自慢の爪を構えるアーマルドを忌々しげに見るガチゴラス。
アーマルドが居るのは、最早ガチゴラスの足元と言っていい場所だ。
当然だが頑丈な牙も顎も届かない。
珍しい化石ポケモン同士のマッチアップ。
かつてのアーマルド達もこうして王者であるガチゴラスに挑んだ事があるんだろうか。
いや、古生物学には詳しくないけど年代が違うんだったか?
だとしたら、改めてドリームマッチだ。幾千年の時を超えて二匹は今現代で戦っている。
「軽やかに《ふみつけ》を!」
メタングの仮面を着けたリアンさんが颯爽と指示を出した。
現代からは俺達トレーナーが参戦ってわけだ。ガチゴラスが巨体を支えるための大きい脚。
今度はそれをアーマルドに叩きつけに来たが…
その攻撃を、待ってたんだよ!
アイコンタクトで指示を出せないのが寂しいが、俺はカタログで目を付けていた技名を叫んだ。
「アーマルド!《けたぐり》!」
爪をフィールドに突き立てて、ブレイクダンスのように軸にしながら体を大きくぶん回す。
全身を振り回すことでアーマルドの短い脚が《ふみつけ》のために片足立ちになっていたガチゴラスの足元を払った。
「ガァァァ!?」
ガチゴラスの身体は馬鹿みたいに大きな頭部に脚、そして身体を支えるには到底足りない小さな前腕、というパーツ構成だ。
つまり、一度両脚が地面を離れてしまうと倒れるしかない!
大きな音を立てて、重厚な巨体がフィールドに倒れ込む。
あっぶねえ。スカイデッキが丈夫でよかった。《けたぐり》は相手が重ければ重いほど威力を発揮する技。ガチゴラスの体重までは記憶してないが、見た目で予想した通り手応えありだ。
ガチゴラスは苦悶の表情で倒れ、立ち上がれない様子。
更に、現在倒れているガチゴラスの前でアーマルドは意気揚々と爪を擦りあわせている。
俺も同じ意見だ。体勢を崩しているガチゴラスをこのまま逃がすつもりはない。
格闘技で言えばマウントポジションを取ったようなもの。好きに料理させてもらうぜ!
「いけっアーマルド!《シザークロス》!」
目の前の獲物に二本の爪で狩人が襲い掛かる。相手が動けないのだからタイミングも要らない。
これでトドメだ!
「《――――》」
囁くように、しかしよく通る声で指示が出された。
大きな何かが振り回される音と衝突音。
「キュアァ!」
そして、アーマルドの悲鳴。
最後にアーマルドが背中から音を立てて墜落し、俺は勘違いに気付いた。
ガチゴラスの身体は巨大な頭部と巨大な脚。それだけじゃなかった。
立ち上がれなくても動かせる部位が、ガチゴラスには存在した。
尻尾だ。
放たれたのは《アイアンテール》。
俺の勘違いはガチゴラスの身体構造だ。
無敵の暴君たらしめている巨体を支えているのは両脚ではない。
むしろバランサーとしての役割が大きいのは尻尾。
尻尾があるからあの巨体でも機敏に動き回れているのだ。
当然、尻尾の筋肉はガチゴラスの体で最も鍛えられている部位ってことになる。
そして、尻尾は倒れてもある程度自由に振り回せる。
相手の最も強力な武器を、俺は見誤ったらしい。
「アーマルド!」
アーマルドは尻尾に弾き飛ばされ、ガチゴラスの正面側に転がされている。
そこは最初に避けようとした危険地帯。顎や頭部での攻撃の有効圏内だ。
しかし、アーマルドはなかなか立ち上がれない。
カウンターがかなり綺麗に決まってしまったようだ。
脳震盪でも起きているのかもしれない。いや、アーマルドに脳ってあんのか?(失礼)
えーっと、何か、何かないか?
カタログにある技から状況を打開出来そうなものを探すが…
「ガァァァ…!」
それよりも早くガチゴラスが立ち上がる。
いや、あっちもまだ《けたぐり》を浴びせた片脚を引きずっているぞ。
立ち上がりはしたが、相手も限界だ。
あと一撃!あと一撃でいいんだよ!
「さぁ、フィナーレです!《もろはのずつき》!」
だが、無情にもメタングの仮面を着けたリアンさんが大きく手を振り、指示を出す。
来るであろう追撃に、俺は技ではなく回避を指示しようとフィールドに目を向ける。
レンタルポケモンだから、タイミングを合わせられるかはもう運任せだけどな!
そうやって顔を上げた瞬間。
目があった。
何かを堪えるような目だ。
凶暴な面構えをしているのに、まるで今にも泣き出しそうに見えた。
視線が交錯したのはたった一瞬だけ。
次の瞬間には、そいつは雄叫びをあげながら突進してきた。
「ガァァァア!!」
そこにはもう先程の瞳はない。
古代の王者として君臨していた獰猛なドラゴンの姿があった。
ドドドと凄まじい迫力で真正面から突っ込んできている。
先程気にかけていた傷を負った片足も厭わない、強力な攻撃が来る。
だけど、俺には先程の瞳の意味が片付けきれていない。
咄嗟に目に入ったカタログの技を叫ぶ。
「アーマルド!《まも
バキィ!
衝突音。化石ポケモン同士、装甲と装甲が衝突した音が生々しく響く。
試合開始直後の《メタルクロー》と《アイアンヘッド》の衝突よりもずっとずっと重い音。
ガチゴラスの全力の突撃が、アーマルドに深々と突き刺さる。
俺のせいだ。
つい反射的に別の技を選んでしまい、しかもそれが間に合わなかった。
無防備に攻撃を受け、弾き飛ばされてしまったアーマルドにすぐさま駆け寄る。
今の激突の仕方は結構やばそうに見えた。かいふくマシンで治らないような傷がない事を祈りながら確認する。
「キュアァア…」
頭部の横に付いた目がぐるぐると回っている。やっぱりせんとうふのうだ。
だが、後に響くような感じでもない事にとりあえず安心する。
「お疲れ…」
安心して労い、ボールへと戻してやる。
一時だけだったが、奮闘してくれた仲間だ。すぐに回復させてやりたい。
いやー、完全敗北だ。
レンタルバトルって難しいな。
打合せなしだから回避の指示が出しにくい分、難しい作戦よりも大振りな攻撃を重視すべきだったか。
手の中のゴージャスボールにバトルが終わったのだと改めて実感していると、周囲が少しざわついているのに気付く。
「ん?」
てっきり勝利したガチゴラスとリアンさん相手に拍手を送って盛り上がると思ったんだけど。フィールドの中央では、アーマルドを吹っ飛ばしたガチゴラスが立ったままだ。
だが、様子がおかしい。
フラフラと足元は覚束ない様子で、立っているのも精一杯だ。
そして…
「ガ、ガァ、ァ‥‥」
ドサリ、と倒れた。
すぐさま、審判として立っていた老執事が近づき、状態を確認する。
そして、リアンさんへと目線を向けて小さく首を横に振った。
「両者、戦闘不能!ただ今の試合はドローとなります!」
ドロー。引き分け。
宣言されたが、見渡した観客の表情には隠し切れない困惑があるようだ。
戦った俺自身もどう反応していいか分からない。
勝ったら喜べばいいし、負ければ悔しがればいいんだけども。
そもそもこのバトル、真剣に戦ったけどイベントだったしな。
そんな中、リアンさんが倒れたガチゴラスをボールへと戻し、フィールドの中央へと歩いていく。
「互いに力を尽くした素晴らしいバトルでした!ガチゴラスとアーマルド、そして協力いただいたストライク様にも拍手を!」
スポットライトが当たった役者のように腕を大きく振りながらの一礼。
始まった時と同じく、演劇染みた大ぶりな仕草だ。
リアンさんの言葉に戸惑っていた観衆もようやく疎らに拍手を送り始める。
「いいバトルをしてくれた二匹含め、他の化石ポケモン達もこの後オークションに出品されます。是非、お買い求めください!」
確かにいいバトルだった…と思う。
化石ポケモン同士のバトルなんて滅多に出来る事じゃないし、バトルの内容もよく鍛えられていたお陰でしっかりとしたものになっていた。
観客も同じような考えに至ったのか、疎らだった拍手もいつしか大喝采へと変わる。
「ブラーボ!ブラーボ!」「フフ、フフフフフフ!」「ウィターシも是非欲しい!」
うるさっ。
「ストライク君、いいバトルが出来ました。ありがとうございます」
喝采の中でにこやかに笑いながら、メタングの仮面を着けたリアンさんが近づいてくる。
差し伸べられた手を何とか握り返す。
「ど、どうも…」
自分の中で納得出来ない部分があるせいか、笑い方もぎごちなくなってしまった。
見世物、ショー。脳内にそんな言葉が浮かんでは消える。
別にいつもの公式戦だって見世物のはずなんだけど…。
引き分けのせいか、何故か胸の中にもやもやが残る。
多分、最後のガチゴラスの目のせいだろう。あんな目を普段の試合で見た事はなかったから。
死力を尽くすのとも違う、何かに追い詰められたような…
「ティータニック号はどうですか?中にも様々な娯楽を用意していますから、楽しんでください」
「あっはい。凄い船だと思います‥‥すごく凄い‥‥」
納得出来ないが、ようやく頭の中で疑惑が浮かび始める。
だけど、それを聞く…のは二の足を踏んでしまう。
間違いなく聞いちゃいけないような事だからだ。
『もしかして、狙って引き分けにしたんですか?』
最後の《もろはのずつき》は、威力が高い代わりに反動ダメージを受ける技だ。
リアンさんはガチゴラスがギリギリなのを見て、演出のために引き分けをしたんじゃないだろうか。
アーマルドも、ガチゴラスも、どちらも後でオークションに出品予定だと言っていた。
負けた方はもしかしたら少し売れにくくなるのかもしれない。
どちらの株も下げないためには、引き分けがベストだったのか‥‥?
いや、でもそれは‥‥
試合中に見た、ガチゴラスの目が脳裏をよぎる。
それは、ガチゴラスにとっては‥‥
「後ほど、お話したい事もあるんです。用意が出来次第、近くのスタッフが声をかけますので、それまで自由に見て回ってください」
俺の頭がぐちゃぐちゃになっている内に、リアンさんは耳元でそれだけ告げると去っていく。
大きく手を振りながら、にこやかにもう一度招待客達に向かって一礼。
‥‥まるで全てが台本通りだったかのように、拍手に包まれながら舞台を去った。
リアン
はがねジムの ジムリーダー。
公式戦には 不参加を 表明しているため
事実上 マイナージムに。
しかし その実力は 認める人も 多く
年配の方々を 中心に ファンも多い。
ピアノの 腕も 達者で 作曲や作詞を
することでも有名。
代表曲は 『ボスゴドラ・ド・フォーエバー』。