なるほど。会場ではそういう風に呼び合うのか。

 

「驚かせてしまい、申し訳ありません、初参加の方へ受付での説明が足りていなかったようです」

 

名前は呼ばないが、やはり受付の時点で素性は把握しているらしい。

謝罪の言葉と共に深く頭を下げる執事。その隣で俺達を運んできたニャオニクスもやはり同じように頭を下げた。一人と一匹は頭を下げる角度まで完全に一致している。

ああ、この人がニャオニクスのトレーナーか。優秀なんだなぁ。

 

「構わないさ、刺激的な体験だったよ」

「そうだな。驚いたけど、便利だったし」

 

何よりも船の外を通って、サイコパワーでたくさんの招待客が運ばれている光景は正直テンションが上がった。演出として上々だ。

ポプラさんと俺の答えに執事は笑みを浮かべてからもう一度頭を下げた。

「ありがとうございます。それでは、オープニングセレモニーまで少々お待ちください」

そして、そそくさと去っていった。

他の初参加の招待客の元へ同じように説明に行くのだろう。

向かった先では「うおおおおおお!?なんじゃこりゃああああ!」と叫ぶボスゴドラの仮面の大男。ああ、あの人も初参加なんだ…。

 

 

 

 

 

 

 

こうして一堂に会する所を見ると、乗船時とはまた違ったことにも気づく。

例えば、招待客が連れているポケモンの国際色の豊かさだ。

あっちにいるセレブはガラルには居ない原種のペルシアンを連れているし、向こうのターバン巻いた人が連れているデスマスは、何だか見覚えのない姿をしている。

「かつてのリーグを想う会」は旧リーグ関係者が多いって話だったけど…。何だかガラル以外のポケモンが多いな。

「ただの自慢だよ、貴重なポケモンを持っている事が貴族のステータスだからね」

ぼそっと、俺にしか聞こえない声でポプラさんが呟く。

なるほど。一匹だけ持ち込めるのは、貴族同士が自慢するためだったか。

 

‥‥デスマスはともかく、本人がターバン巻いてるのは何でだろう。

普通に暑いし重たそうなんだけど。

お洒落か?後で聞いてみようかな…。

 

 

招待客はバラエティ豊かで、パーティー会場を眺めているだけで面白い。

が、当然それだけのパーティーな訳がない。

しばらくすると、何人かが船の中から現れ、会場が軽くざわめいた。

 

主催者の登場のようだ。

 

ってことはつまり、手紙を送ってきたはがねジムのジムリーダー、リアンさんだよな。

仮面舞踏会なのに正体バレバレでいいんだろうか。

ポプラさんが言っていたように雰囲気だけだろうし、無粋か。

 

人混みの隙間から頑張って覗くと、入ってきたのはメタングの仮面を着けた青年だ。

少し煌びやかな貴族衣装を纏い、胸を張って立つ姿には気品がある。

ニャオニクスの一匹からマイクを受け取ると、彼は滑らかにスカイデッキの中央、バトルフィールドへ歩いた。

 

「皆さま、本日はお集まりいただきありがとうございます」

 

挨拶に貴族達が軽く拍手を返し、メタングの青年が優雅に一礼をする。

何だか、お芝居でも見ている気分だな。

 

「今宵、こうしてまたティータニック号が出航出来ますのは、スポンサーである皆様のおかげでございます。普段の活動から皆様には助けられてばかり。このパーティーは少しでも皆様へ感謝の意をお伝え出来れば、という想いで開かれております。どうか、心行くまでお楽しみください」

 

「アベリ、エージェント。もう少し前に出るよ」

「えっ…りょ、了解」

確かにここからでは声は聞こえるが、隙間からでは見づらい。

腰の曲がっているポプラさんなら尚更か。気遣いが足りなかった。

ずかずかと移動するポプラさんの背中を見失わないように追いかける。

 

「スポンサー以外にも何名かゲストもお呼びしております。『かつてのリーグを想う会』として往年の名選手や選手関係者に声をかけ、この秘密のパーティーへご来場いただきました。もしかしたら…と思った方はお声をかけてみてください」

 

パーティー会場にはさっき見かけたように人だけじゃなくポケモンも多い。

尻尾や毛を踏みつけてしまわないように細心の注意も必要になる。

例えば、むしポケのバチュルってポケモンは高さが0.1メートル、つまり10センチしかない。これは大体平均的なきのみと同じくらいの大きさだ。

そのくらい小さなポケモンだっているんだ。俺のジムにバチュルは居ないが、足元にはいつもユキハミやスコルピ達がうろちょろしている。

そのせいでつい足元を確かめながら歩くのが癖になってしまった。

ここに居るのはセレブのポケモンだし、足元には細心の注意を…と思っていたら、ポプラさんの背中を見失った。

あれぇ?あの人、歩くのはゆったりなんだけど、迷いがないんだよなぁ。

 

「気になる仮面のご婦人へ話しかける際には、是非この言い訳をお使いください。…さて、オープニングセレモニーの準備が出来たようです」

 

仕方ない。

どうせオープニングセレモニーが終わったらまた移動するらしいし、その時合流しよう。

ポプラさんにはエージェントが付いていれば問題ないだろう。

最高戦力だもん。あのフィジカルメンタルモンスター。

 

俺は人混みの中で、渡された案内状をもう一度開く。

今から行われるオープニングセレモニーは…

 

「オープニングセレモニーでは抽選で選ばれたゲストと私でレンタルポケモンによるポケモンバトルを致します」

 

そうそう。レンタルバトルだった。

レンタルポケモン、という制度は意外と一般的だ。

レンタル用に育成された強いポケモンをバトルの時だけ使えるような仕組みだ。

ガラルにはないけれど、大抵のバトル専門施設にはある。

育てる才能と戦わせる才能は別だし…暮らす才能も別だ。

ポケモンと言うのは育てるのも、戦わせるのも、暮らすのも大変なので、こういう制度が広まったのだろう。

 

借りれば誰でもすぐに強いポケモンを使えるのは利点だが、ポケモンにあるそれぞれの癖みたいなのを把握するのは難しく、レンタルバトルと通常のバトルではまるで勝手が違う、と聞いたことがある。

通常バトルだと強いトレーナーでもレンタルバトルでは散々、みたいなの結構多いらしい。

 

何で伝聞形か?

ガラルにはないからやったことないんだよね。

 

「今回、オープニングセレモニーで扱うポケモンは本日目玉のオークションで出品予定です。ああ、勿論我々プロが誠意を持って育成させていただきましたので、強く従順な子ばかりですよ」

 

案内状の下の方を見ると確かにオークションと書いてある。

へー、そういうのもあるんだ。

さっき見かけた珍しい子達はこういうので手に入れるのか。

流石に買う気はないけど…珍しいポケモンは見られるかもしれない。

ポリゴンとか、そういうワイルドエリアにも居ない奴。

 

 

「それでは、今回の幸運な番号は‥‥123番!」

 

前の方でおお、とざわつき。

抽選したっぽいけど、何の番号だろう。

入る時に整理番号みたいなの配られたわけでもないし。

 

「図鑑ナンバー123番は‥‥ストライクです!」

 

あー、図鑑の番号か。

なるほど、配られた仮面にはそういう使い方もあったんだなー。

最初は不思議だったけど、意外と面白‥‥

 

 

 

 

‥‥‥‥あれ?今、ストライクって言った?

 

 

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