エンジョイ勢のたのしいむしジム   作:ハッソ

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《アイアンヘッド》

 

 

「見慣れない小僧でおじゃるな」

「ウィ。ゲストの一人では?」

「セレブリティのないボーイデース」

 

気付くと周囲の目線が俺に集まっている。

そりゃそうだ。俺が着けている仮面は今読み上げられたばかりのストライクの仮面。

そして、人混みが自然に分かれ、俺が通りやすくしてくれる。

お、おう。ご親切にどうも。

 

 

「さぁ、ストライクの方。恥ずかしがらずにデッキ中央のバトルフィールドへ」

 

先程まであれだけ探したメタングの青年の姿がはっきり見える。

はがねジムの現ジムリーダー、リアンさん。

会ったこと自体はあるので、こうして見れば流石に分かる。

本人だ。そういえば、普段から気取ったところのある人だった。

常に胸を張って、自信に満ち溢れていると言うか…。

 

ちらりと見えた時の印象通り、指先までピンと伸ばしてオーバーに振舞う様は衣装も相まって舞台俳優のように見える。

そんな彼が、壇上に上がれと告げる。

 

避けられない、よなぁ。これ。

 

俺はごくりと唾を飲み込むと、人混みの中を進む。

フィールドに入ると、必然誰も居ないので視界が開けた。

逆側に移動していたポプラさんを見つけたが、その視線は呆れているような気がする。

 

「では、ストライク様。こちらレンタルポケモンのカタログでございます」

先程、挨拶してくれたニャオニクスのトレーナーの執事さんがカタログを渡してくれた。

そうか。こういうので技とかを確認しないとバトルが出来ないよな。

「どうも」

 

 

お礼を言いながらカタログを開いて‥‥俺は固まった。

 

 

思わず顔を上げて、目の前のリアンさんの顔を見てしまう。

が、彼はメタングの仮面で顔の大部分を隠し、微かに見える口許は優雅に微笑んでいる。

まるで二重に仮面を着けているようだ。

 

「どうされました?」

「いや、これ‥‥」

 

あり得ない。

いや、あり得ないは言い過ぎか?

どちらにしろ、こんなの予想はしていなかった。

 

「驚かれましたか?スポンサーの方々のご支援と我々のコネクションの成果です」

 

つらつらと、リアンさんはそんな事を語る。

自慢の一品、という訳だ。

確かにこれは自慢出来るだろう。俺は改めてカタログを眺める。

 

 

カタログに並んでいるのは全て、化石ポケモン。

 

化石から特殊な技術を用いて復元される、古代のポケモンだ。

当然、かなり希少な扱いをされている。

発見例は各地方で2つあるかないかと言ったところだろう。

 

カタログには、少なくともガラルで公式戦にも参加可能なポケモン達が並んでいる。

これを全て、取り揃える。いくらかかるんだ。

 

金で解決…はきっと出来なくはない。

化石ポケモンは希少だが、個体数が限られる訳でもないからな。

復元に必要な化石さえ発掘されれば、数は増える事になる。

カブトなんて最近は野良に放たれ過ぎて社会問題になっていたはずだ。

復元は研究の為だろうが、大金を払えば買えないって訳じゃない‥かもしれない。

上流階級の感覚では、全然あり得る事…なのか?

いや……でも……

 

クソ。全然分からない。話のインパクトが大きすぎて、自分の価値観がバグりそうだ。

 

「お決まりになりましたか?」

横に居た老執事に声を掛けられて、ぐるぐると空回りし始めていた頭が止まる。

とりあえず、まだ扱えるだろうむしポケモンを選んでおく。

一応、俺だってむしのジムリーダーなんですからね。

 

すぐさまアタッシュケースから取り出されたボールが手渡された。

そんな気はしていたが、ゴージャスボール。

うわぁ、全部ゴージャスボールに入っているのがちらっと見えた。

拘ってるなぁ。

 

「では、私はこちらのポケモンを」

 

リアンさんもカタログから一匹を選んだ。

あ、しまった。後から選べばよかった。タイプ相性、有利な奴選べたかも。

…まぁ、オープニングセレモニーなんだし、もっと気楽でいいか。

幸いにも人前で戦うこと自体に緊張はない。

レンタルバトルって形は初めてだけど、落ち着いたらワクワクしてきた。

 

「いつも通り、楽しむか」

 

受け取ったゴージャスボールを手の中で握り直す。

化石ポケモンには驚いたけど、俺としても普段あんまり関われないようなポケモンと一緒に戦えるんだ。楽しまなきゃ損だろう。

公式戦と同じように、トレーナーの指定位置に立つ頃には、さっき感じた上流階級への恐れも何もかもなくなった。

こればっかりはしょうがない。俺ってそういう奴だ。

 

 

 

向かいに立つのは、いつもの公式戦と同じくジムリーダー。

 

はがねジムのジムリーダー、リアン。

 

俺より年上だが、気取った振舞いが自然と似合う男。

はがねの貴公子、とかそういう二つ名もあったような。

 

はがねジムは公式戦不参加を表明しているから、彼が俺の対面に立ったことは一度もない。

だが、はがねジム自体は名門として未だ名が知られているくらいには実力派だ。

ジムリーダーであるリアンさんも当然、相当な実力者だと聞いている。

伝え聞く話だけ聞いていると、実際に参加すればメジャージムになれるかもしれないらしい。

 

これから戦うのはお互いにレンタルポケモンだけど‥‥噂が本当かは、これから戦えば分かるだろう。

滅多に戦えない相手とせっかく戦えるんだ。

存分に楽しませてもらおう。

 

 

 

「それでは、試合開始でございます!」

審判もするらしい執事が試合の開始を宣言する。

 

「いけっ!アーマルド!」

俺はこの戦いだけ頼りにする事になる仲間をフィールドへと繰り出した。

 

 

「キュアアア!」

 

アーマルド。かっちゅうポケモン。

分類通り甲冑のような甲殻を持ち、その爪は鋼をも貫く…はずだ。

確か、現生のむしポケモンのご先祖に当たるとか、論文で読んだ。

タイプはいわ・むし。

基本的には自慢の爪を中心にした接近戦が得意…でいいんだよな?

 

自分の知識とカタログの情報を確かめつつ、戦略を組み立てる。

これ、難しいな。

俺はレンタルバトル苦手かも。

 

「さて、始めましょう」

 

リアンさんが軽くボールを放る。

ポンと言う音と共に飛び出るのは…

 

「ガァァァァァアア!!!」

 

鳴き声でっか…。

現れたのは、前世だとティラノサウルスを思い出すような見た目のポケモンだ。

名前は、えーっと、ガチゴラス。

ついカタログで名前を確かめてしまったが、図鑑は前に読んだことがある。

見た目通り凶暴なポケモンで、特に強靭な顎や頭部を使った攻撃が…

 

「それでは!《アイアンヘッド》!」

「ガオオオオオオオオ!!!!」

 

やべっ。もう来た!

「アーマルド!…《メタルクロ―》!」

くっ、これカタログ確認してから指示出すの大変だな!

俺もアーマルドが覚えそうな技はいくつか思いつくが、その技をこのアーマルドが覚えているかまでは流石に分からない。

とりあえず目に入ったはがねタイプの技を指示してしまった。

 

 

鋼の頭部と鋼の爪が激突し、甲高い金属音を立てて弾き合う。

 

 

「おお!ド・迫力じゃねえの!」

「実にパワフルでビューティフルデース」

「フフフ…フフフフフフフフフ!!」

スカイデッキの中央にあるフィールドは、スタジアムよりも観客との距離が近い。

文字通り、目と鼻の先で行われる化石ポケモンの戦いに観客達も盛り上がって…この船、乗客のキャラが濃くない?

 

とにかく、早速気付いたことが一つ。

アーマルドはリーチが短い。

身体の構造上、爪での攻撃は相当近づかないといけないようだ。

逆に身体が大きい上に首を大きく振る事が出来るガチゴラスは、リーチが長い。

だったら…

 

「アーマルド!ガチゴラスの顎の下に入るぞ!」

 

危険かもしれないが、自分の懐には顎や頭での攻撃は放てないだろ!

「キュアアアア!」

指示を受けたアーマルドが突撃していく。

ドタドタドタ。い、移動用に技を指示してやればよかったな。

大丈夫かな、これ。

「‥‥では。《かみくだく》で迎え撃ちましょうか」

牙を剥き出しにしてガチゴラスが構える。

アーマルドを逃がさないように、頭を低く下げ牙を見せつけながらこちらを睨みつけている。

 

ガチゴラスは古代の王者とも言われるポケモンだ。

挑まれるなんて、常だったから慣れてるってか。

 

リアンさんも王者を従えるに相応しい余裕の表情。

くっ、ニコニコしながら嫌な手を打つなぁ!

あえて『待つ』のを見せつけてくるってのが攻めづらい!

 

だが、接近する判断は間違ってないはず。考えている間にも二匹の距離は狭まっていく。

俺はカタログに書いてある技の一覧に目を走らせ、状況に有効そうな技を叫ぶ。

一か八かだが…やらないよりマシだ!

 

「《みずでっぽう》!」

 

ほとんどのみずタイプのポケモンが使う低威力の水技。

みずタイプでもないアーマルドが使っても、然程ダメージは与えられないだろう。

「キュア!」

掛け声と共に射出された《みずでっぽう》はやはり弱々しい威力だ。

だが、今はガチゴラスがわざわざ顔面を見せつけるように前に出している。

この状況で放てば

 

 

「ガアアアアア!?」

 

 

ガチゴラスの視界を塞ぐように《みずでっぽう》が命中する!

勿論、予想したようにガチゴラスにダメージはない。

だが、不意を突かれてのけ反っている内にアーマルドが接近出来る。

「キュアア!」

顎の下へと潜り込めたことを誇る様に鋭い爪を掲げるアーマルド。

その姿に俺も思わず小さくガッツポーズを取ってしまう。

 

最初はどうなるかと思ったけど、レンタルバトルもやっぱり楽しいじゃん。

だけど、まだ始まったばかり。近づいただけだ。

対面のリアンさんもニコニコと微笑みを崩していない。

あれは例え負けても崩れない気がしないでもないが。

 

とにかく、ここからだ。

即席コンビで、仕掛けてやるぞ!

 

俺はカタログにある一つの技名を見て、ニヤリと笑った。

 

「さぁ行くぜアーマルド!王位簒奪の時間だ!」

 

 

 

 

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