ギャンブル。
意外に思われるかもしれないが、俺はこういったものにあまり手を出したことはない。
前世でだってゲーム内ならともかく本格的なカジノやらに手を出したことはなかったし、転生してからは子供の頃からポケモンバトルばっかりだ。
寝ても覚めてもバトル三昧…でもないけど、まぁ大体バトルしている。
強いて言うなら先代がジムリーダーだった頃のネーナジムは賭博場(違法)だったわけだが、子供だった俺は混ぜてもらえなかった。
ただ、一回だけジムの先輩(違法)に教えてもらいながら遊んだことがある。
先代が居ない隙にこっそりと。
遊んでる最中に先代が帰ってきて「二度と賭け事をするな」としこたまぶん殴られたが。
あ、別に遊び方教えてもらっただけで何も賭けてなかったことだけは表明しておく。
とにかく、今日選んだゲームもそれ。
「カードめくり」だ。
目前のテーブルには6×4で24マスの表。
表の頭にはデフォルメされた四種のポケモンが並び、縦列の端には1から6までの数字が記されている。
他のテーブルではどうやらポーカー等の前世でも見たゲームをやっているようだったが、せっかくだから珍しいゲームの方がいい。
そう思った俺は、カジノの端っこにあったそのテーブルに座った。
「ねぇねぇ、どんなゲームなの?」
興味津々でテーブルを覗き込むココドラちゃん。
後ろではサイトウも似たような目を向けている。
どうやら箱入り娘二人は知らないらしい。
そうは言っても俺もジムで一回やったことがあるだけだ。
「えーっと」
簡単なゲームだが、改めて人に説明しろと言われるとちょっと言葉に詰まってしまう。
「ご説明いたしましょう、お嬢さん方」
どう説明しようか悩んでいると、テーブルで待機していたディーラーが声をかけてきた。
スーツを着こなした壮年の男性だ。
ディーラーと言うよりもジェントルマンと呼んだ方が似合うかもしれない。
着けているのはソルロックの仮面で、彼の隣にもソルロックがふわふわと待機している。
「こちらの「カードめくり」はジョウト発祥のカードゲーム。
使用するのは24枚のポケモンカードでございます」
説明を始めるとテーブルに置かれていたデッキがふわりと浮き上がり、空中でバラバラと並べられる。
ソルロックの目が光っているから、何らかのサイコパワーだろう。
かっこよ。イオルブと遊ぶときやってみよう。リハビリにもちょうど良さそうだし。
「ディーラーが1枚ずつめくるカードをプレイヤーが予想していきます」
ピッと1枚だけカードが群れから外れてテーブルの上に置かれる。
置かれたのは6と描かれたピカチュウのカード。
数字はレベルなのでこのカードはピカチュウのレベル6と呼ぶ。
「この時賭けるのは絵柄でもレベルでも構いません。最初はなるべく広く賭けるべきかもしれませんな」
「今で言うなら縦のピカチュウか横の6レベルに賭けてれば当たる訳ですね」
サイトウがやけに熱心に聞いているので、横から補足を入れる。
「範囲は2列で賭けたりも出来るぜ。その分配当も減っちゃうけどな」
「そして、次は今のカードを抜いた23枚からまた予想して賭けます。これをデッキの半分まで、つまり12回続けるのが1ゲームになりますな」
カードでやるルーレット…とも少し違うか。
ルーレットは場に出た数字が埋まったりはしなかったと思うし。
ちらっと机上の案内を見ると賭けるコインは一回ごとに最低100枚から。
滅茶苦茶高いが、今の手持ちなら1ゲーム分は充分に遊べそうだ。
「あー参加するのは俺だけなんですけど」
「どうぞどうぞ。お嬢さん方もお座りください。席は余っておりますので」
「どもー」「失礼します」
ディーラーさんに許可を取り、ゲームに参加しないサイトウとココドラちゃんもテーブルに座る。
どうやら「カードめくり」は人気がないらしい。
さっきもジョウト発祥とか言ってたし、ガラルではそもそも知名度がないのかもしれない。
席はどうせ空いているからどうぞという訳だ。
お陰で俺が女子2名を侍らせて賭けをする印象の悪い奴になっている気がするが。
コインケースをテーブルにタッチさせると所持コインが連動する。
テーブルにプレイヤー1の表示がされて、これでゲームに参加だ。
こういうのちょっとワクワクしてしまうな。
「さーて、どこにしようかな」
表を眺めながら頭の中でテッポウオ撃ってバンバンバンとテキトーに続ける。
タマタマ、ガラガラ、フ・シ・ギ・ダ・ネ。っと。
よし、ここにしよう。
「ストライクってギャンブルがチョー強かったりする?」
「え?何で?」
ココドラちゃんが首をかしげるが、突然聞かれたので本当に分からない。
俺まだ何もしてないんだけど?
「やけに堂々としてるから、慣れてんのかなーって」
「いや俺ギャンブルとか全然やらねえよ?」
何故か隣のサイトウが俺を驚いたように見た。
「言いたい事あるなら言っていいんだぞ」
「いえ…」
多分アイアントやクワガノンの事を思い出してるんだろうが、それは的外れだ。
確かに俺のバトルは運任せになってしまうところはあるが、あれは俺に出来る範囲で実力差をひっくり返そうと真剣に考えた結果だ。ちゃんと勝ち筋なんですよ。
ホントホント。ジムリーダー嘘つかない。
「だってチョーニコニコしてんだもん。余裕って感じするし!」
「ああ、それは‥‥」
それは、もう癖になってしまった先代からの教えの一つだ。
「勝負師は常に笑え」。
俺は勝負師ではないが、ポケモン勝負を生業にするジムリーダーだ。
だからこの教えには一理あると思っている。
先代の教えにしては、珍しくポケモン勝負にも通じるところがある教えだ。
常に笑顔でいれば表情を読まれる事もないので、隠し事が出来る。
所謂ポーカーフェイスって奴だな。
無表情じゃなくてもとにかく表情から読めなければそれでいいのだ。
メジャークラスのジムリーダー達からは読まれ放題な気がするが、無駄ではないはずだ。
くっ、ネズの腹立つ顔が脳裏に浮かびやがる。
まぁ、俺の場合はただ単にバトルが常に楽しいから笑ってるのが常だ。
窮地に意識して笑顔を作る時もあるから、つい癖で今も笑ってしまったのだろう。
‥‥俺がいつも窮地に居るってことで、ちょっと複雑だが。
「まぁ、ちょっとな」
場所のせいか、先代について思い返す事が多いな。
俺は適当にはぐらかした。
ココドラちゃんに説明するには事情が少し込み入っているし、先代の事はあまりポジティブに他人に話しづらい。
がっつり犯罪者だし。
「ふーん」
興味を失ったのか、気を使ったのか。ココドラちゃんはそこで話題を断ってくれた。
その代わりにテーブルに立つディーラーさんがパチンと指を鳴らして空気を変える。
合図に合わせて、またカードがバラバラと宙を舞ってテーブルへと戻ってくる。
そして、出来上がった山札の一番上の1枚がふわりと真ん中へと置かれた。
これだけでちょっとした見世物になるな。
因みにカードに触ってるのが今のところソルロックだけなんだが、隣のおっさんは必要なのか?
ディーラーはジェントルマンさんじゃなくてソルロックの方なのだろうか?
「どちらに賭けますか?」
立っているだけのジェントルマンがニコニコと問いかけてくる。
俺は先ほど決めた数字を告げる。
「『ピカチュウ』の『レベル1』」
示したのは表のたった一点。
たった一枚のカードだけを指定する。
「えっ、さっき広く賭けた方がいいとか言ってたじゃん」
「何か理由があるんですか?」
思わず、と言った風に両サイドが口を出してきた。
残念ながら、俺なりに考えはあるが理由はない。
確かにコインを儲ける気なら広く賭けてコインを少しずつ増やし、残りが減って来てから狭く賭けて大きく当ててしまえばいい。
だが、俺達は別に儲けに来た訳じゃない。
ただちょっと遊びに来ただけなのだ。
皆で遊んでるのに、俺一人がちまちまコインを増やしても何も面白くない。
なら、必勝よりもどう楽しむかを考えた方がいい。
だから理由を強いてあげるなら
「こっちの方が、楽しいだろ?」
ニヤリと笑うと、何故か対面のジェントルマンが笑顔を少し引きつらせた。