エンジョイ勢のたのしいむしジム   作:ハッソ

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遅刻しました


らんきりゅう②

 

 

 

「ええ。ありがとうございます。やんごとなき方々には私、いや『かつてのリーグを想う会』もとてもお世話になっています。是非次の機会には揃ってお会いしたいですね」

 

 

招待客の一人へと笑顔を見せながら、握手を交わす。

気をよくした招待客は「ぐぇっへっへ。任せてくれたまえ。リアン君」とガマゲロゲのように笑った。

 

(いや、ガマゲロゲの方が幾分かマシだな)

 

仮面の奥で瞳を一瞬だけ冷たくしてから、もう一度強く握って手を離す。

「では、心行くまでお楽しみください」

旧リーグにおいて高い地位に居た社長の一人。

彼の企業には既に大きな力は残っていない。経営の腕もはっきり言ってお粗末だ。

マクロコスモスという大企業相手に市場を奪われ、優秀な人材も残っていない空箱の持ち主に過ぎない。

だが、社長個人にはまだガラル王家との強いパイプが残っている。

古い企業の集まりである『かつてのリーグを想う会』としては優遇しておきたい人材になる。

 

ガラル王家は『かつてのリーグを想う会』の最大のスポンサーだ。

 

だが、今一つ距離が残っている。

出来ればこのパーティーにも参加して欲しかったが、断られてしまった。

恐らくいざとなれば切り捨てるつもりなのだろうが、それでは困る。

もっと繋がりを強くしなければ。

 

 

 

招待客から離れたリアンの隣を、気付けば執事が歩いていた。

元エスパージム所属だと言う察しのいいこの執事には大変助けられている。

バトルの腕だけではなく、他の業務でも素晴らしく仕事が出来る男だ。

今夜の接待もかなり頼りにさせてもらった。

 

「招待したジムリーダー達はどうだ?」

「現役ジムリーダーで参加したのはやはりポプラ様とアベリ様のみです」

「ネズの参加には期待していたのだが…」

 

マクロコスモスとスパイクタウンの不仲は有名だ。

芽があると思い何度も話を持ち掛けているが、すげなく断られている。

次は音楽関係から誘ってみるか。マキシマイザズと共に船上コンサートをやってもらう形ならば。いや、音楽関係のコネクションはあるが、どれも古いものばかりだ。

まずはその辺りからになるか。

「どこもかしこも手厳しい。エスパージムは?」

「やはりジムリーダーの参加はないようです」

 

「‥ネイティオ気取りめ。いつも通り風見鶏か」

 

エスパージムは由緒正しい一族の運営するジム。

貴族の中でも大きな発言力を持った名家だ。

だが、ローズが委員長となってからマイナーに転落し不満が溜まっている。

反ローズ派として、今回のパーティーでも優秀なエスパーポケモンを多数貸し出してくれた。

 

しかし、こちらもガラル王家と同じく『かつてのリーグを想う会』とは一定の距離を保とうとしている。

その証拠にジムリーダー本人がイベントに参加した事は一度もない。

 

貸し出してくるポケモンは痒い所に手が届く《ねんりき》や《テレポート》で、今や船上パーティーには不可欠なものになってしまった。恩着せがましい所はあるが、実際に役立つ以上配慮もしなければいけないのが苦々しい。

 

 

本当に、どこもかしこも。

 

思わず舌打ちしそうになる。

『かつてのリーグを想う会』は相当の()()に見えているらしい。

 

貴族たちの協力で資金にだけは困らないが、ローズとマクロコスモスに対抗するにはトレーナーの数が必要だ。

金で解決できる事にも限界がある。

 

「ですが、エスパージムから名代として一人、トレーナーが来ています」

「本当か。誰だ?」

「セイボリーと言うジムトレーナーで、一族の人間です」

残念ながら、聞かない名前だった。だが、エスパージムは同族経営で有名だ。

ならば、一族の人間と言うだけでその価値はかなり高い。

 

「一族を送り込んで来たのか。少しは揺れたか?」

「近くにスタッフを置いています。後でお会いになられますか?」

「いや、慎重に行こう。少しでいいから情報を聞き出しておいてくれ」

 

かしこまりました、と執事が頭を下げる。

これから始まる『大事』を前に少しでも景気のいい話があってよかった。

 

「では、私はこれから『あの人』と会ってくる。しばらく人を近づけるな」

 

取り出した手鏡で改めて身だしなみを確認する。

今からお会いする方は、リアンにとってはガラル王族よりも尊重すべき客だ。

一切の失敗は許されない。

 

今宵のパーティーも全ては『あの人』のためのもの。

他は全て雑多な些事だ。

「それなのですが」

申し訳なさそうに執事が眉を下げる。珍しい事だ。

完璧な仕事をする執事がそのような表情を見せるなど。

彼も私が『あの人』に会うために努力を惜しまない事を知っているはず。

ならば‥‥

 

「まさか、ピオニー様の身に何かあったのか!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だーっ!ケーシィ!どこに行ったか分からねえが!オレをシャクちゃんの元に送ってくれ!な!」

 

 

 

 

屈強な男が小柄なケーシィに掴みかかり、大声で何かを訴えている。

ケーシィも何とかしようとするのだが男の揺さぶりが大きいせいで軽く目を回しているようだ。周囲では招待したセレブ達がひそひそと囁き、何事かと注目を集めている。

 

「申し訳ありません。私が直接お声もかけたのですが‥‥」

執事が申し訳なさげな理由はこれだったのか。

確かにこの光景を前には我々は困るしかないだろう。

目頭を抑え、思わず言葉を漏らす。

 

「何て素晴らしい家族愛だ‥‥っ!」

 

 

溢れ出そうになる涙を何とか食い止める。

横で「えっ」という声が聞こえた気がするが気のせいだろう。

 

最も大事な家族のためにあそこまで醜態を疎まない。

彼と言う人間は自然体で大事なものを守り通す覚悟を常にしているのだ、と痛感させられる。

 

やはりピオニー様は素晴らしいお方だ。

貴族共と違い、心から敬意を払うべき価値がある。

「私が応対する」

「か、かしこまりました」

 

覚悟を決め、歩み寄っていく。

ついにここまで来たと言う実感は、さきほどの感動のせいか湧いてこない。

だが、こちらへと眼差しが向けられた時、思わず歓喜の声をあげてしまった。

 

「ピオニー様!」

「おおっ!リアンじゃねえか!ド・大きくなったなお前!」

 

覚えていてくださった!

仮面舞踏会としての建前などすっかり頭から抜け落ちていた。

崩れ落ちそうになる膝を矜持でこらえる。この人の前で無様な姿は見せたくない。

 

「リアンからも頼んでくれねえか!このケーシィがド・意地悪でよ!」

 

ピオニーから差し出されたケーシィを受け止めながら、変わりない雰囲気に笑みがこぼれる。

人柄が放つオーラも、かつて『はがねの大将』と言われた時のままだ。

 

「それは勿論協力させていただきます。代わりと言ってはなんですが、私の話を聞いていただいてもよろしいでしょうか」

頭を下げ、許しを請う。

ピオニーはこれまではがねジムと連絡をほとんど絶っていた。

そこに無理をして招待状を送りつけたのはリアンだ。

本来なら来てもらっただけありがたい立場。

だが、それでも。リアンは頭を下げて請うた。

 

 

「そんな水臭い事言うなよ!こんなド・立派なパーティーにまで連れてきてもらったんだ!心行くまで話し合おうじゃねえか!今日はそのために来たんだぜ!俺は!」

 

「ピオニー様‥‥っ!」

何たる度量の大きさ。

チャンピオンとしての気品と風格を兼ね備えている、と感じられる。

 

やはり、この人を置いて他にない。

 

恐れ多いお願いだが、このために全ての準備を整えてきた。

『かつてのリーグを想う会』も、ティータニック号も。

 

そして、裏で動かしている計画も。

 

 

 

「ピオニー様にとっても悪いお話ではないと思います―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「おい、交替の時間だ」

 

「なぁ、もう三回目だぞ。替わりすぎじゃないか?」

 

飲みかけのコーヒーを片手に思わず愚痴る。

さっき戻ってきて、さっき淹れたばかりだ。

一息つく暇もない。

 

「出航直後だからまず一通り巡回ルートとローテーションを再確認するんだとよ」

「隊長は真面目だな。ここは海の上で、船はホエルオーよりでかいんだぜ?」

 

どんなポケモンも乗り込んでくるわけがない。

精々落っこちてきたドジなキャモメをちょっと追い出すだけだ。

それだけのために、自分のポケモンを海風に晒したくない。後で錆取りするのは俺だ。

隊長のポケモンだってはがねタイプなんだから、分かるはずなんだがな。

仕事の為なら面倒じゃないって考えしてんのかね。

 

「計画も大詰めだから、気合が入っているんだろう」

「いよいよローズ委員長の時代も終わりって訳だ」

終わりが見えていると言われれば、重たい腰も上がる。

手元のモンスターボールから相棒のコイルを出すと、見回りに向かう事にした。

 

 

 

「ビビビ」

「おお、流石ティータニック号。絶景だな」

既に離れたバウタウンの明かり。

そこにある一際大きなバウスタジアムのシルエット。

けっ。見せつけやがる。

 

 

ローズと言う男がガラルの支配者になって、十数年。

今やマクロコスモスは社会に浸透していると言うよりも社会インフラそのものになった。

 

メディア、運輸、建設、食品、ネットワーク、エネルギー。

そして、ポケモンリーグ。

 

その全てを、マクロコスモスって一企業がほぼ独占している。

ガラルの全てはあの男が握っていると言っても、過言ではない。

事実、ローズの手によって多少他地方から遅れつつあったガラルの都市開発は異様なスピードで進み、今では誇れるほどの未来都市になりつつある。

 

それが、我々『かつてのリーグを想う会』には許せない。

 

だが、許せないのは『今』でも、あの男が築く『未来』でもない。

 

 

 

忘れられつつある『かつて』だ。

 

 

汚れたもののように、間違えていたかのように。

誰もが口を閉ざす『かつて』だ。

 

確かに汚れていた。確かに間違えていたのだろう。

だが、それでも目を焼くほどの眩しさと胸焦がれる程の情熱が『かつて』にはあったのだ。

 

 

失っていいものではない。

消していいものではない。

なかったことにしていいものでは、断じてない。

 

 

 

特に自分の所属するはがねジムでは、その風潮が強かった。

ローズへの反感を誰も隠さなかったし、ジムリーダーを継承したリアン様が公式戦を辞退した時にははがねジムの皆で喜んださ。

 

取り戻したい。

俺達はただそれだけだ。

いつの間にか貴族と繋がりを持ち、反ローズのための計画が動き出していた。

過去を目指す俺達の最大の障害はローズだ。

そして、マクロコスモスを敵に回すと言う事はガラルを敵に回すって事と今は同じだ。

 

だから、俺達は全てを敵に回して勝つ用意をしなければいけない。

 

準備は着々と進んでいる、らしい。

馬鹿な俺には順調だって事しか分からない。

ただ望みは叶うと謳ったリアン様についていくだけだ。

それでマクロコスモスに勝てるかどうかは分からないが、やるだけやってやると思っている。

 

もうすぐ。もうすぐのはずだ。

見上げた夜空に浮かぶ星は、あの頃と変わっていない。

何も変わってはいない、はずだ。

 

 

ガタン。

夜景を眺めて感慨に耽っていると、背後で何かが落ちる音がした。

 

振り返ると、俺のコイルが床に転がっている。

突然のことに困惑する。

 

「おい、コイル。どうし…」

 

コイルに駆け寄ろうとして、その一歩目がおかしなことになった。

柔らかなものを踏んだような感触がしたかと思えば、頭の横に突然壁が現れたのだ。

「うぉぉ?」

咄嗟過ぎて避ける事も出来なかった。

強かに壁に頭をぶつけるが、不思議と痛みが鈍く感じられる。

何だ?何がどうなってる?

「あ?」

目の前には横たわったコイル。

そして、目の前の『壁』に降り積もる粉状の何か。

違う。これは壁じゃなくて、床で。

あたまが、もう、まわらん。

 

やられた。

 

 

これ、は、《ねむりごな‥

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

誰かが、甲板に降り立つ。

背に張り付いていたバタフリーと共に暗闇に紛れるために被っていた黒い布を脱ぎ捨てる。

 

「やっぱりお前は最高の女だ」

 

軽くバタフリーの頭を撫でると、くすぐったそうに身をよじる。

倒れた警備員を脚で軽く揺すり、反応がないのを見ると男は警備員の懐を物色し始めた。

手慣れた盗みに男の背後からバタフリーが責めるような目線を送る。

 

「ちょいと借りるだけさ」

 

嘯きながらも手は止めない。が、あまりいいものはないようだ。

しかめっ面をして取り出したのはスペアで用意されていたらしいツチニンの仮面だけだった。

ふん、と気に食わなそうに鼻を鳴らしてから立ち上がる。

 

「さて、始めるとするか」

仮面を着けながら男はふらりと歩き始める。

間違いなく侵入者でありながら、まるで馴染みの店に立ち寄ったかのような態度。

ニヤニヤと笑う口許は、楽しくて仕方がないと言った様子だ。

 

 

 

「儂抜きで随分楽しそうじゃねえか」

 

よく見れば、男は老人だ。

顔や手には深いしわが刻まれ、髪も真っ白に染まっている。

だが、その仕草には落ち着きがない。

いつの間にか手の中に現れたサイコロを確かめるように指で遊んでいる。

 

まるで、子供だ。

 

 

「さぁ、遊びに来てやったぞガキ共」

 

元ネーナジムのジムリーダー。

ダーティープレイの害虫、タラクサ。

 

 

 

最悪の男が、船に乗り込んだ。

 

 

 

 

 

 





タラクサ(リーグカードは引退直前のもの)

ダーティープレイの害虫で 知られる 危険な 老人。
リーグファンからの 評判は とても悪く
五年連続で 「子供には 見せられない ジムリーダー」に
ノミネートされている。
本人からは 「俺もガキは嫌いだ」と コメント。
更に 評判を 落とした。
嘘か真か リーグの闇を 深く知ると うわさ
されている。

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